やんごとなき依頼人~Barter.20~

志賀雅基

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第26話

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 そんな彼らで作られた人波を引き裂きながら、オルファスが納得いくまで見分できるよう、霧島は殊更ゆっくりと運転しているのである。

「これは何とも明るいものだな! 人の数といい真昼のような賑わいではないか!」
「その辺りで一杯飲ませてやりたいが、それも叶えられん我が警察を許してくれ」
「霧島が謝るようなことではなかろう、気にせずとも良い」

 笑いながら言ったオルファスは窓にへばりつき外を食い入るように見つめている。振り向いた京哉がその視線を辿ると、寒さにも負けずミニスカートスーツの一団が歩いていた。思わずそれに目が釘付けとなった京哉は、霧島に脇腹をつねられて涙目になる。

「貴様らは何なんだ、偉そうな口を利いても結局は上辺だけ、飢えているだけか!」
「僕は別に飢えていませんよ、これは条件反射です」
「ほう、窃視しておいて正当化するか?」
「窃視だなんて、そんな大したものじゃ……あっ、メールだ!」

 旗色が悪くなった京哉はグッドタイミングで震えた携帯に逃げる。だがメールを読んで眉をひそめた。気付いて霧島が目顔で訊く。京哉は携帯を振りつつ報告した。

「一ノ瀬本部長経由、県警警備部の今日出動してくれたSAT班長からです。【被弾した二名を確保、病院にて取り調べに素直に応じるも依頼者が柏仁会としか知らず。なお、二名ともジョーイ=逆井とは別人】ですって」

「別人か。ではまだ京哉、お前はそのライフルを手放せんな」
「そういうことですね。確かに今までの狙撃はお粗末でしたし。でも別人かあ」
「窃視するほどの気力をSP任務に回すんだな」

「うわ、また出た、土鍋性格!」
「土鍋も何もついさっきのことだぞ。そんなに飢えているなら今晩、思い切り――」
「わああ、忍さん、前見て前!」

 分かっているという風に霧島は頷いて見せたが、時折京哉に向けてくる灰色の目は婀娜っぽいような色気を湛えている。京哉は後部座席のオルファスを意識してしまい高鳴る自分の鼓動まで聞かれるんじゃないかと思って、心して平生の表情を保つと辺りのビルの窓に意識を向けた。

「この辺のビルは低い代わりにこの人混みですからね」
「車を降りた日には、チンピラが持つサタデーナイトスペシャルでも狙えるな」

 サタデーナイトスペシャルとは安価な粗悪銃を指す。かつて米国で土曜の夜にこれを使った喧嘩や強盗での負傷者が集中し、医師たちが揶揄したことからそう呼ばれるようになった。
 粗悪なだけに弾丸が何処に飛んでいくかも分からないが、人混みの中で押しつけて撃つなら充分用は足りるだろう。

 ここで観光客向けの走行を止めると同時に霧島が宣言した。

「今日は撤収だ。保養所に戻る」

 それでも人波が途切れた訳ではない。次の交差点までは低速で我慢だ。だが何処の組かと思われるような黒塗りは走らせやすかった。周囲が関わりを避けてくれる。

 信号に引っ掛からないよう霧島は低速でも巧みな運転で速度調整していた。前方の赤信号が青に変わる。スピードをやや上げた。その時、「バシュッ!」という音がして防弾のフロントガラスに白い傷がつく。同じ箇所に更に二射、三射がヒットした。

 白い傷が深くなりフロントガラス自体が軋むのを聞きつつ、霧島は叫ぶ。

「京哉、オルファス、伏せていろ!」

 伏せず京哉は前方を凝視した。遠くビルの谷間に高速道路の高架があり、抜群の視力で丁度そこがインターチェンジの料金所手前になっているのを見取る。広く取られた路肩にトラックなどが停まっているような場所だ。夜間にトラックを隠蔽として利用し、その陰から撃ったなら気付く者は殆どいないだろう。

 五射で銃撃は止まる。同時に人だらけで避けることもできなかった黒塗りを左折させ、霧島は表通りに乗り出していた。運転しながらフロントガラスの傷に目をやる。
 既に霧島も何処から狙撃されたのか悟っていた。
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