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第28話
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また急激な血糖値の上昇で三人はボーッとしたままシェフたちに料理への賛辞と礼を述べた。ロビーに場を移してコーヒーを啜る。一緒に出されたデザートは甘さも控えめなヨーグルトムースケーキのブルーベリージュレ添えだった。
それも綺麗に食すと京哉は数時間ぶりの煙草タイム、霧島とオルファスはディジェスティフのブランデーを飲み始める。
何事かあっても京哉が運転するので霧島は飲んでも構わない。
「でも、だからってグビグビ飲まないで下さい」
「酒臭いと嫌なのか?」
「嫌とかじゃなくて、躰に悪いと言っているんです」
「私が殆ど酔わないのは知っているだろう。素直に私が欲しいからと言えばいい」
「ちょ、他人様の前で何を……調子に乗らないで下さい!」
「大声を出さなくても聞こえている。私が欲しくないのか?」
「忍さんっ! いい加減に僕だって怒りますからね!」
鷹揚な性格の京哉だが本当に調子に乗っているとしか思えない年上の男に対し、怒りを覚えながら言った。そこで少々萎れた感じのオルファスが立ち上がりエレベーターで上階へと去る。本来他人に言えないようなことで気遣いをさせた事実が京哉の怒りの炎に油を注いだ。
それでも涼しい顔の霧島にキリキリと目を吊り上げる。
「何とも思わないんですか、忍さん」
「何をだ?」
「分からないなんて信じられない! 僕は他人様の前で秘め事を暴露した挙げ句に追い出すような、ふしだら且つ野蛮な人とはお付き合いをしたくありません!」
勢い叫んだ京哉に霧島も怒鳴り返そうとして止めた。本気で京哉の顔から血の気が引いて真っ白だったからである。これまで何度も犬も食わない喧嘩はしてきた。
本気で怒らせて焦ったこともある。だがこんな顔色をした京哉は初めてで、だがずるいと知りながら年上の男は黙り込むことで己のプライドを護ろうとした。
「ここまできて一言もないなんて本っ当に信じられない。SP任務があるからバディは仕方ないですけど、貴方がオルファスに謝るまでパートナーは解消ですからね!」
叫ぶだけ叫ぶと京哉はエレベーターも待てずに京哉は階段を駆け上る。四階に上がって自分の部屋に入るとドアを閉め、霧島も入れないよう内鍵をロックした。頭が沸騰したまま各種装備を解いて服を脱ぎ捨て、バスルームに駆け込んでバスタブの湯に飛び込む。
ぬるめの湯にしこたま浸かったが頭は全く冷める気配も見せず、仕方なく硝煙を被った全身をシャンプーとボディソープで泡だらけにした。薄いヒゲを剃りながら、ふと数日前に霧島にここで抱かれたことを思い出す。
思い出したがいつものパターンだとそれで弱気になり、自分の言動を後悔し始めるのだが今日に限っては違った。
いつまで経っても怒りは冷めず、頬は自分で触れても熱いほどだった。
「今回こそは詫びを入れるまで絶対に許さないからな!」
呟くと泡をシャワーで流し、また頭を冷やすため、ぬるい湯に身を浸した。
◇◇◇◇
一方の霧島は大声で喚いて駆け去った京哉の背を唖然として見送り、すぐに追っても逆効果だろうと考えて軽く溜息をつくと、もう一杯だけと決めてブランデーをグラスに注いだ。そうして思い返すと確かに調子に乗っていたと自覚する。
だが霧島は自分の言動をまるで把握できないほど愚かではない。つまり調子に乗って見せたのも本当は分かっていて半ばわざとやったのだ。
大体、夫たる自分が昨日負った傷よりもオルファスの怪我を心配した京哉が気に食わず、遡ってはこの自分と京哉がパートナー同士と知りつつ京哉に対して『正式な求婚』をしたオルファスが腹に据えかねていた。
プロポーズするのは他人の勝手であり、霧島が信じた通りに京哉もピシリとそれをはねつけてくれた。しかしオルファスが鳴海京哉という男のプライドを軽視していたことが許せない。
日陰者にして囲うのを前提にしながら『誰より幸せな妃』と言い放ち、京哉に諭されてなお謝りもせず『二度惚れ』などと抜かしたのだ。
京哉曰く『土鍋性格』の霧島は怒りを再燃させる。
謝るべきは自分ではない、オルファスこそが京哉に謝るべきだ。そう確信して己のはしたなくも下品な言動については僅かな反省をしたが後悔はせず、あっさり棚上げした。
そもそもオルファスの味方ばかりする京哉も京哉である。ときに優しさが思わせぶりに相手の目に映り、結果としてより残酷なことになるのをいい加減に覚えてもいい頃だろう。
おまけにパートナー解消とまで言い出すとは、こちらが信じがたい思いだった。
「ふん。私ですら口が裂けても言わないことを平気でするすると……」
独り口の中で呟いてブランデーの残りを呷る。だがバディシステムは健在だ。SPを続けている間に京哉の機嫌も直るに違いない。
今回のパターンだと少々長く、そう、明日の夜くらいまでは掛かるかも知れないと冷静に分析しながら霧島はグラスを置いて立ち上がった。
いつもと同じく怒りを融かした京哉を大らかな気持ちで胸に抱き締めてやるときこそ、年上の余裕を見せられる時だ、などと暢気に考えつつエレベーターで四階に上がる。自分の部屋に戻る際に京哉の部屋のドアノブをそっと回してみた。
ロックの掛かったドアは霧島をはねつける京哉の心境を象徴しているようだった。溜息ひとつで自分の部屋に入ると、早速サイドボードからウィスキーを取り出した。
それも綺麗に食すと京哉は数時間ぶりの煙草タイム、霧島とオルファスはディジェスティフのブランデーを飲み始める。
何事かあっても京哉が運転するので霧島は飲んでも構わない。
「でも、だからってグビグビ飲まないで下さい」
「酒臭いと嫌なのか?」
「嫌とかじゃなくて、躰に悪いと言っているんです」
「私が殆ど酔わないのは知っているだろう。素直に私が欲しいからと言えばいい」
「ちょ、他人様の前で何を……調子に乗らないで下さい!」
「大声を出さなくても聞こえている。私が欲しくないのか?」
「忍さんっ! いい加減に僕だって怒りますからね!」
鷹揚な性格の京哉だが本当に調子に乗っているとしか思えない年上の男に対し、怒りを覚えながら言った。そこで少々萎れた感じのオルファスが立ち上がりエレベーターで上階へと去る。本来他人に言えないようなことで気遣いをさせた事実が京哉の怒りの炎に油を注いだ。
それでも涼しい顔の霧島にキリキリと目を吊り上げる。
「何とも思わないんですか、忍さん」
「何をだ?」
「分からないなんて信じられない! 僕は他人様の前で秘め事を暴露した挙げ句に追い出すような、ふしだら且つ野蛮な人とはお付き合いをしたくありません!」
勢い叫んだ京哉に霧島も怒鳴り返そうとして止めた。本気で京哉の顔から血の気が引いて真っ白だったからである。これまで何度も犬も食わない喧嘩はしてきた。
本気で怒らせて焦ったこともある。だがこんな顔色をした京哉は初めてで、だがずるいと知りながら年上の男は黙り込むことで己のプライドを護ろうとした。
「ここまできて一言もないなんて本っ当に信じられない。SP任務があるからバディは仕方ないですけど、貴方がオルファスに謝るまでパートナーは解消ですからね!」
叫ぶだけ叫ぶと京哉はエレベーターも待てずに京哉は階段を駆け上る。四階に上がって自分の部屋に入るとドアを閉め、霧島も入れないよう内鍵をロックした。頭が沸騰したまま各種装備を解いて服を脱ぎ捨て、バスルームに駆け込んでバスタブの湯に飛び込む。
ぬるめの湯にしこたま浸かったが頭は全く冷める気配も見せず、仕方なく硝煙を被った全身をシャンプーとボディソープで泡だらけにした。薄いヒゲを剃りながら、ふと数日前に霧島にここで抱かれたことを思い出す。
思い出したがいつものパターンだとそれで弱気になり、自分の言動を後悔し始めるのだが今日に限っては違った。
いつまで経っても怒りは冷めず、頬は自分で触れても熱いほどだった。
「今回こそは詫びを入れるまで絶対に許さないからな!」
呟くと泡をシャワーで流し、また頭を冷やすため、ぬるい湯に身を浸した。
◇◇◇◇
一方の霧島は大声で喚いて駆け去った京哉の背を唖然として見送り、すぐに追っても逆効果だろうと考えて軽く溜息をつくと、もう一杯だけと決めてブランデーをグラスに注いだ。そうして思い返すと確かに調子に乗っていたと自覚する。
だが霧島は自分の言動をまるで把握できないほど愚かではない。つまり調子に乗って見せたのも本当は分かっていて半ばわざとやったのだ。
大体、夫たる自分が昨日負った傷よりもオルファスの怪我を心配した京哉が気に食わず、遡ってはこの自分と京哉がパートナー同士と知りつつ京哉に対して『正式な求婚』をしたオルファスが腹に据えかねていた。
プロポーズするのは他人の勝手であり、霧島が信じた通りに京哉もピシリとそれをはねつけてくれた。しかしオルファスが鳴海京哉という男のプライドを軽視していたことが許せない。
日陰者にして囲うのを前提にしながら『誰より幸せな妃』と言い放ち、京哉に諭されてなお謝りもせず『二度惚れ』などと抜かしたのだ。
京哉曰く『土鍋性格』の霧島は怒りを再燃させる。
謝るべきは自分ではない、オルファスこそが京哉に謝るべきだ。そう確信して己のはしたなくも下品な言動については僅かな反省をしたが後悔はせず、あっさり棚上げした。
そもそもオルファスの味方ばかりする京哉も京哉である。ときに優しさが思わせぶりに相手の目に映り、結果としてより残酷なことになるのをいい加減に覚えてもいい頃だろう。
おまけにパートナー解消とまで言い出すとは、こちらが信じがたい思いだった。
「ふん。私ですら口が裂けても言わないことを平気でするすると……」
独り口の中で呟いてブランデーの残りを呷る。だがバディシステムは健在だ。SPを続けている間に京哉の機嫌も直るに違いない。
今回のパターンだと少々長く、そう、明日の夜くらいまでは掛かるかも知れないと冷静に分析しながら霧島はグラスを置いて立ち上がった。
いつもと同じく怒りを融かした京哉を大らかな気持ちで胸に抱き締めてやるときこそ、年上の余裕を見せられる時だ、などと暢気に考えつつエレベーターで四階に上がる。自分の部屋に戻る際に京哉の部屋のドアノブをそっと回してみた。
ロックの掛かったドアは霧島をはねつける京哉の心境を象徴しているようだった。溜息ひとつで自分の部屋に入ると、早速サイドボードからウィスキーを取り出した。
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