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第17話
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「あーあ、これでBEL窃盗だけじゃなくて、下手すればローゼンバーグの当主誘拐だよ」
「仕方ねぇだろ、あのまま置いといて殺させる訳にはいかねぇだろうが」
「まさか調別だって本当にローゼンバーグの当主を殺しはしないだろうから、幾らでも生き延びる方策はあると思うけどね。それこそイゾルデ大伯母様とやらにでも泣きつくとかサ」
「お前、よっぽどエマをつれてきたのが気に食わねぇんだな」
「当たり前じゃない。調別のエージェント相手に僕らだけだって生き残れるかどうか分からないのに、貴方そんなに余裕のフリして誰かを助けようなんて、いつか後悔するからね……んんっ!」
民間機のパイロット席である右席から身を乗り出したシドに、いきなり口づけられてハイファは息を詰まらせた。歯列をこじ開けて入り込んできた温かな舌に思考の回転が止まる。
幾らも経たないうちに口内をねぶり回しては、唾液を要求するシドに応えてしまっていた。
「んっ……ぅうん……ん……はぁん」
「くそう、色っぽいな……二人だけならこのままホテルにでも入って押し倒してぇんだが」
「ふん、だ。二人だけじゃなくしたのは自分でしょ、今更そんな美味しいこと言っても無駄ですよーだ。ところで何処に飛んで行けばいいんですか?」
「それは後ろの客とも相談しねぇと……エマ、生きてるか?」
素早くハイファがタリアの都市上空を旋回するようオートパイロットをセットして振り向くと、エマは後部座席で身を起こしていた。
シドが調別などという、ある意味信じがたいモノを省いて『刺客があんたと絵を狙って襲ってきた』などと説明すると、エマはおっとりしていても幾度かの死の危険を乗り越えてきたということか、割と簡単に我が身に降り掛かったことを理解したようだった。
「そう。助けてくれてありがとう。でもシド、貴方は撃たれたんじゃなかったの?」
「いや、大丈夫だ。それより何処に行きたいか希望はあるのか?」
「ちょっとすぐには思いつかないわ」
「そうか。じゃあ、取り敢えずこの星を出ようぜ」
聞いていたハイファもその意見には賛成だった。このエターナにいれば嫌でも調別との戦争になってしまう。そしてエマという存在を背負い続ける限り、ローゼンバーグが支配すると言っても過言でないこの星では「ここにいます」と喚き続けるのと同義だからだ。
「時間との勝負だね。で、何処の星に行くのサ?」
そこでエマが首を傾げて訊いた。
「何処でもいいのかしら?」
「可能範囲ならウチのパイロットが善処する」
何を勝手にと思ったが、ハイファは口に出さず。
「そうね……じゃあ、わたし、ラクリモライトを掘ってみたいわ」
友達の家に押しかけるようにのんびり言われ、シドとハイファは呆気にとられる。
ラクリモライトは長年のダイアモンドの地位を奪った石だ。虹色の輝きは汎銀河中の女性の視線を奪って離さない。手に入れたいという女性はごまんといるだろう。
「だからって何でそこで宝石掘りなんだ?」
「わたし、宝飾デザイナーなんてしているけれど、原石そのままっていうのは殆ど見たことがないの。欲しい訳じゃない、ただ原石の美しさをこの目で確かめるのが夢だったのよ」
「ふうん、そうか。ならパライバ星系にでも行くか」
「シドっ! ふざけるのもいい加減にしてよね!」
パライバ星系は各種の宝石が採れることで有名な星系、美しい海もあり隠れたリゾート地でもあったが、それはともかく狙われている身でありながら、そんな大旅行など有り得ない。
とうとう吼えたハイファにエマがふんわりと笑う。
「そんな遠くまで行かなくても、このユトリア星系にだってラクリモライトの産地はあるわ。第三惑星グリーナになら、小さいけれど採掘場があるの」
「へえ、第三惑星グリーナか。灯台もと暗しってこともあるしさ、そこなら一週間くらい身を隠すこともできそうじゃねぇか?」
「わあ、本当につれて行ってくれるの? 嬉しい!」
盛り上がる二人にハイファは苛つきながらオートパイロットの座標を指定し直し、BELのノーズをタリア第二宙港に向けた。第一宙港にしなかったのは僅かなりとも調別エージェントの目を欺けるかという思いからである。
そしてこれまでの経過をごく短い文章に脳内でまとめると、リモータ操作しダイレクトワープ通信で別室に送信した。
電波も光と同じ速さでしかない以上、通常の星系間通信は宙艦で運ばれる。ワープの分だけ光よりも速いからだ。そうして通信は通常航行とワープ数回を経て届く。だが通常航行の分、ラグタイムが生じるのは当然である。
しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを使用するため直接相手に届く。ラグタイムが生じないのだ。
けれど亜空間にレピータを設置・維持する技術は難度が高く、そのため資本主義社会のテラ連邦圏でダイレクトワープ通信は、非常にコストが掛かる通信方法として知られている。故に伝統ある耐乏軍人のハイファは毎回容量を小さくしようと奮闘するハメになるのだ。
それでも今はムカついてる分、少々長くなってしまった気がしていた。
だが仕方ない。早急に室長から調別に圧力を掛けて貰わねばならないからだ。まさか本当に一週間も調別エージェントとサバイバルゲームなどやってはいられない。
あとはリモータ検索でタリア第二宙港からの第三惑星グリーナ便を見つけ出した。
「仕方ねぇだろ、あのまま置いといて殺させる訳にはいかねぇだろうが」
「まさか調別だって本当にローゼンバーグの当主を殺しはしないだろうから、幾らでも生き延びる方策はあると思うけどね。それこそイゾルデ大伯母様とやらにでも泣きつくとかサ」
「お前、よっぽどエマをつれてきたのが気に食わねぇんだな」
「当たり前じゃない。調別のエージェント相手に僕らだけだって生き残れるかどうか分からないのに、貴方そんなに余裕のフリして誰かを助けようなんて、いつか後悔するからね……んんっ!」
民間機のパイロット席である右席から身を乗り出したシドに、いきなり口づけられてハイファは息を詰まらせた。歯列をこじ開けて入り込んできた温かな舌に思考の回転が止まる。
幾らも経たないうちに口内をねぶり回しては、唾液を要求するシドに応えてしまっていた。
「んっ……ぅうん……ん……はぁん」
「くそう、色っぽいな……二人だけならこのままホテルにでも入って押し倒してぇんだが」
「ふん、だ。二人だけじゃなくしたのは自分でしょ、今更そんな美味しいこと言っても無駄ですよーだ。ところで何処に飛んで行けばいいんですか?」
「それは後ろの客とも相談しねぇと……エマ、生きてるか?」
素早くハイファがタリアの都市上空を旋回するようオートパイロットをセットして振り向くと、エマは後部座席で身を起こしていた。
シドが調別などという、ある意味信じがたいモノを省いて『刺客があんたと絵を狙って襲ってきた』などと説明すると、エマはおっとりしていても幾度かの死の危険を乗り越えてきたということか、割と簡単に我が身に降り掛かったことを理解したようだった。
「そう。助けてくれてありがとう。でもシド、貴方は撃たれたんじゃなかったの?」
「いや、大丈夫だ。それより何処に行きたいか希望はあるのか?」
「ちょっとすぐには思いつかないわ」
「そうか。じゃあ、取り敢えずこの星を出ようぜ」
聞いていたハイファもその意見には賛成だった。このエターナにいれば嫌でも調別との戦争になってしまう。そしてエマという存在を背負い続ける限り、ローゼンバーグが支配すると言っても過言でないこの星では「ここにいます」と喚き続けるのと同義だからだ。
「時間との勝負だね。で、何処の星に行くのサ?」
そこでエマが首を傾げて訊いた。
「何処でもいいのかしら?」
「可能範囲ならウチのパイロットが善処する」
何を勝手にと思ったが、ハイファは口に出さず。
「そうね……じゃあ、わたし、ラクリモライトを掘ってみたいわ」
友達の家に押しかけるようにのんびり言われ、シドとハイファは呆気にとられる。
ラクリモライトは長年のダイアモンドの地位を奪った石だ。虹色の輝きは汎銀河中の女性の視線を奪って離さない。手に入れたいという女性はごまんといるだろう。
「だからって何でそこで宝石掘りなんだ?」
「わたし、宝飾デザイナーなんてしているけれど、原石そのままっていうのは殆ど見たことがないの。欲しい訳じゃない、ただ原石の美しさをこの目で確かめるのが夢だったのよ」
「ふうん、そうか。ならパライバ星系にでも行くか」
「シドっ! ふざけるのもいい加減にしてよね!」
パライバ星系は各種の宝石が採れることで有名な星系、美しい海もあり隠れたリゾート地でもあったが、それはともかく狙われている身でありながら、そんな大旅行など有り得ない。
とうとう吼えたハイファにエマがふんわりと笑う。
「そんな遠くまで行かなくても、このユトリア星系にだってラクリモライトの産地はあるわ。第三惑星グリーナになら、小さいけれど採掘場があるの」
「へえ、第三惑星グリーナか。灯台もと暗しってこともあるしさ、そこなら一週間くらい身を隠すこともできそうじゃねぇか?」
「わあ、本当につれて行ってくれるの? 嬉しい!」
盛り上がる二人にハイファは苛つきながらオートパイロットの座標を指定し直し、BELのノーズをタリア第二宙港に向けた。第一宙港にしなかったのは僅かなりとも調別エージェントの目を欺けるかという思いからである。
そしてこれまでの経過をごく短い文章に脳内でまとめると、リモータ操作しダイレクトワープ通信で別室に送信した。
電波も光と同じ速さでしかない以上、通常の星系間通信は宙艦で運ばれる。ワープの分だけ光よりも速いからだ。そうして通信は通常航行とワープ数回を経て届く。だが通常航行の分、ラグタイムが生じるのは当然である。
しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを使用するため直接相手に届く。ラグタイムが生じないのだ。
けれど亜空間にレピータを設置・維持する技術は難度が高く、そのため資本主義社会のテラ連邦圏でダイレクトワープ通信は、非常にコストが掛かる通信方法として知られている。故に伝統ある耐乏軍人のハイファは毎回容量を小さくしようと奮闘するハメになるのだ。
それでも今はムカついてる分、少々長くなってしまった気がしていた。
だが仕方ない。早急に室長から調別に圧力を掛けて貰わねばならないからだ。まさか本当に一週間も調別エージェントとサバイバルゲームなどやってはいられない。
あとはリモータ検索でタリア第二宙港からの第三惑星グリーナ便を見つけ出した。
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