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第15話
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「ごめんなさい、許して下さい!」
「まずはその得物を寄越せ」
繰り返し謝る男から取り上げた銃は、真正のトカレフに加工してサウンドサプレッサーを付けた代物だった。日本においてそんなご立派な得物を持つ以上、何らかの組織の存在を考えるべきだった。
「もう分かったから、謝らずともよい。そなたはカネが欲しかっただけ、カネを欲しがるのは当たり前のことだ。悪いことではない。だから事情を話してくれるな?」
どうやらリンドル王国人らしき男には、神にも等しい王族であるオルファスの言葉は効果絶大だった。その神の殺害未遂すら忘れたように男は滑らかに喋り出す。
「初めはリンドル王国で男に声を掛けられたんです。仕事で失敗してクビになり、困っていたわたしに『日本でアルバイトをしないか』と。その男はたぶん日本人だと思います」
その日本人に誘われるまま来日するなりヤクザのカジノにつれて行かれ、そこでカモにされ巨大な借金をこさえてしまったのだ。そして脅されるのは定石だ。借金を返済できないなら命を貰う、それが嫌なら俺たちの指示通りに人間を一人撃ち殺せと。
だが撃ち殺せと命令された『人間』がまさかの皇太子だとは思っても見ず、手が震えて撃ったはいいが、結局はハリセンボンを怒りに膨らませただけだったという訳だ。
同情の余地もない話だったが大真面目にオルファスは男に告げる。
「怖い思いをしたのだな。そなたの所業は俺が全て許す」
しかし黒塗りから出て行こうとした男のブルゾンを京哉が掴んだ。
「ちょっと待って下さい」
このまま逃がしては今後も正体不明の相手に狙われ続けるだけである。せめて男を嵌めたヤクザが何処の組かくらい教えて貰わなければ話にならない。けれど英語力のない京哉は霧島に丸投げした。
「あんたを陥れた組織について訊きたい。知っていることを全て話せ」
霧島の低く響く声に再び怯えた男は喋り始める。
「た、確かハクジンカイと聞きました」
「柏仁会だと?」
霧島と京哉は顔を見合わせた。二人はこれまで何度も柏仁会のシノギを潰し、少し前の特別任務ではとうとう会長の槙原省吾まで組織犯罪対策本部・通称組対に引っ張らせるに至った。
だが危険ドラッグと武器弾薬の密売で捕らえたのはいいが、チンピラが何人も『自分が主犯』だと立候補した挙げ句、槙原はすぐに釈放されている。
そんな槙原率いる柏仁会がまたも新たなシノギに手を出したらしいと知り、二人は溜息をついた。厄介な相手が敵に回り、それも他国の皇太子を狙っているのだ。
「ここは本気で保養所に篭るしかないかも知れん」
「じゃあさっさと帰りましょう。でもこの男はどうしますか?」
「本部長に預けて組対の国際捜査課に進呈だ」
だがそこでオルファスが口を挟む。
「俺はこの男に『所業を全て許す』と告げた。リンドル王国の皇太子として言葉を違える訳にはいかん。逃がしてやれ」
「そうは言うが発砲までしているんだぞ。ここは日本、日本の法で……待てっ!」
オルファスが頷いてやった途端、男は勝手にドアを開けて脱兎の如く駐車場を走り逃げて行ってしまった。当然ながら霧島は不機嫌になる。京哉も口がへの字だ。
「陥れられたカジノの所在も聞いてない上に、狙撃の実行犯を見つける手掛かりも得てないのに逃がしちゃうなんて」
「それだけではない、正規ルートでなく闇で入国した疑いもある」
言ってムッとしたまま霧島は車を出す。だがオルファスは涼しい顔をしていた。しかし駐車場を出て公道を走り始めてから唐突に声を上げる。
「しまった、クラゲの食事を見逃がした! 仕方がないから代わりに柏仁会を見に行こう」
「ちょ、オルファス、冗談なら面白くないですよ?」
「ジョークではないから笑わなくともよい。俺は日本のヤクザを見てみたい」
取り合わなかったが「ヤクザ、ヤクザ」と騒ぐ国賓に、前席に座った二人は眉間のシワを深くした。三時間半ほどで白藤市内に入ると、また厄介なことをオルファスが抜かす。
「ヤクザが見られんのなら、そなたたちの住処を見せてくれ。それで手を打とう」
「どうしてそうなるのか、さっぱり分からんのだがな」
「色んな日本を見たいだけだ。普通の住居とはどんなものか知りたい。日本の国民がどのような暮らしをし、何を考えているのか知って我がリンドルも参考にしたい」
それらしくオルファスは述べたが、結局は他人の家を覗きたいだけじゃないのかと霧島は思う。一方で京哉は住処を見せるのにやぶさかではなかったが、時間的に泊めることになったらどうしようかと思案していた。寝室はひとつでベッドもダブルが一台である。
だがヤクザか住処かと騒ぐ皇太子に閉口して霧島は、黒塗りを貝崎市と反対側で白藤市と隣接する真城市に向けた。バイパスに乗り、街道を走って白藤市のベッドタウンの真城市内の住宅街に入る。いつもは白いセダンを駐める月極駐車場に黒塗りを押し込んだ。
「まずはその得物を寄越せ」
繰り返し謝る男から取り上げた銃は、真正のトカレフに加工してサウンドサプレッサーを付けた代物だった。日本においてそんなご立派な得物を持つ以上、何らかの組織の存在を考えるべきだった。
「もう分かったから、謝らずともよい。そなたはカネが欲しかっただけ、カネを欲しがるのは当たり前のことだ。悪いことではない。だから事情を話してくれるな?」
どうやらリンドル王国人らしき男には、神にも等しい王族であるオルファスの言葉は効果絶大だった。その神の殺害未遂すら忘れたように男は滑らかに喋り出す。
「初めはリンドル王国で男に声を掛けられたんです。仕事で失敗してクビになり、困っていたわたしに『日本でアルバイトをしないか』と。その男はたぶん日本人だと思います」
その日本人に誘われるまま来日するなりヤクザのカジノにつれて行かれ、そこでカモにされ巨大な借金をこさえてしまったのだ。そして脅されるのは定石だ。借金を返済できないなら命を貰う、それが嫌なら俺たちの指示通りに人間を一人撃ち殺せと。
だが撃ち殺せと命令された『人間』がまさかの皇太子だとは思っても見ず、手が震えて撃ったはいいが、結局はハリセンボンを怒りに膨らませただけだったという訳だ。
同情の余地もない話だったが大真面目にオルファスは男に告げる。
「怖い思いをしたのだな。そなたの所業は俺が全て許す」
しかし黒塗りから出て行こうとした男のブルゾンを京哉が掴んだ。
「ちょっと待って下さい」
このまま逃がしては今後も正体不明の相手に狙われ続けるだけである。せめて男を嵌めたヤクザが何処の組かくらい教えて貰わなければ話にならない。けれど英語力のない京哉は霧島に丸投げした。
「あんたを陥れた組織について訊きたい。知っていることを全て話せ」
霧島の低く響く声に再び怯えた男は喋り始める。
「た、確かハクジンカイと聞きました」
「柏仁会だと?」
霧島と京哉は顔を見合わせた。二人はこれまで何度も柏仁会のシノギを潰し、少し前の特別任務ではとうとう会長の槙原省吾まで組織犯罪対策本部・通称組対に引っ張らせるに至った。
だが危険ドラッグと武器弾薬の密売で捕らえたのはいいが、チンピラが何人も『自分が主犯』だと立候補した挙げ句、槙原はすぐに釈放されている。
そんな槙原率いる柏仁会がまたも新たなシノギに手を出したらしいと知り、二人は溜息をついた。厄介な相手が敵に回り、それも他国の皇太子を狙っているのだ。
「ここは本気で保養所に篭るしかないかも知れん」
「じゃあさっさと帰りましょう。でもこの男はどうしますか?」
「本部長に預けて組対の国際捜査課に進呈だ」
だがそこでオルファスが口を挟む。
「俺はこの男に『所業を全て許す』と告げた。リンドル王国の皇太子として言葉を違える訳にはいかん。逃がしてやれ」
「そうは言うが発砲までしているんだぞ。ここは日本、日本の法で……待てっ!」
オルファスが頷いてやった途端、男は勝手にドアを開けて脱兎の如く駐車場を走り逃げて行ってしまった。当然ながら霧島は不機嫌になる。京哉も口がへの字だ。
「陥れられたカジノの所在も聞いてない上に、狙撃の実行犯を見つける手掛かりも得てないのに逃がしちゃうなんて」
「それだけではない、正規ルートでなく闇で入国した疑いもある」
言ってムッとしたまま霧島は車を出す。だがオルファスは涼しい顔をしていた。しかし駐車場を出て公道を走り始めてから唐突に声を上げる。
「しまった、クラゲの食事を見逃がした! 仕方がないから代わりに柏仁会を見に行こう」
「ちょ、オルファス、冗談なら面白くないですよ?」
「ジョークではないから笑わなくともよい。俺は日本のヤクザを見てみたい」
取り合わなかったが「ヤクザ、ヤクザ」と騒ぐ国賓に、前席に座った二人は眉間のシワを深くした。三時間半ほどで白藤市内に入ると、また厄介なことをオルファスが抜かす。
「ヤクザが見られんのなら、そなたたちの住処を見せてくれ。それで手を打とう」
「どうしてそうなるのか、さっぱり分からんのだがな」
「色んな日本を見たいだけだ。普通の住居とはどんなものか知りたい。日本の国民がどのような暮らしをし、何を考えているのか知って我がリンドルも参考にしたい」
それらしくオルファスは述べたが、結局は他人の家を覗きたいだけじゃないのかと霧島は思う。一方で京哉は住処を見せるのにやぶさかではなかったが、時間的に泊めることになったらどうしようかと思案していた。寝室はひとつでベッドもダブルが一台である。
だがヤクザか住処かと騒ぐ皇太子に閉口して霧島は、黒塗りを貝崎市と反対側で白藤市と隣接する真城市に向けた。バイパスに乗り、街道を走って白藤市のベッドタウンの真城市内の住宅街に入る。いつもは白いセダンを駐める月極駐車場に黒塗りを押し込んだ。
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