裏稼業探偵

アルキメ

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case1 監視された部屋

1 闇の住人たち

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 闇に君臨する者達がいる。金と暴力の支配する世界における強者――表、裏を問わず社会への多大な影響力を持つ彼らは、日本の陰たる支配者とも言えた。

 その中に、岸上(きしがみ)という一族がある。没落華族の末裔である先代当主、岸上亜門(きしがみあもん)は海運業を営む傍ら、ロシアンマフィアとの密貿易で再び財を成した。そして、それを元手に闇の住人達の間で仲間を集め、ある一つの組織を作った。商売仲間であるマフィアの形式を取り入れた、犯罪組織である。

 その組織形態は犯罪のデパートとでも言うべきもので、取り扱うものは女、武器、麻薬、殺しと様々だった。

 それから数十年後――現在、その組織は全国各地に支部を置き、日本の裏社会において最も強力な一派とされる。

 闇の世界に身を置く彼らは、無法の中に秩序を保つことでその存在を表立って知られることを避けていた。非日常の存在であり続けること、それが犯罪組織としての鉄則であった。

 ――そして不幸なことに、今まさにその非日常の奔流に呑まれようとしている男がいたのである。






「――ああ。……ああ。予定通りだ。そちらの指示通りにやっている」

 ――暗闇。電灯もつけていない真っ暗な部屋の中で、小さく、話す声がしていた。誰かに聞かれぬよう、隠れ、潜むかのように。

 その声は、電話をしているようだった。

『機器の回収は?』
「すべて滞りなく。処分した」
『ご苦労。では、次の指示を待て。その間、再度プランの確認をしておくように』
「了解。ところで……その男、本当に大丈夫なのか?」
『貴様が心配することではない。私の言うとおりに動くことだけを考えていろ。まだ死にたくないのであればな』
「…………」
『安心しろ。貴様を失うのはこちらとしても都合が悪い。約束しよう……私の言うとおりに動けば、助けてやる』

 電話の声は、一呼吸置いてから続けた。

『――かの男には、生贄になってもらう』
「……計画のことなら、理解している」
『ならばわかるな? 私自ら協力してやっているんだ。そのことを忘れるなよ』
「ああ……頼りにしている」
『よろしい。ではな……期待しているぞ』

 電話は切られた。
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