【完結】吉祥天姫~地味な無能と馬鹿にしてますが実は完全無敵のラッキーガールです。悪意は全部跳ね返し最強のイケメンに溺愛されてます~

enth

文字の大きさ
73 / 82
第三章

73 やっと特別な人間になれた……?

しおりを挟む
 カアラは戦慄していた。

 真っ暗な部屋の中、
 おびただしい数の悪鬼や妖魔がひしめいているのだ。

 それぞれが醜く奇怪な姿で、
 牙を剥いたり、舌を伸ばしている。

「い、嫌……来ないで! 誰かあ!」
 ベッドの上で手足を縮め、
 ガタガタと震えるカアラが叫ぼうとすると。

「無駄だ。誰もここには来ない」
 部屋の最奥、最も暗い部分から声が聞こえた。
「誰?! 早く助けてよ、ねえ」
 しゃべれるということは、人間なのだと思って。

 しかし闇の中からぬうっと現れた姿を見て凍り付いた。

 ゴツゴツとした真っ青な巨体に長い手足、
 ボサボサの長髪で、大きな目玉に剥き出しの牙、
 そして額には大きな角がある。

 カアラは必死に思いだそうとして考える。
 ”なんだっけ……この姿。
 人語を解する鬼……”
 そして思い当たり、絶句する。
「嘘でしょ……なんでこんなところに」

 ゆっくりと近づいてきたその鬼は、
 ベッドの上で失禁しているカアラを見下ろす。

 あまりにも恐ろしい姿。
 溢れ出てくる邪悪な力。

 カアラは最後の力を振り絞り、叫んだ
「どうしてこの帝都に、羅刹らせつがいるのよおおお!」

 ーーーーーーーーーーーー

餓者髑髏がしゃどくろを見失っただと!?」
 侍従からの報告に、クーカイが思わず声を荒げる。
 宮廷の会議室で、皆が沈痛な面持ちで集っていた。

 帝都での対策はレイオウたちに任せ、
 四天王家は安易に帝都へは動かず、
 餓者髑髏がしゃどくろや妖魔がどのような動きを見せても
 すぐに対応できるよう、東西南北全ての領域の警備を強めたのだ。

 それはレイオウに対して、
 次期天帝としての力を期待する意味も込められていた。

 申し訳なさそうな偵察隊を見ながら、
 セーランはとりなして言う。
「仕方ありませんわ、お兄様。
 深海に潜られては追えようがありませんもの」

 レイオウはしばし考え、彼らに言った。
「あいつの移動方向を調べたが、
 間違いなく向かっているのはこの帝都だ。
 到着するのは……おそらく明日の早朝だろう」

 最後に確認された地点からの距離と、
 平均移動速度を用いて
 到着時刻を頭の中で算出したのだ。

 アヤハは厳しい顔でうなずきながら言う。
「上陸前に仕留めなくては。
 私たちが早めに”飛んで”いくわ」

 南王門の”象徴の具現”は鳥であるため、
 彼らの軍は空から攻撃ができるのだ。

「ああ、俺たちもいこう」
 東王門のクーカイは龍の軍を率いて、
 セーランは蛇と成れば、海中でも戦うことは可能だ。

「戦いにそなえ、数多くの船を出そう。
 ただし戦に出るのは俺と八部衆のみだ」
 レイオウが言い、側に控える八部衆がうなずく。

 舟はおそらく、すぐに餓者髑髏がしゃどくろに破壊されるだろう。
 海上に漂う木片やタルを利用し移動する
 卓越した体術の持ち主でなくては、生き残れないからだ。

「いえ、我々も船に同行させていただきます。
 弓矢と槍、その他飛び道具も用いることで
 あの悪鬼の力を少しでも削ぐ所存でございます」
 その場にいた武家を代表して八幡守の当主が声をあげる。

「我々は港や海岸に並び、
 ”破邪”や”浄化”の呪文”を唱えましょう。
 もちろん聖鈴を鳴らし退魔の力を強めます」
 僧家たちも真剣な面持ちで、静かな決意を見せる。

 前回、餓者髑髏がしゃどくろが現れたのは200年前のことだ。
 その時の被害の記録は、とても痛ましいものだった。
 荒れ果てた土地、崩壊する村や町、
 そしておびただしい死者の数。

 今回は絶対に、それを繰り返してはならないのだ。
 たとえ、自分たちの命を失おうとも。

 しかしその時、覚悟を固める彼らに
 やけに陽気な声が響いた。

「まあ落ち着け、そうりきむこたあねえよ。
 今、港の辺りは俺の狐っ子が見張ってるからさ。
 ガイコツさんが近づいたらまずは、
 狐っ子やワンコをけしかけて足止めしてみるよ」
 ケイシュンが場に似合わない爽やかな笑顔で現れたのだ。

 レイオウは少し驚くが、口に笑みを浮かべてうなずく。
「それは心強いな。前回、餓者髑髏がしゃどくろが現れた際には
 貴殿の扱うような動物霊の味方はいなかった。
 ”魔力の質”から考えても、効果は高そうだ」

「まあ! 犬のお友だちもいらっしゃるのね!
 他にはどんな動物が……」
 セーランが嬉しそうに割り込み、
 アヤハに”後にしなさい”とたしなめられる。

 それでもケイシュンは優しい目でセーランに答える。
「いろいろいるが、こんな大仕事はアイツらが一番だ。
 猫もいるけど……なんもしねえからな」
「うふふ、猫は何もしないのが仕事ですから」
 セーランは楽しそうに笑っている。

 ”二人とも、場をわきまえよ!
 皆が命懸けの戦いを前にしているのだぞ”、
 と喉元まで込み上げた言葉を、クーカイは飲み込む。

 明日が無いかもしれないからこそ、
 可愛い妹には今、幸せを感じて欲しいと願って。

 あの乳母のせいでセーランは
 楽しい娘時代を二年も無駄にしたのだ。
 大好きな人と何気ない言葉を交わす時間を
 大切にしてあげたいではないか。

「猫ちゃん、見てみたいですわ」
「うーん、猫は呼んでも来ねえからなあ。
 猫を呼びたきゃ、魚かマタタビかな」

 そう言って小さな香袋を取り出し、小さく何かを唱える。
 そしてそれをセーランに手渡して言う。
「ほい、これ。”解除”しといたからな。
 持ってるとそのうち現れるかもよ。
 ……ま、猫の気が向いたらな」
 嬉しそうに受け取るセーラン。

 和やかに語り合う二人を見ながら、
 クーカイはそんなことを思うが。

 ケイシュンは顔を上げ、皆に告げた。
「それじゃあ俺は先に港に行ってるよ。
 ガイコツさんの都合で予定が早まったりしたら
 もてなしが遅れちまうからな」

 片手をあげる彼に向かって、
 セーランが焦ったように言う。
「私も参りますっ!」

 そしてクーカイに向きなおって懇願する。
「ね、いいでしょう、お兄様。
 港をお守りしますから!」

 さすがにそれは、クーカイも首を横に振って答えた。
「ダメだ……俺も行く」

 ーーーーーーーーーーーー

「何なのよぉ……これ……」
 カアラは泣きそうな顔で周囲を見渡している。

 あの後、羅刹が手を伸ばした瞬間、
 カアラは恐怖のあまり気を失ったのだ。

 目覚めると、どこか屋外に運ばれていた。
 暗くてよく見えないが、地面に寝かされていたようだ。
 ”潮の香りがする……海が近いのかしら”
 そして周囲を見れば。

「キャアアアア!」
 周りをぐるりと、悪鬼や妖魔が取り囲んでいるではないか。

 ”状況は変わってないじゃない!
 むしろこんな夜中の町はずれっぽとこ、
 誰にも助けてもらえないわ!”
 身動きも出来ず、カアラは縮こまっているが。

 ふと、気付いたのだ。

 こんなにたくさんいるのに、一匹も襲ってはこない。
 それどころか、彼女を包囲しながらも、
 どこか恐れるようにこちらを見ているだけなのだ。

 ためしに、そっと手を伸ばして見ると。
 飛び掛かってくるどころか、
 その方向にいた妖魔はビクッとした後、
 じっと見つめてくるだけだったのだ。

 ”え、襲わない……ってことは!”
 カアラは歓喜し、叫んだ。
「やっぱり私が吉祥天だったんじゃない!」

 こんなにたくさんいるのに、襲って来ないんだもの。
 間違いないわ、私、吉祥天だったんだわ。
 嬉しさでニヤニヤが止まらなくなる。

 ”これが明らかになれば、
 みんなの見る目が変わるわ。
 もちろんピーターとの結婚も無くなるし”

 カアラの妄想は止まらない。
 ”吉祥天だと認めさせたら、宣言するのよ。
 世界を救いたかったら、
 私の願いは全て叶えなさい、って。
 たくさんのドレスでしょ、宝石でしょ、
 ううん、何よりも”

 両手で頬を包み込みながら、カアラは笑った。
 ”すぐにレイオウと結婚するの。
 そしてアイレンは私の侍女にして、
 私たちのラブラブな結婚生活を見せつけてやるんだわ!”

 カアラはその場に立ち上がる。
 そして女王のように悪鬼や妖魔を見下ろして微笑む。

 やっと”特別な人間”に、
 世界に注目される存在になったのだ。

「醜い下僕ども! お前たちも私に従うのよ!」
 カアラがあごをあげ、魔物に命じた瞬間。

 その体は真上から殴られたように
 地面へと叩きつけられた。
「ぎゃあ!」

 痛みに転がるカアラを見下ろしながら、
 戻ってきた羅刹が冷たい声で言う。
「何様のつもりだ。この世で最も下等な者の分際で」

 鼻血を押さえ、涙を流しながらカアラは叫ぶ。
「何でよ? じゃあなんでコイツら、
 私を襲わないわけ?」

 その問いに、羅刹は鼻で笑って答える。
「当然だろう。お前は生贄いけにえなのだから。
 ここまで醜く、汚らしい魂を持つ者は滅多にいないからな。
 だからお前は、餓者髑髏がしゃどくろ様の”心臓”に選ばれたのだ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!    「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」   これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。   おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。 ヒロインはどこいった!?  私、無事、学園を卒業できるの?!    恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。   乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。 裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。 2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。   2024年3月21日番外編アップしました。              *************** この小説はハーレム系です。 ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。 お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)        *****************

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

婚約破棄&追放コンボを決められた悪役令嬢ですが、前世の園芸知識と植物魔法で辺境を開拓したら、領地経営が楽しすぎる!

黒崎隼人
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王太子から婚約破棄と追放を告げられた公爵令嬢イザベラ。 身に覚えのない罪を着せられ、送られた先は「枯れ谷」と呼ばれる痩せ果てた辺境の地だった。 絶望の淵で彼女が思い出したのは、「園芸」を愛した前世の記憶。 その瞬間、あらゆる植物を意のままに操る【植物魔法】が覚醒する。 前世の知識と魔法の融合。 それは、不毛の大地を緑豊かな楽園へと変える奇跡の始まりだった。 堆肥作りから始まり、水脈を発見し、見たこともない作物を育てる。 彼女の起こす奇跡は、生きる希望を失っていた領民たちの心に光を灯し、やがて「枯れ谷の聖女」という噂が国中に広まっていく。 一方、イザベラを追放した王国は、天候不順、食糧難、そして謎の疫病に蝕まれ、崩壊の一途を辿っていた。 偽りの聖女は何の力も発揮せず、無能な王太子はただ狼狽えるばかり。 そんな彼らが最後に希望を託したのは、かつて自分たちが罪を着せて追放した、一人の「悪役令嬢」だった――。 これは、絶望から這い上がり、大切な場所と人々を見つけ、幸せを掴み取る少女の、痛快な逆転譚。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...