セイレーン~楽園27~

志賀雅基

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第6話

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 目の前にはコンテナが幾つも積まれ、丁度目隠しになっていた。ここは影だが天井のライトパネルは明るい。シドがそっと移動するのについてゆく。

 足音を忍ばせてコンテナの角から向こうを覗いた。中央に大きな、コンテナふたつ分くらいの箱形のモノがリフトコイル用のパレット上に据えられている。その傍で男が六名、立ち話をしていた。六名の中にコンビニ袋を提げた男二人も混じっている。

 そして他の二人がパルスレーザー小銃を、二人がテラ連邦軍でも制式採用されているサディM18小銃というライフルをスリングで肩に掛けていた。

「あーあ、ストライクしちゃったよ」

 幾ら危険な星に荷を運ぶ業者であっても、一般人にあんな長モノの所持許可など下りる筈がない。

「五月蠅い、ハイファ。それより発振しておけよ」
「分かってるって」

 短縮ボタンでハイファが署に同報を入れた、途端にリモータが震え出す。書類に不備でもあったのか発振パターンはFC、だが運の悪いタイミング。音はなくとも空気が震えた。

「誰だ!」

 男たちが一斉にこちらへと銃口を向けていた。荒事に慣れていると思わせる挙動だった。

「退いてろ、ハイファ!」

 ドアから出る余裕もないとシドは判断、威嚇の大声を出す。続けざまに大喝した。

「惑星警察だ、銃を捨てて頭の上で両手を組め!」

 返ってきたのはレーザーと弾の雨だった。隠れていたファイバのコンテナの角が削られ、融かされる。シドがハイファの前に出た。シドの着用しているチャコールグレイのジャケットはクリティカルな日々を生き抜くための特殊アイテム、対衝撃ジャケットだ。

 自腹を切ったその価格も六十万クレジットというこれは、余程の至近距離でもなければ四十五口径弾を食らっても打撲程度で済ませ、生地はレーザーもある程度弾くシールドファイバというものだ。挟まれた衝撃吸収ゲルで重たいものの、何度これで命を拾ったか分からないほどで、外出時には手放せないシドの制服である。

「シド、やるの?」
「しか、ねぇだろ!」

 シドが引き抜いたのはレールガンだった。
 セントラルエリア統括本部長命令で特別貸与されているこれは武器開発課が作った奇跡と呼ばれ、針状通電弾体・フレシェット弾を三桁もの連射が可能な巨大なシロモノだ。マックスパワーなら五百メートルもの有効射程を誇る危険物である。右腰のヒップホルスタから下げてなお、突き出した長い銃身バレルをホルスタ付属のバンドで大腿部に留めて保持していた。

 ハイファも既に愛銃を手にしている。
 ソフトスーツの懐、ドレスシャツの左脇にいつも吊っているのは火薬パウダーカートリッジ式の旧式銃だ。薬室チャンバ一発ダブルカラムマガジン十七発、合計十八連発の大型セミ・オートマチック・ピストルは、名銃テミスM89をコピーした品だった。

 撃ち出す弾は認可された硬化プラではなくフルメタルジャケット九ミリパラベラムで、異種人類の集う最高立法機関である汎銀河条約機構のルール・オブ・エンゲージメント、交戦規定に違反している。パワーコントロール不能の銃本体も違反品、元より私物で別室から手を回して貰い、特権的に登録し使用しているのだ。

 二人にとって銃はもはや生活必需品で、捜査戦術コンも認めている。

 コンテナの角を融かしたレーザーがシドの左腕に当たった。対衝撃ジャケットのシールドファイバがこれを弾く。シド、応射。顔と頭を左腕でカヴァーしつつトリプルショットを放つ。だがこちらはコンテナの左側だ、ある程度身を晒さないと狙えない。それでも一射がパルスレーザーガンを構えた男の腹にヒットする。男は身を揺らがせ頽れた。

 相手が怯んだ隙にハイファもシドの肩越しに撃った。「ガォン!」という轟音は一射に聞こえるほどの速射でダブルタップ。的の大きな腹に確実に当ててゆく。

 一瞬で仲間三人を倒され、残る男三人は躍起になって撃ち込んできた。火線が激しく反撃できない。シドとハイファはコンテナの反対側へと走った。回り込んでもうひとつ前のコンテナへ。中央に据えられた大きな物体が邪魔で見通しは悪いが、これで右手に有利な射撃姿勢が取れる。二人は代わる代わる撃った。

 火線がこちらを向いてサディのプラ弾がシドの腹と胸に着弾。プラ弾といえども殺傷能力は充分で、その有効射程三百メートルというライフル弾にシドは二歩後退して耐える。シドを撃たれて黙っていられないハイファがダブルタップをサディの男に食らわせた。

 あとはハンドガンのコンビニ男たち、シドはややパワーを上げた一射を男の右腕に当てる。フレシェット弾が銃を持った腕ごとちぎって地に落とした。シドほど甘くないハイファは無造作にテミスコピーを撃つ。九ミリパラが残った男の胸に叩き込まれた。

 やっと静けさが戻り、十秒ほどのサイレントタイムののちハイファが口を開く。

「あー、吃驚した。すんごいストライクだよねえ」
「暢気にしてないで、行くぞ」

 シドが先に立ってそっとコンテナの陰から出た。気配を探るが呻く男たち以外、誰もいないようだ。合図でハイファも倉庫の中央に進み出る。二人は男たちから銃を蹴り飛ばして距離を取らせたのち、シドがベルトに着けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを抜いて、腕を撃ち落とした男の止血処置をした。腹や胸に風穴が空いた奴は救急に任せるしかない。

「ねえ、これって何かなあ?」
「さあな。大事な荷物、見てみるか」

 中央のコンテナふたつ分もある大きな物体には遮光性のあるらしい分厚い布が掛けられていた。それを無造作にハイファが引っ張って落とす。そこでシドは異様なモノを見た。

 物体は水槽だった。満々と水が張られた中には見知った生き物がいた。見知ってはいたが本物は初めて見る……上半身は紛れもない人で下半身は鱗が並び尾びれに繋がっている。

 それは人魚だった。
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