Black Mail[脅迫状]~Barter.23~

志賀雅基

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第45話

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 艶っぽい切れ長の目で流し見られて京哉は僅かに頬を赤く染めた。年下の恋人の反応に満足した霧島はせっかちにも途端に帰る算段だ。

「どうせならウチの広いベッドでお前としっぽり愉しみたいしな。証人のビル=スレーダーの身柄ガラさえ押さえたら『ゲーマー現実戦争参加システム』は総崩れだ。ならばこれで特別任務も完遂か。よし、こんな胸クソ悪い所からとっとと出るぞ」
「えっ、もう?」
「ああ、出ると言ったら出る。今すぐだ」

 言いつつ霧島はもう携帯を操作しアルに契約破棄のメールを送っていた。

 メールを受けてアルが居室を訪ねてきた時には二人は戦争色の服を脱ぎ捨てて私服のスーツに着替え、ショルダーバッグも待機させて出て行ける態勢を整えていた。
 そんな霧島と京哉をアルは眩しそうな目で見て嘆息する。

「何だってあんたらはそう気が短いんだ、全くドミニクやパットといい」
「えっ、ドミニクとパットも辞めるんですか?」
「ああ、申し出をさっき受けたところだ。あんたらも違約金が発生することは……」
「分かっている、契約金にノシをつけて叩き返してやる」

 ともかく霧島は何が何でもここから出て行くつもりで、意地になった年上の愛し人がどんなに頑固か知っている京哉は逆らわない。アルも言葉を尽くし引き留めていたが説得の甲斐なくついに折れる。頭を振って巨大な溜息をついた。

「戦う気のない兵員を食わせていても仕方ないからな。好きに出て行くがいい」
「遠慮なくそうさせて貰う。アル、あんた個人に何の恨みもないんだ、すまん」
「含みがないなら謝るな、そういう奴もたまにはいるんだ。ミミズのゲップほどだが中間管理職手当ても出てる。それでアルコールを買って心の手当てをするさ」

「飲み過ぎと、クスリには気を付けてくれ」
「いい飲み仲間ができたと思ったんだが、仕方ない」

 その場でアルはハーマンにコールし、十九時にハーマンとの面接をすることを条件として霧島と京哉を一旦釈放パイとする。アルが去ると入れ違いにドミニクとパットが訪れた。

「よう、兄弟。あんたらも辞めるんだってな」
「そんなデカい兄貴を持った覚えはないが、気持ちを分かち合えるのは嬉しいぞ」
「でもパット、貴方はそれで大丈夫なんですか?」

 片言英語で京哉から声を掛けられ、まともに見られてパットは顔を赤くする。

「あ、そ、それは、アルに都合つけて貰ったのが結構あるんで、はい」
「そっか。でも無理せずに病院でしっかり治した方がいいんじゃないかな」
「あ、そ、はい、いいえ……どうも」

 意味不明の言葉を口にしたパットを横目に霧島は大欠伸をかました。

「霧島に鳴海、あんたらは辞めてどうするんだ?」
「アテはないが、どうにでもなる。ドミニクにパット、あんたらは?」
「こんな下らない内戦には興味が失せた。またシリア辺りにでも行こうと思ってる」
「シリアか。まあ、バディで仲良くやってくれ」

 暫し雑談をしていると居室のドアチャイムが鳴ってインターフォンから声がした。

《ハーマンだ。全員いるんだろう、開けてくれ》

 京哉がドアロックを解く。入ってきたのはハーマン一人で面接といっても大したことは訊かれず、主目的は違約金の回収だった。所詮は幾らでもすげ替えの利く傭兵である。ドライかつシステマチックに四人まとめて追い出されることになった。

 時刻は二十時、夜の基地を歩いて出た四人は隣接する町に足を踏み入れる。

「かなり小さな町のようだな。こんな所から定期便など出ているのか?」
「貴方みたいな人といるんです、抜かりはありません」

 基地を出る前に定期ヘリが一日二便あることや離発着場も調べ済みだ。

「大型ヘリが八時半と二十時半発です。朝はユガル行きだけど、基地の人たちが遊びに行ったりするからかな、夜の便はアマラに直行なんですって」
「では上手く行けば今日中に首都のエーサまで帰れるな」

 のんびりと歩く分には小さな町は涼しく気持ちがいい。光害が殆どないために星空が見事で、それを眺めつつ四人は歩を進め、約二十分で町役場の傍にある定期ヘリ停機場に辿り着く。遊びに出るらしい基地の兵士たちがあとから次々と追い付いてきていた。

 停機場にはこれも茶系迷彩の大型ヘリがスタンバイしていてシートが塞がらないうちに四人はそそくさと乗り込む。にこやかな男性のキャビンアテンダントと直接現金をやり取りしてチケットを買い、後部カーゴドアから機内に入った。

 軍用大型輸送ヘリを改造して設置されたシートは幸いまだ空いていて、三人掛けに窓際から霧島、京哉、パット、通路を挟んで巨漢のドミニクが並んで腰掛けた。
 パットは京哉の隣をキープして少々緊張気味だと霧島は見取る。

 何となくつまらない思いで窓外に目をやり静かにテイクオフを待っていると霧島の腹が巨大な音を発した。赤くなる京哉をよそに、そういや晩飯をどうしようかと考え一時間半のフライト中の胃袋を睡眠で誤魔化すことにする。
 密やかに指を絡められた手を霧島は強く握ってから眠りに就いた。

 名を呼ばれ揺すり起こされて目を開くと殆どの座席に乗客がいなかった。霧島は大欠伸しながら席を立つ。ジャケットの袖で滲んだ涙をごしごしと拭き、ついでに垂れかけたヨダレを手の甲で拭うとショルダーバッグを担いだ京哉が溜息を洩らして頭を振った。構わずドミニクたちと後部カーゴドアを踏んで降機する。

 降りるとそこは空港面の隅にある停機場だった。夜気を大きく吸ってから大型バスに乗り込んでターミナルビルまで運んで貰う。ロータリーで降ろされビル一階に入ってロビーフロアに掲げられた電光掲示板を四人で見上げた。

「どうします、あと三十分でエーサ便があるけど、三時間半も我慢できますか?」
「どうせだ。エーサに戻ろう。ドミニクにパット、あんたらはどうする?」
「旅は道連れだ、俺たちも国外に渡るなら首都のエーサの方が何かと都合いい」
「ならば決まりだ、急ぐぞ」

 そう言って霧島は仕切るとカウンターでチケットを買いチェックインを済ませる。霧島と京哉の武器所持許可証を免罪符に四人まとめてセキュリティチェックをクリアし、ギリギリで送迎バスの最終便に間に合ってプロペラが四つの中型機に運ばれた。

 シートに収まると霧島はまた腹の虫を騙すために眠る。
 次に京哉に起こされるとエーサ国際空港に到着していた。お手軽だ。ボーディングブリッジを渡る列に並びながら霧島は思い返して欠伸混じりに言う。

「ふあーあ。それでもたった一日エーサから離れていただけか」
「充実してた証拠でしょうけど、三日くらい傭兵をしていた気がしますよね」
「ああ。特別任務も終わったし、あとは帰るだけだ。またお前は国際線で禁煙だぞ」
「そういう貴方だって禁煙でしょう?」

「私はもう吸いたい気分など欠片もない。京哉、お前だけ頑張れ」
「最近忍さんってサドっ気が強くないですか?」
「今頃気付いたのか。それより腹が減ったな」
「分かってます。ターミナルビルのレストラン街でいいですよね?」

 二階ロビーに出るともう自由の身でドミニクたちとエレベーターに乗った。ドミニクたちの戦闘服が周囲から浮き人目を惹いたがこのメンバーで気にする者はいない。
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