高貴なる義務の果て~楽園19~

志賀雅基

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第64話

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 外は寒くても乾燥しているので喉はカラカラ、売り上げアップのために店内もヒータを入れているようで暖かかった。シドが瓶ビールを頼むとすぐに出てくる。

 更にソーセージやフィッシュ&チップスなどをクレジットと交換に頼んで、二人は何となく乾杯した。キリッと冷えた瓶ビールが喉に心地良い。
 出された料理も不味くなかった。いつも辛口の採点をする主夫ハイファも夕食を二時間半前に食したとは思えないくらい次々とフォークで口に運んでいる。

 瓶ビールに直接口をつけているのに、それでもハイファが優雅に見えて妙に可笑しかった。

 結局シドは二本半、ハイファは一本半を空けて腰を上げた。

 だがドアに向かって歩き出した途端にハイファがつまずき、横からシドが腕を掴んで危うく転ぶのを免れる。酔ってふらついたのではない、テーブル席から男が足を差し出し引っかけたのだ。そのテーブルには男ばかりが四人いて皆が下卑た嗤いを洩らしている。

 四人が四人ともに見た目はそう悪くなかった。シドたちとさほど変わらない年齢で酔ってさえいなければそれなりの紳士に見えるだろう、仕立てのいいスーツを着用している。
 しかし相当悪酔いしているようだ。こんな奴らに付き合うだけ時間の無駄である。綺麗に無視してシドはハイファを促し、店を出ようとした。

 けれど素早く男の一人がハイファの腰近くまで流れる金髪を掴んで引き寄せるという所業に及ぶと、シドもひとことコメントしたくなる。ハイファの髪に触れていいのは自分だけだ。
 だがシドが口を開く前に男たちの方がダミ声を張り上げた。

「こっちにきて酌でもしてくれよ」
「おっ、何だよ、女じゃないのか」
「でもそこらの女より、よっぽど綺麗な顔してるぜ」
「あっちの方も女より具合がいいんじゃないか?」
「もう一人もえらく顔は綺麗だが、食いちぎりそうな目ぇしてるぞ」

 げらげら嗤う男たちの低能ぶりに嫌気が差し、シドは男の手首を掴んで急所に親指をめり込ませハイファの髪を離させると、そのまま逆手に捻り上げて突き放した。

「ハイファ、行くぞ」
「そうだね。付き合ってるとバカが伝染するかも」

 それを聞いて男たちがいきり立つ。椅子を蹴る勢いで立ち上がるなり吼えた。

「何だと、バカにしやがったな!」

 噛んで含めるようにシドが男たちに告げる。

「バカにしたんじゃねぇ、お前らはバカなんだ。自覚のねぇバカは本人には災難、他人には災害だ。気の毒には思うが、俺たちも災害には遭いたくねぇ。黙って死んでくれ。じゃあな」

 その言葉に笑いが湧いた。酔いもプラスして笑い転げている客もいる。
 ここまで恥をかかされて男たちは黙っていない。

「野郎、ぶっ殺してやる!」

 吼えつつ予想通りに一人が殴り掛かってきたのをシドは一歩下がり綺麗に避けた。宙にフックをかまして空振りした男が酔いも手伝って泳ぐように前のめりに転ぶ。二人目のこぶしをウィービングで躱し、右ストレートをその頬に叩き込んだ。

 ガタガタと椅子を倒しながら仲間に受け止められた男は、上着で隠していたベルトの腹の銃を抜こうとする。だが鼻先に突き付けられた巨大レールガンとテミスコピーの銃口に息まで止めて見入った。その隙のなさに他の三人も腹の銃を抜くに抜けず硬直する。

「シド、ここで撃つとお店に迷惑だよ」
「そうだな。だが世界人類のためにはなるぞ」
「でも、料理も美味しかったし、やっぱり悪いよ」
「そうか、手間だが仕方ねぇな」

 ということで、二人は銃にモノを言わせて四人を立たせると先行させて店から外に追い出した。そのまま隣の公園まで牧羊犬の気分で追い立てる。
 四号警備はついてきているが、気配を消して見守っているだけだ。

 街灯や他の店の電子看板などに照らされ、足を置けばぼんやりと光る発光素子入りのファイバブロックなどで割と見通しのいい公園の中に踏み込むと、冷たい風がビルの間を吹き抜けていた。長めのシドの前髪とハイファのしっぽが軽く吹き乱される。

 噴水の傍までくると腰の引けた男たちから銃を取り上げ、シドとハイファは惜しげもなくそれを噴水の溜まった水の中にボチャンと放り込んだ。
 顔をこわばらせた男たちの前でシドはレールガンをヒップホルスタに仕舞う。ハイファはテミスコピーを手にしたままだ。だがシドは何処吹く風で男らに背を向ける。

「シド、放っといていいの?」
「バカが伝染すると困るんだろ、いいから帰ろうぜ」
「うーん、まあいいか」

 だが呆然と立っていた男たちがふいに我に返り唸り声を上げて飛び掛かってきた。肉体派でないことを承知しているハイファはサッと避ける。スパイの身上、逃げ足は速い。それ故に四人が一斉にシドに襲い掛かった。

 振り向いたシドは右ストレートをかいくぐる。こぶしを飛ばした男の横っ面に上段回し蹴りを食らわせ、その勢いで背後に忍び寄った男の腹に腰の入った回し蹴りを叩き込んだ。腕を掴もうとした一人の横腹に肘鉄を一閃させ足を払って倒れた頭に容赦ない蹴りを見舞う。

 残った男が奇声を上げてむしゃぶりついてきた。だが怯えて半ば腰の引けた単調な動きはシドの敵ではなく、一歩下がって間合いを取り胸ぐらと袖を掴む。男の勢いを利用して身を返し腰に体重を載せ、背負い投げてファイバブロックの上に叩きつけた。

 ベルトに着けたリングから捕縛用結束バンドを抜き、四人を後ろ手に縛り上げる。

「はーい、ワンラウンド十秒でKO勝ち……どうするの、通報する?」
「いや、その前に……そこで見てる奴、出てこい!」

 とうにハイファも存在に気付いていた男は街灯の下で煙草を吸っていた。
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