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第29話
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次々とナルコム社の窓に穴が穿たれ、五発目で大きな窓が歪みに耐えられなくなってガラスが外側に吹き飛んだ。それを暢気に眺めてはいない、霧島と京哉も既に銃を抜いている。
背後の歩道の向こう側に、歩むくらいの速度で路肩を走る黒いセダンがいた。サイドウィンドウを半分ほど下げている。スモークを貼ったそこから銃口が覗いて何度も火を噴いていた。
霧島と京哉は同時に発砲。セダンの前後の窓から突き出されていた銃二丁が吹き飛ぶ。だがまたも銃口が見え隠れした。それが軽快な音を立ててマズルフラッシュを閃かせる。
「拙い、サブマシンガンだ!」
「わああ、そんなの卑怯!」
タタタ……という押し殺したような音からサウンドサプレッサー付きと知れた。つまり理論上、弾速は亜音速だ。しかしその事実は何の足しにもならず、当たれば確実にタダでは済まない威力で断続的にナルコム社のドアに穴を穿ってゆく。
霧島は棒立ちになっていた雅人を引き倒して伏せさせ、既に地面に伏せている京哉の前に匍匐で出た。弾丸は三人の頭上を通過し、窓の破れた事務所内にも撃ち込まれている。
「京哉、雅人を頼む!」
叫んでおいて霧島は地に這ったまま黒いセダンにシグを連射。車体はどうせ防弾だろうと踏んで無駄弾は当てず、銃口が複数突き出されたウィンドウだけを目がけ、速射で五発を綺麗に車内に叩き込む。そうして霧島が火線を押さえている間に京哉は雅人が頭を下げているのを瞬時に確認、こちらも腹這いのままシグを連射した。
二人の連携で京哉の三発目がサブマシンガンを掠める。持ち主が怯んで揺らがしたその機関部を二人が更なる二射で撃ち砕いた。指をやれたか僅かな血飛沫が飛んだ。
だが襲撃はそこまで、次にはウィンドウもそのままに黒いセダンは急発進する。ボディに当たった九ミリパラが跳弾したのを最後に、黒いセダンは強引ながら見事な運転でUターンし、通りの車列に紛れ込んだ。見えなくなるまであっという間だった。
這った伏射姿勢から立ち上がった二人は未だ熱い銃をしまいスーツの砂埃を払う。
「いったい何処のカチコミ部隊だ?」
「さあ。でも普通に考えたらマフィアさんが有力じゃないですかね」
「ふん、まだマクミランファミリーには直接当たってもいないんだぞ?」
「情報量は同じなんですから僕に八つ当たりされても困るんですが、僕らはたまたま居合わせただけで、狙われたのはナルコム社で間違いないでしょう。向こうも『ガラス割り』程度のつもりが反撃されて、いい迷惑だったんじゃないですか」
「ガラス割り……つまり脅しであって本気ではなかった。なるほどな」
「あ、何か今、思いつきませんでしたか? バディなんだから隠し事はナシですよ」
「一瞬、何かが掠めただけだ。まだ形にならん」
「期待してますから早くネジ巻いて下さいよ」
喋りながら二人は誰より大切なお互いの無事を確認し合った。それから振り向き、伏せたままの雅人の躰の下から赤黒いものがジワジワと範囲を広げているのを目に映す。弾かれたように二人は駆け寄った。霧島がアスファルトに膝をついて雅人を大声で呼ぶ。
「雅人、雅人! しっかりしろ!」
そっと雅人の躰を仰向けにした。脇腹に一発を被弾している。サブマシンガンの最初の一連射にやられたものと思われた。雅人は真っ白な顔で目を瞑っている。
「くそう……京哉、救急要請!」
「もう野次馬さんたちが連絡してくれたようです」
なるほど、その頃には隣のコンビニだの美容室、通りの向こうの住人までもが集まって随分な数の野次馬になっていた。偶然にも霧島と京哉が応戦したために自覚があるか否かは判然としないが、脅しのカチコミを食らった当のナルコム社からも吹き飛んだ窓を乗り越えて従業員の男女が姿を見せている。幸い彼らは全員無傷らしい。
そうて遅まきながら目前のドアが恐る恐ると云った風に開かれ、男女二名が恐怖に引き攣った顔で現れた。かなり高級そうなスーツを着た男は資料の写真で見覚えたビル=スレーダーその人だった。女は確かジェマ=ルビアンという秘書だった筈だ。
今にも倒れそうな顔色のビル=スレーダーは秘書のジェマ=ルビアンに腕を支えられて何とか立っている状態だが、彼らの観察より霧島は雅人に呼びかけ続けた。
「雅人、しっかりしろ、雅人!」
「ううっ……ん」
やがて救急車がサイレンを鳴らして駐車場に滑り込み、救急隊員が現着する。決して遅くはなく日本の都市部と変わらないくらいの速さでやってきて安堵した。
殆ど同時にパトカーも数台やってくる。そのけたたましい緊急音で雅人が意識を取り戻した。黒い目をうっすらと開き、朦朧としながらも視線を彷徨わせたのち、白ヘルメットに作業服を身に着けた救急隊員に目を留めた。途端に白い顔色が完全に血の気を失う。
同時にその目が恐怖に瞳孔を縮め、口からは悲鳴じみた細い声が洩れた。
「父さん……ごめんなさい、殺して、ごめん――」
思わず霧島と京哉は顔を見合わせた。その間に再び意識を失った雅人はストレッチャに乗せられる。救急車に運ばれると、すぐさま応急処置が始まった。
霧島はビル=スレーダーの真っ青な顔を鋭く見たのち救急車に向かって駆け出す。
背後の歩道の向こう側に、歩むくらいの速度で路肩を走る黒いセダンがいた。サイドウィンドウを半分ほど下げている。スモークを貼ったそこから銃口が覗いて何度も火を噴いていた。
霧島と京哉は同時に発砲。セダンの前後の窓から突き出されていた銃二丁が吹き飛ぶ。だがまたも銃口が見え隠れした。それが軽快な音を立ててマズルフラッシュを閃かせる。
「拙い、サブマシンガンだ!」
「わああ、そんなの卑怯!」
タタタ……という押し殺したような音からサウンドサプレッサー付きと知れた。つまり理論上、弾速は亜音速だ。しかしその事実は何の足しにもならず、当たれば確実にタダでは済まない威力で断続的にナルコム社のドアに穴を穿ってゆく。
霧島は棒立ちになっていた雅人を引き倒して伏せさせ、既に地面に伏せている京哉の前に匍匐で出た。弾丸は三人の頭上を通過し、窓の破れた事務所内にも撃ち込まれている。
「京哉、雅人を頼む!」
叫んでおいて霧島は地に這ったまま黒いセダンにシグを連射。車体はどうせ防弾だろうと踏んで無駄弾は当てず、銃口が複数突き出されたウィンドウだけを目がけ、速射で五発を綺麗に車内に叩き込む。そうして霧島が火線を押さえている間に京哉は雅人が頭を下げているのを瞬時に確認、こちらも腹這いのままシグを連射した。
二人の連携で京哉の三発目がサブマシンガンを掠める。持ち主が怯んで揺らがしたその機関部を二人が更なる二射で撃ち砕いた。指をやれたか僅かな血飛沫が飛んだ。
だが襲撃はそこまで、次にはウィンドウもそのままに黒いセダンは急発進する。ボディに当たった九ミリパラが跳弾したのを最後に、黒いセダンは強引ながら見事な運転でUターンし、通りの車列に紛れ込んだ。見えなくなるまであっという間だった。
這った伏射姿勢から立ち上がった二人は未だ熱い銃をしまいスーツの砂埃を払う。
「いったい何処のカチコミ部隊だ?」
「さあ。でも普通に考えたらマフィアさんが有力じゃないですかね」
「ふん、まだマクミランファミリーには直接当たってもいないんだぞ?」
「情報量は同じなんですから僕に八つ当たりされても困るんですが、僕らはたまたま居合わせただけで、狙われたのはナルコム社で間違いないでしょう。向こうも『ガラス割り』程度のつもりが反撃されて、いい迷惑だったんじゃないですか」
「ガラス割り……つまり脅しであって本気ではなかった。なるほどな」
「あ、何か今、思いつきませんでしたか? バディなんだから隠し事はナシですよ」
「一瞬、何かが掠めただけだ。まだ形にならん」
「期待してますから早くネジ巻いて下さいよ」
喋りながら二人は誰より大切なお互いの無事を確認し合った。それから振り向き、伏せたままの雅人の躰の下から赤黒いものがジワジワと範囲を広げているのを目に映す。弾かれたように二人は駆け寄った。霧島がアスファルトに膝をついて雅人を大声で呼ぶ。
「雅人、雅人! しっかりしろ!」
そっと雅人の躰を仰向けにした。脇腹に一発を被弾している。サブマシンガンの最初の一連射にやられたものと思われた。雅人は真っ白な顔で目を瞑っている。
「くそう……京哉、救急要請!」
「もう野次馬さんたちが連絡してくれたようです」
なるほど、その頃には隣のコンビニだの美容室、通りの向こうの住人までもが集まって随分な数の野次馬になっていた。偶然にも霧島と京哉が応戦したために自覚があるか否かは判然としないが、脅しのカチコミを食らった当のナルコム社からも吹き飛んだ窓を乗り越えて従業員の男女が姿を見せている。幸い彼らは全員無傷らしい。
そうて遅まきながら目前のドアが恐る恐ると云った風に開かれ、男女二名が恐怖に引き攣った顔で現れた。かなり高級そうなスーツを着た男は資料の写真で見覚えたビル=スレーダーその人だった。女は確かジェマ=ルビアンという秘書だった筈だ。
今にも倒れそうな顔色のビル=スレーダーは秘書のジェマ=ルビアンに腕を支えられて何とか立っている状態だが、彼らの観察より霧島は雅人に呼びかけ続けた。
「雅人、しっかりしろ、雅人!」
「ううっ……ん」
やがて救急車がサイレンを鳴らして駐車場に滑り込み、救急隊員が現着する。決して遅くはなく日本の都市部と変わらないくらいの速さでやってきて安堵した。
殆ど同時にパトカーも数台やってくる。そのけたたましい緊急音で雅人が意識を取り戻した。黒い目をうっすらと開き、朦朧としながらも視線を彷徨わせたのち、白ヘルメットに作業服を身に着けた救急隊員に目を留めた。途端に白い顔色が完全に血の気を失う。
同時にその目が恐怖に瞳孔を縮め、口からは悲鳴じみた細い声が洩れた。
「父さん……ごめんなさい、殺して、ごめん――」
思わず霧島と京哉は顔を見合わせた。その間に再び意識を失った雅人はストレッチャに乗せられる。救急車に運ばれると、すぐさま応急処置が始まった。
霧島はビル=スレーダーの真っ青な顔を鋭く見たのち救急車に向かって駆け出す。
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