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第二章 クロスゲーム
足枷-③
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正臣は学会の会場に着くと、入り口に置かれたタッチパネルで参加受付をして辺りを見回した。
今日講演を行う一人は、母の実家の整形外科クリニックに勤めている医師だ。開始前に挨拶でもしておこうかとその姿を探す。
専門が変われば、参加する者の顔ぶれは大きく変わる。
挨拶回りにそこまで気を遣うこともなく、ある意味客として気楽に過ごせばいい。
「木佐?」
突然、かけられた声に振り返った。懐かしい顔に目を丸くし、そして素直に笑顔を浮かべる。
「久保」
「めちゃめちゃ久しぶりだな。まじで卒業以来? え、お前今東城病院?」
「そうだよ」
「さすが木佐~」
「からかうなよ。お前は?」
「俺? 今、山都病院」
飛び出したその名前に、ぴた、と時間が止まったような気がした。いるはずのない彼女の存在が気になり出す。
久保は大学時代ともに過ごした友人との再会が嬉しいのか、正臣の様子には気づかない。
「守屋教授が、以前山都病院にいたって聞いたな」
ぽろりと言葉が漏れた。言わなくてもいい言葉を言ったという自覚はあった。
久保はああ、と頷く。
「らしいけど、あん時からめちゃめちゃ人が入れ替わってるからなぁ。たぶん若林先生が退官するタイミングじゃなかったっけな。なんかほら、いろいろ大変だったみたいだし」
「大変?」
「だってさ……あ、やべ、呼ばれてるわ、ごめん」
久保は慌てて名刺を差し出した。
「またな」
ひらひらと手を振り、久保は去っていく。
正臣はまずいものを隠すかのように、その名刺をすぐにしまった。
協力するつもりはない。
なのになぜ、こんな偶然が起きるのか。
正臣は眉間を揉んだ。
疑問は解消されたはずだ。自分が気にすることは、何もない。
正臣は学会の会場に着くと、入り口に置かれたタッチパネルで参加受付をして辺りを見回した。
今日講演を行う一人は、母の実家の整形外科クリニックに勤めている医師だ。開始前に挨拶でもしておこうかとその姿を探す。
専門が変われば、参加する者の顔ぶれは大きく変わる。
挨拶回りにそこまで気を遣うこともなく、ある意味客として気楽に過ごせばいい。
「木佐?」
突然、かけられた声に振り返った。懐かしい顔に目を丸くし、そして素直に笑顔を浮かべる。
「久保」
「めちゃめちゃ久しぶりだな。まじで卒業以来? え、お前今東城病院?」
「そうだよ」
「さすが木佐~」
「からかうなよ。お前は?」
「俺? 今、山都病院」
飛び出したその名前に、ぴた、と時間が止まったような気がした。いるはずのない彼女の存在が気になり出す。
久保は大学時代ともに過ごした友人との再会が嬉しいのか、正臣の様子には気づかない。
「守屋教授が、以前山都病院にいたって聞いたな」
ぽろりと言葉が漏れた。言わなくてもいい言葉を言ったという自覚はあった。
久保はああ、と頷く。
「らしいけど、あん時からめちゃめちゃ人が入れ替わってるからなぁ。たぶん若林先生が退官するタイミングじゃなかったっけな。なんかほら、いろいろ大変だったみたいだし」
「大変?」
「だってさ……あ、やべ、呼ばれてるわ、ごめん」
久保は慌てて名刺を差し出した。
「またな」
ひらひらと手を振り、久保は去っていく。
正臣はまずいものを隠すかのように、その名刺をすぐにしまった。
協力するつもりはない。
なのになぜ、こんな偶然が起きるのか。
正臣は眉間を揉んだ。
疑問は解消されたはずだ。自分が気にすることは、何もない。
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