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第21話
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この期に及んで他社を連続訪問するという沙織は丁寧に社の現状を説明した。
「このアガサ商事白藤支社は金属部品を扱う子会社をまとめているの。でも三沢派に殆ど乗っ取られた状態のアガサ商事は何処の取引先からも売却寸前だと見做された」
そんな先行きの見通しも立たない社に金属材料を流してくれる会社など存在する筈もなく、殆ど手を切られてしまったのだという。
「もう大人しく松永工業に売却したらどうだ?」
「嫌よ。裏で何をしてるか分からない業界の不良会社なんかに誰が売るもんですか」
「そんなに拙い会社なのか、松永工業は?」
「当たり前じゃない。あそこは海棠組のフロント企業って言ったでしょう。やり方はヤクザそのもの、提示された条件だってちゃんと守って貰えるか怪しいものだわ」
「バックは今や飛ぶ鳥を落とす勢いの海棠組か」
溜息をついて霧島は京哉と顔を見合わせる。その間に沙織は仕事に戻っていた。パソコンのディスプレイ上に幾つものウィンドウを開いては何かのグラフを睨みつけ、手元は計算機を叩いている。何だか鬼気迫るものがそこにはあった。
「とても女子高生には見えないですよね」
「さすがは県内トップの篠坂高校生というべきなのかも知れんな」
だが今日だけで四件もの他社訪問予定が入っている現状には二人も頭を抱える。
「タクシー代と食事代でも出して、先方からこちらに来て貰うのはどうだ?」
「そんなお金、何処にあるのよ。赤貧洗うが如しよ」
「忍さん、超長期分割払いで御前から借りたらどうですか?」
「九日分だぞ、莫大な利息代わりに私が霧島の社長に嵌められるのがオチだ」
「それもそうですよね。はあ~っ」
二人で沙織を眺めていると再びノックの音がして今度は七、八人の男たちがドヤドヤ入ってくる。何事かと思えばどうやら三沢派の従業員たちが押し寄せたらしい。
「社長にも役員にもそれなりの地位を約束すると松永工業は言っているんですよ!」
「松永工業の何処が気に食わないんですか、早く権利書と社印を渡して下さい!」
「個人的財産に固執して貴女は従業員への責務を怠っている!」
「そうだ、そうだ!」
従業員と思えば一応役付きらしいので社員と言うべきか。身に着けたスーツも結構な高級品だ。だが十七歳の社長に対して行っているのは下劣な恫喝に等しい。
「いつまで態度をはっきりさせずに逃げているつもりですか!」
「説明責任を放棄している!」
「そうだ、そうだ!」
詰め寄る社員、蒼白になるうら若き女社長……という図を二人は見ていなかった。
霧島は大欠伸し、京哉は応接セットに灰皿を見つけて煙草を咥えオイルライターで火を点ける。灰皿は汚さず吸い殻パックを手にして盛大に紫煙を吐いた。
自分たちの仕事は沙織のガードだ。これで沙織が傷つけられるなら止めもするが、心の傷までガードせよとは一ノ瀬本部長から言われず、本人にも頼まれていない。
そもそも京哉がSPに就いたのは霧島と自分の生活を護るためだ。霧島も京哉に付き合っているだけで何も女子高生社長にほだされた訳ではない。
大体、そう簡単に傷つくような神経の持ち主とは思えなかった。
それこそナイロンザイル並みの神経には口撃など無意味である。銃弾の二、三発でもぶちかますくらいじゃないと……などと京哉がぼんやり考えていると爆発的な音が室内に響き渡って反射的に振り向く。
すると沙織の背後の窓に下がっていたブラインドがクシャクシャに折れ曲がって外れ落ち、窓ガラスに大きなヒビが入っていた。
弾かれたように京哉と霧島は動いた。デスクに駆け寄った京哉は棒立ちの社員らを押し退け、椅子に腰掛けたまま固まっている沙織を左腕で引き倒し伏せさせる。
更にその二人を霧島が押し倒して床に押さえつけながら叫んだ。
「伏せろ、皆、伏せろっ!」
そこで大音響と共に二射目が襲い、デスクトップパソコンが一台バシュッと音を立て火花を散らす。三射目で窓が殆ど素通しとなり、破片を散らしてデスクに銃弾がめり込んだ。もう一台のパソコンも破片により仲間の後を追う。
何が起こったのか認識できない男たちは再び霧島に怒鳴られしゃがみ込んだ。そのとき既に京哉は沙織を伴い壁沿いに移動して、窓外から見通せない位置にまで後退している。
命令し慣れた機捜隊長が大声で指示を出した。
「全員伏せたまま下がれ! 壁際まで下がったら這ったまま部屋から出ろ!」
「忍さん、貴方も下がって下さい!」
怒鳴り合いながら二人して沙織を事務所につれ出す。壁際に沙織を置いて二人は窓へと走り素早く全てのブラインドを閉めた。従業員にやらせて撃たれては敵わない。
そうして京哉は支社長室と同じ方向に窓のある応接室に駆け込んだ。慎重に窓外をチェックして狙撃ポイントを割り出す。背後からやってきた霧島に指差して示した。
「おそらくあの沢井第二ビルの最上階、右から二枚目の窓です」
「分かった、私から捜一に連絡する」
「このアガサ商事白藤支社は金属部品を扱う子会社をまとめているの。でも三沢派に殆ど乗っ取られた状態のアガサ商事は何処の取引先からも売却寸前だと見做された」
そんな先行きの見通しも立たない社に金属材料を流してくれる会社など存在する筈もなく、殆ど手を切られてしまったのだという。
「もう大人しく松永工業に売却したらどうだ?」
「嫌よ。裏で何をしてるか分からない業界の不良会社なんかに誰が売るもんですか」
「そんなに拙い会社なのか、松永工業は?」
「当たり前じゃない。あそこは海棠組のフロント企業って言ったでしょう。やり方はヤクザそのもの、提示された条件だってちゃんと守って貰えるか怪しいものだわ」
「バックは今や飛ぶ鳥を落とす勢いの海棠組か」
溜息をついて霧島は京哉と顔を見合わせる。その間に沙織は仕事に戻っていた。パソコンのディスプレイ上に幾つものウィンドウを開いては何かのグラフを睨みつけ、手元は計算機を叩いている。何だか鬼気迫るものがそこにはあった。
「とても女子高生には見えないですよね」
「さすがは県内トップの篠坂高校生というべきなのかも知れんな」
だが今日だけで四件もの他社訪問予定が入っている現状には二人も頭を抱える。
「タクシー代と食事代でも出して、先方からこちらに来て貰うのはどうだ?」
「そんなお金、何処にあるのよ。赤貧洗うが如しよ」
「忍さん、超長期分割払いで御前から借りたらどうですか?」
「九日分だぞ、莫大な利息代わりに私が霧島の社長に嵌められるのがオチだ」
「それもそうですよね。はあ~っ」
二人で沙織を眺めていると再びノックの音がして今度は七、八人の男たちがドヤドヤ入ってくる。何事かと思えばどうやら三沢派の従業員たちが押し寄せたらしい。
「社長にも役員にもそれなりの地位を約束すると松永工業は言っているんですよ!」
「松永工業の何処が気に食わないんですか、早く権利書と社印を渡して下さい!」
「個人的財産に固執して貴女は従業員への責務を怠っている!」
「そうだ、そうだ!」
従業員と思えば一応役付きらしいので社員と言うべきか。身に着けたスーツも結構な高級品だ。だが十七歳の社長に対して行っているのは下劣な恫喝に等しい。
「いつまで態度をはっきりさせずに逃げているつもりですか!」
「説明責任を放棄している!」
「そうだ、そうだ!」
詰め寄る社員、蒼白になるうら若き女社長……という図を二人は見ていなかった。
霧島は大欠伸し、京哉は応接セットに灰皿を見つけて煙草を咥えオイルライターで火を点ける。灰皿は汚さず吸い殻パックを手にして盛大に紫煙を吐いた。
自分たちの仕事は沙織のガードだ。これで沙織が傷つけられるなら止めもするが、心の傷までガードせよとは一ノ瀬本部長から言われず、本人にも頼まれていない。
そもそも京哉がSPに就いたのは霧島と自分の生活を護るためだ。霧島も京哉に付き合っているだけで何も女子高生社長にほだされた訳ではない。
大体、そう簡単に傷つくような神経の持ち主とは思えなかった。
それこそナイロンザイル並みの神経には口撃など無意味である。銃弾の二、三発でもぶちかますくらいじゃないと……などと京哉がぼんやり考えていると爆発的な音が室内に響き渡って反射的に振り向く。
すると沙織の背後の窓に下がっていたブラインドがクシャクシャに折れ曲がって外れ落ち、窓ガラスに大きなヒビが入っていた。
弾かれたように京哉と霧島は動いた。デスクに駆け寄った京哉は棒立ちの社員らを押し退け、椅子に腰掛けたまま固まっている沙織を左腕で引き倒し伏せさせる。
更にその二人を霧島が押し倒して床に押さえつけながら叫んだ。
「伏せろ、皆、伏せろっ!」
そこで大音響と共に二射目が襲い、デスクトップパソコンが一台バシュッと音を立て火花を散らす。三射目で窓が殆ど素通しとなり、破片を散らしてデスクに銃弾がめり込んだ。もう一台のパソコンも破片により仲間の後を追う。
何が起こったのか認識できない男たちは再び霧島に怒鳴られしゃがみ込んだ。そのとき既に京哉は沙織を伴い壁沿いに移動して、窓外から見通せない位置にまで後退している。
命令し慣れた機捜隊長が大声で指示を出した。
「全員伏せたまま下がれ! 壁際まで下がったら這ったまま部屋から出ろ!」
「忍さん、貴方も下がって下さい!」
怒鳴り合いながら二人して沙織を事務所につれ出す。壁際に沙織を置いて二人は窓へと走り素早く全てのブラインドを閉めた。従業員にやらせて撃たれては敵わない。
そうして京哉は支社長室と同じ方向に窓のある応接室に駆け込んだ。慎重に窓外をチェックして狙撃ポイントを割り出す。背後からやってきた霧島に指差して示した。
「おそらくあの沢井第二ビルの最上階、右から二枚目の窓です」
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