29 / 72
第29話(BL特有シーン・回避可)
しおりを挟む
「もっと、もっと貴方を蕩かしたい……だから、忍さんが欲しいだけ――」
その言葉と京哉の儚いような微笑みに霧島は酔ってしまい何も考えられなかった。揺らされる京哉は逞しい躰に縋りつき、柑橘系のトワレの香りを吸い込んだ。目前の霧島の胸から喉の隆起にかけてのラインが匂い立つような男の色気を感じさせる。
しかしそこで急に霧島は動きを止めた。ここにきてふいに理性が戻った訳だ。
京哉とひとつになったまま、シーツに赤いものが点々と散っているのを目にしたのである。霧島は自分自身の背中の引っ掻き傷からの出血かと思った。だがこんなに出血するほどの痛みは感じていない。それに身に粘つくようなこの感触は――。
本格的に我に返った霧島は慌てて身を起こした。視界に飛び込んで来たのは霧島と京哉の白い躰に付着した血。京哉が閉じ込めきれなかった霧島の熱も真っ赤に染まって流れ出していた。
遅れて更に赤い体液が溢れてきて霧島はギョッとする。反射的にシーツを掴んで京哉に押し当てた。そっと拭ったが深い処の傷までは分からない。
呆然としたまま霧島は京哉の左手を手繰り寄せて握る。少し冷たい手に額を押しつけた。体温が下がるほどショックだったのかと考えて自分を殴りつけたくなった。
「すまん。私はいったい何をして……本当にすまん、京哉」
「何てことないですから。殆ど血じゃなくて貴方の……ほら、アレですよ」
実際に流れ出たのは霧島自身が放ったもののようだったが、それを染めたのは京哉の血である。誰より大切な京哉を傷つけてしまった霧島は思い切り凹んだ。普段落ち込むことを知らない年上の愛しい男が酷い落胆ぶりで怪我をした京哉の方が焦る。
「あの、ほら、僕も煽っちゃいましたし、忍さんは悪くないですよ」
「悪くない訳はない。お前をこんな目に遭わせたのは私だ。この通り、許してくれ」
ベッドの上で深々と頭を上げられ、京哉は愛し人の黒髪をそっと撫でた。
事実として霧島との行為で過去に何度か出血を見たこともある。だがそれは互いに求め合う上で京哉は許容したのだし長引かず治ってきた。京哉自身は今回も同じことで特別な何かがあった訳じゃないと自然に受け止めている。
「謝らないで下さい。他の人の前で隙を見せた僕も悪いんですから」
「そうは言うが、立てるか?」
「大丈夫ですよ。立ち歩くくらいは平気……つうっ!」
ベッドから滑り降りたはいいが、しゃがみ込んでしまった京哉を霧島は抱き上げてそっとベッドに寝かせる。思いついてキッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってくると口移しで京哉に飲ませ、湯で絞ったバスタオルで躰も拭いてやった。
そして寝かせたまま器用にシーツを交換したのち、救急箱を漁って抗生物質入りの傷薬を京哉の粘膜に塗り込んでやる。指で触れた限りでは異常は感じられない。
最後の作業で顔を赤くした京哉に霧島はまたのしかかって抱き締めた。白い躰をきつく抱き締めながら霧島は京哉の鎖骨から首筋の、他の男がつけた赤い痕の上に唇を押しつけて思い切り吸い上げる。
元の痕より大きく濃く己の所有印を穿って身を起こした。
「すまなかった。だが京哉、本当に私にはお前だけなんだ」
「分かってます。もう謝らないで下さい。お互い様ってことでいいじゃないですか」
「そう言ってくれると助かる。日付も変わったな、寝るとするか」
「あっ、その前に打撲には湿布を貼って下さい」
湿布の匂いの腕枕を貰い、足も絡められて京哉はすぐに眠りに就く。
そんな京哉を抱き締めた霧島はペアリングを嵌めた手で京哉のさらりとした髪を撫で続けていた。
その言葉と京哉の儚いような微笑みに霧島は酔ってしまい何も考えられなかった。揺らされる京哉は逞しい躰に縋りつき、柑橘系のトワレの香りを吸い込んだ。目前の霧島の胸から喉の隆起にかけてのラインが匂い立つような男の色気を感じさせる。
しかしそこで急に霧島は動きを止めた。ここにきてふいに理性が戻った訳だ。
京哉とひとつになったまま、シーツに赤いものが点々と散っているのを目にしたのである。霧島は自分自身の背中の引っ掻き傷からの出血かと思った。だがこんなに出血するほどの痛みは感じていない。それに身に粘つくようなこの感触は――。
本格的に我に返った霧島は慌てて身を起こした。視界に飛び込んで来たのは霧島と京哉の白い躰に付着した血。京哉が閉じ込めきれなかった霧島の熱も真っ赤に染まって流れ出していた。
遅れて更に赤い体液が溢れてきて霧島はギョッとする。反射的にシーツを掴んで京哉に押し当てた。そっと拭ったが深い処の傷までは分からない。
呆然としたまま霧島は京哉の左手を手繰り寄せて握る。少し冷たい手に額を押しつけた。体温が下がるほどショックだったのかと考えて自分を殴りつけたくなった。
「すまん。私はいったい何をして……本当にすまん、京哉」
「何てことないですから。殆ど血じゃなくて貴方の……ほら、アレですよ」
実際に流れ出たのは霧島自身が放ったもののようだったが、それを染めたのは京哉の血である。誰より大切な京哉を傷つけてしまった霧島は思い切り凹んだ。普段落ち込むことを知らない年上の愛しい男が酷い落胆ぶりで怪我をした京哉の方が焦る。
「あの、ほら、僕も煽っちゃいましたし、忍さんは悪くないですよ」
「悪くない訳はない。お前をこんな目に遭わせたのは私だ。この通り、許してくれ」
ベッドの上で深々と頭を上げられ、京哉は愛し人の黒髪をそっと撫でた。
事実として霧島との行為で過去に何度か出血を見たこともある。だがそれは互いに求め合う上で京哉は許容したのだし長引かず治ってきた。京哉自身は今回も同じことで特別な何かがあった訳じゃないと自然に受け止めている。
「謝らないで下さい。他の人の前で隙を見せた僕も悪いんですから」
「そうは言うが、立てるか?」
「大丈夫ですよ。立ち歩くくらいは平気……つうっ!」
ベッドから滑り降りたはいいが、しゃがみ込んでしまった京哉を霧島は抱き上げてそっとベッドに寝かせる。思いついてキッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってくると口移しで京哉に飲ませ、湯で絞ったバスタオルで躰も拭いてやった。
そして寝かせたまま器用にシーツを交換したのち、救急箱を漁って抗生物質入りの傷薬を京哉の粘膜に塗り込んでやる。指で触れた限りでは異常は感じられない。
最後の作業で顔を赤くした京哉に霧島はまたのしかかって抱き締めた。白い躰をきつく抱き締めながら霧島は京哉の鎖骨から首筋の、他の男がつけた赤い痕の上に唇を押しつけて思い切り吸い上げる。
元の痕より大きく濃く己の所有印を穿って身を起こした。
「すまなかった。だが京哉、本当に私にはお前だけなんだ」
「分かってます。もう謝らないで下さい。お互い様ってことでいいじゃないですか」
「そう言ってくれると助かる。日付も変わったな、寝るとするか」
「あっ、その前に打撲には湿布を貼って下さい」
湿布の匂いの腕枕を貰い、足も絡められて京哉はすぐに眠りに就く。
そんな京哉を抱き締めた霧島はペアリングを嵌めた手で京哉のさらりとした髪を撫で続けていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる