やんごとなき依頼人~Barter.20~

志賀雅基

文字の大きさ
19 / 53

第19話

しおりを挟む
「そうですか。で、柏仁会が雇ったスナイパーの情報でも手に入ったんですか?」
「お前は相変わらず勘がいいな。これだ……ゲホゲホ」

 桜木は咳き込みつつコピー紙にプリントした男の画像をロウテーブルに投げた。

「ジョーイ=逆井さかさい、三十二歳の日系人だ。グアム出身で海外のライフル大会に出れば必ず六位以上に入賞している男でな、十代前半からショットガンを始めて十八でライフルに持ち替えた。厄介な見た目をしているだろう?」

「はあ、黒髪で日系……これは日本人って言っても通りますね。それで?」
「得意とするのは7.62ミリ。だがコンディションを整えた大会ではなく、ガチの狙撃に強いかどうかは分からん。だがそうなると、ターゲットより周りが危ないかも知れん」

 煙草を咥えオイルライターで火を点けながら京哉は頷いて更に訊いた。

「サンドウィッチに穴を開けてましたからね。脅しなら大した腕だし、殺人依頼なら本当に危ないかも。他には何かありますか?」
「そうだな。柏仁会の動きが派手な以外、国内では特にないが……ゴホッ、リンドル王国で病床に就いた第二皇子が奇跡の復活を遂げた、などとまことしやかに噂されている」

「それ、本当なんですか?」
「まさか。第二皇子には気の毒だが現代医学でも治らん難病だ。それでも必要な人間にとっては、あと一、二年でも持ってくれれば万々歳、その間に自分の椅子の座り心地を整えておくだけ、却って長く担がずに済む軽い玉ということだ」

「担いでいるのは誰なんです?」
「山ほど候補がいすぎて俺にも分からんよ。絶対王政のあの国では大臣も貴族院議員も懸案を奏上するだけ、何もかも王が決定するんだ。無視されてトサカに来てる奴は数え切れんからな。だが、だからといって愚王じゃない、上手く采配を振っている。お蔭で正面切って文句も垂れられん訳だ……ゲホッ」

 頷きながら黙って聞いていた霧島が、そこで桜木に訊く。

「皇太子のオルファス=ライド四世の人気はどうなんだ?」
「第四皇子は皇太子として芽が出るのも遅かった。兄が死んだり何だりの理由で十五歳まで待たされた訳だからな。けど現王に似て磊落な性格だ。ダークホースとして筋がいいという評判が庶民の中にはあっという間に広まって結構な人気ぶりだな」

「庶民の中では、ということか」
「その通りだ……ハックション!」
「なるほど。現王は幾つになる?」

「もう七十を越えた。長命と短命が極端な王家で長命タイプだが、いつ引退宣言して息子に玉座を譲ってもおかしくない。実際に今回のオルファス=ライド四世の訪日は皇太子として最後の外遊だと見られている……ずびび」

「そうか。有意義な情報を感謝する。それと風邪は養生してくれ」
「ああ。炙り出し作戦もいいが気を付けてくれ……ゲホゲホ」

 咳き込みながら冷めた紅茶を飲み干した桜木は去ろうとして思い出したように足を留め、振り向いて京哉たちの方に手をピストルのようにして撃つ真似をした。

「柏仁会が昨日ぶちかましたサブマシンガンはMP5で、ロケット砲はRPG7だと見られる。旧西側と東側の代表的火器だが柏仁会はあんたらに片端からシノギを潰されて、今現在は海外マフィアとも殆ど縁が切れている状態だ。そしてリンドル王国は平和なもので内戦もやってない」

「どういうことだ、何が言いたい?」
「それでも現皇太子オルファスのSP三名が本国で狙撃され、日本国内で武器弾薬をバラ撒き放題なんだ。さて、ここから先は俺の予想でしかない。あんたらも推測してくれ……ゲホゴホ」

 そう言って少々ヨレた桜木は出て行ってしまう。京哉と霧島は顔を見合わせた。

「オルファスは知っているんでしょうか、敵が武器弾薬を自由に使える立場なのを」
「さあな。下は軍の武器庫係から上は防衛大臣まで、候補は数え切れんだろう」
「だからこそ炙り出して敵を見極めようとしているのかも知れませんね」

「自分のSPを羽田に待機させ、私たちにSPをさせたのも、わざとかも知れん」
「柏仁会が僕らを調べ上げているのは当然のこと、それを逆に利用したとか?」
「昨夜の襲撃も私たちの住処を知った上でのことだろう?」
「うーん、ずっと僕らが見張られてて、そこにオルファスが飛び込んだ?」

 霧島は頷いたが二人して見張られ気付かなかったとは思いたくない京哉だった。
 煙草を消して紅茶を飲んでしまうと一旦部屋に戻る。既にドレスシャツとスラックスは身に着けていた。銃を吊り手錠ホルダーと特殊警棒やスペアマガジンパウチ付きの帯革を締め、タイも締めてジャケットを羽織った。

 さすがに外歩きは寒そうなので二人は黒いチェスターコートを手にする。
 準備ができたところでチャイムが鳴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...