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第52話
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「ぜ、全員、鳴海から離れろ!」
残るチンピラ二人は京哉にかまけて銃すら手放していた。半分下衣を脱いだ格好でまだ事態が掴めずポカンとしている。そのため『鳴海から離れろ』なる命令の意味も理解できず、それを敵対行動と取ったか、パットは左手の銃を男の喉に食い込ませ、素早く右腕を伸ばして自前の銃を連射した。チンピラ二人が吹き飛んで転がる。
だが伏兵アルがパットに忍び寄っていた。パットの背に銃口を食い込ませる。
「パット、銃を降ろせ」
「い、嫌だ。自分は、そこまで卑怯者には、なりたくない!」
「同じ穴の狢のクセに一人だけ回る滑車から降りるっていうのか?」
「撃てるなら撃て、貫通すればこいつも……あうっ!」
アルは無造作にトリガを引いていた。背にダブルタップを受けてパットは羽交い締めにした男もろともつんのめるように倒れる。銃で撃たれても案外人間は映画のように吹っ飛んだりしないものだが、至近距離での貫通弾二発は効いたのか、つんのめったパットは部屋中央のロウテーブル近くまでダイヴするように倒れ込んだ。
伸びて動かなくなったパットの下から、うつ伏せになった下から男が這い出す。パットの言った通り貫通弾に被弾したのだろう、起き上がれずに青い顔をしている。
残る五人の中堅幹部らしきスーツ男たちがアルに頷き、アルは媚びたような笑いを浮かべた。轟音と共にその額にポツリと穴が開く。背後の壁に真っ赤な花が咲いた。アルが壁に背を叩きつけて絶命する。命の炎が消えた男は壁に凭れてズルズルと座り込んだ。
赤ペンキをぶちまけたような壁とアルを見て、俯せに這ったままパットが呻く。
「お、お前ら……何でアルを……アルをどうして!」
「いつ心変わりするか分からない仲間は必要ないんでね」
そしてパットにまで銃を向けた、その時だった。檻の方から銃声がして中堅幹部たちが手にしたハンドガンが次々と吹き飛び地に落ちる。五発で済まず続けざまの銃声はパット以外の中堅幹部の右耳たぶを精確に削り落としていた。
勿論、撃ったのは霧島である。パットは撃たれた際に吹っ飛んだふりをしてロウテーブル上のシグ・ザウエルP226を一丁掴むと素早く絨毯上を滑らせ、霧島に銃を渡していたのだ。残弾数発を使い霧島は檻の鍵を壊すと飛び出し京哉を抱き締める。
そこでこれまでにない大音響がして部屋のドアが吹き飛んだ。フレームチャージという特殊成型爆薬で破られたドアから駆け込んできた先頭はドミニク、あとから一個小隊もの兵士がなだれを打って室内に踏み入ってくる。
「カランド国軍第一歩兵師団だ、全員動くな!」
言われずとも既に敵は制圧済みであり、耳から大量出血した上に俯せのままのパットに照準されたマフィアの幹部は動ける状態ではなく、取り囲んだ三十余名の兵士たちの仕事はごく簡単なものとなった。
そんなことより自分のジャケットを脱いで京哉に被せ抱き締めた霧島は、京哉の名を何度も呼びつつ揺さぶり続けたが、黒い瞳は霧島を見返すも焦点が合っていない。霧島は焦り狂って自らのドレスシャツの袖で京哉の血を拭きながら叫び続けた。
「京哉、しっかりしろ、京哉!」
「ん……忍さん?」
ようやくレスポンスがあって少々安堵し抱き締めて髪を撫でてやる。すると澄んだ黒い瞳がやっと霧島の灰色の目をちゃんと見返して薄く微笑んだ。
「忍さんが無事で良かった」
「京哉、すまん……本当にすまん」
「もう大丈夫ですから」
身を起こして京哉は愛しい男を抱き締め返す。それから霧島の手を借りて出来る限りの身繕いをした。引き裂かれたドレスシャツで浴びた返り血を拭い、部屋にあった洗面所で血を洗い流す。ソファに置かれていたショルダーバッグから清潔なドレスシャツを出して袖を通した。二人揃ってショルダーホルスタを身に着け、ジャケットを羽織る。
その間にマフィア派遣の六人の男たちは兵士に連行されていった。
室内を見回すとチンピラ四人にアルの死体、あとはパットが倒れ伏している。
「どうだ、望み通りに滑車が壊れた気分は。止められないほど走ったのか……?」
霧島がアルに掛けた言葉はほんの呟きだったが日本語だったので京哉が見上げた。
「……僕らは、止められないほど走らされていないでしょうか?」
「本当のところ、分からん。だが今回ばかりは私を止めるなよ」
「逆に僕がキレたら止めて下さい」
頷き合った霧島と京哉は踵を返してロウテーブルに歩み寄ると、傍で伏せたまま動かないパットの様子を看る。今回の原因でもあるが、自ら目を醒まして事態の打破に繋げてくれた殊勲賞受賞者だ。ドミニクに目で訊くと力強く頷く。
「これくらいで俺のバディは死なないさ。おい、遅いぞ、何をしているカランド軍のメディックは!」
まもなく駆け込んできた衛生兵は伴ってきたストレッチャにパットを乗せ、付き添うドミニクと共に消えた。残った霧島と京哉に男が二人近づいてくる。
妙に見慣れた軍服だと思えば、それは陸上自衛隊の制服だった。着用しているのは堂本一佐と副官の江崎二尉である。予測を確信に変えて霧島は溜息をついた。
残るチンピラ二人は京哉にかまけて銃すら手放していた。半分下衣を脱いだ格好でまだ事態が掴めずポカンとしている。そのため『鳴海から離れろ』なる命令の意味も理解できず、それを敵対行動と取ったか、パットは左手の銃を男の喉に食い込ませ、素早く右腕を伸ばして自前の銃を連射した。チンピラ二人が吹き飛んで転がる。
だが伏兵アルがパットに忍び寄っていた。パットの背に銃口を食い込ませる。
「パット、銃を降ろせ」
「い、嫌だ。自分は、そこまで卑怯者には、なりたくない!」
「同じ穴の狢のクセに一人だけ回る滑車から降りるっていうのか?」
「撃てるなら撃て、貫通すればこいつも……あうっ!」
アルは無造作にトリガを引いていた。背にダブルタップを受けてパットは羽交い締めにした男もろともつんのめるように倒れる。銃で撃たれても案外人間は映画のように吹っ飛んだりしないものだが、至近距離での貫通弾二発は効いたのか、つんのめったパットは部屋中央のロウテーブル近くまでダイヴするように倒れ込んだ。
伸びて動かなくなったパットの下から、うつ伏せになった下から男が這い出す。パットの言った通り貫通弾に被弾したのだろう、起き上がれずに青い顔をしている。
残る五人の中堅幹部らしきスーツ男たちがアルに頷き、アルは媚びたような笑いを浮かべた。轟音と共にその額にポツリと穴が開く。背後の壁に真っ赤な花が咲いた。アルが壁に背を叩きつけて絶命する。命の炎が消えた男は壁に凭れてズルズルと座り込んだ。
赤ペンキをぶちまけたような壁とアルを見て、俯せに這ったままパットが呻く。
「お、お前ら……何でアルを……アルをどうして!」
「いつ心変わりするか分からない仲間は必要ないんでね」
そしてパットにまで銃を向けた、その時だった。檻の方から銃声がして中堅幹部たちが手にしたハンドガンが次々と吹き飛び地に落ちる。五発で済まず続けざまの銃声はパット以外の中堅幹部の右耳たぶを精確に削り落としていた。
勿論、撃ったのは霧島である。パットは撃たれた際に吹っ飛んだふりをしてロウテーブル上のシグ・ザウエルP226を一丁掴むと素早く絨毯上を滑らせ、霧島に銃を渡していたのだ。残弾数発を使い霧島は檻の鍵を壊すと飛び出し京哉を抱き締める。
そこでこれまでにない大音響がして部屋のドアが吹き飛んだ。フレームチャージという特殊成型爆薬で破られたドアから駆け込んできた先頭はドミニク、あとから一個小隊もの兵士がなだれを打って室内に踏み入ってくる。
「カランド国軍第一歩兵師団だ、全員動くな!」
言われずとも既に敵は制圧済みであり、耳から大量出血した上に俯せのままのパットに照準されたマフィアの幹部は動ける状態ではなく、取り囲んだ三十余名の兵士たちの仕事はごく簡単なものとなった。
そんなことより自分のジャケットを脱いで京哉に被せ抱き締めた霧島は、京哉の名を何度も呼びつつ揺さぶり続けたが、黒い瞳は霧島を見返すも焦点が合っていない。霧島は焦り狂って自らのドレスシャツの袖で京哉の血を拭きながら叫び続けた。
「京哉、しっかりしろ、京哉!」
「ん……忍さん?」
ようやくレスポンスがあって少々安堵し抱き締めて髪を撫でてやる。すると澄んだ黒い瞳がやっと霧島の灰色の目をちゃんと見返して薄く微笑んだ。
「忍さんが無事で良かった」
「京哉、すまん……本当にすまん」
「もう大丈夫ですから」
身を起こして京哉は愛しい男を抱き締め返す。それから霧島の手を借りて出来る限りの身繕いをした。引き裂かれたドレスシャツで浴びた返り血を拭い、部屋にあった洗面所で血を洗い流す。ソファに置かれていたショルダーバッグから清潔なドレスシャツを出して袖を通した。二人揃ってショルダーホルスタを身に着け、ジャケットを羽織る。
その間にマフィア派遣の六人の男たちは兵士に連行されていった。
室内を見回すとチンピラ四人にアルの死体、あとはパットが倒れ伏している。
「どうだ、望み通りに滑車が壊れた気分は。止められないほど走ったのか……?」
霧島がアルに掛けた言葉はほんの呟きだったが日本語だったので京哉が見上げた。
「……僕らは、止められないほど走らされていないでしょうか?」
「本当のところ、分からん。だが今回ばかりは私を止めるなよ」
「逆に僕がキレたら止めて下さい」
頷き合った霧島と京哉は踵を返してロウテーブルに歩み寄ると、傍で伏せたまま動かないパットの様子を看る。今回の原因でもあるが、自ら目を醒まして事態の打破に繋げてくれた殊勲賞受賞者だ。ドミニクに目で訊くと力強く頷く。
「これくらいで俺のバディは死なないさ。おい、遅いぞ、何をしているカランド軍のメディックは!」
まもなく駆け込んできた衛生兵は伴ってきたストレッチャにパットを乗せ、付き添うドミニクと共に消えた。残った霧島と京哉に男が二人近づいてくる。
妙に見慣れた軍服だと思えば、それは陸上自衛隊の制服だった。着用しているのは堂本一佐と副官の江崎二尉である。予測を確信に変えて霧島は溜息をついた。
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