27 / 59
第27話 画像解説付属
しおりを挟む
フロントに外出を告げてキィを預け、ホテルの前からタクシーに乗った二人は三十分後には郊外に近い場所に建つ十二階建ての茶色いビルを見上げていた。
「この六階から最上階までビル=スレーダーのいたオーソン安全保障が占めてます」
「かつてのPMC、プライヴェート・ミリタリ・カンパニーも今は耳障り良くPSC、プライヴェート・セキュリティ・カンパニーか」
「やってることは変わらないんでしょうけどね」
「ふむ。なかなか立派なビルが本社、民間軍事会社なるものも儲けているのだな」
「この国じゃ企業はこぞってPSCに代理戦争を依頼してますからね」
「戦時特需というヤツの一種か。行ってみよう」
ビルに入るのは面倒だった。PSCの入居でセキュリティが厳しく、エントランスがオートロック方式で開かなかった上に、空港のセキュリティチェック並みに金属探知でもされているのか制服警備員四名に取り囲まれるハメになったのだ。
だが武器所持許可証の提示を求めてきた制服警備員たちの物腰は穏やかだった。
「申し訳ありませんが、何階の何処にご用件でしょうか?」
「日本からきた警察の者です。特別捜査本部から派遣されてきました。先般我が国で起こった連続爆破事件にこの国で作られた爆発物が使用され、それを取り扱うPSCから聴取させて貰っています。オーソン安全保障の担当者に会いたいのですが」
するすると京哉が吐いた嘘っぱちを霧島が英語で通訳する。警備員たちは頷いた。
「左様ですか。それでは担当者から来訪者登録させますのでお待ち下さい」
二人はビル一階に入居したセキュリティグッズを取り扱う店を眺めて待つ。
「では、この来訪者バッジを着けてエレベーターは右側一番手前をお使い下さい」
「協力を感謝する」
開けて貰ったエントランスから入ると観葉植物などが飾られたロビーは案外普通だった。四基あるエレベーターの中で指定された一基に乗り込む。
「相変わらず滑りのいい二枚舌だな」
「ええ。でもここからは面の皮の分厚さがものを言いますから、頑張って下さいね」
八階で勝手にエレベーターは止まり、箱を出るとサラリーマン然としたスーツの男女が行き交っていた。ここが戦争屋だとはにわかに思えない二人だった。
暫し二人が立ち尽くしていると妙にガタイのいいスーツの男が現れた。ついてこいという仕草に従うと応接室まではたった十メートルほどだった。
簡素な応接セットがあるだけの室内には既に担当者が待っていた。二人を目にして担当者はソファから立ち上がり、素っ気ないまでの短い挨拶をしてソファを勧める。
「――で、我がオーソン安全保障の取り扱った物資が極東の国に流れ込み、確実にテロに使用されたという痕跡や証拠もしくは証言でも得られたのでしょうか?」
口調は丁寧だが言っている内容は挑戦的とも云えた。
「捜査内容については洩らせないので、それを申し上げることはできません。ただ御社から最近国外に渡った、もしくは退職した方々について主に伺いたいのですが」
「国外渡航者と退職者ですか。どのくらいの期間でしょう?」
「そうですね、ここ一年くらいで結構です」
「承知しました。ではリストを用意させます」
滑らかな英語で喋った霧島は担当者が携帯で誰かに指示するのを見守る。それ以降は担当者も黙ったきりで、余計なことは喋らないぞという意思がひしひしと伝わってきた。茶の一杯も出されず灰皿もないので、二人も口を閉じているしかない。
やがて室内隅のプリンタがカタカタと紙切れを吐き出し始める。その紙切れ数枚を取ってきた担当者はまたソファに座り、霧島と京哉に紙切れを提示した。
「これの元データは頂けないのでしょうか?」
霧島が訳した京哉の質問に担当者は完全無欠の鉄面皮で言い放つ。
「申し訳ありませんが、それこそテロの標的になり得るため社員のデータは洩らせません。それに捜査関係事項照会書もお持ちではないのでしょう?」
そこまで言われては仕方ない。霧島と京哉は紙切れをじっと眺めた。幸い国外渡航者はたった四名、そのどれもが海外支社出張とあって無用な質問をせずに済む。問題の退職者は百名ばかりも並んでいて、中にビル=スレーダーも名をつらねていた。
「かなりの数ですが、この方々は何故退職なさったんですか?」
「ああ、そこから七十八名は名誉退職、または傷病退職ですね」
「と、いうと?」
「戦死、または重傷にて職を全うできないと判断されての退職です」
「ほう、それはまた……」
「あとは依願退職ですが、ご質問があればこの場で手早くお願いします」
この場で訊けということは、全ての退職者について担当者は記憶しているという意味なのか。PSCともなると事務屋もタダ者ではない。ともかく慇懃無礼な態度である。だが霧島は粘り強く一人一人についての質問を開始した。勿論京哉にも通訳してやる。
ここでも幸いビル=スレーダーの名は上の方にあった。
「――では、このビル=スレーダーさんについて伺います。退職理由は何ですか?」
「ああ、彼は大型バスの事故で家族を亡くしたことがショックだったようです」
「仕事ぶりや生活面でも気が付いたことがあれば伺いたい」
ここにきて僅かに担当者は逡巡した。そして口調をやや和らげる。
「彼は……ビルはわたしとデスクが隣だったんです」
「そうだったんですか。事故について何かご存じですか?」
「ここだけの話ですが、あの事故は大型バスの単独事故じゃないとビルは主張して、自ら調べていました。結果としてあれは某PMCが飛ばしたターゲット・ドローンの墜落だと」
「ターゲット・ドローン?」
首を捻った霧島に京哉が解説した。
「ほら、飛ばしておいて撃墜する、射撃の練習に使う無人標的機ですよ」
「ああ、ゲームでもよくある可哀相なアレか……それで、実際に事故は?」
「ビルに頼まれてわたしも少し調べましたが、確かに怪しい感触でした。でももっと怪しい事故にビルが遭ったんです。小型機のエンジン部品が数ヶ所同時に脱落するとは……」
「ビル=スレーダーの事故は仕組まれたものだったと?」
これ以上のお喋りは身のためにならないと思ったか、担当者は目で頷くに留まる。
「でもそれでナルコム社を立ち上げ大ヒットですから、まさに怪我の功名ですよね」
「この六階から最上階までビル=スレーダーのいたオーソン安全保障が占めてます」
「かつてのPMC、プライヴェート・ミリタリ・カンパニーも今は耳障り良くPSC、プライヴェート・セキュリティ・カンパニーか」
「やってることは変わらないんでしょうけどね」
「ふむ。なかなか立派なビルが本社、民間軍事会社なるものも儲けているのだな」
「この国じゃ企業はこぞってPSCに代理戦争を依頼してますからね」
「戦時特需というヤツの一種か。行ってみよう」
ビルに入るのは面倒だった。PSCの入居でセキュリティが厳しく、エントランスがオートロック方式で開かなかった上に、空港のセキュリティチェック並みに金属探知でもされているのか制服警備員四名に取り囲まれるハメになったのだ。
だが武器所持許可証の提示を求めてきた制服警備員たちの物腰は穏やかだった。
「申し訳ありませんが、何階の何処にご用件でしょうか?」
「日本からきた警察の者です。特別捜査本部から派遣されてきました。先般我が国で起こった連続爆破事件にこの国で作られた爆発物が使用され、それを取り扱うPSCから聴取させて貰っています。オーソン安全保障の担当者に会いたいのですが」
するすると京哉が吐いた嘘っぱちを霧島が英語で通訳する。警備員たちは頷いた。
「左様ですか。それでは担当者から来訪者登録させますのでお待ち下さい」
二人はビル一階に入居したセキュリティグッズを取り扱う店を眺めて待つ。
「では、この来訪者バッジを着けてエレベーターは右側一番手前をお使い下さい」
「協力を感謝する」
開けて貰ったエントランスから入ると観葉植物などが飾られたロビーは案外普通だった。四基あるエレベーターの中で指定された一基に乗り込む。
「相変わらず滑りのいい二枚舌だな」
「ええ。でもここからは面の皮の分厚さがものを言いますから、頑張って下さいね」
八階で勝手にエレベーターは止まり、箱を出るとサラリーマン然としたスーツの男女が行き交っていた。ここが戦争屋だとはにわかに思えない二人だった。
暫し二人が立ち尽くしていると妙にガタイのいいスーツの男が現れた。ついてこいという仕草に従うと応接室まではたった十メートルほどだった。
簡素な応接セットがあるだけの室内には既に担当者が待っていた。二人を目にして担当者はソファから立ち上がり、素っ気ないまでの短い挨拶をしてソファを勧める。
「――で、我がオーソン安全保障の取り扱った物資が極東の国に流れ込み、確実にテロに使用されたという痕跡や証拠もしくは証言でも得られたのでしょうか?」
口調は丁寧だが言っている内容は挑戦的とも云えた。
「捜査内容については洩らせないので、それを申し上げることはできません。ただ御社から最近国外に渡った、もしくは退職した方々について主に伺いたいのですが」
「国外渡航者と退職者ですか。どのくらいの期間でしょう?」
「そうですね、ここ一年くらいで結構です」
「承知しました。ではリストを用意させます」
滑らかな英語で喋った霧島は担当者が携帯で誰かに指示するのを見守る。それ以降は担当者も黙ったきりで、余計なことは喋らないぞという意思がひしひしと伝わってきた。茶の一杯も出されず灰皿もないので、二人も口を閉じているしかない。
やがて室内隅のプリンタがカタカタと紙切れを吐き出し始める。その紙切れ数枚を取ってきた担当者はまたソファに座り、霧島と京哉に紙切れを提示した。
「これの元データは頂けないのでしょうか?」
霧島が訳した京哉の質問に担当者は完全無欠の鉄面皮で言い放つ。
「申し訳ありませんが、それこそテロの標的になり得るため社員のデータは洩らせません。それに捜査関係事項照会書もお持ちではないのでしょう?」
そこまで言われては仕方ない。霧島と京哉は紙切れをじっと眺めた。幸い国外渡航者はたった四名、そのどれもが海外支社出張とあって無用な質問をせずに済む。問題の退職者は百名ばかりも並んでいて、中にビル=スレーダーも名をつらねていた。
「かなりの数ですが、この方々は何故退職なさったんですか?」
「ああ、そこから七十八名は名誉退職、または傷病退職ですね」
「と、いうと?」
「戦死、または重傷にて職を全うできないと判断されての退職です」
「ほう、それはまた……」
「あとは依願退職ですが、ご質問があればこの場で手早くお願いします」
この場で訊けということは、全ての退職者について担当者は記憶しているという意味なのか。PSCともなると事務屋もタダ者ではない。ともかく慇懃無礼な態度である。だが霧島は粘り強く一人一人についての質問を開始した。勿論京哉にも通訳してやる。
ここでも幸いビル=スレーダーの名は上の方にあった。
「――では、このビル=スレーダーさんについて伺います。退職理由は何ですか?」
「ああ、彼は大型バスの事故で家族を亡くしたことがショックだったようです」
「仕事ぶりや生活面でも気が付いたことがあれば伺いたい」
ここにきて僅かに担当者は逡巡した。そして口調をやや和らげる。
「彼は……ビルはわたしとデスクが隣だったんです」
「そうだったんですか。事故について何かご存じですか?」
「ここだけの話ですが、あの事故は大型バスの単独事故じゃないとビルは主張して、自ら調べていました。結果としてあれは某PMCが飛ばしたターゲット・ドローンの墜落だと」
「ターゲット・ドローン?」
首を捻った霧島に京哉が解説した。
「ほら、飛ばしておいて撃墜する、射撃の練習に使う無人標的機ですよ」
「ああ、ゲームでもよくある可哀相なアレか……それで、実際に事故は?」
「ビルに頼まれてわたしも少し調べましたが、確かに怪しい感触でした。でももっと怪しい事故にビルが遭ったんです。小型機のエンジン部品が数ヶ所同時に脱落するとは……」
「ビル=スレーダーの事故は仕組まれたものだったと?」
これ以上のお喋りは身のためにならないと思ったか、担当者は目で頷くに留まる。
「でもそれでナルコム社を立ち上げ大ヒットですから、まさに怪我の功名ですよね」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
