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第33話
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案の定ドアの外には十数人の手下が殺気立って待っていた。
ドン・アンセルム=バーナードは手の一振りで道を空けさせる。だが手下はぞろぞろとついてきた。その大所帯で大階段を降りる。玄関の巨大な扉の前にも手下たちが待ち構えていた。
シャンデリアが光を振り撒く玄関ホールで霧島はふと歩みを止める。
「ところで訊きたいんだが、この鳴海京哉のことは屋敷の皆が知ってたのか?」
「美人のお嬢さんは大人気で取り合いだったからねえ、こいつらもがっかりだろう」
「ふ……ん、なるほど」
「ここまで迎えに来るとは余程大事なんだねえ。独り者としては羨ましい限りだ。手下に勧められてわたしも味見してみたけれど、なかなかだったよ」
おどけるアンセルム=バーナードの顔を霧島は真正面から見た。
「そういやガンマニアのあんたに土産を渡すのを忘れていた。もしもの交換条件にと思って持ってきたんだが、今から銃を出す。だが撃つ気はないからな、そちらも撃たせるな」
警告した霧島は京哉を肩に担いでおいてヒップホルスタから銃を抜く。それを目にしてアンセルム=バーナードはマフィアのドンらしからぬ弾んだ大声を出した。
「何とSAA、ピースメーカーじゃないか!」
「気に入ったなら進呈する」
「最初から出してくれれば空港までガード付きでお帰り願ったものを!」
「それだと私の用事が済まなかったからな」
低い呟きにも気付かないアンセルムはどうやら本物のヲタらしい。古色蒼然としたリボルバに手を伸ばしている。そこで霧島はピースメーカーの銃口を天井に向けた。
「機構は知っているだろう。この通り、安全装置もついてないからな」
と、霧島は一回だけ空撃ちし、アンセルムにリボルバを手渡した。渡された名銃を手にしたアンセルムは賭けをしている時と同じく、子供のように目を輝かせていた。
だが子供のようであろうと霧島は絶対に赦す気などない。
「頼むから手下に後ろから撃たせるなよ。ではな」
言い置いて高熱を発している京哉を抱え直すと屋敷をあとにした。
侵入者があった際に発見を容易にするためだろう、屋敷周辺は窓からの明かりだけではなく外からも煌々とライトアップされている。その光の中を霧島は神経を張り詰めたまま歩いた。京哉を横抱きにして両手の塞がった状態だ。この体勢で撃たれたら堪らない。
不審に思われないよう緩く歩を進めて屋敷の広い庭を突っ切る小径を抜ける。
屋敷の敷地を無事に抜け、過剰な光から逃れて森の中の一本道に入ると霧島はキッチリと毛布で包んだ躰を抱え直し、未だ意識のない京哉にそっと声を掛けた。
「ちょっと揺れるが、我慢してくれ」
歩調を上げて走り出す。森の中の一本道はまるでトンネルのようだったが、足元はアスファルトで綺麗に舗装され、間近に外灯もあって見通しは良かった。
「ん……」
「京哉! 私だ、分かるか?」
走った振動で気が付いたらしい。だが話はあとだ。
「舌を噛むから口を閉じていろ。四十五掛ける六で四分半しかない。あと三十秒!」
一度空撃ちすると同時に確認していた腕時計の秒針が残り五秒となるまで全力で走り、息を切らせながら京哉を路上にそっと寝かせて、霧島は京哉を護るように覆い被さる。
同時に後方の屋敷で爆音がした。遅れて熱い空気が一本道を吹き抜けてきて辺りの木々がざわめく。周囲三十メートルを吹き飛ばすリボルバ型爆弾が作動したのだ。屋敷の玄関に集まっていた面子は木っ端微塵の筈だった。勿論ドン・アンセルム=バーナードもだ。
だがこのままでは屋敷に残った手下たちから霧島たちが追われるのは必至である。しかしあの軍人は言った、『終わりにはしない、あとで全てキチンと精算する』と。
いつ『精算』するのだろうと思いながら霧島は身を起こそうとした。
そのときカッと周囲が昼間のように明るくなった。
地を揺らがす轟音が響き、空気が固体のような圧力で襲ってくる。激しいショックウェブ。霧島たちはザザーッと数メートル前方に押しやられた。立っていたならば倒れ伏したであろう激しい揺れが数秒続く。地が波打っているようだ。
その激しい揺れの間に木々の枝葉や屋敷の建材、剥がれた地面の破片や人であったろう血肉の欠片までが降り注いできた。霧島の背にそれらがゴツゴツと当たる。
どうやら霧島が『土産』を作動させるのを、偉そうな軍人の一派は待ち構えていたらしい。高度を取って滞空待機していた航空機からバーナードの屋敷をレーザー照準し、それを頼りに大型爆弾で爆撃したのだろう。霧島は必ずドンを葬るための保険だったのだ。
異物の雨が収まるのを待って霧島は京哉の上から退いた。
すると熱で潤んだ黒い瞳が霧島を見上げていた。
「大丈夫だとは思うが追っ手が来ると厄介だからな。もう少し我慢していてくれ」
そうして再び抱き上げようと触れた途端、京哉の躰はビクリと揺れ動いた。
「……遅くなった、すまん」
声が聞こえたのかどうか分からないまま、瞳は閉じられて細い躰から力が抜ける。
無言で霧島は京哉を抱き上げ、街に向かって歩き出した。
ドン・アンセルム=バーナードは手の一振りで道を空けさせる。だが手下はぞろぞろとついてきた。その大所帯で大階段を降りる。玄関の巨大な扉の前にも手下たちが待ち構えていた。
シャンデリアが光を振り撒く玄関ホールで霧島はふと歩みを止める。
「ところで訊きたいんだが、この鳴海京哉のことは屋敷の皆が知ってたのか?」
「美人のお嬢さんは大人気で取り合いだったからねえ、こいつらもがっかりだろう」
「ふ……ん、なるほど」
「ここまで迎えに来るとは余程大事なんだねえ。独り者としては羨ましい限りだ。手下に勧められてわたしも味見してみたけれど、なかなかだったよ」
おどけるアンセルム=バーナードの顔を霧島は真正面から見た。
「そういやガンマニアのあんたに土産を渡すのを忘れていた。もしもの交換条件にと思って持ってきたんだが、今から銃を出す。だが撃つ気はないからな、そちらも撃たせるな」
警告した霧島は京哉を肩に担いでおいてヒップホルスタから銃を抜く。それを目にしてアンセルム=バーナードはマフィアのドンらしからぬ弾んだ大声を出した。
「何とSAA、ピースメーカーじゃないか!」
「気に入ったなら進呈する」
「最初から出してくれれば空港までガード付きでお帰り願ったものを!」
「それだと私の用事が済まなかったからな」
低い呟きにも気付かないアンセルムはどうやら本物のヲタらしい。古色蒼然としたリボルバに手を伸ばしている。そこで霧島はピースメーカーの銃口を天井に向けた。
「機構は知っているだろう。この通り、安全装置もついてないからな」
と、霧島は一回だけ空撃ちし、アンセルムにリボルバを手渡した。渡された名銃を手にしたアンセルムは賭けをしている時と同じく、子供のように目を輝かせていた。
だが子供のようであろうと霧島は絶対に赦す気などない。
「頼むから手下に後ろから撃たせるなよ。ではな」
言い置いて高熱を発している京哉を抱え直すと屋敷をあとにした。
侵入者があった際に発見を容易にするためだろう、屋敷周辺は窓からの明かりだけではなく外からも煌々とライトアップされている。その光の中を霧島は神経を張り詰めたまま歩いた。京哉を横抱きにして両手の塞がった状態だ。この体勢で撃たれたら堪らない。
不審に思われないよう緩く歩を進めて屋敷の広い庭を突っ切る小径を抜ける。
屋敷の敷地を無事に抜け、過剰な光から逃れて森の中の一本道に入ると霧島はキッチリと毛布で包んだ躰を抱え直し、未だ意識のない京哉にそっと声を掛けた。
「ちょっと揺れるが、我慢してくれ」
歩調を上げて走り出す。森の中の一本道はまるでトンネルのようだったが、足元はアスファルトで綺麗に舗装され、間近に外灯もあって見通しは良かった。
「ん……」
「京哉! 私だ、分かるか?」
走った振動で気が付いたらしい。だが話はあとだ。
「舌を噛むから口を閉じていろ。四十五掛ける六で四分半しかない。あと三十秒!」
一度空撃ちすると同時に確認していた腕時計の秒針が残り五秒となるまで全力で走り、息を切らせながら京哉を路上にそっと寝かせて、霧島は京哉を護るように覆い被さる。
同時に後方の屋敷で爆音がした。遅れて熱い空気が一本道を吹き抜けてきて辺りの木々がざわめく。周囲三十メートルを吹き飛ばすリボルバ型爆弾が作動したのだ。屋敷の玄関に集まっていた面子は木っ端微塵の筈だった。勿論ドン・アンセルム=バーナードもだ。
だがこのままでは屋敷に残った手下たちから霧島たちが追われるのは必至である。しかしあの軍人は言った、『終わりにはしない、あとで全てキチンと精算する』と。
いつ『精算』するのだろうと思いながら霧島は身を起こそうとした。
そのときカッと周囲が昼間のように明るくなった。
地を揺らがす轟音が響き、空気が固体のような圧力で襲ってくる。激しいショックウェブ。霧島たちはザザーッと数メートル前方に押しやられた。立っていたならば倒れ伏したであろう激しい揺れが数秒続く。地が波打っているようだ。
その激しい揺れの間に木々の枝葉や屋敷の建材、剥がれた地面の破片や人であったろう血肉の欠片までが降り注いできた。霧島の背にそれらがゴツゴツと当たる。
どうやら霧島が『土産』を作動させるのを、偉そうな軍人の一派は待ち構えていたらしい。高度を取って滞空待機していた航空機からバーナードの屋敷をレーザー照準し、それを頼りに大型爆弾で爆撃したのだろう。霧島は必ずドンを葬るための保険だったのだ。
異物の雨が収まるのを待って霧島は京哉の上から退いた。
すると熱で潤んだ黒い瞳が霧島を見上げていた。
「大丈夫だとは思うが追っ手が来ると厄介だからな。もう少し我慢していてくれ」
そうして再び抱き上げようと触れた途端、京哉の躰はビクリと揺れ動いた。
「……遅くなった、すまん」
声が聞こえたのかどうか分からないまま、瞳は閉じられて細い躰から力が抜ける。
無言で霧島は京哉を抱き上げ、街に向かって歩き出した。
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