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第16話
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まもなく救急車は白藤大学付属病院の救命救急センター入り口に停まる。
ストレッチャが動き出した振動で京哉は目を覚まし、笑うしかない痛みに引き攣った顔で救急処置室に運ばれた。
医師の診察でも出血の割に幸い傷はさほど深くないと言われる。
麻酔を射たれて血管縫合され、傷を十二針縫われてガーゼと包帯で保護してから抗生物質入りの点滴をセットされて、明日まで入院し様子見となった。
その間に霧島は栗田を呼んで自分と参考人聴取を待つ身の沙織を県警本部に送らせた。京哉の傍にいたかったが機捜隊長としてただ座っている訳にはいかない。
捜一に沙織を引き渡し、交換に京哉の銃を受け取って機捜に戻る。警邏中の隊員からマル被発見の報は入らず、仕方なく武器庫で京哉の銃を整備し弾薬を二発足した。フルロードなら九発入るが五発しか貸与されないのだ。
つまり京哉は三発発砲した訳だが、反動の弱い三十二ACPでも結果は一発も命中しなかったとはいえ咄嗟によく左で撃てたものだと感心する。
だがスナイパーの京哉が尾行され発砲まで許すというのも、にわかに信じがたい事態だった。
やはり疲れが溜まっていたのか、それとも黙って過去と戦っていたから気付くのに遅れたのか……。
銃二丁を身に帯びて一旦真城市のマンションに帰り、自分と京哉の着替えを持って本部の機捜に舞い戻った。詰め所でまた一ノ瀬警視監に連絡を取り、今度こそ京哉の受傷を告げる。
すると既に報告が上がっていたらしく取り敢えず『ストーカーに悩む女子高生』に所轄署地域課の制服警官を就けるという言質をもぎ取った。
あとは黒塗りで病院に向かい病院内のコンビニで二人分の夕食を調達して外科病棟の京哉の許に戻る。京哉は二人部屋のベッドに横になっていたが眠っていなかった。
「すまんな、京哉。遅くなった」
「いえ、忙しいのにすみません」
「腹が減っただろう。ほら、飯を買ってきたぞ」
出したのは霧島がコンビニ調達時に定番としている海苔弁当で京哉は苦笑いする。
「がっかりするな、蛋白質増量用に唐揚げとハムチーズサンドもある」
「それはどうも。じゃあ食べましょうよ」
「あーんしてやるか?」
「大丈夫です。そもそも一泊コースなんて大袈裟すぎるんですから」
ベッド付属のテーブルを出して霧島が弁当類のパックを開けてくれた。左手でまずは割り箸に挑戦した京哉だが思うようにいかず、仕方なくプラスチックの先割れスプーンに持ち替える。
「海苔弁当でも各社色々ですよね」
「すまん、赤いウインナー入りの弁当がなかったんだ」
「そんなことで凹まないで下さい、僕も子供じゃないんですから」
他愛のない話をしながら先割れスプーン作戦でゆっくりと食べ進めた。弁当に唐揚げ、サンドウィッチまで二人で綺麗にさらえてしまうと京哉はそわそわし始める。
「あのう、忍さん、言いにくいんですけどニコチンの神様が呼んでまして」
「却下……と言いたいところだが仕方ないな。付き合ってやる」
だが今どき病院内に喫煙ルームなどある訳がない。吸えるのは外だけだ。そこで二十二時の消灯はとっくに過ぎているにも関わらず一階に降りて外に出ると外科病棟の裏まで遠征する。
長身の霧島が点滴パックを担当し、看護師の監視を上手く躱して辿り着いた病棟裏には赤く塗られた一斗缶が灰皿代わりに置かれていた。
見つかってどやされるのは勘弁なので京哉は急いで二本を灰にする。病室に戻ると危ういところで看護師が新たな点滴を持ってやってきた。
「これは朝までだから付き添いさんもそっちの空きベッドで寝て構わないわよ」
などと有難い言葉をかけてくれた看護師は蛍光灯を消して去る。窓際のベッドに横になった京哉は枕元の読書灯を点けた。
一方で霧島はスーツを脱ぎ、患者用の薄っぺらいガウンに着替えている。ドア側のベッドに横になると京哉に背を向けた。
その背をじっと見つめていた京哉はふいに起き上がると点滴台を引いて移動させ、霧島のベッドに上がる。狭いシングルベッドで広い背に抱きつき頬を擦りつけた。
「京哉。お前は何をしているんだ?」
「一応、夜這いのつもりだったんですけど……僕、何か拙ったでしょうか?」
「拙ったじゃないだろう。痛いんじゃないのか、普通は」
「あっ、すみません。何処が痛かったんですか?」
「私じゃなくてお前だ。戻って大人しく寝ろ、ハウス!」
「僕は犬ですか。……ねえ、我慢できない。忍さんが欲しくて眠れないんです」
甘くねだると霧島が振り向く。
影の濃くなった端正な顔が切なげに歪んでいた。今は黒く見える目には明らかに情欲が湛えられている。
ずっと我慢させてしまったので敢えて自ら欲しがってみせたが、こんな表情をされたら差し出さずにいられない。
ストレッチャが動き出した振動で京哉は目を覚まし、笑うしかない痛みに引き攣った顔で救急処置室に運ばれた。
医師の診察でも出血の割に幸い傷はさほど深くないと言われる。
麻酔を射たれて血管縫合され、傷を十二針縫われてガーゼと包帯で保護してから抗生物質入りの点滴をセットされて、明日まで入院し様子見となった。
その間に霧島は栗田を呼んで自分と参考人聴取を待つ身の沙織を県警本部に送らせた。京哉の傍にいたかったが機捜隊長としてただ座っている訳にはいかない。
捜一に沙織を引き渡し、交換に京哉の銃を受け取って機捜に戻る。警邏中の隊員からマル被発見の報は入らず、仕方なく武器庫で京哉の銃を整備し弾薬を二発足した。フルロードなら九発入るが五発しか貸与されないのだ。
つまり京哉は三発発砲した訳だが、反動の弱い三十二ACPでも結果は一発も命中しなかったとはいえ咄嗟によく左で撃てたものだと感心する。
だがスナイパーの京哉が尾行され発砲まで許すというのも、にわかに信じがたい事態だった。
やはり疲れが溜まっていたのか、それとも黙って過去と戦っていたから気付くのに遅れたのか……。
銃二丁を身に帯びて一旦真城市のマンションに帰り、自分と京哉の着替えを持って本部の機捜に舞い戻った。詰め所でまた一ノ瀬警視監に連絡を取り、今度こそ京哉の受傷を告げる。
すると既に報告が上がっていたらしく取り敢えず『ストーカーに悩む女子高生』に所轄署地域課の制服警官を就けるという言質をもぎ取った。
あとは黒塗りで病院に向かい病院内のコンビニで二人分の夕食を調達して外科病棟の京哉の許に戻る。京哉は二人部屋のベッドに横になっていたが眠っていなかった。
「すまんな、京哉。遅くなった」
「いえ、忙しいのにすみません」
「腹が減っただろう。ほら、飯を買ってきたぞ」
出したのは霧島がコンビニ調達時に定番としている海苔弁当で京哉は苦笑いする。
「がっかりするな、蛋白質増量用に唐揚げとハムチーズサンドもある」
「それはどうも。じゃあ食べましょうよ」
「あーんしてやるか?」
「大丈夫です。そもそも一泊コースなんて大袈裟すぎるんですから」
ベッド付属のテーブルを出して霧島が弁当類のパックを開けてくれた。左手でまずは割り箸に挑戦した京哉だが思うようにいかず、仕方なくプラスチックの先割れスプーンに持ち替える。
「海苔弁当でも各社色々ですよね」
「すまん、赤いウインナー入りの弁当がなかったんだ」
「そんなことで凹まないで下さい、僕も子供じゃないんですから」
他愛のない話をしながら先割れスプーン作戦でゆっくりと食べ進めた。弁当に唐揚げ、サンドウィッチまで二人で綺麗にさらえてしまうと京哉はそわそわし始める。
「あのう、忍さん、言いにくいんですけどニコチンの神様が呼んでまして」
「却下……と言いたいところだが仕方ないな。付き合ってやる」
だが今どき病院内に喫煙ルームなどある訳がない。吸えるのは外だけだ。そこで二十二時の消灯はとっくに過ぎているにも関わらず一階に降りて外に出ると外科病棟の裏まで遠征する。
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見つかってどやされるのは勘弁なので京哉は急いで二本を灰にする。病室に戻ると危ういところで看護師が新たな点滴を持ってやってきた。
「これは朝までだから付き添いさんもそっちの空きベッドで寝て構わないわよ」
などと有難い言葉をかけてくれた看護師は蛍光灯を消して去る。窓際のベッドに横になった京哉は枕元の読書灯を点けた。
一方で霧島はスーツを脱ぎ、患者用の薄っぺらいガウンに着替えている。ドア側のベッドに横になると京哉に背を向けた。
その背をじっと見つめていた京哉はふいに起き上がると点滴台を引いて移動させ、霧島のベッドに上がる。狭いシングルベッドで広い背に抱きつき頬を擦りつけた。
「京哉。お前は何をしているんだ?」
「一応、夜這いのつもりだったんですけど……僕、何か拙ったでしょうか?」
「拙ったじゃないだろう。痛いんじゃないのか、普通は」
「あっ、すみません。何処が痛かったんですか?」
「私じゃなくてお前だ。戻って大人しく寝ろ、ハウス!」
「僕は犬ですか。……ねえ、我慢できない。忍さんが欲しくて眠れないんです」
甘くねだると霧島が振り向く。
影の濃くなった端正な顔が切なげに歪んでいた。今は黒く見える目には明らかに情欲が湛えられている。
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