やんごとなき依頼人~Barter.20~

志賀雅基

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第18話

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 だが何故この日本で自分たちを巻き込んでやらかしてくれるのか。
 京哉は内心嘆いて煙草の灰をクリスタルの灰皿に弾き落とすと、水割りの残りを呷った。すかさず霧島がおかわりを作ってくれる。
 余程京哉が部屋を壊されて落ち込んでいると思っているらしい。

 しかし京哉の物欲が薄いのも霧島は知っていて、壊れたものを惜しんで執着している訳ではなく、思い出と霧島を傷つけられたのが許せないのだと理解していた。

「オルファスの思惑も分からないのに敵の正体なんて分かる訳もないですけど、本ボシはともかく実行犯はやっぱり柏仁会でしょうか?」
「思い込むのは危険だが海外マフィアと繋がりの深い柏仁会だ。水族館での例もこれまでの特別任務で続けざまに私たちが柏仁会のシノギを潰してきた事実もある」

「オルファスを亡き者にする仕事を請け負った、プラス僕らに恨み骨髄ですか」
「ついでに私たちも始末できたら一石二鳥とでも思っているのかも知れん」
「撃たれないで下さいね。皇子の代わりはいても忍さんの代わりはいないんですよ」
「お前も妙な気を起こすんじゃないぞ」

 鬼畜な発言だったが二人とも本音だった。今までにも特別任務で互いの血を何度か見ているが、そのたびに自分が痛いよりつらい思いをしてきた二人である。

「で、だ。お前は狙撃ポイントを特定しつつ、白藤市内を歩けるか?」
「立ち止まっているならともかく、歩きながらは僕が十人いないと無理ですね」

◇◇◇◇

 京哉が十人いないと無理という無謀な散策を決行する、そうオルファスが宣言したのは翌日のブランチの席だった。和食を所望する皇太子に応えたテーブルを囲んで、『言うぞ』『絶対言うぞ』とSP組がバリバリに警戒する中で言い放ったのだ。

「俺は日本の都市が見たい、栄えた都市をこの肌で感じ取りたい。白藤市に行くぞ」

 まだ都内を練り歩くと言われないだけマシな気もした京哉だったが、基本的にスナイパーはスナイパーの目でしか探せないので重圧は京哉の双肩に掛かることになる。

「貴様は昨日何を見たのか覚えていないのか?」

 霧島が一応オルファスに訊いてはみたがオルファスは涼しい顔だ。

「撃たれてそなたたちの家が粉微塵になったのを見た。だが心配するでない、もうエイダに申し付けて修繕会社を入れる準備は出来ている。カネも振り込んであるぞ」
「私が問題にしているのはカネではない、貴様を含めた命を問題にしているんだ!」

「何処にいても俺は狙われる運命だ。だからこそ見たいものを見、知りたいことを知るのだ。一分後に頭を割られても惜しくないようにな。大儀だが付き合ってくれ」
「頭を割られるのに大儀で済むか! 私たちの命はそこまで安くは――」
「忍さん。もういいですから、SPとしてできる限りのことをしましょうよ」

 諦め気分で京哉は霧島を宥めるように言う。立ち上がっていた霧島は憤然と椅子に座り直した。大概のことに動じず泰然自若として非常に安定した精神の持ち主である霧島を素でここまで怒らせる人物は、御前を除けば珍しいと云えた。
 それもこれも霧島自身の命のみならず、京哉の命まで懸かっているからである。

 それを承知していて普段は鷹揚な京哉もオルファスの前で遠慮なく言い放つ。

「誰が撃たれようとも僕はバディとして忍さんの背中は必ず護りますから」
「そうか。私も誰の頭に風穴が開こうとも、バディとしてお前の背は護ろう」

 全員が箸を置いて玄米茶の湯呑みを手にしたのを見計らい、皆に了解を取ってから京哉は煙草を吸おうとした。そこでポケットの携帯が震える。出してチラリと見てから霧島に目で合図し二人して席を立った。オルファスの部屋を出てそのままエレベーターに乗る。

桜木さくらぎさんが来たそうです」
「いいタイミングだな。何かは得られるだろう」

 降りた一階のロビーは、ロウテーブルやバーカウンターに掛け時計まで調度が全て黒檀で出来ていて、壁のクリーム色と調和し、莫大なカネが掛かっていながら安らげる空間となっていた。そこに置かれた黒い本革張りソファのひとつに霧島カンパニー情報セキュリティ部門の副主任である桜木は座って紅茶を飲んでいた。

 元・暗殺肯定派の実行本部責任者だった桜木は一度逮捕されたものの、証拠不十分で釈放されたのち、再び御前に雇われたのだ。世の裏も表も知り尽くした男である。
 当然ながら京哉とは五年以上の付き合いだが、この桜木を含む者たちに暗殺されかけたとはいえ、長く世話になったので恨むよりも先に親しみの感情が先に湧く。

「こんにちは、桜木さん」
「おう、京哉。RPGで木っ端微塵にもならず何よりだ……ゴホッ、ゲホッ」
「相変わらず耳が早いですね、ニュースにもなっていないのに。風邪ですか?」

 メイドが淹れてくれた紅茶を前に京哉と霧島はソファに落ち着く。

「まあな。職場で流行りモノを貰ったみたいでな……ゲホッ」
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