あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

文字の大きさ
62 / 71

63:全てを話す勇気を

しおりを挟む



『私、今日ぜんぶ話すね』

 そう颯斗にメッセージを入れたのが職場の入っているビルを出た直後。
 駅まで向かい、そこから電車に乗って待ち合わせの駅へ……と、一時間程ではないが移動にはそこそこ時間が掛かったものの、遅れることなく駅の改札を出ると、そこには既に美緒と俊の姿があった。
 だが颯斗の姿が無い。

「冴島君、颯斗は? 一緒じゃなかったの?」
「俺は今日先に仕事上がってたんだ。颯斗も仕事自体は終わってるらしいけど、機械のトラブルがあって、修理見届けてからこっち来るから遅れるって」
「そうなんだ。じゃぁ今ちょうど修理してるのかな」

 移動中、美緒と俊から連絡はきていたが颯斗からの連絡はなかった。先程の彼へのメッセージにも同様。
 既読にすらならないあたり、きっと店の方で慌ただしくしているのだろう。

 そんな会話をしつつ、店へと移動する。
 四人で予約したものの用意されたのは六人用の個室で、ゆったりと過ごす事が出来そうだ。部屋の半分がサンルームになっており、開け放たれた大きな窓から風がさぁと入り込んで頬を撫でる。三月半ばの風はまだ少し寒さが残っているが、お酒を飲んで酔ったらきっと心地良いのだろう。
 中二階という高さと窓辺に置かれた衝立のおかげで、解放感はあるが通行人からは見られない。

「お洒落なお店。美緒、こんなお店いつ見つけたの?」
「俊君と遊びに来た時にたまたま通りがかって、良さそうだねって入ってみたの。料理も美味しいんだよ。特にピザがお勧めなの」

 嬉しそうに話し、美緒が俊の隣に腰掛ける。「ねぇ?」と同意を求めるように隣を見上げれば、彼も嬉しそうに笑って美緒に頷いて返した。
 その並び方に、二人の仕草に、雛子は思わず笑みを零しそうになるのをぐっと堪えてメニューへと視線を落とした。


「俊君と付き合うことになったの」と美緒から報告されたのはバレンタインデーの直後。二人で買物に出かけて休憩がてらお茶をしていた時だ。
 親友の勘というものか雛子は薄々何かを感じており、「冴島君とは最近どう?」と尋ねてみたところ、先程の答えを貰ったのだ。嬉しそうな表情、ほんのりと赤くなった頬、恥ずかしそうに語られる付き合うに至るまでの過程……。
 どれもが雛子の胸を暖かくさせる。
 俊に一目惚れしていたことなどとっくの昔に感じられ、切なさも無ければ胸の痛みなんて欠片も感じない。
 もっとも、そのあとに「それで、雛子は朝桐君とはどうなの?」と尋ねられると、雛子はさっさとテーブルを片付けて話を無理やりに終わりにしてしまった。
「さぁ、買物再開しましょ。私やっぱりあのパンプス買おうかな」
「相変わらず素直じゃない」
 と、そんな会話をしながら。


 そうして晴れて恋人同士となった美緒と俊の前に座り、他愛もない会話を続ける。
 俊とはバレンタインデーのフェア以降会ってはいないが美緒伝手で話を聞いているし、それに颯斗という共通の知人がいるため話は尽きない。
 バレンタインフェアのこと、今日のホワイトデーのこと、趣味のこと、昨日見たテレビのこと……。まだお酒は一杯しか飲んでいないが、それでも心地良い時間だ。

 だがそんな中、雛子は僅かな緊張を胸に抱いていた。
 確かに会話は楽しいが、その最中にふと、いつ話そうか・どうやって話し出そうか・お酒が進まないうちに話さなければ……、と考えてしまう。そして考えるたびに焦り、不安が胸を過る。
 話すと決めた。その決意は揺らいでいない。
 アダルトグッズ会社で勤めていると知っても美緒は変わらずに親友で居てくれる。
 何かを言ってくるわけがない。仮に責めてくるとしたら、きっと親友として隠されていたことを酷いと責めてくるだけだ。

 だから大丈夫……。
 だけど話す時には颯斗に一緒に居て欲しい。話に入らなくてもただ隣に座っていてくれるだけで落ち着ける。

(なのに遅れてくるなんて……。連絡もないし)

 テーブルに置いたままの携帯電話を見て、「あれ?」と声をあげた。
 着信履歴が残っている。掛けてきたのは颯斗だ。それも何度か掛けていたようで画面には彼の名前が並んでいる。
 個室とはいえ店内は音楽が掛かっており他の席も随分と賑わっている。そのうえサンルームになっていて外の音も入ってくるため、携帯電話の着信音に気付かなかったのだろう。
 だが俊の携帯電話にはそもそも連絡自体が入っていないらしい。既に合流している事は予想しているだろうし、雛子に繋がらなければ彼に掛けそうなものなのに……。

「何かあったのかな。ここじゃ電話しても聞こえなさそうだから、ちょっと外に出て電話してくるね」
「それならお店出て階段降りたところが良いんじゃない。ちょうどここの下で、明るいし看板もあるから朝桐君が近くに居たら見つけやすいかも」
「うん、分かった。行ってくるね。適当に頼んでおいて」

 二人に見送られながら個室を後にし、店員に一声かけて店を出て行った。


 美緒が言っていた通り、店を出てすぐの階段下は電話をするには丁度良さそうだ。
 頭上を見上げても高さと衝立のせいで二人の姿は見えないが、きっと声をあげれば届くだろう。夜道であっても安堵が湧く。
 そうしてさっそくと携帯電話を改めて見れば、着信どころかメッセージまで入っているではないか。
 慌てて携帯電話を操作し、コール音を聞く。

「冴島君には連絡してなかったのよね……。もしかして、私が全部話すって言ったからかな」

 それを気にしているのなら、まずは颯斗に説明をしないと。
 そう考えながらコール音を聞いていると、「雛子!」と声が聞こえてきた。

 携帯電話越しに……ではなく、背後から。

「え?」と雛子が小さく声をあげて振り返るのと、抱きしめられるのはほぼ同時だった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...