あなた♡おもちゃ~嘘から始まる、イケメンパティシエとの甘くて美味しい脅され関係~

ささきさき

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68:幸せな時間の写真

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 すっかりと忘れていたがベビードールを着ている。
 胸下からはレース素材になっており、腹も腰も、ショーツも透けている。そのショーツもベビードールと合わせたデザインのため、局部こそ見えないが布の面積は狭く、サイドに至っては紐である。
 ガウンを羽織ってはいるものの、透ける素材のため何一つ隠していない。大胆すぎるデザインのものだ。

「ち、違うの……、これは……。うちの商品で……」

 途端に恥ずかしが湧き上がり、しどろもどろになってしまう。膝を抱え込みぎゅうと身を縮こませ、極力露見する部分を隠す。
 今更ながら余裕をなくした雛子とは逆に、颯斗はようやく我に返ったようで、嬉しそうに表情をにやけさせると徐に雛子の隣に腰を下ろした。
 ガウンの裾を摘まんで捲ろとしてくるので、その手はペチリと叩き落としておく。

「良い格好だな。チョコレートの山で驚かせようとしたけど、逆に驚かされた」
「私もこれで驚かせようとしたけど、チョコレートの山を見たら全部忘れちゃった。今回は引きわけね」

 雛子も颯斗も相手を驚かせようとし、そして驚かされてそれどころでは無くなってしまった。
 同じだと笑えば颯斗も笑いながら頷き、そしてゆっくりと顔を寄せるとキスをしてきた。彼の手が雛子の肩に触れ、ガウンの布の感触を確かめるように撫でる。

「前に話してたホワイトデーのやつだろ?」
「そう。今日ね、職場を出る前に企画リーダーに呼ばれて、私が提案した宣伝写真が評判良いって褒められたの。だから着てみようかなって。ねぇ、私が提案した写真、ホームページにも載ってるから見て」

 携帯電話を取って手早く操作をする。
 だが颯斗はそれよりも別の事がしたいようで、首筋や肩にキスをし、肩を撫でていた手をするりと滑らせて腕や胸を撫でてきた。

「それよりベッド行こうぜ。ガウン脱いで全部見せてくれよ」
「だめ!」

 ぴしゃりと言いきり、唇にキスをしようとしてくる颯斗の顔を押しのける。
 そうして彼の目の前に突きつけるのは携帯電話だ。画面に映っているのは商品の一つ、今着ているベビードール。
 モデルの着用写真と比べられると些か辛い物があるが、それでもと「見て」と告げて、携帯電話を手元に戻して操作を続けた。

「今着てるやつのページか?」
「そう。普段はこんな風にモデルさんに着てもらった写真を載せるの」
「画面に映ってるのと同じのを目の前で着てもらうって良いな。よりエロく感じる」
「だまりなさい!」

 嬉しそうに話しながら胸を触ってくる颯斗の手をペチン!と叩き落とす。
 だが叩き落とした手はめげることなく、今度は腰へと向かった。腰に手を添えてゆっくりと自分の方へと招いてくるので、雛子はそれには大人しく従って彼の足の間にもそもそと移動した。足の間に身を置いて座れば後ろから抱きしめ、うなじにキスをしてくる。
 次いで彼はテーブルに置かれたパレショコラを二枚取り、一枚は自分の口へ、そして一枚は雛子の口元へと持ってきた。パクンと食いつけばチョコレートの甘さが口の中に広がる。どうやらパレショコラはストロベリー風味らしく、これもまた美味しい。

「私好みのチョコレートを食べられるんだから、やっぱり颯斗を選んでよかった」
「俺の価値はチョコレートだけか?」
「体目当てじゃなくて技術目当てだから、パティシエとしては本望なんじゃない? ……あ、でも冴島君もパティシエなのよね」

 ならば彼を選んでも……、と雛子が大袈裟に悩めば、首にキスをされた。今度は強めに。それこそぢうううと音がしそうなほど。
 これはキスではない。抗議の吸引だ。くすぐったさとおかしさで笑いつつ、振り返って目を瞑り首ではなく唇へのキスを強請る。先程の強い吸い付きが嘘のような軽く優しいキスを贈られ、このやりとりで和解である。
 一連の甘い応酬を終えて、雛子は「それでね」と話を再開させた。

 改めて携帯電話へと視線を落とせば、そこには先日撮影現場で見た光景と同じ写真。女性モデルがベビードールを着てこちらに微笑みかけている。
 正面から一枚と、細部が分かるようにアップにした一枚。三枚目の画像はガウンを羽織った姿と後ろ向き、こちらはそれぞれ色違いを着ている。
 どれもモデル単体だ。撮影スタジオが和らかな寝室を模して造られており、モデルもプロだけあって映えるポーズを取っている。

 ……だが一人だ。
 それが、撮影の時に雛子が気になっていた事だ。

「この後に出てくるのが、私が提案した写真なの」
「そういえばずっと見たら駄目って言ってたよな。もしかして俺と一緒に見るために取っておいたのか?」

 抱き寄せながら颯斗が尋ねてくるので、雛子はこれに対しては素直に「ん、」と小さく答えて頷いた。
 颯斗の言う通り、二人で見たかった。

(だって、颯斗が気付かせてくれたから……)

 そう心の中で呟いて、雛子はそっと指先で画面を操作した。
 四枚目の写真が画面に表示される。
 そこに映っているのは一枚目から変わらぬ女性モデルだ。着ているものもベビードールで、先程と同じスタジオの柔らかそうなラグの上にちょこんと座っている。

 ……だけど一人ではない。
 写真にはもう一人、彼女を後ろから抱きしめて座る男性がいる。

「これって……」
「今の私達、写真と同じ格好してる」

 体勢が同じになったのは全くの偶然である。そんな偶然も面白くて雛子がクスクスと笑いながら話せば、背後から抱きしめていた颯斗の腕がぎゅっと力を入れてきた。
 強く抱きしめて、雛子の肩に顎を置いて覗き込んでくる。
 その体勢はまさに携帯電話に映る男女と同じだ。

 男性モデルが女性モデルを背後から抱きしめ、肩に顔を寄せて笑い合っている。
 楽しそうな二人はカメラを見ていない。撮影の雰囲気もなく、次の瞬間にはキスをしそうだ。
 自然な一時を切り取ったような写真。微笑ましさが漂っている。だが背後から抱きしめられて自らも身を寄せているため、女性モデルが着ているベビードールはよれてあまり見えていない。
 次の一枚は男女ではなく女性モデルが二人。ベッドに並んで寝転がり身を寄せて微笑みあっている。じゃれ合いつつもぴたりとくっ付いた距離感は親密さを感じさせ、彼女達もまた次の瞬間にはキスをしそうだ。この写真もこちらを見ておらず、やはり『二人の時間』と言える。
 女性モデル達はベビードールを着ており、先程の写真とは色違い、そして一人はガウンを羽織っている。だが身を寄せ合っているためベビードールの全貌はやはりあまり写っていない。

 綺麗な写真だが、商品写真としての効果はそこまで望めない。
 ……そう雛子は考えていた。撮影現場で企画リーダーに提案した時もそのことは前もって伝えておいた。

「それでも撮ってみる事になったの。企画リーダーが『せっかくのアイディアなんだからまずは試してみないと!』って言ってくれて、すぐに掛け合ってくれて……」

 急遽追加となったものの、カメラマンやモデル達も誰もが快く受け入れ、上階の商品のために来ていた男性モデルもこの話に頷いてくれた。これに関しては今まで会社が真摯な付き合いをしていたおかげが大きい。
 そのうえみんな構図も共に考えてくれて、その結果生まれたのがこの写真だ。

「良い写真だな。見てると、これ着た恋人と写真みたいに過ごしたいって思えてくる」
「アンケート結果にも似たような意見があったの。こういう風に過ごしたいって、女性だけじゃなくて男性も思ってくれたみたい」

 企画リーダーから渡されたアンケート集計結果には、先程颯斗が言ったような意見が書いてあった。
『商品写真のように抱きしめて欲しいと思った』『写真を見てこんな風に過ごしたいと思った』『恋人を抱きしめている自分と重なった』。そんな意見があった。中には購入する決め手になったという声もあったのだ。

「顧客アンケートが良かった事もだけど、私の提案を受け入れてもらえたことが凄く嬉しかった。だから颯斗に見せようと思ったの。この写真を撮ろうって思えたのも颯斗のおかげだから……」
「俺の?」
「そうなの。颯斗がうちの商品を『気持ちよく幸せになるための道具』って言ってくれたから。だから、モデル単体だけじゃなくて誰かと一緒に幸せそうに過ごしてる写真があれば良いなって思えたの」

 商品のキャッチコピーは『あなたとの幸せな時間を、特別な装いで』。

 だからその『幸せ』を表現したかったのだ。
 もしも自分がこのベビードールを着て颯斗と過ごすのなら、一人で佇むのではなく、きっと彼に抱きしめて貰えるだろうから……。
 そう考えて、今まさにその状態にある。

「そりゃ恋人がこんな格好してたら抱きしめるに決まってるだろ。」
「でもまさか同じ体勢まで取ってくるなんて思わなかったわ」
「なんだか見透かされた気がして恥ずかしいな。……ところで雛子、せっかくだからその格好ちゃんと見たいんだけど。良いだろ?」

 穏やかな声で告げ、颯斗が首にキスをしてくる。
 耳元で「なぁ」と同意を求める声が普段より少し低めなのは誘っているからだろう。
 雛子の体が小さく震えた。耳元から背へと擽られたような感覚。小さく息を漏らしたつもりが僅かに声が漏れた。甘い声だ。

「チョコレート、まだ全然食べれてないんだけど」
「終わったら寝室に持ってきてやるよ。だからしようぜ。……恋人として」
「……ん、分かった」

 颯斗の誘いに素直に応じ、自ら彼にキスをする。
 先に立ちあがった彼に手を取られて雛子も立ちあがった。もう一度キスをして、寝室へと向かう。
 もうすでに甘い空気が漂っており、嬉しさと恥ずかしさが半々だ。……もっとも「お姫様抱っこでベッドに運んでやろうか」という彼の言葉には「危ないから嫌」と答えておいた。

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