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第三章

22、文化祭①

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見たいけど見たくない。
そう、頭を抱える白兎の生徒は一人や二人ではなかった。
午後一番で体育館で行われる二年F組の劇。噂では主演二人による恋愛物。
劇の練習風景を、絶対に外にバラさないと言う徹底的な姿勢から、色々と深読みする生徒も多い。

透夜に恋焦がれる者や、和歌を慕い愛でる者、もしくは両者に好意を持つ者などは、どうしても、煩い心が生じてしまう。
劇中だけなのは分かっているが、恋愛感情で動く二人のやり取りを想像すると、どっちにかは分からないが嫉妬心が芽生え、拝見するにはそれなりに勇気を振り絞る必要があったりする。

でも、わずかにだが好奇心の方が勝り、昼食後、足は自然と体育館へと赴く生徒が多かった。

体育館に赴けば、見る見ないかで訪れる事を躊躇し、遅れをとってしまった自分を即座に悔やむ。
体育館外にまで溢れている人人人。
その日のその時間は、とりあえず叫ぶ者が急増したとか。

「午前の部終了後すぐさま場所取りだけでもしとけば良かったぁぁぁぁ!!!!!正直、滅茶苦茶見たかったのにぃ!!」


*****


「それではこれより、二年F組による劇、女怪盗と探偵による恋物語サスペンスをお楽しみ下さい」

司会者の紹介が終わり、舞台の幕が開く。
アナウンサーの声が、怪しい雰囲気を醸し出す様に、しっとりと流れ出す。

【元恋人の二人が、数奇な運命により、再び出会ってしまう所から始まる。それは、真っ暗な夜の事】
 
「きゃ」っと女性の声が真上から聞こえ、男性は夜空を見上げる。
自身目掛けて降ってくる女性に思わず腕を伸ばし、真正面から抱き留めていた。
勢いのまま、男性は後ろによろめき、女性を抱えたまま倒れ込む。

「御免なさい、大丈夫で、した、か?げっ」
「げっ、とはご挨拶だな、助けてあげたのに。久しぶりだね。まだやんちゃしている様だね、可愛い怪盗さん」

朗らかに微笑む男性と、男性の上で顔面蒼白になっている女性。

【止まっていた二人の時間が、再び動き始めた瞬間】


*****


時には、女怪盗と探偵の激しいアクションシーンで魅せ場を盛り上げ。
バク転、バク宙、蹴り、打撃、スピード感溢れる動きを見せる和歌と透夜。
人並み外れた運動能力の良さに観客達はただただ驚くばかり。
その中で起こるラブハプニングには、乙女心がやたら擽られる。

時には、甘いマスクと言葉で女怪盗をたらし込む探偵。
透夜が和歌に見せる、愛しむ緩い表情や色めかしい声色には、副会長としての普段の透夜を知る白兎生徒や教師陣は全員「誰この人?」状態だ。
そんな優しい空気を惜しみなく漂わせる透夜に魅了され、夢中になって惹かれて行く観客達。

時には、刑事を交えての三つ巴の恋愛劇。
女怪盗を陰で支える刑事役の真子がまた、カッコ良い知的クールな役柄で、ときめき要素となっている。
しかも、女怪盗と仲の良い刑事に嫉妬し、不貞腐れる演技をする探偵役の透夜には、きゅんっと胸が鳴り、思わず可愛さを感じた者も少なくない。

最後に、観客の心にトドメを刺したのは、役柄通り女怪盗役の和歌だ。
気持ちを交わした後のキスシーン(風)だけでも、観客は色めき立ったと言うのに・・・今まで飄々としていた女怪盗から溢れる、恥じらう恋する女の子の蕩ける笑顔と仕草には、その愛くるしい衝撃に耐えれず、見事、心を盗まれていった者が数多く居た様だ。
おまけとばかりに、その笑顔のまま女怪盗の方から探偵へのキスシーン(風)で、幕が下ろされた。

何処からも、拍手は起こらない。
見終えた観客はお腹いっぱいの放心状態で、なかなか客席や立ち見してた場所から動けずにいた。




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