マスキロフカ~楽園7~

志賀雅基

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第25話

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「アカギリになるべく目立たない部屋を用意させる。この二人、マクシミリアン=ダベンポートと、そこの貴女は……」
「キャスリーン=バレットです」
「そう。貴女たちは、ちょっと窮屈な思いをさせるかも知れないけれど、この基地の全軍を以て身を守られる。安心なさい」
「マックス、キャス。終わったら迎えに来るから。キャスは医務室で診て貰って」

 これでシドの願いの半分は叶えられた。もう半分は我が身に代えてでも護る。

 アカギリ一等陸尉に連れられてゆく二人を見送りながらハイファは立ち上がった。  
自然な動きでテミスコピーの残弾を確かめる。
 十八発、フルロード。

「待ちなさいよ、ハイファス。第二種強権発動だけでいいのかしら」
「どういうこと?」
「ハイファス、貴方、独りでテロリストの根城に殴り込みに行くつもりなの?」

 呆れた様子でサイキ持ちの女司令官は声を上げた。

「兵員まで貸してくれるって?」
「それと宙港に日参してはニューズペーパーを読んでいるヒマなお仲間もいるって聞いている。今の貴方が私情で動いているのも分かるけど利用できるものは何でも利用しなさいよ、別室員ハイファス=ファサルートのときみたいにね」

 マックスという人選と共にずっと気になっていたフォッカー=リンデマン一等特務技官に連絡を取るのも本当は気が重かった。何せずっと騙していたのだ。

 おまけにここでカードを切ってヴィクトル星系解放旅団の地上のアジトを叩いてしまえば、別室が必死で探しているであろうドラクロワ=メイディーンに察知されてしまい悪の根を枯らすどころか、別室の思惑をこなごなに砕いてしまうかも知れない。

 それにフォッカーを通して別室にマックスたちの所在が知れる可能性も高い……。

 一瞬そんな思考がハイファの脳裏によぎったが、何をおいてもハイファにとっては若宮志度の命が最優先であるのに変わりなく、もうためらってはいられなかった。

「ごめん、アディ。現在時を以て第二種強権発動から第一種強権発動に切り替える。突入班は貴女が選んだ分隊を貸して下さい。それと貴女にマーカーになって欲しい」
「了解した。貴方に信頼されるって妙だけど悪くないわね。今、招集を掛けるわ」

 ハイファはフォッカーにリモータ発信した。フォッカー特務技官はすぐに出た。

《こちらフォッカー。何があった?》
「シドがヴィクトル星系解放旅団に拉致されました。自分の現在地はタイタン基地の司令室です。アデライデ=クラーリ陸将と一緒にいます。マクシミリアン=ダベンポートとキャスリーン=バレットは確保済みで――」

 通話を手短に終えてアデライデ司令の方を振り返ると、彼女は司令のデスクに就いて臙脂の瞳を閉じ頬杖をつき、精神的作業に取り掛かっていた。
 そんな彼女の周囲の空気こそ張り詰めた清冽さが感じられ、話しかけるのもためらわれる。サイキは千差万別だがテレパス・アデライデ=クラーリのサイキも強力だ。

 今の彼女はテレパスとしての能力を外部に発動させる、いわばアンテナのような使い方をしている。電波の如く思念をフォッカー=リンデマンに届けて、それに気付き捉えた彼がすぐさま反応し、司令のデスクの前に揺らめき姿を現した。

 フォッカーはテレポーターだった。こちらもサイキは只事でない力を秘めている。自分以外の者や物すら見通し距離外でも瞬時させ得るのだ。つまり一個分隊十名前後をその装備と共にテレポートさせるくらいは朝飯前である。

 不可視地点へのテレポートは確実性を欠くのでアデライデ=クラーリのようなアンテナを必要とするが、そう遠くなければ同時に備え持つサーチ能力で的確に人員・物資を動かすことができた。ときには念動のPK使いの如く、離れた場所の物体すら跳ばすことも可能だという。
 それだけ目にすればPK使いと勘違いされるに違いない。

 テレポーターで3Dサーチ能力を持ち、同時利用でPK使いの如き技を見せるダブルタレント、いや、もはやマルチタレントの男はハイファを見据えて厳しく言った。

「だから私は『ありのままを話せ』と言ったのだ。ハイファス、きみはどれだけ時間を無駄にした? 今回の作戦への私の関与率まで疑うとは全く馬鹿な真似を」

 紫煙の立ち上る細身の葉巻を片手の指に挟んだまま、それでもフォッカーは声を荒げることなくハイファを叱咤した。そこに黙って赤霧一尉が掌サイズの灰皿を持ってきた。

 それを受け取ったフォッカーは遅い時間の急な呼び出しだったが、セピア色のダブルのスーツにサックスブルーのドレスシャツ、光沢のあるアッシュグレイのタイに同色のポケットチーフという出で立ちで相変わらず隙がなかった。

「それでは、初回の発信からして嘘だったのだな?」
「……申し訳ありません」
「きみたちに対する別室の出方も出方だが……見くびられたものだ」

 紫煙混じりの溜息を吐かれスチルブルーの目に射られた挙げ句、臙脂色の瞳からも呆れたように見られてハイファは大先輩らを前に小さくなっているしかない。

「まあ、済んでしまったことは仕方がない。今はきみのバディ救出だ。イヴェントストライカは代わりのいない貴重な人材だしね。場所は確認できているんだろう?」
「はい。モニタ上で、ですが」

 リモータの十四インチホロスクリーンを立ち上げ、ハイファは輝点を指し示す。

「第一宙港に近い一分署管内、歓楽街のホテルの、たぶん高度からみて地階の部屋です。アドレスでは貸倉庫になっています」
「地下か。地上に一度出てから突入になるな。だが悪いが少しばかり制御が甘いものでね。そう、歓楽街に突然特殊部隊が出現したら、皆さぞかし驚くだろうな」

 フォッカーは愉しげに言って、応接セットの灰皿上で葉巻の灰を弾き落とした。
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