見え透いた現実~Barter.6~

志賀雅基

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第42話

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 空腹を感じて霧島は目を覚ました。
 直後に巨大な音を腹から発し、耳にした京哉も身を起こす。二人して大欠伸をしながら京哉は目覚めの煙草を一本吸った。腕時計を眺めたら八時過ぎだ。

 起き出して布団を畳むと着替えて四畳半を出る。共用の洗面所で顔を洗い、浴場から持ち帰ったタオルで拭いた。霧島は早速オールバックにサングラスだ。

「さてと。飯を食いに行くか」
「夜が長かったからお腹が空いちゃいましたよね」

 一階の食堂はさほど混み合っていなかった。それでも二人は周囲からの妙に熱い視線を感じつつカウンター越しに厨房のオバちゃんからトレイを受け取る。近場のテーブルに横並びで腰掛けた。

「頂きます。おっ、このホッケの開きは旨いぞ。脂の乗り具合も丁度いいな」
「頂きまーす。ん、この厚焼き玉子もいけるかも。大根おろし付きが泣かせますね」
「だが味噌汁はお前の勝ちだな」
「本当ですか? 嬉しいけど、これはずっと温めてるから煮えすぎてるんでしょう」

 あれこれと評しながら綺麗に完食し、京哉はテーブルに置かれていた灰皿を引き寄せて食後の一服だ。それを吸い終えないうちに昨日とは違うジャージ男が傍に立つ。

「兄さん方、組長がお呼びっす。案内するっすから」

 頷いて煙草を消し、トレイを返却した二人はジャージ男に従って二階に上がった。六名ものガードがドアの前に待機していたので組長の居間は簡単に判別がつく。
 霧島がノックして返事を待たずにドアを引き開けた。中にいたのは厚川組長と三十代後半の若頭カシラだった。

 畳敷きの和室に洋風のインテリアを置いたリビングで二人の幹部はそれぞれ三人掛けソファを一人で一脚使用し、コーヒーカップを前にしてくつろいでいる。

「呼んでいると聞いたんだが、何の用だ?」

 あまりにラフな口調を咎めるように若頭は力のこもった目で霧島を睨んだ。だがヤクザの凄みなど屁とも思っていない霧島はあくまで厚川組長から目を逸らさない。

「ふうむ、いい目をしている。だがうちで飼っておく訳にはいかなくなった」
「どういうことだ?」
「今朝方、風呂場でお前たちの『相手』と言い張る手下どもが乱闘騒ぎを起こした」
「何だ、それは。お買い得品とは言ったが、そんな意味で言った覚えはないぞ」
「分かっている。けれどお前たちがどうあれ、俺はこういう面倒を好まん」 

 乱闘騒ぎでは二名が重傷を負って入院したという。おまけに若頭までもが巻き込まれて肋骨にヒビが入り、このあと通院するらしい。なるほど仏頂面をしている訳だった。それに幹部が下っ端と混じって喧嘩など示しがつかないのだろう。

 昨夜はガード三名を撃たれてこれも入院している筈、組長としては泣きっ面に蜂といったところに違いない。
 だがせっかくここまできたのだ。放り出されて振り出しに戻るのは勘弁である。

「しかし私たちはあんたの命を救った。それは事実だ」
「それも分かっている。仁義は通す。そこでお前たちを上部組織の真王組に送ろうと思う。真王の立川組長がお前たちをどう遇するかは分からんが、口添えはする。どうだ、受けるか?」

 願ってもない展開だった。
 霧島と京哉は目で合図をし、厚川に頷いた。
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