18 / 53
第18話
しおりを挟む
だが何故この日本で自分たちを巻き込んでやらかしてくれるのか。
京哉は内心嘆いて煙草の灰をクリスタルの灰皿に弾き落とすと、水割りの残りを呷った。すかさず霧島がおかわりを作ってくれる。
余程京哉が部屋を壊されて落ち込んでいると思っているらしい。
しかし京哉の物欲が薄いのも霧島は知っていて、壊れたものを惜しんで執着している訳ではなく、思い出と霧島を傷つけられたのが許せないのだと理解していた。
「オルファスの思惑も分からないのに敵の正体なんて分かる訳もないですけど、本ボシはともかく実行犯はやっぱり柏仁会でしょうか?」
「思い込むのは危険だが海外マフィアと繋がりの深い柏仁会だ。水族館での例もこれまでの特別任務で続けざまに私たちが柏仁会のシノギを潰してきた事実もある」
「オルファスを亡き者にする仕事を請け負った、プラス僕らに恨み骨髄ですか」
「ついでに私たちも始末できたら一石二鳥とでも思っているのかも知れん」
「撃たれないで下さいね。皇子の代わりはいても忍さんの代わりはいないんですよ」
「お前も妙な気を起こすんじゃないぞ」
鬼畜な発言だったが二人とも本音だった。今までにも特別任務で互いの血を何度か見ているが、そのたびに自分が痛いよりつらい思いをしてきた二人である。
「で、だ。お前は狙撃ポイントを特定しつつ、白藤市内を歩けるか?」
「立ち止まっているならともかく、歩きながらは僕が十人いないと無理ですね」
◇◇◇◇
京哉が十人いないと無理という無謀な散策を決行する、そうオルファスが宣言したのは翌日のブランチの席だった。和食を所望する皇太子に応えたテーブルを囲んで、『言うぞ』『絶対言うぞ』とSP組がバリバリに警戒する中で言い放ったのだ。
「俺は日本の都市が見たい、栄えた都市をこの肌で感じ取りたい。白藤市に行くぞ」
まだ都内を練り歩くと言われないだけマシな気もした京哉だったが、基本的にスナイパーはスナイパーの目でしか探せないので重圧は京哉の双肩に掛かることになる。
「貴様は昨日何を見たのか覚えていないのか?」
霧島が一応オルファスに訊いてはみたがオルファスは涼しい顔だ。
「撃たれてそなたたちの家が粉微塵になったのを見た。だが心配するでない、もうエイダに申し付けて修繕会社を入れる準備は出来ている。カネも振り込んであるぞ」
「私が問題にしているのはカネではない、貴様を含めた命を問題にしているんだ!」
「何処にいても俺は狙われる運命だ。だからこそ見たいものを見、知りたいことを知るのだ。一分後に頭を割られても惜しくないようにな。大儀だが付き合ってくれ」
「頭を割られるのに大儀で済むか! 私たちの命はそこまで安くは――」
「忍さん。もういいですから、SPとしてできる限りのことをしましょうよ」
諦め気分で京哉は霧島を宥めるように言う。立ち上がっていた霧島は憤然と椅子に座り直した。大概のことに動じず泰然自若として非常に安定した精神の持ち主である霧島を素でここまで怒らせる人物は、御前を除けば珍しいと云えた。
それもこれも霧島自身の命のみならず、京哉の命まで懸かっているからである。
それを承知していて普段は鷹揚な京哉もオルファスの前で遠慮なく言い放つ。
「誰が撃たれようとも僕はバディとして忍さんの背中は必ず護りますから」
「そうか。私も誰の頭に風穴が開こうとも、バディとしてお前の背は護ろう」
全員が箸を置いて玄米茶の湯呑みを手にしたのを見計らい、皆に了解を取ってから京哉は煙草を吸おうとした。そこでポケットの携帯が震える。出してチラリと見てから霧島に目で合図し二人して席を立った。オルファスの部屋を出てそのままエレベーターに乗る。
「桜木さんが来たそうです」
「いいタイミングだな。何かは得られるだろう」
降りた一階のロビーは、ロウテーブルやバーカウンターに掛け時計まで調度が全て黒檀で出来ていて、壁のクリーム色と調和し、莫大なカネが掛かっていながら安らげる空間となっていた。そこに置かれた黒い本革張りソファのひとつに霧島カンパニー情報セキュリティ部門の副主任である桜木は座って紅茶を飲んでいた。
元・暗殺肯定派の実行本部責任者だった桜木は一度逮捕されたものの、証拠不十分で釈放されたのち、再び御前に雇われたのだ。世の裏も表も知り尽くした男である。
当然ながら京哉とは五年以上の付き合いだが、この桜木を含む者たちに暗殺されかけたとはいえ、長く世話になったので恨むよりも先に親しみの感情が先に湧く。
「こんにちは、桜木さん」
「おう、京哉。RPGで木っ端微塵にもならず何よりだ……ゴホッ、ゲホッ」
「相変わらず耳が早いですね、ニュースにもなっていないのに。風邪ですか?」
メイドが淹れてくれた紅茶を前に京哉と霧島はソファに落ち着く。
「まあな。職場で流行りモノを貰ったみたいでな……ゲホッ」
京哉は内心嘆いて煙草の灰をクリスタルの灰皿に弾き落とすと、水割りの残りを呷った。すかさず霧島がおかわりを作ってくれる。
余程京哉が部屋を壊されて落ち込んでいると思っているらしい。
しかし京哉の物欲が薄いのも霧島は知っていて、壊れたものを惜しんで執着している訳ではなく、思い出と霧島を傷つけられたのが許せないのだと理解していた。
「オルファスの思惑も分からないのに敵の正体なんて分かる訳もないですけど、本ボシはともかく実行犯はやっぱり柏仁会でしょうか?」
「思い込むのは危険だが海外マフィアと繋がりの深い柏仁会だ。水族館での例もこれまでの特別任務で続けざまに私たちが柏仁会のシノギを潰してきた事実もある」
「オルファスを亡き者にする仕事を請け負った、プラス僕らに恨み骨髄ですか」
「ついでに私たちも始末できたら一石二鳥とでも思っているのかも知れん」
「撃たれないで下さいね。皇子の代わりはいても忍さんの代わりはいないんですよ」
「お前も妙な気を起こすんじゃないぞ」
鬼畜な発言だったが二人とも本音だった。今までにも特別任務で互いの血を何度か見ているが、そのたびに自分が痛いよりつらい思いをしてきた二人である。
「で、だ。お前は狙撃ポイントを特定しつつ、白藤市内を歩けるか?」
「立ち止まっているならともかく、歩きながらは僕が十人いないと無理ですね」
◇◇◇◇
京哉が十人いないと無理という無謀な散策を決行する、そうオルファスが宣言したのは翌日のブランチの席だった。和食を所望する皇太子に応えたテーブルを囲んで、『言うぞ』『絶対言うぞ』とSP組がバリバリに警戒する中で言い放ったのだ。
「俺は日本の都市が見たい、栄えた都市をこの肌で感じ取りたい。白藤市に行くぞ」
まだ都内を練り歩くと言われないだけマシな気もした京哉だったが、基本的にスナイパーはスナイパーの目でしか探せないので重圧は京哉の双肩に掛かることになる。
「貴様は昨日何を見たのか覚えていないのか?」
霧島が一応オルファスに訊いてはみたがオルファスは涼しい顔だ。
「撃たれてそなたたちの家が粉微塵になったのを見た。だが心配するでない、もうエイダに申し付けて修繕会社を入れる準備は出来ている。カネも振り込んであるぞ」
「私が問題にしているのはカネではない、貴様を含めた命を問題にしているんだ!」
「何処にいても俺は狙われる運命だ。だからこそ見たいものを見、知りたいことを知るのだ。一分後に頭を割られても惜しくないようにな。大儀だが付き合ってくれ」
「頭を割られるのに大儀で済むか! 私たちの命はそこまで安くは――」
「忍さん。もういいですから、SPとしてできる限りのことをしましょうよ」
諦め気分で京哉は霧島を宥めるように言う。立ち上がっていた霧島は憤然と椅子に座り直した。大概のことに動じず泰然自若として非常に安定した精神の持ち主である霧島を素でここまで怒らせる人物は、御前を除けば珍しいと云えた。
それもこれも霧島自身の命のみならず、京哉の命まで懸かっているからである。
それを承知していて普段は鷹揚な京哉もオルファスの前で遠慮なく言い放つ。
「誰が撃たれようとも僕はバディとして忍さんの背中は必ず護りますから」
「そうか。私も誰の頭に風穴が開こうとも、バディとしてお前の背は護ろう」
全員が箸を置いて玄米茶の湯呑みを手にしたのを見計らい、皆に了解を取ってから京哉は煙草を吸おうとした。そこでポケットの携帯が震える。出してチラリと見てから霧島に目で合図し二人して席を立った。オルファスの部屋を出てそのままエレベーターに乗る。
「桜木さんが来たそうです」
「いいタイミングだな。何かは得られるだろう」
降りた一階のロビーは、ロウテーブルやバーカウンターに掛け時計まで調度が全て黒檀で出来ていて、壁のクリーム色と調和し、莫大なカネが掛かっていながら安らげる空間となっていた。そこに置かれた黒い本革張りソファのひとつに霧島カンパニー情報セキュリティ部門の副主任である桜木は座って紅茶を飲んでいた。
元・暗殺肯定派の実行本部責任者だった桜木は一度逮捕されたものの、証拠不十分で釈放されたのち、再び御前に雇われたのだ。世の裏も表も知り尽くした男である。
当然ながら京哉とは五年以上の付き合いだが、この桜木を含む者たちに暗殺されかけたとはいえ、長く世話になったので恨むよりも先に親しみの感情が先に湧く。
「こんにちは、桜木さん」
「おう、京哉。RPGで木っ端微塵にもならず何よりだ……ゴホッ、ゲホッ」
「相変わらず耳が早いですね、ニュースにもなっていないのに。風邪ですか?」
メイドが淹れてくれた紅茶を前に京哉と霧島はソファに落ち着く。
「まあな。職場で流行りモノを貰ったみたいでな……ゲホッ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~
御崎菟翔
キャラ文芸
【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】
★第9回キャラ文芸大賞エントリー中!
「選ぶのはお前だ」
――そう言われても、もう引き返せない。
ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。
そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。
彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。
「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。
なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに!
小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる