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第9話・連休2日目
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ここのホームセンターもハズレで、大和は次に行く店舗へのルートを思い浮かべながら、立体駐車場から車を出してすぐの幹線道路に乗った。
何をしているのかと言えば、思い付きで飼うことにしたハリセンボンのエサ探しである。
最初は母御用達の近所の熱帯魚店で筒に入ったパラパラの配合飼料で間に合うと思っていた。だが海水魚を扱わない熱帯魚専門の店主に訊くと、
「あー、熱帯系じゃミドリフグなんかは飼いやすくて、エサも配合飼料とたまに赤虫だのブラインシュリンプだのを与えると、喜ぶだけじゃなくて魚体も色艶が良くなって……」
などという長話をしこたま聞かされてから、
「ハリセンボン……漁師さんに訊いた方が早いんじゃないですかねえ?」
と、逆に訊かれる始末である。
勿論、大和も昨晩パソコンで検索を掛けて調べた。だが一説には「生き餌でなければダメ」とか「雑食性で何でも食べる」という、余計に悩む回答しか得られなかったのだ。
取り敢えず昨夜はアサリの殻を割り、ピンセットで鼻先に持って行ったらハリセンボンのプー助は吸い込むように食ったので安堵した。
だが生き餌ばかりを与え続けるのは、はっきり言って困難だと言わざるを得ない。人間様の飯までが毎日海鮮になってしまう。それだけでなく生き餌は水を汚すので、掃除の頻度も高くなるのだ。
母の熱帯魚水槽を大和は恨めしい思いで見た。
輝くばかりの水にカラフルな魚たち。パラパラの『熱帯魚のエサ』は日に二回だけだ。時々「御馳走」と称して冷凍赤虫だのブラインシュリンプだのを食わせていれば小魚&ナッツの小魚は満足らしい。
既にどうやら大和の管轄となったらしい海水魚水槽も、これまでは熱帯魚の方とあまり変わらない扱いで小カレイだのハゼだの小さなカニにヤドカリ、岩に張り付いたイソギンチャクも不満気ではなかった。
喩え不満でも伝わらないだろうが。
しかしここにきて魚らしい魚を飼うと思うと、大和は男の子に戻ったかの如くワクワクし、あちこちの店でハリセンボンのエサを訊き歩き、次でもう四件目という有様だった。
――と、あまり通らない街道沿いに『人工海水』なる文字を見つけた気がして、大和は次の交差点で右折を繰り返し戻ってみる。するとそこはえらく古ぼけた金魚屋のように思えた。
この際、金魚屋でも知恵を授けてくれはしまいかと、大和は入り口に積み上げられた大きなサンゴや岩を崩さないよう注意しつつ、店の奥に声を掛けた。
「あのう、すみませーん!」
二度繰り返したが誰も出てこない。店は外に比べて相対的に暗いものの、余所の店舗で売っていた同じエサが半額近くの値段で売っていて、思わず確かめたが期限切れなどではなく立派な商品である。
「何を探してるんですか?」
「え、あっ、ちょ……あ、あの、お店の人ですか?」
ふいに背後から声を掛けられただけでなく、全く人の気配などしなかったので大和はデカい図体で飛び上がり、誤魔化すのに苦労した。そして若い声の相手を見る。
細身だがそう背は低くない。日本にいる限り大和に比べたら大概は誰でも背は低いが。割と無口なたちなのか、大和の質問にも頷いたのみで静かに「客」が要求を口にするまで待っている風だ。
もうひとつ。その青年は大和より少し若いくらいに思えたが、肩に掛かるくらいまで伸ばした髪を鬱陶しそうに片手で掻き上げている。神経質なタイプなのだろうか?
「ここで売ってるモノなら探しますけど?」
「あ、ああ、すまん」
何をしているのかと言えば、思い付きで飼うことにしたハリセンボンのエサ探しである。
最初は母御用達の近所の熱帯魚店で筒に入ったパラパラの配合飼料で間に合うと思っていた。だが海水魚を扱わない熱帯魚専門の店主に訊くと、
「あー、熱帯系じゃミドリフグなんかは飼いやすくて、エサも配合飼料とたまに赤虫だのブラインシュリンプだのを与えると、喜ぶだけじゃなくて魚体も色艶が良くなって……」
などという長話をしこたま聞かされてから、
「ハリセンボン……漁師さんに訊いた方が早いんじゃないですかねえ?」
と、逆に訊かれる始末である。
勿論、大和も昨晩パソコンで検索を掛けて調べた。だが一説には「生き餌でなければダメ」とか「雑食性で何でも食べる」という、余計に悩む回答しか得られなかったのだ。
取り敢えず昨夜はアサリの殻を割り、ピンセットで鼻先に持って行ったらハリセンボンのプー助は吸い込むように食ったので安堵した。
だが生き餌ばかりを与え続けるのは、はっきり言って困難だと言わざるを得ない。人間様の飯までが毎日海鮮になってしまう。それだけでなく生き餌は水を汚すので、掃除の頻度も高くなるのだ。
母の熱帯魚水槽を大和は恨めしい思いで見た。
輝くばかりの水にカラフルな魚たち。パラパラの『熱帯魚のエサ』は日に二回だけだ。時々「御馳走」と称して冷凍赤虫だのブラインシュリンプだのを食わせていれば小魚&ナッツの小魚は満足らしい。
既にどうやら大和の管轄となったらしい海水魚水槽も、これまでは熱帯魚の方とあまり変わらない扱いで小カレイだのハゼだの小さなカニにヤドカリ、岩に張り付いたイソギンチャクも不満気ではなかった。
喩え不満でも伝わらないだろうが。
しかしここにきて魚らしい魚を飼うと思うと、大和は男の子に戻ったかの如くワクワクし、あちこちの店でハリセンボンのエサを訊き歩き、次でもう四件目という有様だった。
――と、あまり通らない街道沿いに『人工海水』なる文字を見つけた気がして、大和は次の交差点で右折を繰り返し戻ってみる。するとそこはえらく古ぼけた金魚屋のように思えた。
この際、金魚屋でも知恵を授けてくれはしまいかと、大和は入り口に積み上げられた大きなサンゴや岩を崩さないよう注意しつつ、店の奥に声を掛けた。
「あのう、すみませーん!」
二度繰り返したが誰も出てこない。店は外に比べて相対的に暗いものの、余所の店舗で売っていた同じエサが半額近くの値段で売っていて、思わず確かめたが期限切れなどではなく立派な商品である。
「何を探してるんですか?」
「え、あっ、ちょ……あ、あの、お店の人ですか?」
ふいに背後から声を掛けられただけでなく、全く人の気配などしなかったので大和はデカい図体で飛び上がり、誤魔化すのに苦労した。そして若い声の相手を見る。
細身だがそう背は低くない。日本にいる限り大和に比べたら大概は誰でも背は低いが。割と無口なたちなのか、大和の質問にも頷いたのみで静かに「客」が要求を口にするまで待っている風だ。
もうひとつ。その青年は大和より少し若いくらいに思えたが、肩に掛かるくらいまで伸ばした髪を鬱陶しそうに片手で掻き上げている。神経質なタイプなのだろうか?
「ここで売ってるモノなら探しますけど?」
「あ、ああ、すまん」
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