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33:恋人の寝室
しおりを挟む武流の寝室に通されるのは二度目だ。
今夜は恋人として部屋に入るのだと考えると不思議な気持ちになってくる。
ベッドの縁に腰掛ければ武流も隣に座り、まるで最後の確認をするかのようにゆっくりとキスをしてきた。
もちろん今更それを拒否するわけがない。目を瞑ってキスを受け入れれば柔らかな感触が唇に触れ、一度離れ、そして先程よりも深く口付けをされた。誘われるように薄っすらと口を開けば彼の舌がゆるりと入り込んで凪咲の舌に触れる。
「んっ……ふぅ……」
無意識に声が漏れる。
舌を絡め合うキスを堪能していると、武流の手がそっと凪咲の体に触れてきた。
肩に触れ、腕へと手を滑らせ、そしてシャツのボタンに指先が掛かる。ボタンが一つ外されるたびに凪咲の心臓が鼓動を早め、同時に期待が胸に湧く。
全てのボタンが外されると胸元や腹部が露わになり肌が外気に触れるが、寒さなんて感じることなく、それどころか体が火照っていく。
その感覚に浮かされるように、凪咲もキスをしながら武流へと手を伸ばした。自分も……、とボタンを外そうとするが、視界の問題か、もしくはキスの快感に翻弄されているからか、ボタンが上手く外せない。
そんなたどたどしい手の動きに気付いたのか、武流がキスを止めて自分の服とそれに掛かる凪咲の手に視線を落とした。
ふっと彼の表情が和らいだ。凪咲の手の動きのもどかしさを愛でるような表情だ。
笑われたことを察して、密事の羞恥心とはまた違った恥ずかしさが湧き上がって凪咲の顔が一気に赤くなる。
「わ、笑わないでください……。キスをしながら相手のシャツのボタンを外すのが難しくて、うまく出来ないんです……」
「笑ってすみません。ただ凪咲さんの手のぎこちなさが愛おしくてつい」
「意外と難しいんですね。武流さんは上手に私のシャツのボタンを外しましたけど……」
笑われた仕返しに、凪咲が拗ねたような声色で告げる。わざとらしい態度は言わずもがな「笑ったお詫びに甘やかして」と強請っているのだ。
それが通じたからか武流の表情が更に和らぐ。まるで「お望みのままに」と言わんばかりに優しく頬に触れてきた。
「凪咲さんを脱がす時はいつも必死でしたよ」
「必死?」
「はい。ボタン一つ外すのもしくじらないようにって考えてました。上手くいかずに幻滅されたらどうしようとか、引っ張って体を傷めないようにしないと、とか。そんな事を考えていました。いっそ乃蒼を着替えさせるときみたいに『はい、ばんざーい』って言えればどんなに楽だったか」
苦笑と共に話す武流の言葉に、凪咲は一瞬きょとんとし、次いで耐え切れずに口元を手で覆って笑いだしてしまった。
密事のために裸になるのに、その過程で子供を脱がすような言動はムードが無いにも程がある。想像すれば余計に笑えてしまい、堪えようにも肩が震えてしまう。
そんな凪咲の態度に武流もさらに笑みを強め、優しく頬を撫でてきた。
「それぐらい必死だったんです。それに、少し服を動かせば綺麗な肌が見えて、もっと見たい、触りたいって思って」
急く気持ちと大事にしたいという気持ちの鬩ぎ合いだったという。
話す武流の口調は恥ずかしそうだ。それでいて、過去を恥じながらも両想いとなった今の幸せを噛みしめているような色がある。
「武流さんもいっぱいいっぱいだったんですね」
「それは当然ですよ。それでも余裕がある振りをしてリードしたいっていうのは男としての見栄です。……ほら」
武流がそっと凪咲の手を取り、シャツの上から己の胸元に沿えた。
凪咲の手にトクントクンと鼓動が伝わってくる。早くて大きな鼓動。彼の緊張と興奮がその強さから伝わってくる。それを感じていると凪咲の胸もまた鼓動を速めた。
武流の手が凪咲の手を動かし、今度はシャツのボタンに触れさせる。
まるで、ボタンを外してくれと願うように。
甘えるような彼の仕草に、凪咲も応えるように一つまた一つとボタンを外していった。
次第に露わになる彼の肌から目が離せない。逞しい胸板に触れたくなる。
そうしてすべてのボタンを外して、それだけでは足りないと開けたシャツを脱ぐように促す。
武流がぐいとシャツを脱ぎそれをベッドの端に放った。次いで凪咲のシャツに手を掛け、丁寧にそっとずらしてくる。自分のシャツは雑に脱いでいたのに、凪咲に対してはまるで贈り物のラッピングを解くような丁寧さだ。
そうして凪咲のシャツもスルリとシーツの上に落ちると、武流の手がブラジャーに掛かった。ゆっくりと胸に触れ、柔らかく指先を埋め、手を滑らせて背後のホックへと伸ばす。
ゆっくりとした動きは凪咲のことを気遣ってだ。
それは分かる。……分かるが、脱がされている間なにもしていないのは恥ずかしくて堪らない。
自分の顔が熱くなるのが分かる。元より早まっていた鼓動が加速する。そしてホックが外され下着さえも肌から離れると緊張さえ湧き上がる。
そんな緊張や羞恥心すべてを包むように、武流の手がやんわりと胸に触れた。
「凪咲さんの体、柔らかくて暖かいですね。ずっと触れていたくなる」
「武流さんの手も大きくて、触れられると気持ちいいです」
緩く胸に触れる武流の触り方は愛撫というほどの強い快感は与えてこない。その代わりに彼の手の大きさと暖かさがじわりと滲むように肌を通じて胸に届く。なんて心地良いのだろうか。
だが胸の先端を指の間できゅうと挟まれると心地良さは痺れるような快感に変わり、咄嗟に口から「あっ」と甘い声が漏れた。
そのまま指先で転がすように弄られればじんわりとした快感が滲むように溢れてくる。無意識にふるりと体が震え、愛撫の手が強まればピクンと体が跳ねた。
「凪咲さん……」
武流が優しく名前を呼んでくる。彼の手が凪咲の胸から横腹へと流れ、腰を撫でる。
スカートの縁に指が引っ掛かりクイと引っ張ってきた。きっと、スカートも……と言いたいのだろう、言葉の代わりにキスをしてくる。
それに絆され、凪咲は彼のキスを受けながらも自分のスカートのホックを外した。ジッ、と小さな音を立ててチャックも降ろす。互いの呼吸とキスの音だけが聞こえる部屋の中、スカートを脱ぐ音は妙に大きく感じられる。
そうしてショーツだけになればいよいよ恥ずかしさは最高潮で、耐え切れずに腕で体を隠した。だがその腕を武流が掴んでくる。
そのまま彼に緩やかに押し倒され、凪咲の体は無抵抗のままポスンとシーツに横たわった。ひやりと冷たいシーツが肌に触れるが寒くはない、むしろ火照り始めた体にその冷たさは気持ち良いぐらいだ。
「あ、武流さん……んっ」
覆いかぶさってきた武流がキスをしてくる。
まずは軽く。次は深く舌を絡めて。それを堪能すると一度顔を放し、今度は再び軽いキスに戻る。
深いキスと軽いキスの繰り返し。その間にも武流の手は優しく胸に触れ、時には腰を撫でる。その柔らかな愛撫は凪咲の意識を蕩けさせるには十分で、うっとりとその気持ち良さに酔いしれ、ふと武流の手に淡いピンク色の布が引っ掛かっていることに気付いた。
あれは……、自分のショーツだ。
「えっ、あ! きゃぁ!」
いつの間に脱がされていたのか。気付けば一糸纏わぬ姿になっており、恥ずかしさで蕩けていた意識が一瞬で覚醒してしまった。
思わず悲鳴をあげて身を縮めれば、そんな凪咲の反応に武流が僅かに目を丸くさせ、次いで彼は軽く笑みを零して宥めるために額にキスをしてきた。ショーツはそっとベッドの端に置いて……。
「気付かなかったんですか?」
「だ、だって……、武流さんがキスしてくるから……」
「それだけ俺のことに集中してくれてたんですね」
愛でるような笑みを浮かべたまま武流がまたもキスをしてくる。優しく腕や体を宥めるのは縮こまっている凪咲の体を解すためだろう。その手の優しさに絆され、凪咲の体から力が抜けていく。
だがこのまま自分だけ裸では恥ずかしいと考え、手を伸ばすと武流のズボンのベルトに指を引っかけた。くいと引っ張れば、それに気付いた武流が顔を放して視線をそちらへと向ける。
「私だけ裸なのは恥ずかしいです。……だから、武流さんも」
ねぇ、と強請れば武流が頷いて返した。
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