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42:チョコとワインはお預け
しおりを挟む車で迎えに来てもらい、そのまま颯斗の家へと向かう。
家に入るなり期待を抱いた彼に見つめられ、雛子は持っていた紙袋を彼へと差し出し……、そのまま抱きしめられた。どうやらそれほど嬉しいらしい。
「さすが雛子、リストアップしてただけあるな」
「さっきも言ったけど、朝一どころか開店前から並んだのよ。お昼食べてもう一度戻ったら何個か完売してたのもあったんだから。感謝してよ」
「感謝してる。実を言うとダメ元で頼んだのもあったんだ。人気店の目玉商品だからまさか買えるなんて思ってなかった」
「返して、全部わたしが食べるわ」
ダメ元で頼んだとは聞き捨てならない、と雛子が文句を言うも、機嫌の良い颯斗はどこ吹く風だ。
「疲れただろ、風呂入ってこいよ。俺は先に入ってるから、出て来たらワイン飲みながらチョコレート食おう」
そう告げてキスをし、あっさりと抱きしめていた腕を放してしまう。もちろん紙袋は受け取って。
これには雛子もむぅと唇を尖らせつつ、それでも浴室へと向かった。
颯斗が紙袋からチョコレートを出しきらないうちに。
……一番下に入れた、わざわざフェア以外の別の店で買った頼まれていないチョコレートに彼が気付かないうちに、浴室へと逃げなければ。
ゆっくりとお風呂に浸かり、そろそろ良いだろうという頃合いに浴室から出る。
着ているのは今夜も変わらず颯斗のパーカーだ。そして下は……無い。
「このまえ来た時はズボンもあったのに……。もしかして、この家ではもう春って事なのかしら」
ちょっと早くない? と独り言ちる。まだパーカーだけで過ごすには早い季節だ。
これは強奪しなければ。それかひとに生足を晒させるなら床暖房を設置しろと言うべきか。そう考えながら通路へと出れば、ちょうど颯斗と鉢合わせた。
「ねぇ颯斗、さすがに寒いからズボンをっ……」
ズボンを貸して、と言いかけた雛子の言葉が途中で止まる。
颯斗が無言で抱きしめてきたからだ。
乾ききってない髪が彼の服に触れて滲むようにシミを作り、風呂に浸かって温まった体が強い抱擁でより熱を増す。
「ねぇ颯斗、ズボン……」
「雛子、ベッド行こう。今すぐにしたい」
耳元で囁くように告げられる、色気と雰囲気に少し欠けた性急な誘い言葉。
これには雛子も彼の背中に腕を回し……、ペチリと軽く叩いた。
「チョコレートに合うワインが飲めるって聞いたから来たんだけど。来て早々にこれなんて、ちょっと話が違うんじゃない?」
「ワインは買ってある。後で用意するから、だから一回だけ先に良いだろ」
「良いだろって、簡単に言わないでよ。どうしようかな……きゃっ!」
悩む素振りで焦らそうとしていたが突如抱き抱えられ、咄嗟に小さな悲鳴をあげてしまう。
颯斗は背も高く、そして体躯も良い。以前に彼は「パティシエは体力仕事だ」と断言し、日頃から鍛えていると教えてくれた。スラリとした身体つきではあるがよく見ると胸板や四肢にはしっかりと筋肉がついている。
対して雛子は特別小柄というわけではないが、かといって大柄なわけでもない。平均的な女性の体形である。
長時間抱えて運ぶのなら流石に颯斗も辛いかもしれないが、通路で抱きかかえて寝室に連れていくぐらいなら余裕。……なのかもしれない。抱き抱えられた側としてはなんとも言えない気分だが。
「突然なにするのよ! 強引すぎ!」
「今日のお礼に良くしてやるよ。雛子は寝転がってるだけで良いから。それにちゃんとワインも買っておいたから、体も意識も程よく溶かした方が味わえるだろ」
「なに最後の理屈、わけ分からない。……もう」
まったくと文句を言っている間にも寝室に運ばれ、ベッドの上に転がらされる。紺色のシーツ、何度も寝ているうちに体に馴染んでしまった。
「これで安物のワインだったら只じゃおかないから。……まぁ、ワインの味もあんまり詳しく分からないんだけど」
「雛子好みのを用意したから安心しろ」
ベッドに横になりながら不満をぼやく雛子に、上半身裸になった颯斗が覆い被さってくる。
雑に服を脱ぐ姿も脱いだ服を他所に放る仕草も男らしく、日中に見たコックコート姿の爽やかな面影はない。言葉でこそ雛子の機嫌を取ろうとしているものの、瞳の奥はぎらついて熱を灯し、今すぐにでも襲い掛かってきそうなほどだ。
それに絆されたのか自分の体も熱を灯すのを感じつつ、それでも雛子は「どうしようかな」と焦らすような素振りを見せた。といっても颯斗からのキスを受け入れ、そのうえ太腿を撫でられながらなので、雛子に抗う気がないのは誰だって分かるだろう。
「そういえば、んっ……今日のコックコート……あれ、制服なの?」
「あぁ、制服。まぁでも今日来てたのはイベントやフェア用ので、厨房じゃスカーフも着けないし帽子も変えるけどな。似合ってただろ?」
「あっ、ん……ギリギリ及第点、ってところね」
「及第点? 俺、制服姿の評判良いんだぞ」
天邪鬼に返せば、颯斗が苦笑を浮かべて返す。その間にも彼はキスをし、首筋や肩に唇を落とし、足から腰へと手を滑らせてくる。
彼の手が腰を撫で、そしてゆっくりと上がってくるのを感じ、雛子はくすぐったさに少し身を捩った。だがそれを受け入れていると勘違いしたのか、颯斗の手がするりとパーカーの中へと潜り込んできた。その動きでパーカーが大きく捲られ、腰どころか腹までもが露わになる。これではもう着ている意味がない。
纏わりつくパーカーが邪魔に思えて脱ごうとすれば、それに気付いた颯斗が一度キスをしてから脱ぐのを手伝ってくれた。露わになった肌にひやりとした空気が触れる。少し寒いが、どうせすぐに体は熱に浮かされるのだ。
「んっ……」
颯斗の大きな手が下着越しに胸に触れ、柔く揉まれると雛子の口から吐息が漏れた。
鼓動が早まる。だがそれに反して体からは力が抜けていく。触れる颯斗の手が熱く、その熱が体に流れ込んでくる。浮かされるように彼の体へと手を伸ばし、逞しい胸板や腹筋をそっと撫で、そして時には悪戯にズボン越しにそこを撫でた。
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