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戦いにくい相手
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「もう私が教えることはなにもございません…立派でございました。」
「お前のおかげだエル。」
あれから5年が経ち、完全に僕はエルを上回るほどの剣術を手に入れた。
そしてセーラのおかげで自作の大魔法も生み出すことに成功し、とても魔王らしくなったのではないかと思う。指を鳴らすだけで街1つを消せるのではないかと思うほどの力を手に入れたのだ。長くも短い2年間だった。
僕はとても楽しかった。この世界で知り合ったのはこの2人だけで、それ以外の者とは1度もあったことがない。それでも十分楽しかった。ただ…この10年間ずっと変わらないものがある。それは、美琴への気持ち。あの時泣いていた美琴の涙を拭えなかった悲しみは深く胸に残っていた。
(もう一度だけ……もう一度だけ彼女の顔が見たい。)
そう願う日も少なくなかった。
そんなある日、驚くべき情報が入った。
「勇者が召喚された?」
「はい。とうとう勇者が現れました。名も性別もまだ分かりませんが、最北端に位置する国、エルセーヌに現れたようです。たった今セーランが調べに行っております。」
「そうか。他のものはともに行っているのか?」
「いえ、ただの視察のため目立たぬよう一人で行かせております。」
「1人じゃダメだ。勇者が召喚されたのであればさすがに危ない。エル、お前が僕に教えてくれたのではないか。召喚者は赤子からでなく、召喚時の姿のまま召喚されるのだと。ならば初めから、たしょうなりとは勇者の力があるのではないのか?」
「たしかに…」
「お前は城を頼む。何ぴとたりとも中へ入れるな。僕が帰ってくるまでだ。」
「はっ!承知致しました。」
2人のおかげで成長した僕は以前とは違い、羽もより成長し、より高く、長く飛ぶことができるようになっている。
「城を任せた!」
僕はそう言って飛び立った。
この黒く硬い翼は、普段は体内に隠している。これができるのはきっと僕だけだ。角は伸縮可能のようだから常に極力小さくしている。
どうやら角には力の制御をするための役割があるらしく、小さくしている時より元の15センチほどの長さの方がかなり力が出る。
これは、エルと手合わせしている時に、
試しに角を元の長さに戻したら1度だけエルを半殺しにしてしまったことがあるからわかったことで、危ないと判断した僕は時がくるまで封印し、あれから1度も戻していない。
今の僕は15歳だが、十分王としての力はある。召喚されて間もない勇者なら赤子の手をひねるほど簡単だろう。
「まってて…セーラ。」
僕は最高速で最北端に向かった。
人には人特有の、魔物には魔物特有の魔力がこの世には存在する。僕はその魔物特有の魔力を追ってひたすらに飛んだ。ものの10分で何千キロも離れた最北端の地へたどり着いた。1箇所だけ騒がしい所を即座に見つけると、そこからセーラの魔力を感じ取った。
「セーラ!!」
僕はすぐさまそこに向かった。
そして地上へ降り立つと、ボロボロになったセーラと、軽傷をおった黒髪の少女がそこにいた。
見覚えがあるような気がしたが、今はそれどころじゃない。
「パーフェクトヒール!」
僕は少し離れた所から即座に回復魔法を唱えたことで、セーラを危機一髪のところで救えた。そのまま続けて翼でセーラの元へ高速移動し抱き上げると地面に炎の攻撃魔法を叩きつけた。今は争うつもりはなかったため誰も傷つけぬよう顔だけを見られないようにするための威力の抑えられた目くらましだった。
「セーラ、もう大丈夫だよ。城にまずは帰ろう。話はそれからだ」
「魔王…様…。すみません…でした」
涙を目にうかべながら謝罪するセーラに首を横にふり、「今はもう喋るな」と言って飛び続けた。
あの時、ふと視界に映った黒髪の少女。明らかにあの子が勇者だろう。
(女の子が勇者なんてあるんだ…。)
僕はあの黒髪にとても見覚えがあったけれど、気のせいだと言い聞かせた。
しかしあの飛び去る直前に、僕は聞こえないふりをした。僕の名前を確かに呼んだ少女の声を。
僕を「拓弥」と呼んだ少女の声を。
あれからなかなかセーラの熱が引かない。外傷はもうとっくに消えているのにだ。
エルはセーラを行かせたことを悔やみ、自分に怒っていた。それを僕は黙って見ているしかなかった。僕のようなこどもには、かけてあげるべき言葉がみつからなかったから。
あの日、城に着くとあまりに減ったセーラの魔力を回復するため、僕は自分の魔力をあげようとしたが、エルにとめられた。
「魔物が魔物に魔力を与えることは危険なのです。しかもそれが魔王様の魔力ともなれば、強力すぎてセーランの身が持たないでしょう。魔力は私が与えます。兄妹なので魔力も近いのです。ご安心ください。」
しばらくしてセーラは目を覚ました。
その時に語ったのは、聞きたくなかったことと、聞きたかったことの両方だった。
「あの勇者は本物でした。何もするつもりもなかったし、何もしていません。しかし勇者は有無を言わさず私を攻撃してきました。召喚されてまだ3日ほどだと言うのにとてつもない力でした。聖騎士共が急いで魔法を教えたのでしょう。たった一つの光魔法で死にかけてしまいました。突然の強力な魔法の使用により体に負荷がかかり多少怪我をしていたようでした。」
(あの時の傷は自分でのものだったのか…)
「その勇者の見た目は覚えているか?」
「はい。長く漆黒の黒髪に、凛とした表情。歳は魔王様と同じくらいだと思われます。なにかに対して憎しみを抱いているかのごとく悲しみのこもった瞳。決して忘れることの出来ないような美しさでした。そして、その勇者の名もしっかりと覚えております。」
「その名前は?」
「勇者の名は……三神美琴。」
召喚された勇者は、あの大好きだった彼女だった。
「お前のおかげだエル。」
あれから5年が経ち、完全に僕はエルを上回るほどの剣術を手に入れた。
そしてセーラのおかげで自作の大魔法も生み出すことに成功し、とても魔王らしくなったのではないかと思う。指を鳴らすだけで街1つを消せるのではないかと思うほどの力を手に入れたのだ。長くも短い2年間だった。
僕はとても楽しかった。この世界で知り合ったのはこの2人だけで、それ以外の者とは1度もあったことがない。それでも十分楽しかった。ただ…この10年間ずっと変わらないものがある。それは、美琴への気持ち。あの時泣いていた美琴の涙を拭えなかった悲しみは深く胸に残っていた。
(もう一度だけ……もう一度だけ彼女の顔が見たい。)
そう願う日も少なくなかった。
そんなある日、驚くべき情報が入った。
「勇者が召喚された?」
「はい。とうとう勇者が現れました。名も性別もまだ分かりませんが、最北端に位置する国、エルセーヌに現れたようです。たった今セーランが調べに行っております。」
「そうか。他のものはともに行っているのか?」
「いえ、ただの視察のため目立たぬよう一人で行かせております。」
「1人じゃダメだ。勇者が召喚されたのであればさすがに危ない。エル、お前が僕に教えてくれたのではないか。召喚者は赤子からでなく、召喚時の姿のまま召喚されるのだと。ならば初めから、たしょうなりとは勇者の力があるのではないのか?」
「たしかに…」
「お前は城を頼む。何ぴとたりとも中へ入れるな。僕が帰ってくるまでだ。」
「はっ!承知致しました。」
2人のおかげで成長した僕は以前とは違い、羽もより成長し、より高く、長く飛ぶことができるようになっている。
「城を任せた!」
僕はそう言って飛び立った。
この黒く硬い翼は、普段は体内に隠している。これができるのはきっと僕だけだ。角は伸縮可能のようだから常に極力小さくしている。
どうやら角には力の制御をするための役割があるらしく、小さくしている時より元の15センチほどの長さの方がかなり力が出る。
これは、エルと手合わせしている時に、
試しに角を元の長さに戻したら1度だけエルを半殺しにしてしまったことがあるからわかったことで、危ないと判断した僕は時がくるまで封印し、あれから1度も戻していない。
今の僕は15歳だが、十分王としての力はある。召喚されて間もない勇者なら赤子の手をひねるほど簡単だろう。
「まってて…セーラ。」
僕は最高速で最北端に向かった。
人には人特有の、魔物には魔物特有の魔力がこの世には存在する。僕はその魔物特有の魔力を追ってひたすらに飛んだ。ものの10分で何千キロも離れた最北端の地へたどり着いた。1箇所だけ騒がしい所を即座に見つけると、そこからセーラの魔力を感じ取った。
「セーラ!!」
僕はすぐさまそこに向かった。
そして地上へ降り立つと、ボロボロになったセーラと、軽傷をおった黒髪の少女がそこにいた。
見覚えがあるような気がしたが、今はそれどころじゃない。
「パーフェクトヒール!」
僕は少し離れた所から即座に回復魔法を唱えたことで、セーラを危機一髪のところで救えた。そのまま続けて翼でセーラの元へ高速移動し抱き上げると地面に炎の攻撃魔法を叩きつけた。今は争うつもりはなかったため誰も傷つけぬよう顔だけを見られないようにするための威力の抑えられた目くらましだった。
「セーラ、もう大丈夫だよ。城にまずは帰ろう。話はそれからだ」
「魔王…様…。すみません…でした」
涙を目にうかべながら謝罪するセーラに首を横にふり、「今はもう喋るな」と言って飛び続けた。
あの時、ふと視界に映った黒髪の少女。明らかにあの子が勇者だろう。
(女の子が勇者なんてあるんだ…。)
僕はあの黒髪にとても見覚えがあったけれど、気のせいだと言い聞かせた。
しかしあの飛び去る直前に、僕は聞こえないふりをした。僕の名前を確かに呼んだ少女の声を。
僕を「拓弥」と呼んだ少女の声を。
あれからなかなかセーラの熱が引かない。外傷はもうとっくに消えているのにだ。
エルはセーラを行かせたことを悔やみ、自分に怒っていた。それを僕は黙って見ているしかなかった。僕のようなこどもには、かけてあげるべき言葉がみつからなかったから。
あの日、城に着くとあまりに減ったセーラの魔力を回復するため、僕は自分の魔力をあげようとしたが、エルにとめられた。
「魔物が魔物に魔力を与えることは危険なのです。しかもそれが魔王様の魔力ともなれば、強力すぎてセーランの身が持たないでしょう。魔力は私が与えます。兄妹なので魔力も近いのです。ご安心ください。」
しばらくしてセーラは目を覚ました。
その時に語ったのは、聞きたくなかったことと、聞きたかったことの両方だった。
「あの勇者は本物でした。何もするつもりもなかったし、何もしていません。しかし勇者は有無を言わさず私を攻撃してきました。召喚されてまだ3日ほどだと言うのにとてつもない力でした。聖騎士共が急いで魔法を教えたのでしょう。たった一つの光魔法で死にかけてしまいました。突然の強力な魔法の使用により体に負荷がかかり多少怪我をしていたようでした。」
(あの時の傷は自分でのものだったのか…)
「その勇者の見た目は覚えているか?」
「はい。長く漆黒の黒髪に、凛とした表情。歳は魔王様と同じくらいだと思われます。なにかに対して憎しみを抱いているかのごとく悲しみのこもった瞳。決して忘れることの出来ないような美しさでした。そして、その勇者の名もしっかりと覚えております。」
「その名前は?」
「勇者の名は……三神美琴。」
召喚された勇者は、あの大好きだった彼女だった。
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