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第30話
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クリーム色に塗られたドアを霧島はただ目に映していた。そんなバディを時折窺いながら、京哉は傍のベンチに腰掛けている。
「そう心配は要らないでしょう、途中で意識も戻る程度でしたし」
「ん、ああ、そうだな」
自分が関わったために雅人はあんな目に遭ったのではないか。霧島がそう思っていることくらいは容易に想像がつき、京哉も言葉少なになっていた。そんな愛し人の迷いと憂いを払拭するには黒いセダンに乗った襲撃者を突き止めるしかなく、京哉は携帯で検索し続けている。マクミランを無闇につつくのは拙いので、あくまでネットを泳ぐ程度だが。
エーサの中でも大規模な大学付属病院の救急処置室前にあるベンチだった。
十五階建ての一階救急処置室に雅人が運び込まれ既に一時間ほどが経過していた。運んでくれた救急隊員に依れば命に別状はないらしい。
やがてドアが開き、看護師と医師が付き添ってストレッチャに乗せられた雅人が出てくる。少年の薄い躰はガウンのような服を着せられ、ベージュの毛布を被せられていた。意識がないまま運ばれていく雅人に霧島と京哉も同行する。
「どのくらい掛かるんだ?」
「本当に運がいい、内臓にも損傷がなかった。入院は一週間ほどの予定ですな」
笑う医師の言葉を京哉に通訳しながら、霧島は十二階の個室に収容されるまで雅人に付き添い続けた。一二〇三号室のベッドに少年が移され、モニタ機器が接続されるのを黙って見つめる。そのまま医師らが立ち去っても霧島は雅人の傍に立っていた。
「あのカチコミはただの脅しに過ぎなかった」
「僕らと銃撃戦になったのはお互い誤算でしたけど、放置できる状況でもありませんでした。一般人がいましたし、ナルコムの事務所にいた従業員たちだって僕らが応戦したから無傷だった可能性もあります。雅人はまさに流れ弾に当たった、事故に遭ったんですよ」
「そうだな。狙いはナルコム社そのものか、ビル=スレーダー個人か。分からんな」
「でも実際にマクミランが脅したんでしょうか。ならどうして脅したんでしょう?」
「ネタは大型バスの事故くらいか。もし真相を洩らしたら本気で殺られる可能性が高い。その一歩手前……洩らしかけたか、逆手にとって誰かを脅したか」
「脅したって、結果がカチコミだったところから見てマクミランファミリーを?」
答えず霧島は京哉に煙草を要求しかけて手を下ろす。既にクセになっていた。
「ビル=スレーダーの今はバス事故で成り立っている。事故、調べられるか?」
「パソコンがあれば。それと沢井雅人のことは一ノ瀬本部長にメールしましたから」
「親父殺しか……」
「自白が本当とは限らないですよ、朦朧としてましたし。ホテルに戻りませんか?」
ここで雅人を眺めていてもことは進まない。霧島も同意して病室を出た。
マートルホテルまでタクシーで二十分ほどだった。部屋に戻った霧島と京哉はパソコンを起動して検索に着手する。京哉が検索する片端から同じページに霧島も目を通した。
「リライ事務が取引している最大手のPSCはクインラン社か」
「クインランは武器弾薬をリライ事務から買ってるだけじゃなくて、逆にリライから依頼されて代理戦争もやってますね。互いに顧客同士という訳です」
「なるほど。クインランはどうだ?」
「うーん、大手は大手だけど、あんまりいい噂はないみたいですね」
「どんな噂ならあるんだ?」
「業界の不良会社っていうのは言い過ぎだけど、人使いが荒くて、抱えた兵士に使わせる武器弾薬もいいものじゃないみたい。整備不良で戦死なんて笑えない話が多いですよ」
「ケチということか。帳簿は見られそうか?」
「さすがに大手だと桁が違いすぎて帳簿を眺めても結果を出すまで時間がかかりますよ。そこで今はPSC各社の比較グラフを見ているんですが、確かにクインランは抱えた傭兵の数の割に人件費も低いし、装備に関しても余所と比べてローコストです。今期に入って少しだけ装備費は持ち上がっていますが」
すぐに霧島も同じサイトに辿り着いてグラフを睨んでいた。そこで気付く。
「おい、この医療関係費がやけに多くないか?」
「少なくはありませんね。でも戦闘薬を大量に買って、更なる高値でマフィアに横流ししてるなんてことは何処にも書いてくれていませんしね。本気で知りたいなら自力で探り出さないと。ただ戦傷者を手厚く看護してるなんてのもケチだけに考えづらいですけれど」
霧島は煙草を咥えて一本引き出し、オイルライターで火を点けた。
「だが製薬会社から直接マフィアが戦闘薬を買い付けるよりは現実的だろう?」
「訊かれたってクインランが黒っていう証拠はありませんし」
盛大に紫煙を吐きながら霧島はあっさりと言い放つ。
「では、証拠を掴もう」
「証拠って、忍さん貴方! 僕たちの任務はこのエーサでナルコム社が麻薬密輸に関して白か黒かを調べて報告するだけです。そもそもクインラン社は土地の安い辺境に社屋を作るほどケチだし、それってカランドでもずっと南のアマラの街だし。おまけに戦闘薬を扱うのは最前線だし、ガチのホットゾーンなんて僕はもうご免ですよ!」
「そう騒がずアマラ便が何時か調べてくれ。調べ終えて、もし時間があるなら……手加減するから、な?」
「そう心配は要らないでしょう、途中で意識も戻る程度でしたし」
「ん、ああ、そうだな」
自分が関わったために雅人はあんな目に遭ったのではないか。霧島がそう思っていることくらいは容易に想像がつき、京哉も言葉少なになっていた。そんな愛し人の迷いと憂いを払拭するには黒いセダンに乗った襲撃者を突き止めるしかなく、京哉は携帯で検索し続けている。マクミランを無闇につつくのは拙いので、あくまでネットを泳ぐ程度だが。
エーサの中でも大規模な大学付属病院の救急処置室前にあるベンチだった。
十五階建ての一階救急処置室に雅人が運び込まれ既に一時間ほどが経過していた。運んでくれた救急隊員に依れば命に別状はないらしい。
やがてドアが開き、看護師と医師が付き添ってストレッチャに乗せられた雅人が出てくる。少年の薄い躰はガウンのような服を着せられ、ベージュの毛布を被せられていた。意識がないまま運ばれていく雅人に霧島と京哉も同行する。
「どのくらい掛かるんだ?」
「本当に運がいい、内臓にも損傷がなかった。入院は一週間ほどの予定ですな」
笑う医師の言葉を京哉に通訳しながら、霧島は十二階の個室に収容されるまで雅人に付き添い続けた。一二〇三号室のベッドに少年が移され、モニタ機器が接続されるのを黙って見つめる。そのまま医師らが立ち去っても霧島は雅人の傍に立っていた。
「あのカチコミはただの脅しに過ぎなかった」
「僕らと銃撃戦になったのはお互い誤算でしたけど、放置できる状況でもありませんでした。一般人がいましたし、ナルコムの事務所にいた従業員たちだって僕らが応戦したから無傷だった可能性もあります。雅人はまさに流れ弾に当たった、事故に遭ったんですよ」
「そうだな。狙いはナルコム社そのものか、ビル=スレーダー個人か。分からんな」
「でも実際にマクミランが脅したんでしょうか。ならどうして脅したんでしょう?」
「ネタは大型バスの事故くらいか。もし真相を洩らしたら本気で殺られる可能性が高い。その一歩手前……洩らしかけたか、逆手にとって誰かを脅したか」
「脅したって、結果がカチコミだったところから見てマクミランファミリーを?」
答えず霧島は京哉に煙草を要求しかけて手を下ろす。既にクセになっていた。
「ビル=スレーダーの今はバス事故で成り立っている。事故、調べられるか?」
「パソコンがあれば。それと沢井雅人のことは一ノ瀬本部長にメールしましたから」
「親父殺しか……」
「自白が本当とは限らないですよ、朦朧としてましたし。ホテルに戻りませんか?」
ここで雅人を眺めていてもことは進まない。霧島も同意して病室を出た。
マートルホテルまでタクシーで二十分ほどだった。部屋に戻った霧島と京哉はパソコンを起動して検索に着手する。京哉が検索する片端から同じページに霧島も目を通した。
「リライ事務が取引している最大手のPSCはクインラン社か」
「クインランは武器弾薬をリライ事務から買ってるだけじゃなくて、逆にリライから依頼されて代理戦争もやってますね。互いに顧客同士という訳です」
「なるほど。クインランはどうだ?」
「うーん、大手は大手だけど、あんまりいい噂はないみたいですね」
「どんな噂ならあるんだ?」
「業界の不良会社っていうのは言い過ぎだけど、人使いが荒くて、抱えた兵士に使わせる武器弾薬もいいものじゃないみたい。整備不良で戦死なんて笑えない話が多いですよ」
「ケチということか。帳簿は見られそうか?」
「さすがに大手だと桁が違いすぎて帳簿を眺めても結果を出すまで時間がかかりますよ。そこで今はPSC各社の比較グラフを見ているんですが、確かにクインランは抱えた傭兵の数の割に人件費も低いし、装備に関しても余所と比べてローコストです。今期に入って少しだけ装備費は持ち上がっていますが」
すぐに霧島も同じサイトに辿り着いてグラフを睨んでいた。そこで気付く。
「おい、この医療関係費がやけに多くないか?」
「少なくはありませんね。でも戦闘薬を大量に買って、更なる高値でマフィアに横流ししてるなんてことは何処にも書いてくれていませんしね。本気で知りたいなら自力で探り出さないと。ただ戦傷者を手厚く看護してるなんてのもケチだけに考えづらいですけれど」
霧島は煙草を咥えて一本引き出し、オイルライターで火を点けた。
「だが製薬会社から直接マフィアが戦闘薬を買い付けるよりは現実的だろう?」
「訊かれたってクインランが黒っていう証拠はありませんし」
盛大に紫煙を吐きながら霧島はあっさりと言い放つ。
「では、証拠を掴もう」
「証拠って、忍さん貴方! 僕たちの任務はこのエーサでナルコム社が麻薬密輸に関して白か黒かを調べて報告するだけです。そもそもクインラン社は土地の安い辺境に社屋を作るほどケチだし、それってカランドでもずっと南のアマラの街だし。おまけに戦闘薬を扱うのは最前線だし、ガチのホットゾーンなんて僕はもうご免ですよ!」
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