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第14話
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「では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
静かに車を出し海岸通りからすぐ高速に乗った。走らせていれば狙撃もされまい。
途中で一度サービスエリアに寄って用を足しガソリンを入れた以外、ずっと霧島は黒塗りを走らせ続け、事故渋滞もなかった都内をクリアし約三時間で高速を降りる。そうして本家近くで良く知る、混む幹線道路を避けて三十分で水族館の駐車場に滑り込んでいた。
「だがこれは誤算だったな」
「祝日ですもんね、ちょっと失敗したかも」
オルファスも目を瞠っている。何故なら駐車場からして順番待ちだったからだ。待ちきれない人々がドライバーのお父さんだけを置き去りにし、歩いて水族館に向かっている。
何処から湧いたのかと思うほどの人また人だった。そうしてようやく駐車場に黒塗りを駐めると、向かった水族館ではチケットを買うのに十五分待ちである。
普段からレジャー施設などには殆ど来たことのない霧島と京哉は既にうんざりしていたが、オルファスには行列すら珍しいようで飽きもせず目を輝かせていた。
やっとチケットを手に入れ、制服のお姉さんに半券をちぎって貰うと水族館に進軍だ。
最初は淡水魚のコーナーで、アユやニジマスを見て塩焼きだ何だと騒ぎ、滑り台を流れてくるコツメカワウソを見ては笑う京哉を霧島は眺めて愉しむ。殆どSPとして機能していなかったが、この人混みで狙われたら防ぎようがないと割り切っていた。
ゆっくりと淡水魚コーナーを堪能すると、いよいよメインの海水魚である。
ここでは子供が喜ぶ王道のラッコなどより大水槽で洗濯機のように回転するイワシの群れや、小さな水槽のハリセンボンに、水流に身をそよがせるチンアナゴなどがオルファスの興味を引いたようで一時間ほども時間を割いた。
「これは面白いものだな。背後に人が大勢いるのも忘れられる」
「それは結構だが、クラゲばかり見ていると酔いそうな気がしてくるのだがな」
「ふむ、言われてみると俺もふわふわしてきた。移動しようぞ」
次に鮫の餌付けを見学し、タイドプールのコーナーでヤドカリやヒトデに触れて遊び、屋上でペンギン大行進やイルカとシャチのショーまで眺めると休憩する。
だが水族館のレストランやフードコートは人だらけで、少し離れた場所にあるマーケットプレイスに移動することにした。半券に再入場可能な判子を押して貰うのも忘れない。
男四人は夕暮れの海沿いの遊歩道を歩いてマーケットプレイスに辿り着く。
「レストランか喫茶店、フードコートの何処にするんだ?」
「俺はフードコートがいい。熱いラーメンを所望する。あれは旨い食い物だ」
「いいですね、あったかいの。僕はおうどんにしようかな」
こちらも結構な賑わいだったが四人座れるボックス席は難なく確保できた。オルファスとエイダはラーメンを霧島と京哉は天ぷらうどんを手に入れて食す。食べてしまうと京哉のために喫煙ルームに直行し中毒者が満足すると土産物コーナーを巡った。
オルファスは様々な貝殻のオブジェやぬいぐるみなどを真剣に眺めてゆく。
「オルファス、何か欲しいものがあったら来日記念に買ってあげますよ」
「では鳴海、あの二万九千八百円の特大シャチのぬいぐるみ……というのは冗談だ。ここにこれだけ沢山あるのだという、思い出だけで俺は充分幸せに思えるから、何も要らん」
「それってすごく損な性分ですね」
「不自由をしたことがないと、物欲も感じないんじゃないのか?」
「霧島の言う通りかも知れん。だが鳴海、損だとは思わんぞ。良き思い出を振り返るたびにそれだけで俺は幸せになれるのだ。羨ましくはないか?」
「そう、ですね。言われてみたら誰より豊かな人なのかも知れません」
「であろう? だが、ただ思い出に耽っているだけでは済まされんのが俺だ。知らないことを知ろうとする欲と、不自由する者の心を想像する力だけは決して失くすなと父王から常々言われてきた」
なるほど、リンドル王国は良い王に恵まれているらしい。だがその挙げ句がたった二人でSPだと思うと、霧島と京哉は顔を見合わせて溜息をつくしかなかった。
結局何も買わずにマーケットプレイスを出る。するともう外は日が暮れて夜が訪れていた。それでも水族館は十九時半までやっているので、あと三十分は見て回れる。
「十九時にクラゲの餌付けをやるそうだ。これは見逃せまい」
「クラゲの飯が何なのか、私も寡聞にして聞いたことがないな」
「ブラインシュリンプとかいうエビの赤ちゃんみたいな生物らしいですよ」
初耳の生き物に霧島も興味を持ち、足早に水族館に戻った。水族館は随分と人が少なくなっていて、却って個人を判別しやすく狙いやすい状況に霧島は神経を張り詰める。それを察知して京哉も気を引き締めた。二人は目で頷き合う。
クラゲの水槽に辿り着く前だった。四人が通り過ぎたハリセンボンの小さな水槽が爆発的に壊れ、思いがけないほど大量の海水が溢れて女性客が悲鳴を上げる。
咄嗟に次弾を予測して二人は懐の銃のグリップを握り、我が身でオルファスを庇った。こういった状況に慣れているのか、エイダまでがオルファスの背後に立ちはだかり楯となる構えを見せる。
目を走らせると人々に紛れようとするブルゾンの背があった。霧島は駆け出す。ブルゾン男の確保は簡単だった。彫りの深い顔立ちは日本人でないことが分かる。
「死にたくなければ動くな」
低い声に怯えた男は腕を掴まれても抵抗しなかった。ただ英語で謝り始める。
「ごめんなさい、お金が必要だったんです。ごめんなさい!」
「誰に頼まれてオルファスを殺そうとした?」
怯え切った男が自発的に思い立ちオルファスを暗殺しようとしたのではない、それくらい分かっていて霧島は英語で訊いたが男は謝るばかりで話にならない。
仕方なく四人は男をつれて水族館を出ると、駐車場の黒塗りに男を引っ張り込んで尋問だ。
「ああ、行ってくる」
静かに車を出し海岸通りからすぐ高速に乗った。走らせていれば狙撃もされまい。
途中で一度サービスエリアに寄って用を足しガソリンを入れた以外、ずっと霧島は黒塗りを走らせ続け、事故渋滞もなかった都内をクリアし約三時間で高速を降りる。そうして本家近くで良く知る、混む幹線道路を避けて三十分で水族館の駐車場に滑り込んでいた。
「だがこれは誤算だったな」
「祝日ですもんね、ちょっと失敗したかも」
オルファスも目を瞠っている。何故なら駐車場からして順番待ちだったからだ。待ちきれない人々がドライバーのお父さんだけを置き去りにし、歩いて水族館に向かっている。
何処から湧いたのかと思うほどの人また人だった。そうしてようやく駐車場に黒塗りを駐めると、向かった水族館ではチケットを買うのに十五分待ちである。
普段からレジャー施設などには殆ど来たことのない霧島と京哉は既にうんざりしていたが、オルファスには行列すら珍しいようで飽きもせず目を輝かせていた。
やっとチケットを手に入れ、制服のお姉さんに半券をちぎって貰うと水族館に進軍だ。
最初は淡水魚のコーナーで、アユやニジマスを見て塩焼きだ何だと騒ぎ、滑り台を流れてくるコツメカワウソを見ては笑う京哉を霧島は眺めて愉しむ。殆どSPとして機能していなかったが、この人混みで狙われたら防ぎようがないと割り切っていた。
ゆっくりと淡水魚コーナーを堪能すると、いよいよメインの海水魚である。
ここでは子供が喜ぶ王道のラッコなどより大水槽で洗濯機のように回転するイワシの群れや、小さな水槽のハリセンボンに、水流に身をそよがせるチンアナゴなどがオルファスの興味を引いたようで一時間ほども時間を割いた。
「これは面白いものだな。背後に人が大勢いるのも忘れられる」
「それは結構だが、クラゲばかり見ていると酔いそうな気がしてくるのだがな」
「ふむ、言われてみると俺もふわふわしてきた。移動しようぞ」
次に鮫の餌付けを見学し、タイドプールのコーナーでヤドカリやヒトデに触れて遊び、屋上でペンギン大行進やイルカとシャチのショーまで眺めると休憩する。
だが水族館のレストランやフードコートは人だらけで、少し離れた場所にあるマーケットプレイスに移動することにした。半券に再入場可能な判子を押して貰うのも忘れない。
男四人は夕暮れの海沿いの遊歩道を歩いてマーケットプレイスに辿り着く。
「レストランか喫茶店、フードコートの何処にするんだ?」
「俺はフードコートがいい。熱いラーメンを所望する。あれは旨い食い物だ」
「いいですね、あったかいの。僕はおうどんにしようかな」
こちらも結構な賑わいだったが四人座れるボックス席は難なく確保できた。オルファスとエイダはラーメンを霧島と京哉は天ぷらうどんを手に入れて食す。食べてしまうと京哉のために喫煙ルームに直行し中毒者が満足すると土産物コーナーを巡った。
オルファスは様々な貝殻のオブジェやぬいぐるみなどを真剣に眺めてゆく。
「オルファス、何か欲しいものがあったら来日記念に買ってあげますよ」
「では鳴海、あの二万九千八百円の特大シャチのぬいぐるみ……というのは冗談だ。ここにこれだけ沢山あるのだという、思い出だけで俺は充分幸せに思えるから、何も要らん」
「それってすごく損な性分ですね」
「不自由をしたことがないと、物欲も感じないんじゃないのか?」
「霧島の言う通りかも知れん。だが鳴海、損だとは思わんぞ。良き思い出を振り返るたびにそれだけで俺は幸せになれるのだ。羨ましくはないか?」
「そう、ですね。言われてみたら誰より豊かな人なのかも知れません」
「であろう? だが、ただ思い出に耽っているだけでは済まされんのが俺だ。知らないことを知ろうとする欲と、不自由する者の心を想像する力だけは決して失くすなと父王から常々言われてきた」
なるほど、リンドル王国は良い王に恵まれているらしい。だがその挙げ句がたった二人でSPだと思うと、霧島と京哉は顔を見合わせて溜息をつくしかなかった。
結局何も買わずにマーケットプレイスを出る。するともう外は日が暮れて夜が訪れていた。それでも水族館は十九時半までやっているので、あと三十分は見て回れる。
「十九時にクラゲの餌付けをやるそうだ。これは見逃せまい」
「クラゲの飯が何なのか、私も寡聞にして聞いたことがないな」
「ブラインシュリンプとかいうエビの赤ちゃんみたいな生物らしいですよ」
初耳の生き物に霧島も興味を持ち、足早に水族館に戻った。水族館は随分と人が少なくなっていて、却って個人を判別しやすく狙いやすい状況に霧島は神経を張り詰める。それを察知して京哉も気を引き締めた。二人は目で頷き合う。
クラゲの水槽に辿り着く前だった。四人が通り過ぎたハリセンボンの小さな水槽が爆発的に壊れ、思いがけないほど大量の海水が溢れて女性客が悲鳴を上げる。
咄嗟に次弾を予測して二人は懐の銃のグリップを握り、我が身でオルファスを庇った。こういった状況に慣れているのか、エイダまでがオルファスの背後に立ちはだかり楯となる構えを見せる。
目を走らせると人々に紛れようとするブルゾンの背があった。霧島は駆け出す。ブルゾン男の確保は簡単だった。彫りの深い顔立ちは日本人でないことが分かる。
「死にたくなければ動くな」
低い声に怯えた男は腕を掴まれても抵抗しなかった。ただ英語で謝り始める。
「ごめんなさい、お金が必要だったんです。ごめんなさい!」
「誰に頼まれてオルファスを殺そうとした?」
怯え切った男が自発的に思い立ちオルファスを暗殺しようとしたのではない、それくらい分かっていて霧島は英語で訊いたが男は謝るばかりで話にならない。
仕方なく四人は男をつれて水族館を出ると、駐車場の黒塗りに男を引っ張り込んで尋問だ。
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