64 / 96
第64話
しおりを挟む
外は寒くても乾燥しているので喉はカラカラ、売り上げアップのために店内もヒータを入れているようで暖かかった。シドが瓶ビールを頼むとすぐに出てくる。
更にソーセージやフィッシュ&チップスなどをクレジットと交換に頼んで、二人は何となく乾杯した。キリッと冷えた瓶ビールが喉に心地良い。
出された料理も不味くなかった。いつも辛口の採点をする主夫ハイファも夕食を二時間半前に食したとは思えないくらい次々とフォークで口に運んでいる。
瓶ビールに直接口をつけているのに、それでもハイファが優雅に見えて妙に可笑しかった。
結局シドは二本半、ハイファは一本半を空けて腰を上げた。
だがドアに向かって歩き出した途端にハイファがつまずき、横からシドが腕を掴んで危うく転ぶのを免れる。酔ってふらついたのではない、テーブル席から男が足を差し出し引っかけたのだ。そのテーブルには男ばかりが四人いて皆が下卑た嗤いを洩らしている。
四人が四人ともに見た目はそう悪くなかった。シドたちとさほど変わらない年齢で酔ってさえいなければそれなりの紳士に見えるだろう、仕立てのいいスーツを着用している。
しかし相当悪酔いしているようだ。こんな奴らに付き合うだけ時間の無駄である。綺麗に無視してシドはハイファを促し、店を出ようとした。
けれど素早く男の一人がハイファの腰近くまで流れる金髪を掴んで引き寄せるという所業に及ぶと、シドもひとことコメントしたくなる。ハイファの髪に触れていいのは自分だけだ。
だがシドが口を開く前に男たちの方がダミ声を張り上げた。
「こっちにきて酌でもしてくれよ」
「おっ、何だよ、女じゃないのか」
「でもそこらの女より、よっぽど綺麗な顔してるぜ」
「あっちの方も女より具合がいいんじゃないか?」
「もう一人もえらく顔は綺麗だが、食いちぎりそうな目ぇしてるぞ」
げらげら嗤う男たちの低能ぶりに嫌気が差し、シドは男の手首を掴んで急所に親指をめり込ませハイファの髪を離させると、そのまま逆手に捻り上げて突き放した。
「ハイファ、行くぞ」
「そうだね。付き合ってるとバカが伝染するかも」
それを聞いて男たちがいきり立つ。椅子を蹴る勢いで立ち上がるなり吼えた。
「何だと、バカにしやがったな!」
噛んで含めるようにシドが男たちに告げる。
「バカにしたんじゃねぇ、お前らはバカなんだ。自覚のねぇバカは本人には災難、他人には災害だ。気の毒には思うが、俺たちも災害には遭いたくねぇ。黙って死んでくれ。じゃあな」
その言葉に笑いが湧いた。酔いもプラスして笑い転げている客もいる。
ここまで恥をかかされて男たちは黙っていない。
「野郎、ぶっ殺してやる!」
吼えつつ予想通りに一人が殴り掛かってきたのをシドは一歩下がり綺麗に避けた。宙にフックをかまして空振りした男が酔いも手伝って泳ぐように前のめりに転ぶ。二人目のこぶしをウィービングで躱し、右ストレートをその頬に叩き込んだ。
ガタガタと椅子を倒しながら仲間に受け止められた男は、上着で隠していたベルトの腹の銃を抜こうとする。だが鼻先に突き付けられた巨大レールガンとテミスコピーの銃口に息まで止めて見入った。その隙のなさに他の三人も腹の銃を抜くに抜けず硬直する。
「シド、ここで撃つとお店に迷惑だよ」
「そうだな。だが世界人類のためにはなるぞ」
「でも、料理も美味しかったし、やっぱり悪いよ」
「そうか、手間だが仕方ねぇな」
ということで、二人は銃にモノを言わせて四人を立たせると先行させて店から外に追い出した。そのまま隣の公園まで牧羊犬の気分で追い立てる。
四号警備はついてきているが、気配を消して見守っているだけだ。
街灯や他の店の電子看板などに照らされ、足を置けばぼんやりと光る発光素子入りのファイバブロックなどで割と見通しのいい公園の中に踏み込むと、冷たい風がビルの間を吹き抜けていた。長めのシドの前髪とハイファのしっぽが軽く吹き乱される。
噴水の傍までくると腰の引けた男たちから銃を取り上げ、シドとハイファは惜しげもなくそれを噴水の溜まった水の中にボチャンと放り込んだ。
顔をこわばらせた男たちの前でシドはレールガンをヒップホルスタに仕舞う。ハイファはテミスコピーを手にしたままだ。だがシドは何処吹く風で男らに背を向ける。
「シド、放っといていいの?」
「バカが伝染すると困るんだろ、いいから帰ろうぜ」
「うーん、まあいいか」
だが呆然と立っていた男たちがふいに我に返り唸り声を上げて飛び掛かってきた。肉体派でないことを承知しているハイファはサッと避ける。スパイの身上、逃げ足は速い。それ故に四人が一斉にシドに襲い掛かった。
振り向いたシドは右ストレートをかいくぐる。こぶしを飛ばした男の横っ面に上段回し蹴りを食らわせ、その勢いで背後に忍び寄った男の腹に腰の入った回し蹴りを叩き込んだ。腕を掴もうとした一人の横腹に肘鉄を一閃させ足を払って倒れた頭に容赦ない蹴りを見舞う。
残った男が奇声を上げてむしゃぶりついてきた。だが怯えて半ば腰の引けた単調な動きはシドの敵ではなく、一歩下がって間合いを取り胸ぐらと袖を掴む。男の勢いを利用して身を返し腰に体重を載せ、背負い投げてファイバブロックの上に叩きつけた。
ベルトに着けたリングから捕縛用結束バンドを抜き、四人を後ろ手に縛り上げる。
「はーい、ワンラウンド十秒でKO勝ち……どうするの、通報する?」
「いや、その前に……そこで見てる奴、出てこい!」
とうにハイファも存在に気付いていた男は街灯の下で煙草を吸っていた。
更にソーセージやフィッシュ&チップスなどをクレジットと交換に頼んで、二人は何となく乾杯した。キリッと冷えた瓶ビールが喉に心地良い。
出された料理も不味くなかった。いつも辛口の採点をする主夫ハイファも夕食を二時間半前に食したとは思えないくらい次々とフォークで口に運んでいる。
瓶ビールに直接口をつけているのに、それでもハイファが優雅に見えて妙に可笑しかった。
結局シドは二本半、ハイファは一本半を空けて腰を上げた。
だがドアに向かって歩き出した途端にハイファがつまずき、横からシドが腕を掴んで危うく転ぶのを免れる。酔ってふらついたのではない、テーブル席から男が足を差し出し引っかけたのだ。そのテーブルには男ばかりが四人いて皆が下卑た嗤いを洩らしている。
四人が四人ともに見た目はそう悪くなかった。シドたちとさほど変わらない年齢で酔ってさえいなければそれなりの紳士に見えるだろう、仕立てのいいスーツを着用している。
しかし相当悪酔いしているようだ。こんな奴らに付き合うだけ時間の無駄である。綺麗に無視してシドはハイファを促し、店を出ようとした。
けれど素早く男の一人がハイファの腰近くまで流れる金髪を掴んで引き寄せるという所業に及ぶと、シドもひとことコメントしたくなる。ハイファの髪に触れていいのは自分だけだ。
だがシドが口を開く前に男たちの方がダミ声を張り上げた。
「こっちにきて酌でもしてくれよ」
「おっ、何だよ、女じゃないのか」
「でもそこらの女より、よっぽど綺麗な顔してるぜ」
「あっちの方も女より具合がいいんじゃないか?」
「もう一人もえらく顔は綺麗だが、食いちぎりそうな目ぇしてるぞ」
げらげら嗤う男たちの低能ぶりに嫌気が差し、シドは男の手首を掴んで急所に親指をめり込ませハイファの髪を離させると、そのまま逆手に捻り上げて突き放した。
「ハイファ、行くぞ」
「そうだね。付き合ってるとバカが伝染するかも」
それを聞いて男たちがいきり立つ。椅子を蹴る勢いで立ち上がるなり吼えた。
「何だと、バカにしやがったな!」
噛んで含めるようにシドが男たちに告げる。
「バカにしたんじゃねぇ、お前らはバカなんだ。自覚のねぇバカは本人には災難、他人には災害だ。気の毒には思うが、俺たちも災害には遭いたくねぇ。黙って死んでくれ。じゃあな」
その言葉に笑いが湧いた。酔いもプラスして笑い転げている客もいる。
ここまで恥をかかされて男たちは黙っていない。
「野郎、ぶっ殺してやる!」
吼えつつ予想通りに一人が殴り掛かってきたのをシドは一歩下がり綺麗に避けた。宙にフックをかまして空振りした男が酔いも手伝って泳ぐように前のめりに転ぶ。二人目のこぶしをウィービングで躱し、右ストレートをその頬に叩き込んだ。
ガタガタと椅子を倒しながら仲間に受け止められた男は、上着で隠していたベルトの腹の銃を抜こうとする。だが鼻先に突き付けられた巨大レールガンとテミスコピーの銃口に息まで止めて見入った。その隙のなさに他の三人も腹の銃を抜くに抜けず硬直する。
「シド、ここで撃つとお店に迷惑だよ」
「そうだな。だが世界人類のためにはなるぞ」
「でも、料理も美味しかったし、やっぱり悪いよ」
「そうか、手間だが仕方ねぇな」
ということで、二人は銃にモノを言わせて四人を立たせると先行させて店から外に追い出した。そのまま隣の公園まで牧羊犬の気分で追い立てる。
四号警備はついてきているが、気配を消して見守っているだけだ。
街灯や他の店の電子看板などに照らされ、足を置けばぼんやりと光る発光素子入りのファイバブロックなどで割と見通しのいい公園の中に踏み込むと、冷たい風がビルの間を吹き抜けていた。長めのシドの前髪とハイファのしっぽが軽く吹き乱される。
噴水の傍までくると腰の引けた男たちから銃を取り上げ、シドとハイファは惜しげもなくそれを噴水の溜まった水の中にボチャンと放り込んだ。
顔をこわばらせた男たちの前でシドはレールガンをヒップホルスタに仕舞う。ハイファはテミスコピーを手にしたままだ。だがシドは何処吹く風で男らに背を向ける。
「シド、放っといていいの?」
「バカが伝染すると困るんだろ、いいから帰ろうぜ」
「うーん、まあいいか」
だが呆然と立っていた男たちがふいに我に返り唸り声を上げて飛び掛かってきた。肉体派でないことを承知しているハイファはサッと避ける。スパイの身上、逃げ足は速い。それ故に四人が一斉にシドに襲い掛かった。
振り向いたシドは右ストレートをかいくぐる。こぶしを飛ばした男の横っ面に上段回し蹴りを食らわせ、その勢いで背後に忍び寄った男の腹に腰の入った回し蹴りを叩き込んだ。腕を掴もうとした一人の横腹に肘鉄を一閃させ足を払って倒れた頭に容赦ない蹴りを見舞う。
残った男が奇声を上げてむしゃぶりついてきた。だが怯えて半ば腰の引けた単調な動きはシドの敵ではなく、一歩下がって間合いを取り胸ぐらと袖を掴む。男の勢いを利用して身を返し腰に体重を載せ、背負い投げてファイバブロックの上に叩きつけた。
ベルトに着けたリングから捕縛用結束バンドを抜き、四人を後ろ手に縛り上げる。
「はーい、ワンラウンド十秒でKO勝ち……どうするの、通報する?」
「いや、その前に……そこで見てる奴、出てこい!」
とうにハイファも存在に気付いていた男は街灯の下で煙草を吸っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる