僕の可愛い猫

愛宮

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【甘々モード編】【浮気にゃんこ編】

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【甘々モード編】


すっかり通い慣れてしまった、あのカフェ。
ドアを開けた瞬間、コーヒーの香りより先に、視線が窓際へ向かう。
いつものソファ。
そして今日も・・・見つけた。
彼女は本を開いたまま、ページ越しにちらりと視線を寄越す。

「・・・遅かったですね」

その一言に、胸が少し跳ねた。

「待ってたの?」
「違います」

即答。
怒られない。

僕が隣に座ると、彼女はなぜか、いつもより落ち着きがない。
ページをめくる速度が早い。
肩が、何度も僕の方へ傾きかけては戻る。

「今日は、猫ちゃんのほうから甘々モードなの?」
「何ですか、それは。違います」

そう言い切るくせに、彼女の肘が、完全に僕の腕に当たっている。
逃げない。
少し経つと、彼女は本を閉じた。

「・・・集中できません」
「どうして?僕、何もしてないけど」

そう言うと、彼女は言葉に詰まり、唇を尖らせた。
それから・・・。
ためらうように、そっと、身体を寄せてきた。
ほんの少し。
でも、明確に、彼女の意思で。

「何?」
「・・・別に。本を読む、ベストポジションを探してるだけです」

耳が赤い。
声も小さい。

僕は動かない。
彼女も離れなかった。
むしろ。
彼女は離れるどころか、少しずつ、もっと体重を預けてくる。
自分から寄ってきた、その事実に、まだ気づいていない顔で。

笑みが零れそうになる。
いや、零れてるな。
完全に、懐いた猫の距離だ。
この猫はもう、自分から、温もりを探しに来る。
その距離が、たまらなく愛おしかった。


*****


【浮気にゃんこ編】



カフェのドアを押すと、いつもの香りが鼻をくすぐった。
窓際のソファ、僕の目は、自然と彼女を探す。
でも今日は、隣に誰かが座っていた。
男だ。笑顔が柔らかく、彼女の話を楽しそうに聞いている。

「それでね」

彼女が笑った。
普段よりも弾んだ声。
胸の奥が、ぐっと冷たくなる。
ああ、こうやって、他の誰かと親しく笑えるんだ。

近づくと、彼女は僕に気づいた。
一瞬だけ目を見開いて、それから視線を逸らされる。

「・・・きょ、今日は、ここ、混んでますね」

彼女が言う。
嘘だ。
他は全部空いている。

男が立ち上がった。

「なるほどね、君が・・・それじゃ、俺はこれで失礼するよ」

立ち上がるとき、彼は一瞬、彼女の方をちらりと見て、柔らかく微笑んだ。
そのさりげない笑みは、彼女への気遣いを示していた。
それは、彼女と、その男だけの掛け合いだ。
どうしようもく、黒い嫉妬心がゆっくりと育つ。

男が去ると、彼女はしばらく動かない。
僕は、隣に座る。無言で。
沈黙が二人の間に、重く垂れ込める。

「・・・知り合い?」

そう聞くと、彼女は小さく頷く。

「お友達です」
「ふうん」

それ以上は聞かない。
すると・・・彼女が、気まずそうに寄ってきた。
肩。腕。
ほとんど、くっつきそうな距離。

「猫ちゃん?」

いつもの愛称で呼ぶと、彼女はびくっと肩を跳ねさせた。

「違います」

反射的な否定が入る。
でも、離れない。
むしろ、さっきよりほんの少し、距離を詰めてくる。
普段なら、懐かれて嬉しい・・・筈なのに。

さっきまで、あの男の隣にいて。
楽しそうに笑って。
柔らかい声で話して。

それを思い出しただけで、喉の奥が、少し苦くなる。

「随分、仲良さそうだったね」

できるだけ、平坦な声で言ったつもりだった。
でも、自分でも分かる。
少し、刺が混じっている。
彼女は一瞬だけ、言葉に詰まる。

彼女の指が、僕の服の端をつまむ。
そして、僕の反応を調査するかの様な、上目遣いを向けてくる。

「・・・あなたが、来るまで」

一拍。

「帰ろうか、迷ってました。でも」

彼女は、額を僕の肩に寄せる。

「来てくれたので。待ってて、良かった、です」

ずるい。
こんな距離で、心を揺さぶるなんて。
嫉妬で乾いた心を、じわじわと潤していく。

こんなふうに甘えられたら、責める言葉なんて、全部消える。

「猫ちゃん」
「だから、違います」

いつものやり取り。
でも、声が少し弱々しい。

「まだ、怒ってますか?」
「・・・」

怒ってない。
といえば嘘になる。
嫉妬して、膨れて、かっこ悪すぎる。

「今日は、なでなでも、猫吸いも、して、いいですよ?」

可愛い提案だ。
なら、この気持ちが収まるまで存分に、可愛がらせて貰おうかな。

ライバルは去り、猫は無事、僕の定位置に戻ってきた。



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