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【猫吸い編】【人吸い編】
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【猫吸い編】
その日は、完全に油断していた。
午後のソファ。
ポカポカ陽気。
彼女はいつものように隣に座って、本を読んでいる・・・筈だった。
窓からそよぐ風に乗って、誘惑の香りが、僕に届く。
「・・・」
柔らかくて、ほのかに甘い匂い。
これは、だめだ。
理性が止める前に、僕はゆっくり顔を近づけていた。
すぅ。
「っ!?」
彼女がびくっと肩を跳ねさせる。
本が少し傾き、視線が一気にこちらを射抜いた。
「な、なにしてるんですか!」
「ごめん。反射で」
「反射で吸わないでください!」
怒っている。
耳を真っ赤にして怒っている。
なのに、逃げない。
警戒心むき出しのイカ耳シャーシャーモードが、僕の悪戯心を擽る。
「猫ちゃん、いい匂いする」
もう一度、今度は控えめに。
すぅ。
「ちょっ!」
彼女は僕の頭を掴む。
そして、キッと鋭い視線が向く。
「あ、あと、一回だけです」
拒絶じゃなく、妥協案を提示してくる彼女。
不意打ちの可愛いさは、流石に狡い。
心が、ゆるゆると溶かされる。
言い付け通り、ゆっくり、深呼吸みたいに。
すぅ。
「・・・それ、そんなに、いいですか」
「うん。優しい緑の香り、ホッとする」
「変なの」
そう言いながら、彼女はもう抵抗しない。
むしろ。
少しだけ頭が僕の方に寄る。
「猫吸い、許してくれるの?」
面白可笑しく尋ねる。
もう一度吸おうとした刹那・・・。
ペチン、と顔面に猫パンチ。
「・・・調子に乗らないでください」
「はい」
「でも・・・たまになら、許してあげます」
それはもう、反則だった。
ツンとした表情の裏に、はっきりとしたデレ。
可愛いが過ぎる。
このツンデレが、癖になる。
「ありがとう、猫ちゃん」
「だから、猫じゃありません」
そう言いながら、彼女は逃げなかった。
この距離が、もう当たり前になりつつあることが、なにより幸せだった。
*****
【人吸い編】
それに気づいたのは、彼女がやけに静かな日だった。
隣に座っているのに、本を読んでいない。
ページもめくらない。
午後の窓辺。
カーテン越しの光が、床にゆるく揺れている。
「・・・眠たいの?」
そう聞いても、返事はない。
視線を落とすと、彼女は僕の服の端を、指先でつまんでいた。
力は弱くて、でも離す気はなさそうで。
「猫ちゃん?」
呼びかけても、やっぱり返事はない。
その代わり、彼女は少しだけ身じろぎして、さらに距離を詰めてくる。
肩が触れ、額が、僕の胸に軽く当たる。
そして、すぅ。
確かに、吸った。
眠たそうで、間延びした呼吸と一緒に。
「・・・どうしたの?」
そう聞いた瞬間、彼女の体がぴくっと固まる。
数秒遅れて、ゆっくり顔を上げる。
きょとん、とした目。
それから一拍。
「あ」
理解した途端、耳まで一気に赤くなる。
「ち、違っ!今のは、その・・・」
「猫吸いならぬ、人吸い?」
「ち、違いますっ!」
慌てて否定するけれど、声にいつもの切れがない。
目も、どこかとろんとしている。
「・・・眠かっただけ、です」
「眠かっただけで吸う?」
「だって」
彼女は、窓の方をちらっと見て、もごもご言う。
「・・・お日様、あったかくて。ここ、ぽかぽかで」
恥ずかしそうな、にゃおにゃお声。
誤魔化そうとするその必死な姿勢が、なんとも可愛い。
僕は思わず、彼女の頭をふわりと抱き寄せる。
「それ、完全に寝る前の猫だよ」
「猫じゃ、ありません」
そう言いながらも、彼女は抵抗せず、また小さく、すぅ、と息を吸う。
今度は、さっきよりもゆっくり。
まぶたも、半分落ちている。
午後の光の中で、彼女は静かに、呼吸をしている。
やがて呼吸が整って、彼女は少しだけ満足そうに目を伏せた。
「今日のは、忘れてください」
「無理かな」
「・・・じゃあ、忘れるまで、ここにいます」
そう言って、額を僕の胸に置く。
まるで、お日様に温められて、安心できる場所を見つけた猫みたいに。
その日は、完全に油断していた。
午後のソファ。
ポカポカ陽気。
彼女はいつものように隣に座って、本を読んでいる・・・筈だった。
窓からそよぐ風に乗って、誘惑の香りが、僕に届く。
「・・・」
柔らかくて、ほのかに甘い匂い。
これは、だめだ。
理性が止める前に、僕はゆっくり顔を近づけていた。
すぅ。
「っ!?」
彼女がびくっと肩を跳ねさせる。
本が少し傾き、視線が一気にこちらを射抜いた。
「な、なにしてるんですか!」
「ごめん。反射で」
「反射で吸わないでください!」
怒っている。
耳を真っ赤にして怒っている。
なのに、逃げない。
警戒心むき出しのイカ耳シャーシャーモードが、僕の悪戯心を擽る。
「猫ちゃん、いい匂いする」
もう一度、今度は控えめに。
すぅ。
「ちょっ!」
彼女は僕の頭を掴む。
そして、キッと鋭い視線が向く。
「あ、あと、一回だけです」
拒絶じゃなく、妥協案を提示してくる彼女。
不意打ちの可愛いさは、流石に狡い。
心が、ゆるゆると溶かされる。
言い付け通り、ゆっくり、深呼吸みたいに。
すぅ。
「・・・それ、そんなに、いいですか」
「うん。優しい緑の香り、ホッとする」
「変なの」
そう言いながら、彼女はもう抵抗しない。
むしろ。
少しだけ頭が僕の方に寄る。
「猫吸い、許してくれるの?」
面白可笑しく尋ねる。
もう一度吸おうとした刹那・・・。
ペチン、と顔面に猫パンチ。
「・・・調子に乗らないでください」
「はい」
「でも・・・たまになら、許してあげます」
それはもう、反則だった。
ツンとした表情の裏に、はっきりとしたデレ。
可愛いが過ぎる。
このツンデレが、癖になる。
「ありがとう、猫ちゃん」
「だから、猫じゃありません」
そう言いながら、彼女は逃げなかった。
この距離が、もう当たり前になりつつあることが、なにより幸せだった。
*****
【人吸い編】
それに気づいたのは、彼女がやけに静かな日だった。
隣に座っているのに、本を読んでいない。
ページもめくらない。
午後の窓辺。
カーテン越しの光が、床にゆるく揺れている。
「・・・眠たいの?」
そう聞いても、返事はない。
視線を落とすと、彼女は僕の服の端を、指先でつまんでいた。
力は弱くて、でも離す気はなさそうで。
「猫ちゃん?」
呼びかけても、やっぱり返事はない。
その代わり、彼女は少しだけ身じろぎして、さらに距離を詰めてくる。
肩が触れ、額が、僕の胸に軽く当たる。
そして、すぅ。
確かに、吸った。
眠たそうで、間延びした呼吸と一緒に。
「・・・どうしたの?」
そう聞いた瞬間、彼女の体がぴくっと固まる。
数秒遅れて、ゆっくり顔を上げる。
きょとん、とした目。
それから一拍。
「あ」
理解した途端、耳まで一気に赤くなる。
「ち、違っ!今のは、その・・・」
「猫吸いならぬ、人吸い?」
「ち、違いますっ!」
慌てて否定するけれど、声にいつもの切れがない。
目も、どこかとろんとしている。
「・・・眠かっただけ、です」
「眠かっただけで吸う?」
「だって」
彼女は、窓の方をちらっと見て、もごもご言う。
「・・・お日様、あったかくて。ここ、ぽかぽかで」
恥ずかしそうな、にゃおにゃお声。
誤魔化そうとするその必死な姿勢が、なんとも可愛い。
僕は思わず、彼女の頭をふわりと抱き寄せる。
「それ、完全に寝る前の猫だよ」
「猫じゃ、ありません」
そう言いながらも、彼女は抵抗せず、また小さく、すぅ、と息を吸う。
今度は、さっきよりもゆっくり。
まぶたも、半分落ちている。
午後の光の中で、彼女は静かに、呼吸をしている。
やがて呼吸が整って、彼女は少しだけ満足そうに目を伏せた。
「今日のは、忘れてください」
「無理かな」
「・・・じゃあ、忘れるまで、ここにいます」
そう言って、額を僕の胸に置く。
まるで、お日様に温められて、安心できる場所を見つけた猫みたいに。
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