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第23話
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タラップドアという掩蔽物を失ったシドは無駄な抵抗を一切しなかった。素直に巨大レールガンを手放しファイバの地面を滑らせる。
生き残った五人の男のうち一人が靴の裏で受け止め拾い上げた。残りの四人はエプロン上に駐機していた中型BELに死体を詰め込んでいる。
膝立ちで両手を挙げたシドは近づいてきた男らに頭を、腹を蹴り飛ばされた。脳震盪で一瞬気が遠くなり、次には反吐を吐かされて引き起こされる。立たされて身体検査され自分が携帯していた捕縛用の樹脂製結束バンドで後ろ手に縛り上げられた。
「暢気なところを見ると、ここの警備も皆殺しってか?」
「余計なことを喋るな!」
今度は頬を張り倒される。銃弾が擦過した痕がカッと熱くなった。口の中を歯で切ったシドはファイバブロックの地面に血を吐き出した。
引きずり起こされ、テロリストのメンバーたちにサブマシンガンの銃口で小突かれながら中型BELへと連行される。撃たれた入管警備部の二人もBELの中だ。
早々にテイクオフした機内でどうやらこのメンバーの責任者らしき男がシドの身体検査で出てきた警察手帳をひねくり回していた。
「『清冽なる陽・テレーザガーデンズ』か。何が清冽だ? 俺たちへの献金は奪う、仕事はまさかの体制の狗ときたものだ。あの爆破自体は鮮やかだったが、たったの二十人とは腰が退けたのか?」
「体制側に就いてみせるのも偽装としてはアリだろうが」
「他人の活動資金まで奪ってか? おまけに俺たちの仲間を三人までも……」
「そっちが勝手におっ始めたんだ。何なら今からでもそっちに合流してもいいぜ、ヴィクトル星系解放旅団さんよ。脳ミソの足らない分は貸してやるぜ?」
「心変わりの激しい仲間は要らない。だがテラ連邦に顔まで知られたマクシミリアン=ダベンポートとは違い、貴様は未だ一介の警察官でしかない。だがすなわち体制を代表して権力を振り翳す存在であり憎むべき自由主義経済を護る存在でもある。生きて手に入った二人、インパクトのある演出を心がけるから愉しみにしていろ」
嬉しくもない長広舌を聞かされながら、窓外に都市の煌めきが見えた辺りでシドは目隠しされた。黒い袋状のものをすっぽりと頭部に被せられて何も見えなくなる。
脚を撃たれたイヴァン=シャイエが微かに呻くのが聞こえていた。彼もインパクトのある演出とやらに使われるのかと思うと自分のことはともかく、気の毒な限りだ。
職務に忠実で目の付け所が良すぎたあまりにジョーカーを引いたのだ。
それはともかく、ハイファはちゃんとタイタン基地までマックスとキャスを送り届けてくれるだろうか。心配の余りに途中でハイジャックなどやらかさなければいいが……などと、シドは自分の近い将来から積極的に目を背け続けた。
◇◇◇◇
大型BELの中でハイファはじりじりと時が経つのを待っていた。
先程機長に訊いたところタイタン基地周辺の街外れにある空港までは、どんなに急いでも四十分掛かるという。更にタイタン基地まで行き、話を通してマックスとキャスを保護して貰うまでにはいったいどれだけの時間が経過してしまうのか。
そこからまた、ヴィクトル星系解放旅団のアジトまで行かなければならないのだ。
どう考えても絶望的だと思われた。
それでもシドは言ったのだ、『頼む』と。そして『待ってる』と。
マックスとキャスもシド拉致に言葉もなく沈み込んでいる。自分たちと同じ司法警察職員がテロリストに囚われたときの処遇など平和な本星の田舎で勤務を続けていても想像はつくだろう。
おまけにシドはマックスというお株と資金源を奪った同業他勢力の一味なのだ。そんな虜囚の扱いなどハイファは考えたくもなかった。
そしてギリギリまで我慢し動いた。普段はハイジャック対策で開かない操縦室へと向かう。既にハイファが刑事だというのを知る機長や副機長はすんなり迎え入れた。
開口一番、彼らに宣言する。口調はお願いでも、あくまで銃を所持した宣言だ。
「あのう、ベッドタウンの空港でなくタイタン基地に着陸して貰えませんか?」
「……はい?」
「僕ら、基地に急ぎの用があるんです。基地内にこのBELくらいランディングできる場所は沢山ありますし。あ、先方には僕から連絡入れておきますんで」
「急にそんな無茶ですよ。用があるったって他の乗客はどうするんですか?」
「僕らを降ろして頂けたら、あとはベッドタウンの空港に行こうが、タイタンの裏側見物ツアーに出ようが構いませんから」
オートで飛んでいるBELの中、機の不具合の時のためにだけ存在する機長らは、幾ら警察官で銃撃戦を演じたばかりの人間であっても、細くなよやかで女性と見紛うようなハイファの申し出をほぼ冗談だと思っていた。
だが操作したリモータに向かって突如この機の登録ナンバーを告げ、基地内の管制とやり取りし始めるに至ってようやくハイファの要求がシリアスだというのを知る。
「――と、いうことでこの機は銃撃を受けて不具合が発生し、タイタン基地へのランディングが許可されましたので宜しくお願いします」
これは体のいいハイジャックじゃないのか? などと機長らが気付いたときには、空港管制よりも強力な誘導波に機のコントロールは奪われていた。
いつものコースを逸れた機は、タイタン基地内のBEL専用エプロンへとランディング態勢に入る。
生き残った五人の男のうち一人が靴の裏で受け止め拾い上げた。残りの四人はエプロン上に駐機していた中型BELに死体を詰め込んでいる。
膝立ちで両手を挙げたシドは近づいてきた男らに頭を、腹を蹴り飛ばされた。脳震盪で一瞬気が遠くなり、次には反吐を吐かされて引き起こされる。立たされて身体検査され自分が携帯していた捕縛用の樹脂製結束バンドで後ろ手に縛り上げられた。
「暢気なところを見ると、ここの警備も皆殺しってか?」
「余計なことを喋るな!」
今度は頬を張り倒される。銃弾が擦過した痕がカッと熱くなった。口の中を歯で切ったシドはファイバブロックの地面に血を吐き出した。
引きずり起こされ、テロリストのメンバーたちにサブマシンガンの銃口で小突かれながら中型BELへと連行される。撃たれた入管警備部の二人もBELの中だ。
早々にテイクオフした機内でどうやらこのメンバーの責任者らしき男がシドの身体検査で出てきた警察手帳をひねくり回していた。
「『清冽なる陽・テレーザガーデンズ』か。何が清冽だ? 俺たちへの献金は奪う、仕事はまさかの体制の狗ときたものだ。あの爆破自体は鮮やかだったが、たったの二十人とは腰が退けたのか?」
「体制側に就いてみせるのも偽装としてはアリだろうが」
「他人の活動資金まで奪ってか? おまけに俺たちの仲間を三人までも……」
「そっちが勝手におっ始めたんだ。何なら今からでもそっちに合流してもいいぜ、ヴィクトル星系解放旅団さんよ。脳ミソの足らない分は貸してやるぜ?」
「心変わりの激しい仲間は要らない。だがテラ連邦に顔まで知られたマクシミリアン=ダベンポートとは違い、貴様は未だ一介の警察官でしかない。だがすなわち体制を代表して権力を振り翳す存在であり憎むべき自由主義経済を護る存在でもある。生きて手に入った二人、インパクトのある演出を心がけるから愉しみにしていろ」
嬉しくもない長広舌を聞かされながら、窓外に都市の煌めきが見えた辺りでシドは目隠しされた。黒い袋状のものをすっぽりと頭部に被せられて何も見えなくなる。
脚を撃たれたイヴァン=シャイエが微かに呻くのが聞こえていた。彼もインパクトのある演出とやらに使われるのかと思うと自分のことはともかく、気の毒な限りだ。
職務に忠実で目の付け所が良すぎたあまりにジョーカーを引いたのだ。
それはともかく、ハイファはちゃんとタイタン基地までマックスとキャスを送り届けてくれるだろうか。心配の余りに途中でハイジャックなどやらかさなければいいが……などと、シドは自分の近い将来から積極的に目を背け続けた。
◇◇◇◇
大型BELの中でハイファはじりじりと時が経つのを待っていた。
先程機長に訊いたところタイタン基地周辺の街外れにある空港までは、どんなに急いでも四十分掛かるという。更にタイタン基地まで行き、話を通してマックスとキャスを保護して貰うまでにはいったいどれだけの時間が経過してしまうのか。
そこからまた、ヴィクトル星系解放旅団のアジトまで行かなければならないのだ。
どう考えても絶望的だと思われた。
それでもシドは言ったのだ、『頼む』と。そして『待ってる』と。
マックスとキャスもシド拉致に言葉もなく沈み込んでいる。自分たちと同じ司法警察職員がテロリストに囚われたときの処遇など平和な本星の田舎で勤務を続けていても想像はつくだろう。
おまけにシドはマックスというお株と資金源を奪った同業他勢力の一味なのだ。そんな虜囚の扱いなどハイファは考えたくもなかった。
そしてギリギリまで我慢し動いた。普段はハイジャック対策で開かない操縦室へと向かう。既にハイファが刑事だというのを知る機長や副機長はすんなり迎え入れた。
開口一番、彼らに宣言する。口調はお願いでも、あくまで銃を所持した宣言だ。
「あのう、ベッドタウンの空港でなくタイタン基地に着陸して貰えませんか?」
「……はい?」
「僕ら、基地に急ぎの用があるんです。基地内にこのBELくらいランディングできる場所は沢山ありますし。あ、先方には僕から連絡入れておきますんで」
「急にそんな無茶ですよ。用があるったって他の乗客はどうするんですか?」
「僕らを降ろして頂けたら、あとはベッドタウンの空港に行こうが、タイタンの裏側見物ツアーに出ようが構いませんから」
オートで飛んでいるBELの中、機の不具合の時のためにだけ存在する機長らは、幾ら警察官で銃撃戦を演じたばかりの人間であっても、細くなよやかで女性と見紛うようなハイファの申し出をほぼ冗談だと思っていた。
だが操作したリモータに向かって突如この機の登録ナンバーを告げ、基地内の管制とやり取りし始めるに至ってようやくハイファの要求がシリアスだというのを知る。
「――と、いうことでこの機は銃撃を受けて不具合が発生し、タイタン基地へのランディングが許可されましたので宜しくお願いします」
これは体のいいハイジャックじゃないのか? などと機長らが気付いたときには、空港管制よりも強力な誘導波に機のコントロールは奪われていた。
いつものコースを逸れた機は、タイタン基地内のBEL専用エプロンへとランディング態勢に入る。
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