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第43話
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違う角度から二人に沙織を照準されて動くに動けず、霧島は祈る思いで京哉の援護を待った。
男たちが指に掛かったトリガを引き絞る寸前に、男の一人が頽れて右肩を真っ赤に染める。無論、銃声などしない。
倒れて藻掻く仲間に驚いたもう一人が辺りを見回そうとした瞬間、その男も衝撃で倒れて右肩をゼリーの如く崩されていた。
通行人らが悲鳴を上げ、行き交う人々が遠巻きに輪を作り始めている。
人々に囲まれて肝心の沙織はといえば、歩道にしゃがみ込んだまま悲鳴すら上げずに呆然と襲撃者を目に映していた。
祖父のことを思い出したのかと霧島はチラリと考えたがのんびりしているヒマなどない。これで襲撃が終わりという保障は何処にもないのだ。強引に沙織の腕を掴んで立たせると走って人の輪を突っ切った。
スロープを駆け上りドアマンの立つガラスの回転ドアからホテル内に飛び込む。
ウィンザーホテルの中で霧島は歩調を落とした。周囲を警戒しつつ却って人目を惹かぬようシグをホルスタに収める。それでも腕は血だらけで目立たない訳はない。
他の殆どの客たちは息を呑んで霧島と沙織に道を空けた。
辺りを払う勢いでフロントカウンターに辿り着くと、霧島の血みどろの腕を見ても表情を変えない天晴れなフロントマンに麻生重工との『エルシィ』での待ち合わせを告げたが、テナントのティーラウンジでの予約は入っているものの、まだ先方は着いていないと言われる。
仕方ない、ロビーで待つしかなさそうだ。
見通し良く、すぐにティーラウンジ側に駆け込める場所を選んで沙織をソファに座らせた。霧島は立ったまま自分のハンカチで左腕を縛り上げ止血処置する。
出血は多いが痛みがあるので傷は深くないと自己判断した。
それより沙織が顔面蒼白である。
「そんな不景気な顔をして、麻生重工との会合は大丈夫なのか?」
「話を聞いて首を振るだけだもの、大丈夫よ。でも、あれは何?」
「あれとは何のことだ?」
「さっきの、あの、コンビニの時みたいに男の人が血塗れに……」
「きみに銃を向けていた。きみが撃たれるのを京哉が撃って阻止したんだ」
「わたしに銃……?」
周囲警戒しながら霧島はゆっくりと言い含めるように続けた。
「京哉は京哉にしか不可能なやり方できみをガードした。京哉が敵を狙撃して沙織、きみを救ったんだ。あの二人だけではなくビルの窓から狙ってきた狙撃手二人も京哉が二発目以降を食い止めたんだ。お蔭で私もきみも生きてここにこうしている」
その言葉の意味は沙織の脳内になかなか染み込んでこなかった。
「京哉がいなければ今頃私ときみは頭を割られて外に転がっていたんだ」
重ねて言われ、最初に沙織に湧いたのは小さな悔しさだ。
殺したいほど憎い仇に助けられてしまった悔しさである。だがそれは他の感情から目を逸らすための意地だった。しかしその意地のカーテンの捲る勇気が湧かない。
この意地を捨てた自分には何も残らないのではないだろうか。心の何処かでずっと抱えてきた怖さがはっきりと浮上していた。
霧島を見上げて訊く。
「貴方は鳴海さんが怖くないの? あの人は何人も何人も殺してきたのよ?」
「怖くないな。京哉は強要されて仕方なくやっただけだ」
「それだって罪じゃない。どうして貴方は鳴海さんだけ許しているの?」
「京哉はとっくに自分を裁いているからだ」
「自分を裁いてる……?」
オウム返しに言って見つめてくる沙織に噛んで含めるように告げた。
「そうだ。未だにPTSDで苦しむほどにな。いい加減に全て忘れてしまえと私は叫び出したくなる。繰り返し悪夢にうなされ、たびたび高熱を出し、それでも必要とされたらSATの狙撃班員になるような根暗で自虐傾向のある奴だ。そこは私と似ていないんだが」
「あら、都合がいいわね」
二人で笑った時、ホテルマンに案内されて麻生重工の役員二名とガード四名のご一行様が到着した。役員サマは所詮素人なので霧島を目にして絶句する。
次に息せき切って京哉が駆け込んできた。京哉と霧島は目敏く互いを見つけたが京哉もギプスからアームホルダーまで血に染めていた。
ライフルの反動を逃がせず傷が開いたのだ。
「京哉お前、大丈夫か!?」
「忍さん、貴方こそ大丈夫ですか!?」
お互いに血相を変えている間に沙織は麻生重工の役員と共にティーラウンジ『エルシィ』に入って行った。専門のガードも就いているので心配ないだろうと判断し、取り敢えずそこにあったソファに二人は腰を下ろす。
喫煙席なので京哉は煙草を咥えてオイルライターで火を点けた。紫煙を吐いてから霧島に言ってみる。
「忍さん、麻生重工を脅してみたりはできないんでしょうか?」
「何故私が脅さなきゃならん?」
「例えば『沙織の条件を我が社なら呑みます』みたいな……だめですか?」
「だめだな。霧島カンパニーは確かに何でも屋だが兵器産業だけには手を出さない。エネルギー関連でいつか何処かで関わってはいるだろうが、直接的にはだめなんだ」
「そうですか、馬鹿なことを言いました。すみません」
「いや、心情的には私だってそうしたいくらいだしな」
言って霧島は一旦消え、戻ってきた時にはスポーツ飲料のボトルを手にしていた。
「酷い顔色をしているぞ。せめて糖分でも摂れ」
「顔色はお互い様だと思いますけどね」
沙織の戦果を聞くまで京哉が梃子でも動かないと分かっている霧島は外の緊急音を聞きながら、煙草とスポーツ飲料に交互に口をつける年下の恋人を心底心配する。
会合はたった十五分足らずで終わり、ロビーに出てきた麻生重工ご一行様はせわしなくホテルを出て行った。あとからゆっくりと表情を消した沙織が出てくる。
やってきてソファに腰を落とした沙織を二人は立ち上がって背に庇った。
そんな二人の背に沙織は悠長な口調で喋り出す。
「他人のお金で飲む紅茶って案外美味しいわね。香りも絶品のブレンドだったわ」
「ここの最上階にある『祇園庵』の白玉ぜんざいも絶品だって噂ですよ」
周囲を警戒しつつ口を開いた京哉に沙織は意外なことにさばさば応えた。
「ふうん、そうなの。機会があったらご馳走してくれるかしら?」
「忍さんと僕の怪我が治ったら三人で来るのもいいですね」
「そうね。私も家に帰って会社の整理をして、従業員の再雇用先も探して――」
思わず二人は同時に振り返る。僅かに目を赤くした沙織に京哉が静かに訊いた。
「麻生重工に身売りするんですか?」
頷いた沙織は京哉の顔をまともに見つめて肩を竦める。
「何ひとつ条件は呑んで貰えなかったけれど、潮時ってヤツよ。全員雇用は無理でも、いつまでも従業員と家族を宙ぶらりんにしておけないもの。それに希望者の雇用については関連企業に口を利いてみてくれるって。かなり期待できるみたい」
睨むでもなく初めてまともに目が合い、京哉は戸惑いながら重ねて訊いた。
「そうですか。でも沙織はアガサの名が消えてもいいんですか?」
「いいとは思わないわ。でも麻生重工の専務に頷いた時、はっきり言ってものすごーく肩が軽くなったの。もう祖父の遺産にしがみつかなくてもいいんだって」
「なるほど、そうでしたか」
「ついでに色んなものが綺麗さっぱり消えちゃったみたいよ」
「消えたって……沙織?」
二人の視線を受け止めて沙織の表情は本当にすっきりと晴れていた。
「憎しみは会社を背負ったわたしの拠り所だった。必死で抱えてかじりついて。それを失くしたらわたし、自分を失くしそうで怖かった。けれど何にも変わらない……ううん、まだ許せた訳じゃないのかも知れないわね。だから変わらないのかしら。でもね――」
十七歳の女社長は、京哉に向かって極上の微笑みを浮かべる。
「――今は生きて麻生重工との契約ができた、それで充分」
自分なりの戦いをひとつ乗り越えた沙織は潔かった。
「本当にありがとう。霧島忍さん、鳴海京哉さん」
男たちが指に掛かったトリガを引き絞る寸前に、男の一人が頽れて右肩を真っ赤に染める。無論、銃声などしない。
倒れて藻掻く仲間に驚いたもう一人が辺りを見回そうとした瞬間、その男も衝撃で倒れて右肩をゼリーの如く崩されていた。
通行人らが悲鳴を上げ、行き交う人々が遠巻きに輪を作り始めている。
人々に囲まれて肝心の沙織はといえば、歩道にしゃがみ込んだまま悲鳴すら上げずに呆然と襲撃者を目に映していた。
祖父のことを思い出したのかと霧島はチラリと考えたがのんびりしているヒマなどない。これで襲撃が終わりという保障は何処にもないのだ。強引に沙織の腕を掴んで立たせると走って人の輪を突っ切った。
スロープを駆け上りドアマンの立つガラスの回転ドアからホテル内に飛び込む。
ウィンザーホテルの中で霧島は歩調を落とした。周囲を警戒しつつ却って人目を惹かぬようシグをホルスタに収める。それでも腕は血だらけで目立たない訳はない。
他の殆どの客たちは息を呑んで霧島と沙織に道を空けた。
辺りを払う勢いでフロントカウンターに辿り着くと、霧島の血みどろの腕を見ても表情を変えない天晴れなフロントマンに麻生重工との『エルシィ』での待ち合わせを告げたが、テナントのティーラウンジでの予約は入っているものの、まだ先方は着いていないと言われる。
仕方ない、ロビーで待つしかなさそうだ。
見通し良く、すぐにティーラウンジ側に駆け込める場所を選んで沙織をソファに座らせた。霧島は立ったまま自分のハンカチで左腕を縛り上げ止血処置する。
出血は多いが痛みがあるので傷は深くないと自己判断した。
それより沙織が顔面蒼白である。
「そんな不景気な顔をして、麻生重工との会合は大丈夫なのか?」
「話を聞いて首を振るだけだもの、大丈夫よ。でも、あれは何?」
「あれとは何のことだ?」
「さっきの、あの、コンビニの時みたいに男の人が血塗れに……」
「きみに銃を向けていた。きみが撃たれるのを京哉が撃って阻止したんだ」
「わたしに銃……?」
周囲警戒しながら霧島はゆっくりと言い含めるように続けた。
「京哉は京哉にしか不可能なやり方できみをガードした。京哉が敵を狙撃して沙織、きみを救ったんだ。あの二人だけではなくビルの窓から狙ってきた狙撃手二人も京哉が二発目以降を食い止めたんだ。お蔭で私もきみも生きてここにこうしている」
その言葉の意味は沙織の脳内になかなか染み込んでこなかった。
「京哉がいなければ今頃私ときみは頭を割られて外に転がっていたんだ」
重ねて言われ、最初に沙織に湧いたのは小さな悔しさだ。
殺したいほど憎い仇に助けられてしまった悔しさである。だがそれは他の感情から目を逸らすための意地だった。しかしその意地のカーテンの捲る勇気が湧かない。
この意地を捨てた自分には何も残らないのではないだろうか。心の何処かでずっと抱えてきた怖さがはっきりと浮上していた。
霧島を見上げて訊く。
「貴方は鳴海さんが怖くないの? あの人は何人も何人も殺してきたのよ?」
「怖くないな。京哉は強要されて仕方なくやっただけだ」
「それだって罪じゃない。どうして貴方は鳴海さんだけ許しているの?」
「京哉はとっくに自分を裁いているからだ」
「自分を裁いてる……?」
オウム返しに言って見つめてくる沙織に噛んで含めるように告げた。
「そうだ。未だにPTSDで苦しむほどにな。いい加減に全て忘れてしまえと私は叫び出したくなる。繰り返し悪夢にうなされ、たびたび高熱を出し、それでも必要とされたらSATの狙撃班員になるような根暗で自虐傾向のある奴だ。そこは私と似ていないんだが」
「あら、都合がいいわね」
二人で笑った時、ホテルマンに案内されて麻生重工の役員二名とガード四名のご一行様が到着した。役員サマは所詮素人なので霧島を目にして絶句する。
次に息せき切って京哉が駆け込んできた。京哉と霧島は目敏く互いを見つけたが京哉もギプスからアームホルダーまで血に染めていた。
ライフルの反動を逃がせず傷が開いたのだ。
「京哉お前、大丈夫か!?」
「忍さん、貴方こそ大丈夫ですか!?」
お互いに血相を変えている間に沙織は麻生重工の役員と共にティーラウンジ『エルシィ』に入って行った。専門のガードも就いているので心配ないだろうと判断し、取り敢えずそこにあったソファに二人は腰を下ろす。
喫煙席なので京哉は煙草を咥えてオイルライターで火を点けた。紫煙を吐いてから霧島に言ってみる。
「忍さん、麻生重工を脅してみたりはできないんでしょうか?」
「何故私が脅さなきゃならん?」
「例えば『沙織の条件を我が社なら呑みます』みたいな……だめですか?」
「だめだな。霧島カンパニーは確かに何でも屋だが兵器産業だけには手を出さない。エネルギー関連でいつか何処かで関わってはいるだろうが、直接的にはだめなんだ」
「そうですか、馬鹿なことを言いました。すみません」
「いや、心情的には私だってそうしたいくらいだしな」
言って霧島は一旦消え、戻ってきた時にはスポーツ飲料のボトルを手にしていた。
「酷い顔色をしているぞ。せめて糖分でも摂れ」
「顔色はお互い様だと思いますけどね」
沙織の戦果を聞くまで京哉が梃子でも動かないと分かっている霧島は外の緊急音を聞きながら、煙草とスポーツ飲料に交互に口をつける年下の恋人を心底心配する。
会合はたった十五分足らずで終わり、ロビーに出てきた麻生重工ご一行様はせわしなくホテルを出て行った。あとからゆっくりと表情を消した沙織が出てくる。
やってきてソファに腰を落とした沙織を二人は立ち上がって背に庇った。
そんな二人の背に沙織は悠長な口調で喋り出す。
「他人のお金で飲む紅茶って案外美味しいわね。香りも絶品のブレンドだったわ」
「ここの最上階にある『祇園庵』の白玉ぜんざいも絶品だって噂ですよ」
周囲を警戒しつつ口を開いた京哉に沙織は意外なことにさばさば応えた。
「ふうん、そうなの。機会があったらご馳走してくれるかしら?」
「忍さんと僕の怪我が治ったら三人で来るのもいいですね」
「そうね。私も家に帰って会社の整理をして、従業員の再雇用先も探して――」
思わず二人は同時に振り返る。僅かに目を赤くした沙織に京哉が静かに訊いた。
「麻生重工に身売りするんですか?」
頷いた沙織は京哉の顔をまともに見つめて肩を竦める。
「何ひとつ条件は呑んで貰えなかったけれど、潮時ってヤツよ。全員雇用は無理でも、いつまでも従業員と家族を宙ぶらりんにしておけないもの。それに希望者の雇用については関連企業に口を利いてみてくれるって。かなり期待できるみたい」
睨むでもなく初めてまともに目が合い、京哉は戸惑いながら重ねて訊いた。
「そうですか。でも沙織はアガサの名が消えてもいいんですか?」
「いいとは思わないわ。でも麻生重工の専務に頷いた時、はっきり言ってものすごーく肩が軽くなったの。もう祖父の遺産にしがみつかなくてもいいんだって」
「なるほど、そうでしたか」
「ついでに色んなものが綺麗さっぱり消えちゃったみたいよ」
「消えたって……沙織?」
二人の視線を受け止めて沙織の表情は本当にすっきりと晴れていた。
「憎しみは会社を背負ったわたしの拠り所だった。必死で抱えてかじりついて。それを失くしたらわたし、自分を失くしそうで怖かった。けれど何にも変わらない……ううん、まだ許せた訳じゃないのかも知れないわね。だから変わらないのかしら。でもね――」
十七歳の女社長は、京哉に向かって極上の微笑みを浮かべる。
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