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第14話
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◇◇◇◇
ハンターキラーは学校でもちょっとした話題だった。でも僕がAAAレヴェルのキメラ使いだというのは今まで誰にも言ったことはなかった。最初はもっとレヴェルを上げてからじゃないと恥ずかしくて。
でも今は却って言えなくなった。普段の僕のイメージとAAAレヴェルのキメラ使いというイメージはきっと合致しないから。架空電脳世界だけで『使える奴』なんてきっと笑われるだけだから。成績も中くらい、僕は自分がどんなに平凡に見えてるか知ってる。
だから僕は平凡の檻から解き放たれて飛べればそれでいいんだ。
そう思ってきたのについ昨日のAAAレヴェル十五機の一大オペレーション、参加者しか知らない筈の特殊アイテムであるマルチスタティックレーダーについてみんなの前で喋ってしまっていた。途中で気が付いたけれど中途半端な話はみんなに疑われるだけ。
結果、みんなの反応は『すごい!』っていう目と『嘘だろ?』っていう目が半々。
けどいいんだ。山崎くんが『じつは僕もAAレヴェルなんだ』って教えてくれたから。彼は昨日の作戦に参加できなかったみたいだけれどマルチスタティックレーダーのことは知っていて僕の話に信憑性を付け加える説明をしてくれた。それで、半々。
今日は焦らないように母さんと一緒に晩ご飯を食べてからのトライだ。
父さんが遠い国に出張してしまってから一週間、なるべく僕は母さんと一緒にご飯を食べなきゃと思い始めている。父さんが行ったのは少し危ない国らしいから、母さんはちょっとだけ不安定なんだ。その国では内戦をしていて、ときどきニュースでも見かける。
とにかく僕は今日も飛ぶ。真っ白い羽根を自在に広げて。ターゲットはテロリスト、国連平和維持軍でも叩けないテロリストを僕らが殺るんだ。
ゲームなんだけどね。分かってる。
パソコンを起動して繋いだままの専用コントローラを操作。上手く接続したというダイアログが出る。それでは本日の任務の始まりだ。
ブリーフィングも全て電子システムでやり取りがなされ、僕が人と出会うのはターゲットを消す時だけ。それだってカメラ・アイが索敵・特定するから煩わしさは何もない。僕は真っ白な翼を広げて飛ぶだけだ。
今日の任務は何だろう。半端じゃない昂揚感。深呼吸をひとつ。さあ、行こう。
◇◇◇◇
一緒に目覚めた京哉が煙草を一本吸い終えるのを待ち、霧島は昨夜県警本部長から電話があったと告げた。これまでとんでもない目にばかり遭わされてきた特別任務がまた下されることを知って京哉は遠い目になり、朝食のハムエッグを焦がして炭にした。気持ちは霧島も分かる。その任務は県警管轄内に留まらず国外にまで及ぶのだ。
「ううう、また国際線で禁煙地獄だーっ!」
天井に向かって喚く京哉の代わりに霧島がハムエッグを焼く。そうしてご飯に味噌汁、甘塩鮭の切り身にハムエッグとサラダの朝食をしっかり摂り、九時に二人は部屋を出た。
勿論コートとスーツの下にショルダーホルスタでシグ・ザウエルP226を吊り、手錠や特殊警棒は不要なので帯革はせず、直接ベルトに十五発満タンのスペアマガジン二本が入ったパウチを着けている。ポケットにはパスポート、京哉は簡単な着替えと大事な煙草を大量に詰め込んだショルダーバッグも持っていた。
霧島の運転で九時四十五分には県警本部に到着し、その五分後には十六階建て本部庁舎の最上階にある県警本部長室前に辿り着いている。既に秘書室に顔を出して入室の許可は取ってあった。霧島は何度も重い溜息をつく京哉を可哀相に思ったが仕方がない。
小口径弾なら防げそうな分厚い一枚板のドアに低く通る声を掛ける。
「霧島警視以下二名、入ります」
紺色のカーペットに一歩踏み出し、霧島も本気で回れ右したくなった。ロウテーブルを囲んだソファには一ノ瀬本部長の他に五人もの男ばかりが座していたが、その中には二人を過去とびきり不愉快な任務に一度ならず蹴り落としてくれた陸上自衛隊の堂本一佐と副官の江崎二尉が混じっていたからである。
あとの三人のうち二人は所轄の白藤署長と貝崎署長で、警視正なる階級は目上であるが大して迷惑を掛けられたことはない。しかし残る一人はやはり難儀な任務ばかりを持ち込んでくれる厚生局の麻薬取締部長だ。これだけ揃って楽しい任務である筈がない。
だが一ノ瀬本部長から朗らかに微笑み手招きされ、警視監殿には逆らえないので、霧島と京哉は互いに逃げ出さないよう目で牽制し合いながら重い足で進み出る。
「いや、休日に悪いねえ。まずはそこに座ってくれたまえ」
三人掛けソファに二人並んで腰掛けるとタイミングを見計らっていたらしい、こちらも休日出勤の制服婦警が入って来て紅茶を振る舞ってくれた。
「さあ、お茶でも飲んで、これでも食べてリラックスしてくれたまえよ」
押しやられたのはロウテーブル上の大きな丸いクッキーの缶だった。その缶と本部長を京哉は見比べる。特大クッキー缶の中身は既に三分の二が食されていた。指に付着した粉を舐める一ノ瀬本部長をやや無遠慮に眺め、何て丸いんだろうと思う。
身長こそ小柄な京哉くらいだったが、体重は霧島二人分でも足りるかどうか。特注したのだろう制服は前ボタンが弾け飛ぶ寸前で、だが何らミテクレを気にしていないのか紅茶にはスティックシュガーを三本も入れた形跡がある。適当に掻き回し、最後にカップの底に残ったドロドロの砂糖をいつもスプーンですくって食うのだ。
おまけに不自然に黒々とした髪を整髪料でペッタリと撫でつけた様子は幕下力士のようだった。しかしこれでもかつての暗殺反対派の急先鋒でメディアを利用した世論操作を大の得意とする、なかなかのタヌキ爺、もとい切れ者なのである。
そんな警視監は巡査部長の京哉から数えてじつに六階級も上におわす雲上人だ。けれどもう数え切れないほどここに呼ばれてきたので、京哉は緊張することに飽きている。缶入りクッキーを「ほら、ほら」と執拗に勧められ、霧島がひとつ摘み上げて口に放り込んだのを横目に京哉も一個頂いた。パサパサの菓子を紅茶で流し込む。
そこでふいに丸い頬を引き締めて一ノ瀬本部長が口火を切った。
「昨日、四名もの男女がビルから墜落死した事件を知っているね?」
「はい。薬物とアルコールで酔わされ、突き落とされたと思われる件ですね?」
霧島に答えたのは憂い顔をした白藤署長と貝崎署長だった。
「十中八九それで間違いない。彼らは厚生局から派遣された麻薬取締官だったのだ」
「彼ら麻取は高輪組に潜入捜査中、素性がバレて見せしめに殺されたのだ」
そこで麻取のトップである麻薬取締部長が重々しく頷く。
「白藤市内に本拠地を置く暴力団の高輪組はここ数ヶ月で急激に勢力を広げている。その立役者となっているシノギが麻薬だという情報を得て、わたしの部下は潜入していた」
「その麻薬について更なる情報は得られたのですか?」
「高輪組は中東で内戦中の国、カランドで使用されている戦闘薬を密輸していると割れた」
「戦闘薬というと以前にも案件となった、戦争などで出撃前に摂取して士気を高め神経を鋭敏化させる、あの戦闘薬のことでしょうか?」
「その通りだ。士気を高めるのだから無論、即効性のアッパー系薬物に分類される。これをみだりに連続摂取すれば、あっという間に依存症となり非常に危険だ。そのような薬物が大人だけではなく、中高生にまで浸透し始めているらしい」
何度も頷きながら白藤署長が溜息混じりに言った。
「中高生にまで薬物が蔓延し始めているのは事実だ。高輪組はある意味、一線を越えた。お蔭で若年齢層による喧嘩などの粗暴犯は勿論のこと、クスリを買うカネ欲しさで万引きにひったくりが増加の一途を辿っている」
ハンターキラーは学校でもちょっとした話題だった。でも僕がAAAレヴェルのキメラ使いだというのは今まで誰にも言ったことはなかった。最初はもっとレヴェルを上げてからじゃないと恥ずかしくて。
でも今は却って言えなくなった。普段の僕のイメージとAAAレヴェルのキメラ使いというイメージはきっと合致しないから。架空電脳世界だけで『使える奴』なんてきっと笑われるだけだから。成績も中くらい、僕は自分がどんなに平凡に見えてるか知ってる。
だから僕は平凡の檻から解き放たれて飛べればそれでいいんだ。
そう思ってきたのについ昨日のAAAレヴェル十五機の一大オペレーション、参加者しか知らない筈の特殊アイテムであるマルチスタティックレーダーについてみんなの前で喋ってしまっていた。途中で気が付いたけれど中途半端な話はみんなに疑われるだけ。
結果、みんなの反応は『すごい!』っていう目と『嘘だろ?』っていう目が半々。
けどいいんだ。山崎くんが『じつは僕もAAレヴェルなんだ』って教えてくれたから。彼は昨日の作戦に参加できなかったみたいだけれどマルチスタティックレーダーのことは知っていて僕の話に信憑性を付け加える説明をしてくれた。それで、半々。
今日は焦らないように母さんと一緒に晩ご飯を食べてからのトライだ。
父さんが遠い国に出張してしまってから一週間、なるべく僕は母さんと一緒にご飯を食べなきゃと思い始めている。父さんが行ったのは少し危ない国らしいから、母さんはちょっとだけ不安定なんだ。その国では内戦をしていて、ときどきニュースでも見かける。
とにかく僕は今日も飛ぶ。真っ白い羽根を自在に広げて。ターゲットはテロリスト、国連平和維持軍でも叩けないテロリストを僕らが殺るんだ。
ゲームなんだけどね。分かってる。
パソコンを起動して繋いだままの専用コントローラを操作。上手く接続したというダイアログが出る。それでは本日の任務の始まりだ。
ブリーフィングも全て電子システムでやり取りがなされ、僕が人と出会うのはターゲットを消す時だけ。それだってカメラ・アイが索敵・特定するから煩わしさは何もない。僕は真っ白な翼を広げて飛ぶだけだ。
今日の任務は何だろう。半端じゃない昂揚感。深呼吸をひとつ。さあ、行こう。
◇◇◇◇
一緒に目覚めた京哉が煙草を一本吸い終えるのを待ち、霧島は昨夜県警本部長から電話があったと告げた。これまでとんでもない目にばかり遭わされてきた特別任務がまた下されることを知って京哉は遠い目になり、朝食のハムエッグを焦がして炭にした。気持ちは霧島も分かる。その任務は県警管轄内に留まらず国外にまで及ぶのだ。
「ううう、また国際線で禁煙地獄だーっ!」
天井に向かって喚く京哉の代わりに霧島がハムエッグを焼く。そうしてご飯に味噌汁、甘塩鮭の切り身にハムエッグとサラダの朝食をしっかり摂り、九時に二人は部屋を出た。
勿論コートとスーツの下にショルダーホルスタでシグ・ザウエルP226を吊り、手錠や特殊警棒は不要なので帯革はせず、直接ベルトに十五発満タンのスペアマガジン二本が入ったパウチを着けている。ポケットにはパスポート、京哉は簡単な着替えと大事な煙草を大量に詰め込んだショルダーバッグも持っていた。
霧島の運転で九時四十五分には県警本部に到着し、その五分後には十六階建て本部庁舎の最上階にある県警本部長室前に辿り着いている。既に秘書室に顔を出して入室の許可は取ってあった。霧島は何度も重い溜息をつく京哉を可哀相に思ったが仕方がない。
小口径弾なら防げそうな分厚い一枚板のドアに低く通る声を掛ける。
「霧島警視以下二名、入ります」
紺色のカーペットに一歩踏み出し、霧島も本気で回れ右したくなった。ロウテーブルを囲んだソファには一ノ瀬本部長の他に五人もの男ばかりが座していたが、その中には二人を過去とびきり不愉快な任務に一度ならず蹴り落としてくれた陸上自衛隊の堂本一佐と副官の江崎二尉が混じっていたからである。
あとの三人のうち二人は所轄の白藤署長と貝崎署長で、警視正なる階級は目上であるが大して迷惑を掛けられたことはない。しかし残る一人はやはり難儀な任務ばかりを持ち込んでくれる厚生局の麻薬取締部長だ。これだけ揃って楽しい任務である筈がない。
だが一ノ瀬本部長から朗らかに微笑み手招きされ、警視監殿には逆らえないので、霧島と京哉は互いに逃げ出さないよう目で牽制し合いながら重い足で進み出る。
「いや、休日に悪いねえ。まずはそこに座ってくれたまえ」
三人掛けソファに二人並んで腰掛けるとタイミングを見計らっていたらしい、こちらも休日出勤の制服婦警が入って来て紅茶を振る舞ってくれた。
「さあ、お茶でも飲んで、これでも食べてリラックスしてくれたまえよ」
押しやられたのはロウテーブル上の大きな丸いクッキーの缶だった。その缶と本部長を京哉は見比べる。特大クッキー缶の中身は既に三分の二が食されていた。指に付着した粉を舐める一ノ瀬本部長をやや無遠慮に眺め、何て丸いんだろうと思う。
身長こそ小柄な京哉くらいだったが、体重は霧島二人分でも足りるかどうか。特注したのだろう制服は前ボタンが弾け飛ぶ寸前で、だが何らミテクレを気にしていないのか紅茶にはスティックシュガーを三本も入れた形跡がある。適当に掻き回し、最後にカップの底に残ったドロドロの砂糖をいつもスプーンですくって食うのだ。
おまけに不自然に黒々とした髪を整髪料でペッタリと撫でつけた様子は幕下力士のようだった。しかしこれでもかつての暗殺反対派の急先鋒でメディアを利用した世論操作を大の得意とする、なかなかのタヌキ爺、もとい切れ者なのである。
そんな警視監は巡査部長の京哉から数えてじつに六階級も上におわす雲上人だ。けれどもう数え切れないほどここに呼ばれてきたので、京哉は緊張することに飽きている。缶入りクッキーを「ほら、ほら」と執拗に勧められ、霧島がひとつ摘み上げて口に放り込んだのを横目に京哉も一個頂いた。パサパサの菓子を紅茶で流し込む。
そこでふいに丸い頬を引き締めて一ノ瀬本部長が口火を切った。
「昨日、四名もの男女がビルから墜落死した事件を知っているね?」
「はい。薬物とアルコールで酔わされ、突き落とされたと思われる件ですね?」
霧島に答えたのは憂い顔をした白藤署長と貝崎署長だった。
「十中八九それで間違いない。彼らは厚生局から派遣された麻薬取締官だったのだ」
「彼ら麻取は高輪組に潜入捜査中、素性がバレて見せしめに殺されたのだ」
そこで麻取のトップである麻薬取締部長が重々しく頷く。
「白藤市内に本拠地を置く暴力団の高輪組はここ数ヶ月で急激に勢力を広げている。その立役者となっているシノギが麻薬だという情報を得て、わたしの部下は潜入していた」
「その麻薬について更なる情報は得られたのですか?」
「高輪組は中東で内戦中の国、カランドで使用されている戦闘薬を密輸していると割れた」
「戦闘薬というと以前にも案件となった、戦争などで出撃前に摂取して士気を高め神経を鋭敏化させる、あの戦闘薬のことでしょうか?」
「その通りだ。士気を高めるのだから無論、即効性のアッパー系薬物に分類される。これをみだりに連続摂取すれば、あっという間に依存症となり非常に危険だ。そのような薬物が大人だけではなく、中高生にまで浸透し始めているらしい」
何度も頷きながら白藤署長が溜息混じりに言った。
「中高生にまで薬物が蔓延し始めているのは事実だ。高輪組はある意味、一線を越えた。お蔭で若年齢層による喧嘩などの粗暴犯は勿論のこと、クスリを買うカネ欲しさで万引きにひったくりが増加の一途を辿っている」
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