薄氷の上で燃える

なとみ

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第五章 秘密

真実-①

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「ニール……やっとここまで来たんだ。せめて、話を聞かせてくれ」
「その必要はない」

 シアーラの懇願に近い声にも絆されることなく、彼は冷たく言い放った。能面のような表情に以前の面影は感じられず、よく知ったはずの同僚とは思えない。シアーラはそれを目の当たりにして、やっと思い知った。
 ずっと、彼にとっては偽りの関係でしかなかったのだ。ともに過ごした士官学校時代も、護衛兵となってからも、ずっと。
 ここに至るまでにそれを想定する時間は十分にあったのだが、受け止めるにはまだ覚悟が足りていなかった。一方通行でしかなかった関係に、身体から何かが抜け落ちていくようだ。それでも。
 シアーラは拳を握り締めた。
 まだ、諦めたくない。


 首に刃を当てられているにも関わらず、ニールには余裕があった。リンゼイの口から今にも途絶えそうな苦しげな息音が聞こえてくるし、屋敷内には残りの使用人たちがまだ数多く控えている。そして、外にはバルドバの追手。時間が経てば経つほど、シアーラたちのほうが不利になる。

「これほどのもの……一人で背負うには、あまりに重い」
「その通りだ」

 ニールは、反射的に答えてしまった自分に内心舌打ちをした。やはりどうしても、長く浸っていた関係性を身体が覚えている。祖父に比べれば、偽りの関係を続ける経験値が自分には足りない。さっさと合図・・をしてしまおうかと思ったが、今少しの質問にくらい答えてもいいだろうと、自分に言い訳をした。

「お前が始めたことじゃない。まだ、戻れる」
「……そうだな。だが、十分に加担した。バルドバを襲い、恨みの理由を与えた。ローゼンタールがこれ以上力を蓄える前に王位を奪い、次の政権へ移そうとした」

 ぴくりと、後ろの男の腕に力が反応した。刃が食い込み、顔をしかめる。

「ラダーシャも、それを知っていたのか?」
「察してはいるだろう。だが、政権を手にしてから、記録番を始末することくらいどうにでもなると考えているようだ。これまでの王と同じように」
「これまで、誰もそれを止められなかったのか……」
「そう。……誰も」

 どの王も、一度王権を手にすれば、実質的には一領主にすぎない記録番の手綱を握ることなど容易いと考えた。ある者は記録番とその使用人たちを全て亡き者にしようとし、暗殺された。また別の時には、それを非難する残りの三家に滅ぼされた。当然どちらも、記録番が手を回したものだ。500年の間には記録を公にするべきだという者も当然いたが、熱心に書庫に通い、創家が行ってきた歴史を目にし、考えを変えた。
 良からぬ歴史を公開せず、ただ守ってくれている記録番。
 それは彼らにとって、相手の弱みを握る手段でもあり、自らの汚点を隠せる場所でもある。
 普段は何もせず、ただそっと記録を守ってくれている者。彼らにとって都合がいい存在。
 どの王も、四家で協力し合う未来など語らなくなった。
 汚泥のように纏わりついた罪と利権から、逃れられなくなった。


 そこまで話して、シアーラに真実を伝えるのを、ニールは心地よく感じ始めていた。今まで重く苦しく、岩のように固まっていた自分の心が軽くなる。
 これまでもずっと、伝えたかった。この忠誠心の強い同僚に真実を伝えたとき、どうなるのか知りたかった。
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