『カールロット公爵令嬢は魔女である』~冤罪で追放されたので、本当に災厄の魔女になることにした~

あだち

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三、カールロット公爵令嬢は魔女になった

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 風邪が治った。
 だから、私はまた雪をかき分けて、魔女の雑貨店に来ている。
 懲りてない訳じゃない。ただ、春を待てない理由があった。

 が。

「……ねぇ、このショールのことだけど」
「まけませんよ」

 挨拶を皮切りにした当たり障りのない雑談も一段落したから、テーブル横のマネキンを見ながらそれとなく話をふると、これ。
 マグカップのホットワインを啜る魔女のつれない様子に、私もさすがにムッとした。

 確かに、風邪で何日か寝込んだことが決定打になって、貯金は目標金額に届かなかったけれど。

「わかっているわ。だから、『買う』んじゃなくて、『借りる』ことができないかと思って」
「はあ?」
「だってヴィエリタ。これがいかに珍しいものだとしても、実際のところ、私以外誰に需要があるの? それに、もし私同様変身が下手な魔女がこの先現れた場合、きっとこのショールが中古品だったとしても買うのに気にしないと思うわ。だって彼女、きっとものすごく逼迫した状況にいると思うもの。……私みたいに」

 自虐を織り混ぜた説得に、ヴィエリタは黙ってカップを傾けていたが、しばらくしてぼそっと「当日中に返しに来ないと、延滞金がつきますからね」と言ってくれた。

「ありがとう、恩に着るわ」
「まったく、くれぐれも魔女の戒律を忘れないでくださいね。あなたのお父上や元婚約者の前で、私の名前を言ってはいけませんよ」
「あらご安心あそばせ。これを使う目的は、公爵家への復讐じゃないもの」

 マネキンからショールを取った私の言葉に、ワインをわきに寄せて借用書を作り始めた店主が、意外そうに眉をあげてこちらをみた。

 私はそれに気づかないふりをして、夜空のようなショールを肩に羽織り、鏡を探して辺りの棚を何気なく見回した。
 そのときふと、木彫り細工が目に留まった。丸くデフォルメされた小鳥をかたどるそれは、子どものおもちゃのような愛らしさと素人お手製らしい拙さがある。

「……ま、何に使うにせよ、汚したり破いたりしたら何があっても買い取ってもらいますからね。はい、ここにサインを」
「ええ。……ねぇヴィエリタ、これ、かわいいわね。魔力はずいぶん微弱なようだけど」

 言いながら小鳥を手に取る。研磨されてつるつるの木の表面に、残り香のように弱々しい魔力を感じる。呪具、というには、あまりにも素朴。

「ちょっと勝手に触って、……ああ、それ。それは魔女ではない人間がおまじないの品として作ったものですよ。いちで安眠効果を謳って売られていたものですが、素質がある者が、質のいい木で作ったんでしょうね。偶然にしても良くできていたから、私が買い取ったんです」
「ああ、なるほど。そういえばフラウリッツも言ってたわ、おまじないと魔法って近いんだったわね。……尾羽の裏に、何か書いてある」
「作り手のサインですよ。気に入ったらまた買ってということ」

 感心したところで、手触りのいい小鳥を取り上げられ、「あなたも、ここにサイン」と羽ペンを握らされた。

 はいはい、と渡された借用書に目を通す。その間ヴィエリタも口をつぐんで、店にはしばし沈黙が落ちた。

『――春にはご令嬢がヴァンフリート殿下と結婚するそうだが、どうもカールロット公爵は体調が思わしくないらしいな』
『あそこの家は奥方もご長女も早死にだったな。魔女の恨みを買っているからだ、なんて噂も――』

  外の雑談が、窓越しに、ごくかすかに聞こえてきた。それは目の前の魔女も同じだったらしい。

「おやおやレダリカったら、もうお父上を呪っていたの?」
「いいえ。どうも先を越されたみたい」

 冗談めかして肩をすくめると、署名欄に羽ペンを走らせた。





 それから数週間後、私とロザロニアは城の一室で暖炉の薪が爆ぜる音を聞きながら、向かい合って手紙を封筒に詰めていた。

「本当に、ダリエルやララ=エバも来れるかしら?」
「来るさ。仕事が忙しいとか抜かしたら私が手伝って終わらせて、引きずってくる」

 本文を書く私、宛名を書いて封かんするロザロニア。
 もくもくと手を動かしつつ、私が漏らした懸念に、姉弟子は頼もしい返答をくれた。

「ヴィエリタ……は、お店を空けられない、って断られちゃったわ」
「なら、もう一回私が話をしてみるよ」
「いえ。その代わり、贈り物を発送するから受け取って、って言われたわ」
「へえ。食えない人だけど、センスは良いから期待できるな」

 私も頷いて、長方形の机に並べられた封筒を一瞥する。
 寒くなる前は何かとこの城に来ていた“同胞”たちの名前。普通の郵便配達ではまず届けられない魔女の隠れ家へは、“ヤギに食べさせて”送る。

  ヤギに。

「これも自分で使えるようになったと思うと、つくづく私は魔女なんだなって思うわ」

 視線を机の端に移すと、鍵穴つきの白い木箱がある。書簡入れ位の大きさの箱の蓋には十字に似た花模様に囲まれて、雄ヤギの頭が焼き付けられている。
 この雄ヤギの顔を魔女が撫でると、中で鍵が回る音がして、開けられるようになる。中に宛名を書いた手紙を入れると、相手方の“ヤギ”の中に手紙が届くのだ。商品の発注や、魔女を呼び出す場合に実に役立つ。

 私は洗礼前は撫でても叩いても箱が開けられない状態だったので、フラウリッツの書いた呪符をヤギの上に置いて、“フラウリッツのふり”をしてヤギを撫でて、口を開けてもらっていたのだ。

「森から城を見つけられるようになったのも、魔女になってからだろ」
「そうだけど、やっぱりルーティンワークの郵便事務をひとりで出来るようになると、実感がわくのよ」

 もう、森で遭難しても火に困らないし、ひとりで城を出ても帰ってこられるし、少額だがお金の稼ぎかたも覚えた。

 洗礼を受けてよかった。
 魔女って、できることが多い。
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