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第37話
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約二時間の航行で霧島はマリーナにエキドナ号を停泊させた。陸に渡るとオルファスは重たく大きなクーラーボックスを自分で大事に運ぶ。バスケットも持っていた。堤防を歩きヨットハウス脇にある駐車場で黒塗りに乗り込みかけた、その時だった。
「動くな。声も上げるなよ。抵抗すれば撃つ」
ヨットハウスの裏から現れて三人を取り囲んだのは七人もの男たちだった。外灯の光が届かない蔭、だがシルエットから七人全員が拳銃を手にしているのを京哉は身取る。三人共に脇腹や背に固く冷たい銃口を押しつけられ、銃を抜くこともできない。
「オルファス=ライド四世、用があるのはお前だけだ。来い!」
だがそこで動いたのは霧島だった。しかし七人の男たちはまさか皇太子が荷物運びをしているとは思わなかったのか、そのまま待たせていたガンメタリックのワンボックスカーへと霧島をつれて行ってしまう。霧島は抵抗せずワンボックスに乗せられた。
「忍さん……忍さん!」
一発も発射せず男たちはワンボックスと黒のステーションワゴンに分乗し、簡単な仕事とばかりに去る。勿論、京哉も奴らを追うためにオルファスを急かし、黒塗りに乗り込んでステアリングを握った。敵の二台を追いながら海岸通りをかなりのスピードで走る。
その間にオルファスに命じて本部長と連絡を取らせていた。
敵の車のナンバーも告げ、ひたすら京哉は霧島を拉致した車を追った。
けれど高速のインターチェンジで速度を緩めた途端、サイドウィンドウが「バシュッ!」と音を立てた。立て続けに銃弾を撃ち込まれ、窓枠が軋む。その間に敵の二台はインターチェンジを通過し、何処にいるのか分からなくなっていた。
京哉は迷った。追っても見つけられないかも知れない敵を追うか、ここで最大の敵を潰しておくか。追わなければ霧島の身が危ない。だが前方は他車のテールランプばかりだ。
「どうする、鳴海。迷うヒマはないぞ」
「僕は降ります。オルファスはいつでも車を出せるよう運転席へ」
霧島なら二分の一以下の賭けよりも、ここで確実に最大の敵を潰す方を選ぶだろう。そう思って京哉は黒塗りを路肩に寄せて停めた。ハードケースを開けDSR1とレーザースコープを取り出す。敵の狙撃ポイントは分かっていた。
インターチェンジが見える貝崎東駅近くの繁華街にあるビルだ。屋上ではなく十階くらいの窓からのスナイプである。
車内で場所を入れ替わり、助手席側から身を低くして降りた。
こちらが防弾車両なのは敵も知っている筈で、ここで追っ手を確実に足止めするトラップということも分かっていた。わざわざ乗ってやる以上は必ず仕留める。腹を決めた京哉はもうスナイパー同士の戦いに全神経を集中し始めていた。
その間も黒塗りには弾丸が撃ち込まれている。ボンネットで跳弾し火花が散った。
「失敗知らずの五年の実績と現役SAT狙撃班員の実力を舐めるなよ」
呟きながらレーザースコープのアイピースに目を当てる。敵の連射が一瞬途切れるまでじっと待ってから、そっとボンネットの上からレーザースコープで覗き見た。瞬時にフォーカスを合わせてレーザースコープの数値が出るなり頭を引っ込める。
「距離、九百五十五か。怪我もしてる筈なのに、なかなかやるなあ」
車にレーザースコープを放り込んでDSR1を構えた。立射姿勢を取る。今度はまともに顔を出すしかない。だが撃たれる恐怖が湧く前に片を付けたらいいのだと考え、スコープを右目で覗くと夜闇を透かし見て再び敵を探した。
繁華街のギラギラした電子看板に埋もれた窓一枚を照準する。息を整え、針先ほどのマズルフラッシュが閃くと共に発砲。
威力に対し重量のないDSR1は京哉の右肩に衝撃を与えたが、難なくそれをいなすとボルトを引いて排莢し、銃口をピタリと元の位置に戻してトリガを摘むように引いた。容赦なく初弾から狙い三射まで撃ち込む。オールヒットの手応えあり。
硝煙の立ち上る銃を降ろし、後部座席に狙撃銃を放り込んで携帯で本部長に伝える。
「貝崎東駅のサンエイ第一ビルに至急人員を向かわせて下さい」
《分かった、SAT突入班を回そう。霧島くんの行方についてだが、柏仁会において白藤市内の事務所で動きがあったらしい。夕方から事務所がひとつ殆ど空になったそうだ》
「そうですか。柏仁会会長の槙原に動きはないですか?」
《それについては現在、組対が総力を挙げて追っている》
つまりは分からないのだろう。京哉は自分もサンエイ第一ビルに向かうと告げて通話を切った。逆井とかいうスナイパーを殺してはいない。ただパーティーの時と今回とで放置すれば命に関わる怪我を負っているのは確かだ。運転席に座るとアクセルを踏み込む。
殺してでも霧島の居場所を吐かせるつもりで京哉は敵の許へと急いだ。
「動くな。声も上げるなよ。抵抗すれば撃つ」
ヨットハウスの裏から現れて三人を取り囲んだのは七人もの男たちだった。外灯の光が届かない蔭、だがシルエットから七人全員が拳銃を手にしているのを京哉は身取る。三人共に脇腹や背に固く冷たい銃口を押しつけられ、銃を抜くこともできない。
「オルファス=ライド四世、用があるのはお前だけだ。来い!」
だがそこで動いたのは霧島だった。しかし七人の男たちはまさか皇太子が荷物運びをしているとは思わなかったのか、そのまま待たせていたガンメタリックのワンボックスカーへと霧島をつれて行ってしまう。霧島は抵抗せずワンボックスに乗せられた。
「忍さん……忍さん!」
一発も発射せず男たちはワンボックスと黒のステーションワゴンに分乗し、簡単な仕事とばかりに去る。勿論、京哉も奴らを追うためにオルファスを急かし、黒塗りに乗り込んでステアリングを握った。敵の二台を追いながら海岸通りをかなりのスピードで走る。
その間にオルファスに命じて本部長と連絡を取らせていた。
敵の車のナンバーも告げ、ひたすら京哉は霧島を拉致した車を追った。
けれど高速のインターチェンジで速度を緩めた途端、サイドウィンドウが「バシュッ!」と音を立てた。立て続けに銃弾を撃ち込まれ、窓枠が軋む。その間に敵の二台はインターチェンジを通過し、何処にいるのか分からなくなっていた。
京哉は迷った。追っても見つけられないかも知れない敵を追うか、ここで最大の敵を潰しておくか。追わなければ霧島の身が危ない。だが前方は他車のテールランプばかりだ。
「どうする、鳴海。迷うヒマはないぞ」
「僕は降ります。オルファスはいつでも車を出せるよう運転席へ」
霧島なら二分の一以下の賭けよりも、ここで確実に最大の敵を潰す方を選ぶだろう。そう思って京哉は黒塗りを路肩に寄せて停めた。ハードケースを開けDSR1とレーザースコープを取り出す。敵の狙撃ポイントは分かっていた。
インターチェンジが見える貝崎東駅近くの繁華街にあるビルだ。屋上ではなく十階くらいの窓からのスナイプである。
車内で場所を入れ替わり、助手席側から身を低くして降りた。
こちらが防弾車両なのは敵も知っている筈で、ここで追っ手を確実に足止めするトラップということも分かっていた。わざわざ乗ってやる以上は必ず仕留める。腹を決めた京哉はもうスナイパー同士の戦いに全神経を集中し始めていた。
その間も黒塗りには弾丸が撃ち込まれている。ボンネットで跳弾し火花が散った。
「失敗知らずの五年の実績と現役SAT狙撃班員の実力を舐めるなよ」
呟きながらレーザースコープのアイピースに目を当てる。敵の連射が一瞬途切れるまでじっと待ってから、そっとボンネットの上からレーザースコープで覗き見た。瞬時にフォーカスを合わせてレーザースコープの数値が出るなり頭を引っ込める。
「距離、九百五十五か。怪我もしてる筈なのに、なかなかやるなあ」
車にレーザースコープを放り込んでDSR1を構えた。立射姿勢を取る。今度はまともに顔を出すしかない。だが撃たれる恐怖が湧く前に片を付けたらいいのだと考え、スコープを右目で覗くと夜闇を透かし見て再び敵を探した。
繁華街のギラギラした電子看板に埋もれた窓一枚を照準する。息を整え、針先ほどのマズルフラッシュが閃くと共に発砲。
威力に対し重量のないDSR1は京哉の右肩に衝撃を与えたが、難なくそれをいなすとボルトを引いて排莢し、銃口をピタリと元の位置に戻してトリガを摘むように引いた。容赦なく初弾から狙い三射まで撃ち込む。オールヒットの手応えあり。
硝煙の立ち上る銃を降ろし、後部座席に狙撃銃を放り込んで携帯で本部長に伝える。
「貝崎東駅のサンエイ第一ビルに至急人員を向かわせて下さい」
《分かった、SAT突入班を回そう。霧島くんの行方についてだが、柏仁会において白藤市内の事務所で動きがあったらしい。夕方から事務所がひとつ殆ど空になったそうだ》
「そうですか。柏仁会会長の槙原に動きはないですか?」
《それについては現在、組対が総力を挙げて追っている》
つまりは分からないのだろう。京哉は自分もサンエイ第一ビルに向かうと告げて通話を切った。逆井とかいうスナイパーを殺してはいない。ただパーティーの時と今回とで放置すれば命に関わる怪我を負っているのは確かだ。運転席に座るとアクセルを踏み込む。
殺してでも霧島の居場所を吐かせるつもりで京哉は敵の許へと急いだ。
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