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第25話
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「京哉くん、俺となら同じレヴェルでこうして話せる。背伸びしなくていい」
「って、僕は確かに背は高くないですけど、そんなに悩んでは――」
「誤魔化さないでくれ。きみは霧島さんに合わせて無理してる。違うかい?」
誰よりも自分が傍にいて自然体でいられるのが霧島だ。それをロクに知りもせず否定されて京哉は僅かながら頭に血が上った。お蔭で食いつくように訊いてしまう。
「どういう意味でしょうか?」
「常に正論をぶちかまして堂々としていられる人間とは、俺たちスナイパーは一線を画している存在だ。知っているだろう、何があっても俺たちの名は公表されないというのに、かつて狙撃逮捕に従事した狙撃手が殺人で訴えられたことがあるのを」
かつて確かにそういうこともあったのは知っていた。だが世相も変わり自分たちのような存在の必要性も認めてくれる人々も大勢いるのだ。何より京哉がトリガを引く時は霧島も必ず傍にいて一緒に撃っているのだとまで言ってくれている。
相変わらず的外れなことを言い募られて京哉は本気で腹を立て始めた。
「いきなり何を……言ってる意味が分かりません。そもそも僕と忍さんのことは貴方に関係ないでしょう。貴方に理解も求めませんし、もし貴方がスナイパーであることを卑下しているのなら僕まで一緒にしないで下さい」
「霧島さんときみの関係は俺に関係ない、か。なら俺ときみの関係も霧島さんに関係ないだろう? それに俺は自分を卑下していない。だが事実として矛盾を抱えて生きている。きみだって心底納得していないから躰があれだけ拒否するんだろ」
「それは……正直、分かりませんけど」
「ほら、やっぱりそれは矛盾なんだよ。確かに霧島さんのような裏表なく真っ直ぐな人間も世の中には必要だろう。けどそれが京哉くんに必要か? 俺となら背伸びしなくていい。同じ尺度でものを見られる」
「だからって、ちょっ、離して下さい!」
強く手を引かれて京哉は倒れ込んだ。そんな京哉の抗う手を軽くいなして小田切は京哉をすくい上げる。横抱きにした京哉に対し小田切は溜息を震わせながら呟いた。
「こうしたかった……二度抱き上げた、あの軽さが忘れられなかったんだ」
「ちょ、やだ、やめて下さい! 小田切さん、だめですって!」
騒いで暴れる京哉は着地させられたのがベッドと知り思わず顔から血の気が引く。
「こんなベッドに二人で乗ったら壊れますって!」
「心配は要らない、底は衣装ケースで増強してある」
「でも僕はベッドの上で、ものすご~く比重が高くなる特異体質なんです!」
明日からも副隊長とは付き合っていかなければならない。故に京哉はジョークにしてしまいたかったのだ。
だが京哉の訴えも空しく小田切は細い躰にのしかかる。更に暴れたが難なく組み敷かれてタイを緩められた。焦るばかりで重みを押し退けられない。いとも簡単にドレスシャツのボタンをひとつ、ふたつと外されて、鎖骨の上を強く吸われた。
「やっ、ちょっ、無理……だめだ、小田切さん!」
膝を割られて下半身同士を擦りつけられる。スラックス越しにも小田切が熱く硬く勃ち上がらせているのが分かった。京哉は冷や汗を滲ませ逃れる方法を模索する。その間も暴れていたが小田切は京哉の耳朶を舐めながら囁きを吹き込んでいた。
「京哉くん、俺は本気だからな。この華奢な躰を想って夜も眠れないんだ」
「あっ、く……だめですってば! 重い、離せ!」
微動だにしない重みにこれは本格的に拙いぞと思う。暴れすぎて頭がボーッとしている間にベルトまで緩められた。どう暴れようと京哉のこぶしが当たったくらいで小田切の長身はまるで揺らがない。キスされたら舌を噛んでやろうと思ったが警戒しているのか唇は奪われなかった。
代わりに小田切の唇と舌は首筋を這い上ってくる。
衣服を身につけても見えそうな処にまで赤く穿たれた。他にもあちこち痕を付けられた気がする。霧島の怒りを予測して恐怖に鳥肌を立てた。そうでなくても肌が拒否し、言っては何だが気分が悪くて耐えられない。本気でこれ以上は無理だった。
考えるまでもなく身を守るため一足飛びに最終手段を使う。
「それは反則だよ、京哉くん」
京哉は左脇のショルダーホルスタから引き抜いたシグ・ザウエルP230JPを小田切の鼻先に突きつけていた。冗談でないのはトリガに掛かった指が示している。
「こうなるのを想像もしなかった、なんて言わないだろ?」
「暴行致傷は十五年以下の懲役、強制性交なら五年以上の懲役。どちらもサツカンがやらかせば執行猶予はおそらく付きません。貴方が食らい込みたがっているとは思いもしませんでした。遠慮なく僕は公判に持ち込んで係争しますけど?」
「合意の上だとばかり思ってたんだけどな。撃てるものなら撃ってみろ……っていうのは交渉術として最悪の科白らしいしね。でもキスくらいは許してくれても――」
「撃ちます。覚悟はいいですね?」
「良くないよ。あーあ、互いにトリガを引くことにためらいってものがないからな」
「って、僕は確かに背は高くないですけど、そんなに悩んでは――」
「誤魔化さないでくれ。きみは霧島さんに合わせて無理してる。違うかい?」
誰よりも自分が傍にいて自然体でいられるのが霧島だ。それをロクに知りもせず否定されて京哉は僅かながら頭に血が上った。お蔭で食いつくように訊いてしまう。
「どういう意味でしょうか?」
「常に正論をぶちかまして堂々としていられる人間とは、俺たちスナイパーは一線を画している存在だ。知っているだろう、何があっても俺たちの名は公表されないというのに、かつて狙撃逮捕に従事した狙撃手が殺人で訴えられたことがあるのを」
かつて確かにそういうこともあったのは知っていた。だが世相も変わり自分たちのような存在の必要性も認めてくれる人々も大勢いるのだ。何より京哉がトリガを引く時は霧島も必ず傍にいて一緒に撃っているのだとまで言ってくれている。
相変わらず的外れなことを言い募られて京哉は本気で腹を立て始めた。
「いきなり何を……言ってる意味が分かりません。そもそも僕と忍さんのことは貴方に関係ないでしょう。貴方に理解も求めませんし、もし貴方がスナイパーであることを卑下しているのなら僕まで一緒にしないで下さい」
「霧島さんときみの関係は俺に関係ない、か。なら俺ときみの関係も霧島さんに関係ないだろう? それに俺は自分を卑下していない。だが事実として矛盾を抱えて生きている。きみだって心底納得していないから躰があれだけ拒否するんだろ」
「それは……正直、分かりませんけど」
「ほら、やっぱりそれは矛盾なんだよ。確かに霧島さんのような裏表なく真っ直ぐな人間も世の中には必要だろう。けどそれが京哉くんに必要か? 俺となら背伸びしなくていい。同じ尺度でものを見られる」
「だからって、ちょっ、離して下さい!」
強く手を引かれて京哉は倒れ込んだ。そんな京哉の抗う手を軽くいなして小田切は京哉をすくい上げる。横抱きにした京哉に対し小田切は溜息を震わせながら呟いた。
「こうしたかった……二度抱き上げた、あの軽さが忘れられなかったんだ」
「ちょ、やだ、やめて下さい! 小田切さん、だめですって!」
騒いで暴れる京哉は着地させられたのがベッドと知り思わず顔から血の気が引く。
「こんなベッドに二人で乗ったら壊れますって!」
「心配は要らない、底は衣装ケースで増強してある」
「でも僕はベッドの上で、ものすご~く比重が高くなる特異体質なんです!」
明日からも副隊長とは付き合っていかなければならない。故に京哉はジョークにしてしまいたかったのだ。
だが京哉の訴えも空しく小田切は細い躰にのしかかる。更に暴れたが難なく組み敷かれてタイを緩められた。焦るばかりで重みを押し退けられない。いとも簡単にドレスシャツのボタンをひとつ、ふたつと外されて、鎖骨の上を強く吸われた。
「やっ、ちょっ、無理……だめだ、小田切さん!」
膝を割られて下半身同士を擦りつけられる。スラックス越しにも小田切が熱く硬く勃ち上がらせているのが分かった。京哉は冷や汗を滲ませ逃れる方法を模索する。その間も暴れていたが小田切は京哉の耳朶を舐めながら囁きを吹き込んでいた。
「京哉くん、俺は本気だからな。この華奢な躰を想って夜も眠れないんだ」
「あっ、く……だめですってば! 重い、離せ!」
微動だにしない重みにこれは本格的に拙いぞと思う。暴れすぎて頭がボーッとしている間にベルトまで緩められた。どう暴れようと京哉のこぶしが当たったくらいで小田切の長身はまるで揺らがない。キスされたら舌を噛んでやろうと思ったが警戒しているのか唇は奪われなかった。
代わりに小田切の唇と舌は首筋を這い上ってくる。
衣服を身につけても見えそうな処にまで赤く穿たれた。他にもあちこち痕を付けられた気がする。霧島の怒りを予測して恐怖に鳥肌を立てた。そうでなくても肌が拒否し、言っては何だが気分が悪くて耐えられない。本気でこれ以上は無理だった。
考えるまでもなく身を守るため一足飛びに最終手段を使う。
「それは反則だよ、京哉くん」
京哉は左脇のショルダーホルスタから引き抜いたシグ・ザウエルP230JPを小田切の鼻先に突きつけていた。冗談でないのはトリガに掛かった指が示している。
「こうなるのを想像もしなかった、なんて言わないだろ?」
「暴行致傷は十五年以下の懲役、強制性交なら五年以上の懲役。どちらもサツカンがやらかせば執行猶予はおそらく付きません。貴方が食らい込みたがっているとは思いもしませんでした。遠慮なく僕は公判に持ち込んで係争しますけど?」
「合意の上だとばかり思ってたんだけどな。撃てるものなら撃ってみろ……っていうのは交渉術として最悪の科白らしいしね。でもキスくらいは許してくれても――」
「撃ちます。覚悟はいいですね?」
「良くないよ。あーあ、互いにトリガを引くことにためらいってものがないからな」
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