Black Mail[脅迫状]~Barter.23~

志賀雅基

文字の大きさ
44 / 59

第44話

しおりを挟む
 A2基地に戻るヘリの中は賑やかな者と、葬式の参列者のように黙りこくっている者とに綺麗に分かれていた。後者である霧島と京哉にドミニクとパットは基地に戻ると味のしない遅い昼食を食堂で摂り、さっさと居室に引っ込んだ。

 デスク付属のチェアに霧島は前後逆に腰掛け灰皿片手に煙草を吹かしている。京哉も咥え煙草でもう一台のデスクに載ったノートパソコンを起動していた。

「ねえ、忍さん。一連の貴方の推論をまとめてみたいんですけど……クインランが戦闘薬の横流しまでする、マフィア・マクミランファミリーとも繋がった不良企業だって分かってて、リライ事務はクインランと組んだんですよね?」
「ああ。たぶんクインランの悪知恵とコネを利用するためにな」
「一方でクインランは着々とビル=スレーダーを陥れる計画を進めてたんですね」

「バス事故から飛行機墜落にIT企業ナルコム社立ち上げ、ハンターキラーのヒットまで含め、全てがクインランの計画通りだ。そして今に至るもクインランの差し回したマフィア・マクミランファミリーに脅され、ビル=スレーダーは踊らされている」
「またその一方でリライ事務は専用コントローラを、ハンターキラーと同時発売する計画を立てて実行した。それもクインランの悪知恵なんでしょうか?」

 涼しい表情ながら僅かに苦いような顔をして霧島は頷く。

「大いに有り得るだろうな。ハンターキラーの爆発的ヒットがなければ、今回の緻密かつ周到な計画は何もかも意味がなくなる。計画成功で本格的に稼げるようになるまで戦闘薬の横流しをしてまで食い繋いだ苦労が水の泡だ」

 先程クインラン本社の帳簿を電子情報網から掘り起こして二人で徹底的に眺めた結果、ハンターキラーが出るまでのクインランは顧客の企業から多額のカネを借り入れていたのが判明していた。火の車と言ったアルの言葉は酔った勢いばかりではなかったのだ。

「高輪組に潜入した麻取四人は、マクミランファミリーから高輪組に流された戦闘薬密売の証拠を掴もうとした過程で、もっと大きなネタを掴んじゃったんですね」
「たぶんな。単純な戦闘薬密売を探っていた麻取はマクミラン、クインラン、リライ事務が噛んだ今回の陰謀を知ってしまった。それで私たち同様に潜入しようとした挙げ句に失敗し消された」

 肩越しに振り向いた霧島は京哉の黒い瞳をじっと見つめて言葉を継ぐ。

「我々にも隠されていた今回の許し難い陰謀、それは知らずして実際の戦争に世界中のゲーマーたちを参加させることだ」

 そう、それは倫理的にも絶対に許されない計画だった。

「ゲーマーは、まさかと思うでしょうね」
「オンラインゲームをさせて優秀なパイロットを育て上げる。コストを掛けずにな。そしてレヴェルを上り詰めたゲーマーは、いつの間にか本物のUAVを操って現実の出来事とは知らずに人殺しに加担させられるんだ」

「普通なら優秀なパイロットの育成には一人当たり何千万円ものコストが掛かるんですよ。UAVだってプログラムでの単調な動きより人間の判断が加味された方が作戦成功率も上がりますし」
「知っている。自律飛行のドローンでも、ある程度カネを掛けた代物なら使い捨てるより人の判断を駆使して帰還させた方が、あらゆる面でいいに決まっているしな」

 それ自体に爆弾を括りつけた自爆ドローンなら突っ込んで終わりだが、情報収集用の偵察無人機やミサイル等を積めるほどの大型無人機ならコスト面でも帰還させたいだろう。そこでコンピュータの超速演算にベテランの人間の判断が加われば、この上なく強力な兵器になる。

 そして育成に莫大な費用と年月が掛かる優秀なパイロットは、喩え機が墜ちても死なないのだ。地球上の何処かの我が家でゲームオーバーを嘆くだけだ。
 そんな平和な我が家と実際の戦場という、かけ離れた場所でのオペレーションを仲介していたのがナルコム社だった。

「ナルコム社は大容量サーバを提供しオンラインゲーム・ハンターキラーという『架空の戦場』を介して、このA2基地を含むUAVベースとゲーマーをリアルタイムで繋いでいるんだ」
「ナルコム社はそういう役目を負わされてたんですね」

 頷いた霧島はデスクに灰皿を置き、買った冷たい缶コーヒーを振って開封した。

「飴とムチでサーバを提供させられ、基地とダイレクトで結んでUAVに『パイロット』を乗せ作戦を実行させる……どれだけのゲーマーが知らずに手を汚してきたのだろうな」
「きっと子供が多いんですよね。昔から反射神経のいい子供の方が戦闘機パイロットなんかには向いてるって言われてきたんですよ、倫理的な面がクリアできなかっただけで」

 静かに言った京哉に、霧島は鼻を鳴らして飲み掛けの缶コーヒーを突き出す。

「ふん。同じく昔からミサイル発射ボタンを押してカメラ・アイに映った敵の末路を見るだけで、PTSDになる人間もいるという話を何処かで聞いたぞ」
「そんなデータもあれば今日の誰かみたいに嬉々として人殺しする人間もいますよ」
「そうだな、色んな人間がいる。だがあれはゲームでしかないんだ」

「悪いテロリストをやっつけるゲーム、殲滅してレヴェルを上り詰めるゲーム。本当に殺したなんて欠片も思ってないんですよね」
「クインランは『子供の魂だってカネに替える』か……」

 喋りながらずっと霧島の脳裏には謝ってばかりの淋しげな少年の姿が浮かび続けていた。京哉も同じであろうことは容易に想像がついた。
 二人はもう一度、あの霧島がこだわったハンターキラーのログを見て、二十五ミリチェーンガンでミンチにされた男と一ノ瀬本部長にメールで要求した沢井義久の写真と照合し、同一人物であることを確認していた。

「優秀すぎて親父を殺した雅人は、いったいどうなるんだ?」
「罰せられはしないでしょう。それこそ嵌められた事故みたいなものですし」
「そういうことを訊いた訳ではないのだが……まあいい」

「証拠はナルコムの膨大なログがありますし、貴方がピースを嵌めた推論も一ノ瀬本部長に送ったから、裏取りさえできれば日本のリライ事務本社に捜査のメスが入る筈だし。今のカランドと日本の関係は良好だから、ナルコム社にガサが入るのも時間の問題ですよ。今回も忍さんの見事な推理の勝利ですね」

「勝つも負けるもない、我々は初めから勝負になど臨んでいないのだからな。とはいえ、お前の称賛は素直に受け取っておこう、副賞もな」
「副賞なんて用意してませんよ……ったくもう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...