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第16話
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◇◇◇◇
冷や汗をかいた。心臓が喉元でドキドキして、白い翼までもが脈動している気がする。プリフライトチェックでは何も異常を感じなかったのに、レーダー機器のシステムエラーから敵の迎撃機二機を察知するのが遅れたのだ。
あの攻撃を躱せたのは今までの経験と勘、それに僕の反射神経。
撃墜されてもゲームの中の話だ。それに最終ゲームオーバーって訳じゃない。ちゃんとリハビリプログラムをこなせば元の階級から二ランク下がり、レヴェルもひとつダウンするだけでまた飛べる。白い羽根で自在に。
けれどそんなことよりも僕の大事なキメラ・RQ三五〇Aオルトロスが傷つかなかったのが嬉しかった。
二機を相手に戦って武装はかなり消耗してしまっている。ヘルファイアミサイルとハイドラロケットも尽きていた。でもチェーンガンの二十五ミリ弾は残ってる。
大規模破壊作戦ならともかく今日の任務に支障はない。
今日は石油化学コンビナートからパイプラインの機密を盗もうとしているテロリストがターゲットだ。岩砂漠にある原油の油田近くにコンビナートはある。そこからタンカーに直接石油を積み込めるようパイプラインが海まで延びているらしい。
海か、いいな。いつかこの真っ白な羽根を海の上で飛ばしてみたいな。
おっと、任務だった。タイムロスしたから今日はあんまり自由に飛べない。それでも二機を向こうに回して勝ちを収めたんだ、次に撃墜されてもレヴェルダウンは免れるかも。
山脈をひとつ越える。コンビナートが見えてきた。パイプライン、あれだ。
太陽がギラつく。この炎天下でテロリストはちゃんと約束の場所にいるのかな。
ダイアログが出た。任務内容の再確認。一瞬で処理して僕は青い空に戻る。
ここからが本番だった。大事な局面で腕を過信し、遊ぶ訳にはいかない。
まずはコンビナートを高々度から俯瞰し、基地のコンピュータに映像を送る。瞬時に返ってきたマップとカメラ・アイで捉えた映像には思った通りに誤差があった。それを精確に見極めて判断を下さなきゃならないから、完全自律飛行のドローンばかりじゃなく、僕みたいな人間が必要とされるんだ。その信頼に応えなきゃ。
軍事衛星でも映らない細いパイプラインや新たに最近設置されたタンクなどが増えていて僕は目を凝らす。入り組んだコンビナートの中に飛び込むのは最小限にしなきゃならない。パワーダイヴで降下しカメラ・アイで僕は見つめた。三百フィートから更に降下。パイプラインやタンクを傷つけないよう細心の注意を払って操縦した。
生き残ったレーダーの表示を睨みながらターゲットの位置まで息を詰めてオルトロスを飛ばす。人影を発見。ズームアップ。この暑いのにスーツと白いヘルメット。テロリストにしては格好悪い。じゃあ、さっさと任務を終わらせよう。
ミサイルやロケットが尽きている以上、メインウェポンとして二十五ミリチェーンガンを選択せざるを得ない。巨大なタンクに気を付けながらもっと降下した。
カメラ・アイでズーム。基地のコンピュータがターゲットを確認。
こんなに近くで人を撃つのは初めてで、ちょっと嫌な気分が増す。でも確実を期すためには仕方がない。ここで外したりコンビナートを傷つけたりしたら台無しだ。
いつも通り僕は無造作に操縦桿についたレリーズを押す。いや、押そうとした瞬間ターゲットのテロリストがこちらを向いて振り仰いだ。気付かれるなんて初めてだ。
ううん、何だ、これ……父さんっ!!
「嘘だ、父さんっ!」
指はもうレリーズを押してしまっていた。二十五ミリという大口径榴弾が白いヘルメットを、父さんのスーツを、父さんを引き裂いた。目茶苦茶に赤いものが飛び散って――。
専用コントローラを手放すことすらできなかった。
僕は電脳世界の悪い夢から抜け出すために、そのままオートパイロットで飛び続けた。ミッションを無事終わらせることが全身の冷たい汗から逃れる方法だと思って。
どうやってゲームを終了させたのかも分からないまま、ふらりと立ってベッドに躰を投げ出した。嫌な夢。嫌な偶然。この地球上に暮らす人々からランダムに抜き出してゲームに使われた父さんの画像。テロリストにされた父さん。
偶然だ……偶然。そうだ、偶然に違いない。
可能性は低いけどゼロじゃない筈だ。
でも、僕は、父さんを、確かに殺した。帰ってきたら謝ろう。
帰ってきたら。……何て?
◇◇◇◇
冷や汗をかいた。心臓が喉元でドキドキして、白い翼までもが脈動している気がする。プリフライトチェックでは何も異常を感じなかったのに、レーダー機器のシステムエラーから敵の迎撃機二機を察知するのが遅れたのだ。
あの攻撃を躱せたのは今までの経験と勘、それに僕の反射神経。
撃墜されてもゲームの中の話だ。それに最終ゲームオーバーって訳じゃない。ちゃんとリハビリプログラムをこなせば元の階級から二ランク下がり、レヴェルもひとつダウンするだけでまた飛べる。白い羽根で自在に。
けれどそんなことよりも僕の大事なキメラ・RQ三五〇Aオルトロスが傷つかなかったのが嬉しかった。
二機を相手に戦って武装はかなり消耗してしまっている。ヘルファイアミサイルとハイドラロケットも尽きていた。でもチェーンガンの二十五ミリ弾は残ってる。
大規模破壊作戦ならともかく今日の任務に支障はない。
今日は石油化学コンビナートからパイプラインの機密を盗もうとしているテロリストがターゲットだ。岩砂漠にある原油の油田近くにコンビナートはある。そこからタンカーに直接石油を積み込めるようパイプラインが海まで延びているらしい。
海か、いいな。いつかこの真っ白な羽根を海の上で飛ばしてみたいな。
おっと、任務だった。タイムロスしたから今日はあんまり自由に飛べない。それでも二機を向こうに回して勝ちを収めたんだ、次に撃墜されてもレヴェルダウンは免れるかも。
山脈をひとつ越える。コンビナートが見えてきた。パイプライン、あれだ。
太陽がギラつく。この炎天下でテロリストはちゃんと約束の場所にいるのかな。
ダイアログが出た。任務内容の再確認。一瞬で処理して僕は青い空に戻る。
ここからが本番だった。大事な局面で腕を過信し、遊ぶ訳にはいかない。
まずはコンビナートを高々度から俯瞰し、基地のコンピュータに映像を送る。瞬時に返ってきたマップとカメラ・アイで捉えた映像には思った通りに誤差があった。それを精確に見極めて判断を下さなきゃならないから、完全自律飛行のドローンばかりじゃなく、僕みたいな人間が必要とされるんだ。その信頼に応えなきゃ。
軍事衛星でも映らない細いパイプラインや新たに最近設置されたタンクなどが増えていて僕は目を凝らす。入り組んだコンビナートの中に飛び込むのは最小限にしなきゃならない。パワーダイヴで降下しカメラ・アイで僕は見つめた。三百フィートから更に降下。パイプラインやタンクを傷つけないよう細心の注意を払って操縦した。
生き残ったレーダーの表示を睨みながらターゲットの位置まで息を詰めてオルトロスを飛ばす。人影を発見。ズームアップ。この暑いのにスーツと白いヘルメット。テロリストにしては格好悪い。じゃあ、さっさと任務を終わらせよう。
ミサイルやロケットが尽きている以上、メインウェポンとして二十五ミリチェーンガンを選択せざるを得ない。巨大なタンクに気を付けながらもっと降下した。
カメラ・アイでズーム。基地のコンピュータがターゲットを確認。
こんなに近くで人を撃つのは初めてで、ちょっと嫌な気分が増す。でも確実を期すためには仕方がない。ここで外したりコンビナートを傷つけたりしたら台無しだ。
いつも通り僕は無造作に操縦桿についたレリーズを押す。いや、押そうとした瞬間ターゲットのテロリストがこちらを向いて振り仰いだ。気付かれるなんて初めてだ。
ううん、何だ、これ……父さんっ!!
「嘘だ、父さんっ!」
指はもうレリーズを押してしまっていた。二十五ミリという大口径榴弾が白いヘルメットを、父さんのスーツを、父さんを引き裂いた。目茶苦茶に赤いものが飛び散って――。
専用コントローラを手放すことすらできなかった。
僕は電脳世界の悪い夢から抜け出すために、そのままオートパイロットで飛び続けた。ミッションを無事終わらせることが全身の冷たい汗から逃れる方法だと思って。
どうやってゲームを終了させたのかも分からないまま、ふらりと立ってベッドに躰を投げ出した。嫌な夢。嫌な偶然。この地球上に暮らす人々からランダムに抜き出してゲームに使われた父さんの画像。テロリストにされた父さん。
偶然だ……偶然。そうだ、偶然に違いない。
可能性は低いけどゼロじゃない筈だ。
でも、僕は、父さんを、確かに殺した。帰ってきたら謝ろう。
帰ってきたら。……何て?
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