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第32話
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淡々とした口調ながら梃子でも動かない霧島に迫られ、京哉は五人の学生のメアドを手に入れた。しぶしぶ霧島の携帯に転送すると霧島は自ら五人にメールを送る。
「あの五人が食いつくかどうかは微妙ですよ。もう親が押さえに掛かってますから」
「分かっている。だが反応がないな」
「律儀に返事をくれる相手じゃないでしょう」
二人は移動中だった。白いセダンは貝崎署に勾留中、釈放されても暫くは修理屋に入院せねばならないので不便だがタクシーだ。行き先は言わずと知れた白藤大学付属病院で霧島の通院である。昨日は応急処置のみだったので本日は精密検査なのだ。
タクシーの後部座席に並んで座った霧島を京哉は見やったが、普段と変わらぬ顔つきで気負いもせず、灰色の目もごく静かだった。
出てくる際に京哉は約束させられたのだ、病院に行く代わりにあの学生五人と会うことを承知しろと。何故霧島の通院が脅しの材料になるのか京哉には謎だった。謎だが勢いで承知させられてしまい、京哉はタクシーの背後が気になって堪らない。
「京哉、尾行られていないから安心しろ」
「昨日あれだけ派手にやらかして、今日は何もないなんて考えはちょっと甘いんじゃないでしょうか?」
「だが刺客も無尽蔵ではないだろうからな」
「けど相手のバックにはアラキバ抵抗運動旅団がついてて、この日本にサブマシンガンまで持ち込んでるんですよ。それが今度はRPGじゃない保障がありますか?」
「歩兵用対戦車ロケット砲か。このタクシーも木っ端微塵だが、ペシミストだな」
「可能性を言ったまでですよ」
「しかしプロが相手で幸いだ。素人よりも手が読める」
「それで昨日、死にかけた人がいませんでしたっけ?」
しれっとして霧島は窓外に目をやった。
何事もなく病院に辿り着くと職業特権を振り翳し、一階の救命救急センターから検査に回して貰う。特に異常がないという結果が出ると左腕にギプスを巻いた。
更には看護師たちから衣服を引っぺがされて消炎スプレーまみれにされる。
「くそう、何処にも安住の地がないな」
「部屋で寝てるべき人がうろついてるんですから、ないでしょうとも」
全てが終わると看護師たち医療スタッフに礼を述べ、一階に降りてまたタクシーに乗った。霧島が行き先をドライバーに告げる。それを聞いて京哉は柳眉をひそめた。
「幾ら白藤署管内で近いったって、また倉庫街はないと思うんですけど」
「相手が五人であれ代理であれ、まずは気軽にきて貰わんと話にならないからな」
「気軽に一個小隊でもきたらどうするのかなあ?」
「本当にペシミストなのだな。ところで一個小隊とは何名だ?」
「色々ですが基本的に三十名ですかね」
「三十名……ふむ、三十か」
「貴方は記憶を失くしてもオプチミストみたいでいいですね」
「まあ、そう心配するな。来ない可能性が高いんだ、杞憂は損だぞ」
タクシーは車列に乗りスムーズにビルの谷間を駆け抜け、郊外に向かって走ってゆく。目的地は昨日の貝崎市内の倉庫街と同じく、今度は陸路の貨物がストックされているエリアだ。マンション地区と高級住宅街に挟まれた河の下流沿いに当たる。
やがて人通りは殆どなくなったが、整備された道路は大型トラックやトレーラーの行き来が激しくなった。貨物の集荷場を左手に見て通り過ぎ、倉庫街でも奥まった殆ど人の気配がない場所まできてタクシーを停めて貰う。料金精算して降りた。
タクシーが去ると二人は辺りを見渡す。ここも大型車両が入れるよう、広い道路が綺麗に整備されていて遠くまで見通せた。傍に飲料の自販機がポツリと立っている。
「現在時、十時ジャストか」
「何時を指定したんですか?」
「十時半だ。一服するヒマがあるな」
言いつつ霧島は自販機に硬貨を入れて京哉を振り返った。京哉はボタンを押して温かいレモンティーを手に入れる。それを手にして霧島と共にゆっくりと歩いた。
少し歩くと道端で積まれて放置されたシンダーブロックの山があったので、そこに並んで腰掛けた。京哉は霧島と一緒に煙草を咥えてオイルライターで二本分に火を点け、レモンティーを開封して紫煙を吐きながら交互に温かく甘い飲料を口にする。
周囲は大小の倉庫が建ち並んでいるが人の出入りは殆どないのか道路から外れた地面には丈高い草が風に揺れるばかりの、ある種、荒涼とした風景が広がっていた。
レモンティーを霧島に手渡した京哉は受け取ったのがギプスを巻いた左手というのに気付き上目遣いに睨む。何処で外したのか、もうアームホルダーすらしていない。
「そんな目で見るな」
「じゃあキスして下さい」
「どういう飛躍だ、それは?」
「嫌なんですか?」
「ああ、嫌だ。中途半端なことはしたくないからな」
「ふうん、ケチ」
「ケチで結構。京哉、あんたも今夜のためにケチって溜めておけ」
真顔で言われて京哉は霧島の顔を二度見した挙げ句にゲホゲホとむせ返った。
やがて煙草を吸い終えた二人は吸い殻パックにフィルタを捨てた。レモンティーも空にして腰を上げると、懐の銃をそれぞれが抜いて薬室にまで九ミリパラが装填されているのを確認する。
ベルトに付けたパウチは二本のスペアマガジン入りで、それぞれ十五発フルロードだ。これでも残弾三発ずつになった過去を思い出して京哉は変わらず浮かない。
「二人合わせて九十二発は重装備だな」
「数字だけ聞くとそう思いますよね、幸せな証拠ですよ。で、何処ですか?」
「リライ事務株式会社の第一倉庫前を指定したんだが、マップではこれだな」
「そこなら今から歩けば丁度いいんじゃないでしょうか」
「あの五人が食いつくかどうかは微妙ですよ。もう親が押さえに掛かってますから」
「分かっている。だが反応がないな」
「律儀に返事をくれる相手じゃないでしょう」
二人は移動中だった。白いセダンは貝崎署に勾留中、釈放されても暫くは修理屋に入院せねばならないので不便だがタクシーだ。行き先は言わずと知れた白藤大学付属病院で霧島の通院である。昨日は応急処置のみだったので本日は精密検査なのだ。
タクシーの後部座席に並んで座った霧島を京哉は見やったが、普段と変わらぬ顔つきで気負いもせず、灰色の目もごく静かだった。
出てくる際に京哉は約束させられたのだ、病院に行く代わりにあの学生五人と会うことを承知しろと。何故霧島の通院が脅しの材料になるのか京哉には謎だった。謎だが勢いで承知させられてしまい、京哉はタクシーの背後が気になって堪らない。
「京哉、尾行られていないから安心しろ」
「昨日あれだけ派手にやらかして、今日は何もないなんて考えはちょっと甘いんじゃないでしょうか?」
「だが刺客も無尽蔵ではないだろうからな」
「けど相手のバックにはアラキバ抵抗運動旅団がついてて、この日本にサブマシンガンまで持ち込んでるんですよ。それが今度はRPGじゃない保障がありますか?」
「歩兵用対戦車ロケット砲か。このタクシーも木っ端微塵だが、ペシミストだな」
「可能性を言ったまでですよ」
「しかしプロが相手で幸いだ。素人よりも手が読める」
「それで昨日、死にかけた人がいませんでしたっけ?」
しれっとして霧島は窓外に目をやった。
何事もなく病院に辿り着くと職業特権を振り翳し、一階の救命救急センターから検査に回して貰う。特に異常がないという結果が出ると左腕にギプスを巻いた。
更には看護師たちから衣服を引っぺがされて消炎スプレーまみれにされる。
「くそう、何処にも安住の地がないな」
「部屋で寝てるべき人がうろついてるんですから、ないでしょうとも」
全てが終わると看護師たち医療スタッフに礼を述べ、一階に降りてまたタクシーに乗った。霧島が行き先をドライバーに告げる。それを聞いて京哉は柳眉をひそめた。
「幾ら白藤署管内で近いったって、また倉庫街はないと思うんですけど」
「相手が五人であれ代理であれ、まずは気軽にきて貰わんと話にならないからな」
「気軽に一個小隊でもきたらどうするのかなあ?」
「本当にペシミストなのだな。ところで一個小隊とは何名だ?」
「色々ですが基本的に三十名ですかね」
「三十名……ふむ、三十か」
「貴方は記憶を失くしてもオプチミストみたいでいいですね」
「まあ、そう心配するな。来ない可能性が高いんだ、杞憂は損だぞ」
タクシーは車列に乗りスムーズにビルの谷間を駆け抜け、郊外に向かって走ってゆく。目的地は昨日の貝崎市内の倉庫街と同じく、今度は陸路の貨物がストックされているエリアだ。マンション地区と高級住宅街に挟まれた河の下流沿いに当たる。
やがて人通りは殆どなくなったが、整備された道路は大型トラックやトレーラーの行き来が激しくなった。貨物の集荷場を左手に見て通り過ぎ、倉庫街でも奥まった殆ど人の気配がない場所まできてタクシーを停めて貰う。料金精算して降りた。
タクシーが去ると二人は辺りを見渡す。ここも大型車両が入れるよう、広い道路が綺麗に整備されていて遠くまで見通せた。傍に飲料の自販機がポツリと立っている。
「現在時、十時ジャストか」
「何時を指定したんですか?」
「十時半だ。一服するヒマがあるな」
言いつつ霧島は自販機に硬貨を入れて京哉を振り返った。京哉はボタンを押して温かいレモンティーを手に入れる。それを手にして霧島と共にゆっくりと歩いた。
少し歩くと道端で積まれて放置されたシンダーブロックの山があったので、そこに並んで腰掛けた。京哉は霧島と一緒に煙草を咥えてオイルライターで二本分に火を点け、レモンティーを開封して紫煙を吐きながら交互に温かく甘い飲料を口にする。
周囲は大小の倉庫が建ち並んでいるが人の出入りは殆どないのか道路から外れた地面には丈高い草が風に揺れるばかりの、ある種、荒涼とした風景が広がっていた。
レモンティーを霧島に手渡した京哉は受け取ったのがギプスを巻いた左手というのに気付き上目遣いに睨む。何処で外したのか、もうアームホルダーすらしていない。
「そんな目で見るな」
「じゃあキスして下さい」
「どういう飛躍だ、それは?」
「嫌なんですか?」
「ああ、嫌だ。中途半端なことはしたくないからな」
「ふうん、ケチ」
「ケチで結構。京哉、あんたも今夜のためにケチって溜めておけ」
真顔で言われて京哉は霧島の顔を二度見した挙げ句にゲホゲホとむせ返った。
やがて煙草を吸い終えた二人は吸い殻パックにフィルタを捨てた。レモンティーも空にして腰を上げると、懐の銃をそれぞれが抜いて薬室にまで九ミリパラが装填されているのを確認する。
ベルトに付けたパウチは二本のスペアマガジン入りで、それぞれ十五発フルロードだ。これでも残弾三発ずつになった過去を思い出して京哉は変わらず浮かない。
「二人合わせて九十二発は重装備だな」
「数字だけ聞くとそう思いますよね、幸せな証拠ですよ。で、何処ですか?」
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