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第33話
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携帯のマップを見て確認した二人はゆっくり歩き出し、倉庫の間の道に足を踏み入れた。五人を呼び出した待ち合わせ場所は倉庫街でも大型倉庫が並んだ一角だった。
ほどなく二人は指定した場所に到着したが、広い道路上に見渡す限り人の姿はない。
「やはり計画に無理があったか。来ないようだな」
「帰りのタクシーを拾うのが大変かも」
「いや……京哉、拙い、上だ!」
遠く聞こえていた騒音がふいに大きくなり耳に飛び込んできて、辺りに強風が巻き起こる。見上げれば高空からほぼ垂直に降下してきた小型ヘリコプターが二人に影を落としていた。
そのスライドドアが開いて脚部のスキッドに片足を掛けた男が二人、サブマシンガンをこちらに向けて構えている。その銃口が火炎を吐く前に二人は駆け出していた。
霧島と京哉は倉庫と倉庫の間に走り込む。ダダダダッとあとを追って足元のコンクリートブロックが破片を飛び散らせた。草の生えた小径に入ったが安心してなどいられない。
大型倉庫の間はやや広く、上空からなら容易に狙える。倉庫の間を抜けてもっと細い道へと待避すべきだった。だが前方の大通りからも連射音が響いてくる。
見るとワンボックスカーから黒い戦闘服の男たちが六名も吐き出されていた。
「挟まれた、京哉、頭を下げていろ!」
「だめです、撃つしかない!」
とっくに二人も銃を手にしている。京哉と霧島は抱き合うようにして互いを背後の敵からバディを護っていた。前方から撃ってくる敵に向けて京哉はダブルタップを放つ。
霧島はシグを仰角発射、精確な狙いをつけさせないようヘリの敵に連射した。サブマシンガンから発射される銃弾の雨の中、やっと戦闘服の男が一人、血飛沫と共に落下してくる。
しかしまだサブマシンガンは唸っていた。霧島は地上部隊を京哉に任せ、ヘリから身を乗り出した敵を狙い撃つ。京哉は霧島の脇から地上部隊へと九ミリパラを見舞っていた。
「あああ、これで三人……あと三人もいる、この体勢じゃ狙いが定まんない!」
「上もたぶん残り三人だ、くそう、ヘリごと叩き落としてやる!」
「何でもいいからどうにかして……うっ!」
「京哉、どうした!」
「衝撃波、食らっただけ、当たってない! ったく、貴方が気分で出てくるから!」
「気分は大事だろう? とにかく撃て、一発たりとも食らわん気分で殺《や》れ!」
「普段の超計算能力を使うのは無理でも、タダの気分なんて信じらんない!」
「文句を言わずに撃て、弾をバラ撒け!」
体勢の悪い京哉が保たない。手首の不調に構わず霧島は約十メートル上方に浮かぶヘリのパイロット席を狙ってぶちかます。操縦席の足元のアクリル板部分に穴を穿った。
霧島の腕で左右に三射ずつの一点集中射撃、分厚いアクリル板にヒビが入って中央に弾痕が開く。お蔭でパイロットとコ・パイロットが傷を負ったか、防弾ではないヘリが傾いだ。
同時に足を滑らせて九ミリパラを食らったサブマシンガン二人も降ってくる。
だがそれより大物が降り落ちてきそうなのを目に映して霧島が喚いた。
「京哉、拙い、ヘリがこちらに墜ちる!」
「えええ、何それ、こっちもそれどころじゃ――」
二人が潜んだ小径、その両側の倉庫に身を叩きつけるようにしてヘリが墜落してきた。倉庫の屋根にぶつかりスキッドが折れ、大音響で破片がぶちまけられる。
回転するローターがグシャグシャに折れて更に金属片を撒き散らした。咄嗟に霧島と京哉は巻き込まれるのを避けて、前方の敵地上挟撃部隊への突入を余儀なくされる。
「わあっ、知らない、もう知らないっ! どいてどいてどいて!」
霧島ともつれ合いながら京哉は叫びつつ、的の大きい腹を狙って戦闘服二人に九ミリパラを叩き込んだ。コンマ数秒と掛けずにマガジンチェンジした霧島も速射で掃射する。そのままなだれるように二人は敵地上部隊側の大通りへと走り出た。
ほぼ同時にヘリは胴体を真っ二つにして完全に墜落する。耳がおかしくなりそうな金属破壊音を立てて、小径の中程にまで大ぶりの金属破片が飛び散った。
ついさっきまで二人がいた地面が派手に切り裂かれる。ローターの刺さった地面が塗りやすさを謳うマーガリンのように見えた。
「うわ、危なかったな」
「危なかったどころじゃない、ふざけないで下さい、無傷なのは奇跡ですよっ!」
「そう怒るな。それよりあんたは大丈夫か?」
「お蔭様で、たぶん。じゃあ口の利ける人を探しましょうか」
ワンボックス周辺に倒れた男六名を見て回る。だが頭を蹴り飛ばしても意識を回復する者はいなかった。墜落ヘリから逃れようと余裕も容赦もなく二人して排除してしまったのだから仕方ない。元きた小径を戻ってヘリ側で探す。
こちらは最初に落下してきた一人に僅かに意識があった。京哉がそいつの胸ぐらを掴んで揺さぶる。
「誰に依頼されたんですか?」
「……」
腹に一弾食らっている男は朦朧としていたが、ここでもまた無表情になった京哉に頬を張り飛ばされ、更に今度はうっすら微笑みながら大腿部にまだ熱いシグの銃口を押しつけて撃ち抜かれ、これこそ紙一重の向こう側と思ったらしい。
だが男は喋るより怯えて歯の根も合わない。見かねて霧島が次々と撃ち抜き続ける京哉を止めた。止められて一瞬だけ霧島に対しても、殺気とも見紛う怒りを黒い瞳に閃かせた京哉の髪をくしゃりと掴む。
そして今は痛みに泣き叫び意味のある言葉も出せない男の胸ぐらを京哉に代わり掴み上げた。男はようやく口を開く。
「は、柏仁会に、依頼で……」
「誰が依頼したのかを訊きたいのだがな。その気になった相棒は私にも止められん」
「議員の、西条剛志と、吉岡……哲治に、今井、美容の今井信吾が……」
それだけ分かれば上等だ。霧島に突き放され男は地面に後頭部をぶつけ気絶する。
「輝明の父親で国会議員の西条剛志、真理子の父親で県会議員の吉岡哲治、英俊の父親で今井美容外科病院院長の今井信吾か。間違いないな」
「ええ。で、どうするんです?」
「この証言のみであの大学生五人の悪行は証明できない。直接会って揺さぶりを掛ける。本人たちの口から自白を引き出す」
「連続強殺の帳場にタレ込む手もありますよ」
「そちらの方が揉め事はないんだろうが、私は私が失くしたものを取り返しに行く」
「そっか。じゃあ行きますか?」
「ああ、付き合ってくれ」
本当ならば白藤署と県警捜一に通報して背後の惨状を処理せねばならない。だが今は霧島が追いたいものを追い詰めるまで京哉も付き合うつもりだった。それで記憶が戻る訳ではないだろうが、止めようとしても今は無駄だということくらい京哉には分かる。
一ノ瀬本部長に連絡を入れながら倉庫街を歩いて出るのに暫く掛かった。ヘリの墜落を見た誰かが通報したのだろう、集荷場の裏辺りまで歩いた頃、遠く緊急音が聞こえだす。それを耳にしつつ、霧島は五人の大学生に改めてメールを入れていた。
「忍さん、バディなんだから正直に言って下さい。何処か痛みますか?」
「右手首と背中が少しな」
「無理して動いた上に連射しちゃいましたからね」
「だが行動に支障はない。大丈夫だ、問題ない」
記憶があった時と変わらない、いつもの信用できない語録で安請け合いし、微笑んだ霧島は京哉の懐疑的な目を覗き込んだ。灰色の目は窺うような色を浮かべている。
ほどなく二人は指定した場所に到着したが、広い道路上に見渡す限り人の姿はない。
「やはり計画に無理があったか。来ないようだな」
「帰りのタクシーを拾うのが大変かも」
「いや……京哉、拙い、上だ!」
遠く聞こえていた騒音がふいに大きくなり耳に飛び込んできて、辺りに強風が巻き起こる。見上げれば高空からほぼ垂直に降下してきた小型ヘリコプターが二人に影を落としていた。
そのスライドドアが開いて脚部のスキッドに片足を掛けた男が二人、サブマシンガンをこちらに向けて構えている。その銃口が火炎を吐く前に二人は駆け出していた。
霧島と京哉は倉庫と倉庫の間に走り込む。ダダダダッとあとを追って足元のコンクリートブロックが破片を飛び散らせた。草の生えた小径に入ったが安心してなどいられない。
大型倉庫の間はやや広く、上空からなら容易に狙える。倉庫の間を抜けてもっと細い道へと待避すべきだった。だが前方の大通りからも連射音が響いてくる。
見るとワンボックスカーから黒い戦闘服の男たちが六名も吐き出されていた。
「挟まれた、京哉、頭を下げていろ!」
「だめです、撃つしかない!」
とっくに二人も銃を手にしている。京哉と霧島は抱き合うようにして互いを背後の敵からバディを護っていた。前方から撃ってくる敵に向けて京哉はダブルタップを放つ。
霧島はシグを仰角発射、精確な狙いをつけさせないようヘリの敵に連射した。サブマシンガンから発射される銃弾の雨の中、やっと戦闘服の男が一人、血飛沫と共に落下してくる。
しかしまだサブマシンガンは唸っていた。霧島は地上部隊を京哉に任せ、ヘリから身を乗り出した敵を狙い撃つ。京哉は霧島の脇から地上部隊へと九ミリパラを見舞っていた。
「あああ、これで三人……あと三人もいる、この体勢じゃ狙いが定まんない!」
「上もたぶん残り三人だ、くそう、ヘリごと叩き落としてやる!」
「何でもいいからどうにかして……うっ!」
「京哉、どうした!」
「衝撃波、食らっただけ、当たってない! ったく、貴方が気分で出てくるから!」
「気分は大事だろう? とにかく撃て、一発たりとも食らわん気分で殺《や》れ!」
「普段の超計算能力を使うのは無理でも、タダの気分なんて信じらんない!」
「文句を言わずに撃て、弾をバラ撒け!」
体勢の悪い京哉が保たない。手首の不調に構わず霧島は約十メートル上方に浮かぶヘリのパイロット席を狙ってぶちかます。操縦席の足元のアクリル板部分に穴を穿った。
霧島の腕で左右に三射ずつの一点集中射撃、分厚いアクリル板にヒビが入って中央に弾痕が開く。お蔭でパイロットとコ・パイロットが傷を負ったか、防弾ではないヘリが傾いだ。
同時に足を滑らせて九ミリパラを食らったサブマシンガン二人も降ってくる。
だがそれより大物が降り落ちてきそうなのを目に映して霧島が喚いた。
「京哉、拙い、ヘリがこちらに墜ちる!」
「えええ、何それ、こっちもそれどころじゃ――」
二人が潜んだ小径、その両側の倉庫に身を叩きつけるようにしてヘリが墜落してきた。倉庫の屋根にぶつかりスキッドが折れ、大音響で破片がぶちまけられる。
回転するローターがグシャグシャに折れて更に金属片を撒き散らした。咄嗟に霧島と京哉は巻き込まれるのを避けて、前方の敵地上挟撃部隊への突入を余儀なくされる。
「わあっ、知らない、もう知らないっ! どいてどいてどいて!」
霧島ともつれ合いながら京哉は叫びつつ、的の大きい腹を狙って戦闘服二人に九ミリパラを叩き込んだ。コンマ数秒と掛けずにマガジンチェンジした霧島も速射で掃射する。そのままなだれるように二人は敵地上部隊側の大通りへと走り出た。
ほぼ同時にヘリは胴体を真っ二つにして完全に墜落する。耳がおかしくなりそうな金属破壊音を立てて、小径の中程にまで大ぶりの金属破片が飛び散った。
ついさっきまで二人がいた地面が派手に切り裂かれる。ローターの刺さった地面が塗りやすさを謳うマーガリンのように見えた。
「うわ、危なかったな」
「危なかったどころじゃない、ふざけないで下さい、無傷なのは奇跡ですよっ!」
「そう怒るな。それよりあんたは大丈夫か?」
「お蔭様で、たぶん。じゃあ口の利ける人を探しましょうか」
ワンボックス周辺に倒れた男六名を見て回る。だが頭を蹴り飛ばしても意識を回復する者はいなかった。墜落ヘリから逃れようと余裕も容赦もなく二人して排除してしまったのだから仕方ない。元きた小径を戻ってヘリ側で探す。
こちらは最初に落下してきた一人に僅かに意識があった。京哉がそいつの胸ぐらを掴んで揺さぶる。
「誰に依頼されたんですか?」
「……」
腹に一弾食らっている男は朦朧としていたが、ここでもまた無表情になった京哉に頬を張り飛ばされ、更に今度はうっすら微笑みながら大腿部にまだ熱いシグの銃口を押しつけて撃ち抜かれ、これこそ紙一重の向こう側と思ったらしい。
だが男は喋るより怯えて歯の根も合わない。見かねて霧島が次々と撃ち抜き続ける京哉を止めた。止められて一瞬だけ霧島に対しても、殺気とも見紛う怒りを黒い瞳に閃かせた京哉の髪をくしゃりと掴む。
そして今は痛みに泣き叫び意味のある言葉も出せない男の胸ぐらを京哉に代わり掴み上げた。男はようやく口を開く。
「は、柏仁会に、依頼で……」
「誰が依頼したのかを訊きたいのだがな。その気になった相棒は私にも止められん」
「議員の、西条剛志と、吉岡……哲治に、今井、美容の今井信吾が……」
それだけ分かれば上等だ。霧島に突き放され男は地面に後頭部をぶつけ気絶する。
「輝明の父親で国会議員の西条剛志、真理子の父親で県会議員の吉岡哲治、英俊の父親で今井美容外科病院院長の今井信吾か。間違いないな」
「ええ。で、どうするんです?」
「この証言のみであの大学生五人の悪行は証明できない。直接会って揺さぶりを掛ける。本人たちの口から自白を引き出す」
「連続強殺の帳場にタレ込む手もありますよ」
「そちらの方が揉め事はないんだろうが、私は私が失くしたものを取り返しに行く」
「そっか。じゃあ行きますか?」
「ああ、付き合ってくれ」
本当ならば白藤署と県警捜一に通報して背後の惨状を処理せねばならない。だが今は霧島が追いたいものを追い詰めるまで京哉も付き合うつもりだった。それで記憶が戻る訳ではないだろうが、止めようとしても今は無駄だということくらい京哉には分かる。
一ノ瀬本部長に連絡を入れながら倉庫街を歩いて出るのに暫く掛かった。ヘリの墜落を見た誰かが通報したのだろう、集荷場の裏辺りまで歩いた頃、遠く緊急音が聞こえだす。それを耳にしつつ、霧島は五人の大学生に改めてメールを入れていた。
「忍さん、バディなんだから正直に言って下さい。何処か痛みますか?」
「右手首と背中が少しな」
「無理して動いた上に連射しちゃいましたからね」
「だが行動に支障はない。大丈夫だ、問題ない」
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