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第53話(最終話)
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「銃を置け! 何もかも、貴様らさえも捨てて逝くような男のために罪を犯すな!」
銃を持った手下たちが頼るものを探すように目を泳がせる。更に霧島は続けた。
「銃刀法違反及びその加重所持は三年以上の懲役だが、有期刑であって人生はまだまだ残されている。罪を償ってやり直す気があるならこの霧島の許に来い。身柄引受人になってやる」
しんと静まり返った中、手下たちが足元に銃を置く。だがその顔つきは暗くはなく闇で一条の光明を見出したような表情だった。
そこで霧島が部下に指示を飛ばして救急要請と、組対に捜一及び所轄である白藤署の刑事課に応援要請を出させた。
ここから先は、はっきり言って初動捜査専門の機捜だけでは手に余るのと、やはり隊員たちをこれ以上の危険に晒したくなかったからである。屋敷内全てチェックした訳ではない。何処にチンピラの伏兵がいるか分からないのだ。
更には部下たちがスタンドプレイのバッシングを受けないための配慮でもあった。
一ノ瀬本部長から根回しされて事態を把握していた関係各局はすっ飛んできた。
救急車で負傷した槙原及び手下たちを見張り付きで送り出し、残りの手下らを捕らえて所轄署送りにしたのち、霧島と京哉は隊員たちと共に本部の詰め所に戻る。それで終わりではなく各局での事情聴取と発砲した者は実況見分もあり、全てを終わらせて霧島と京哉が詰め所に帰った時には夜が明けていた。
幕の内の朝飯を食ってから、週末ということで帰らせて貰う。
久々に帰ったマンションでエアコンとTVを点け、霧島はリビングの二人掛けソファでウィスキーを飲み始めた。京哉はキッチンの換気扇の下でインスタントコーヒーと煙草を味わう。
するとTVニュースではもう柏仁会会長の狙撃逮捕と、そのブログの設営者側からの閉鎖が告げられていた。それでも閉鎖までの僅かな間にブログを見た者たちがネット上で蜂の巣を突いたような騒ぎらしい。
「騒ぎといえば槙原に暗殺者を仲介して貰った人たちも戦々恐々でしょうね」
「今回は宗田理研が当局側に回ったからな。ここで槙原を擁護しては暗殺肯定派だと堂々と名乗り出るも同じ、誰もが息を潜めて槙原の供述を見守っていることだろう」
「槙原は吐くと思いますか?」
「ヤクザと思想犯は吐かんのが一般的だ。だが槙原のようなああいう中二病的な男は一度落ちたら、ウタうのも早い。自分が一番可愛いからな」
「首相まで殺そうとした以上、有罪になったら刑も重たいでしょうからね。なるべく早くウタって僅かなりともバーター的な心証を得たいってとこですか。でもまた政府与党の重鎮議員先生ですよ。いい加減に首相も大変かも」
「喩え政府が転覆しても国家が転覆する訳ではない。それに現在の風は滝本首相から吹いている。解散総選挙という禊を済ませたら国民生活は元通りだ」
醒めた発言をしてウィスキーを減らす霧島の飲み方を見て、京哉は眉をひそめると帰りにスーパーカガミヤで購入してきた食材で手早くハム野菜サラダを作り、総菜の揚げ物を盛り付け直してレンジで温める。
トレイに載せてリビングに持って行くと、新しいが前と変わらぬロウテーブルに並べた。自分はソファに座らずブルー系のラグに直接腰を下ろす。
そこで霧島の携帯が鳴る。メールではなくコールで霧島はすぐに出た。
「はい、こちら霧島」
《一ノ瀬だ。成田空港の第二ターミナルビルで国外に飛ぼうとしていた柏仁会のヒットマン三名を確保した。おそらくきみたちにカチコミを掛けた人物で間違いないと思われる。なお確保に際して通報し、多大な協力をした一般人は霧島カンパニーの情報セキュリティ部門の人間だったそうだ。何故かこれを霧島会長から鳴海くんに伝えて欲しいと何度も念を押されたのだがね》
「なるほど、そうですか」
《わたしの用はそれだけだ。ゆっくり連休を過ごしてくれたまえ。では》
通話を切ると耳を澄ませて聞いていた京哉が、微笑みながら霧島に箸を持たせる。
「せめて食べながら飲んで下さい」
「私はお前を食べたいんだがな」
「そうですか。けどどっちかというと僕が食べる側で……じゃなくて!」
徹夜明けの上に一服盛られるまで三日も寝ていなかった京哉は疲れからか思いも寄らないことを口にしてしまい頬に血を上らせた。一方の霧島は破顔して立ち上がる。
「そうか、私を食ってくれるのか。ならばさっさとシャワーを使ってこよう」
「せっかくですから、サラダくらいは食べて下さい」
「珍しく拒否しないのだな」
「僕も疲れてアレがナニで……って、さっさと食べてシャワー浴びましょう!」
二人がサラダを頬張っている間にニュースでは、リンドル王国の防衛大臣が国家警察省に逮捕され、取り調べを受けていることが報じられていた。
◇◇◇◇
そうして非常に仲良く土日を過ごした霧島と京哉だったが、週が明けて機捜の詰め所に出ると、一転してサボった小田切が書類の督促メールを十二通も放置し、インフルエンザで上番する二班の隊員が殆ど全員斬りという修羅場を体験することになったのだった。
了
銃を持った手下たちが頼るものを探すように目を泳がせる。更に霧島は続けた。
「銃刀法違反及びその加重所持は三年以上の懲役だが、有期刑であって人生はまだまだ残されている。罪を償ってやり直す気があるならこの霧島の許に来い。身柄引受人になってやる」
しんと静まり返った中、手下たちが足元に銃を置く。だがその顔つきは暗くはなく闇で一条の光明を見出したような表情だった。
そこで霧島が部下に指示を飛ばして救急要請と、組対に捜一及び所轄である白藤署の刑事課に応援要請を出させた。
ここから先は、はっきり言って初動捜査専門の機捜だけでは手に余るのと、やはり隊員たちをこれ以上の危険に晒したくなかったからである。屋敷内全てチェックした訳ではない。何処にチンピラの伏兵がいるか分からないのだ。
更には部下たちがスタンドプレイのバッシングを受けないための配慮でもあった。
一ノ瀬本部長から根回しされて事態を把握していた関係各局はすっ飛んできた。
救急車で負傷した槙原及び手下たちを見張り付きで送り出し、残りの手下らを捕らえて所轄署送りにしたのち、霧島と京哉は隊員たちと共に本部の詰め所に戻る。それで終わりではなく各局での事情聴取と発砲した者は実況見分もあり、全てを終わらせて霧島と京哉が詰め所に帰った時には夜が明けていた。
幕の内の朝飯を食ってから、週末ということで帰らせて貰う。
久々に帰ったマンションでエアコンとTVを点け、霧島はリビングの二人掛けソファでウィスキーを飲み始めた。京哉はキッチンの換気扇の下でインスタントコーヒーと煙草を味わう。
するとTVニュースではもう柏仁会会長の狙撃逮捕と、そのブログの設営者側からの閉鎖が告げられていた。それでも閉鎖までの僅かな間にブログを見た者たちがネット上で蜂の巣を突いたような騒ぎらしい。
「騒ぎといえば槙原に暗殺者を仲介して貰った人たちも戦々恐々でしょうね」
「今回は宗田理研が当局側に回ったからな。ここで槙原を擁護しては暗殺肯定派だと堂々と名乗り出るも同じ、誰もが息を潜めて槙原の供述を見守っていることだろう」
「槙原は吐くと思いますか?」
「ヤクザと思想犯は吐かんのが一般的だ。だが槙原のようなああいう中二病的な男は一度落ちたら、ウタうのも早い。自分が一番可愛いからな」
「首相まで殺そうとした以上、有罪になったら刑も重たいでしょうからね。なるべく早くウタって僅かなりともバーター的な心証を得たいってとこですか。でもまた政府与党の重鎮議員先生ですよ。いい加減に首相も大変かも」
「喩え政府が転覆しても国家が転覆する訳ではない。それに現在の風は滝本首相から吹いている。解散総選挙という禊を済ませたら国民生活は元通りだ」
醒めた発言をしてウィスキーを減らす霧島の飲み方を見て、京哉は眉をひそめると帰りにスーパーカガミヤで購入してきた食材で手早くハム野菜サラダを作り、総菜の揚げ物を盛り付け直してレンジで温める。
トレイに載せてリビングに持って行くと、新しいが前と変わらぬロウテーブルに並べた。自分はソファに座らずブルー系のラグに直接腰を下ろす。
そこで霧島の携帯が鳴る。メールではなくコールで霧島はすぐに出た。
「はい、こちら霧島」
《一ノ瀬だ。成田空港の第二ターミナルビルで国外に飛ぼうとしていた柏仁会のヒットマン三名を確保した。おそらくきみたちにカチコミを掛けた人物で間違いないと思われる。なお確保に際して通報し、多大な協力をした一般人は霧島カンパニーの情報セキュリティ部門の人間だったそうだ。何故かこれを霧島会長から鳴海くんに伝えて欲しいと何度も念を押されたのだがね》
「なるほど、そうですか」
《わたしの用はそれだけだ。ゆっくり連休を過ごしてくれたまえ。では》
通話を切ると耳を澄ませて聞いていた京哉が、微笑みながら霧島に箸を持たせる。
「せめて食べながら飲んで下さい」
「私はお前を食べたいんだがな」
「そうですか。けどどっちかというと僕が食べる側で……じゃなくて!」
徹夜明けの上に一服盛られるまで三日も寝ていなかった京哉は疲れからか思いも寄らないことを口にしてしまい頬に血を上らせた。一方の霧島は破顔して立ち上がる。
「そうか、私を食ってくれるのか。ならばさっさとシャワーを使ってこよう」
「せっかくですから、サラダくらいは食べて下さい」
「珍しく拒否しないのだな」
「僕も疲れてアレがナニで……って、さっさと食べてシャワー浴びましょう!」
二人がサラダを頬張っている間にニュースでは、リンドル王国の防衛大臣が国家警察省に逮捕され、取り調べを受けていることが報じられていた。
◇◇◇◇
そうして非常に仲良く土日を過ごした霧島と京哉だったが、週が明けて機捜の詰め所に出ると、一転してサボった小田切が書類の督促メールを十二通も放置し、インフルエンザで上番する二班の隊員が殆ど全員斬りという修羅場を体験することになったのだった。
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