あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

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46:フランボワーズのボンボンショコラ

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 ヘッドボードに背を預け、シーツの上に並んで座る。用意してもらったチョコレートとワインもヘッドボードに置く。
 第三者が居ればだらしないと眉を潜めかねない光景だ。だが密事を終えた雛子には今更リビングに戻って飲み直す気力はなく、颯斗も同じだったのか、言わずとも寝室に全てを持ってきて用意をしてくれた。
 幸い寝室にもテレビはあり就寝前の一時を過ごすには事足りる。

「な、言った通り良いワインだろ」
「及第点、……と言いたいところだけど、これは認めざるを得ないわね。凄く美味しい」
「……俺のコックコート姿は及第点だったのに、ワインは素直に認めるのか」

 不満そうな颯斗の言葉に、ワインを一口飲んだ雛子がクスクスと笑う。
 颯斗が用意したというワインは確かに彼が言う通りチョコレートによく合うものだった。
 甘口のワインからも仄かにチョコレートの香りが漂い、それがお互いを引き立たせる。まろやかな味わいとチョコレートの甘さが体に溶けていくようで、ゆっくりと意識が酔っていく感覚が心地良い。
 なにより……。

「やっぱりこのチョコレート美味しい」

 ボンボンショコラを一つ口に入れ、その美味しさに表情を緩ませる。
 濃い目の茶色に赤色のラインが入り、金粉の上にフランボワーズの欠片が乗ったボンボンショコラ。会場で雛子が一目惚れし、自分用にと多めに買ったものだ。
 だが今食べているのは自分用に買ったものではない。気に入った様を目の当たりにしていた颯斗がわざわざ用意してくれたのだ。
 他にも自分の店の商品や他の店のチョコレートを用意してくれており、その光景はチョコレート好きには堪らないものだろう。とりわけ全てこのボンボンショコラで埋まった六個入りの箱は雛子には絶景とさえ言え、見た瞬間に歓喜の声を漏らしてしまったほど。

 そうしてまた一つ食べ、やっぱり自分の目に狂いは無かったと実感する。つまり美味しいのだ。どのチョコレートも美味しいが、このフランボワーズのボンボンショコラがとりわけ美味しい。
 ふわりと漂うフランボワーズの香り。チョコレートの味わいの中にほんの少し感じる甘酸っぱさ。飲み込んだあとも香りが残り、それをワインで飲み干すとなお味わい深い。

「それ、随分と気に入ったみたいだな」
「どれも美味しいけど、これが一番好き。でもバレンタイン限定ってことはもう食べられないのよね……。これからも売ってくれれば、買いに行くか颯斗に買わせたのに」
「最後の言葉はちょっと気になるけど、でもそこまで気にいってくれたんだな。さすがにそっくり同じのはまずいけど、似たようなもんならいつでも作ってやるよ」
「そっか、颯斗も作れるのよね」

 バレンタイン限定商品となれば、明日にはもう店頭からは消えてしまうのだろう。だが作り手が今まさに隣にいるのだ。
 これからも食べられると察して雛子の声が自然と明るくなる。顔にも出ていたのか、こちらを向いた颯斗が苦笑を浮かべている。
 次いで彼はゆっくりと目を細め、顔を寄せるとキスをしてきた。軽いキスだ。だが唇が離れていく寸前、彼の舌がぺろりと軽く雛子の唇を舐めた。

「んむっ」
「うん、たしかに美味いな。さすが俺だ」
「なによもう、今ので味が分かるわけ……。なんで『さすが俺』なの?」

 味が分かるわけがない、と話そうとしたものの、なぜか自画自賛しだす颯斗に首を傾げて尋ねる。
 それに対して彼はにやと笑みを浮かべた。得意気で嬉しそうな表情。挙句にもう一度キスをしてくる。

「これ、俺の案なんだ」
「これって、フランボワーズの?」
「そう。味もデザインも、全部俺の案」
「……颯斗の案。……あっ! だからあの時、美緒と冴島君が妙にニヤニヤしてたのね!」

 フェアの最中、このボンボンショコラを気に入ったと話す雛子に対し、二人は妙な笑みを浮かべていた。ニヤニヤと雛子を見て、次いで颯斗へと視線をやり……。挙げ句に美緒は『自分達が言っちゃ駄目』だの『あとで分かる』だのと話していたのだ。
 次の客が来たためその話は有耶無耶になってしまったが、彼女達はこの事を言いたかったのだろう。

「あの美緒の反応を見るに、絶対に次に会った時になんか言ってくるに決まってる。颯斗があの時に教えてくれればよかったのに」
「仕方ないだろ、俺だって不意打ちで言われて対応出来なかったんだ。……正直に言うと、すげぇ嬉しくて、にやけそうになるのを堪えるのに必死だった」

 恥ずかしいのか荒く頭を掻きながら話す颯斗に、雛子はどうして良いのか分からずワイングラスを見つめたまま、それでもチラと横目で彼の様子を窺った。
 頬が赤くなっている。つられるように雛子の頬も熱を持つ。つい数十分前まで欲情的な姿を晒し合い肌を触れ合わせていたというのに、どうにも今のこの会話が気恥ずかしくなってしまう。なんだかこれでは、恋人のようどころか、そこに至る前の関係のようではないか。
 甘酸っぱい、とでも言うのだろうか。痴態を見せ合ったのに今更な話過ぎる。
 だけどやっぱり気恥ずかしく、誤魔化すように箱からチョコレートを一つ取って口に入れた。美味しい。けれど、やっぱり一番はフランボワーズのボンボンショコラだ。

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