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第四章 リスタート
足掻く負け犬-①
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「本当に大丈夫ですか」
タクシーの中、柚琉は静香に向けて尋ねた。
今彼らは、再び会見の場に向かっている。
ここで「無理だ」と返されれば困るどころではないのに、静香の顔色があまりに悪く、そう尋ねるのを止められなかったのだ。
「大丈夫、です」
静香は歯がガチガチと鳴りそうなほど緊張している。
当然だろう。彼女はこのあと、自分のプライベートを不特定多数に晒すことになる。しかも、ずっと封印していた、つい先日蓋を開け、向き合ったばかりの過去を。
返された答えに内心安堵しつつ、柚琉の頭の冷静な部分は、そんな状態でまともに受け答えができるのかと指摘する。だがそれを言葉には出さず、そっと静香の背中に手を置いた。
木佐を含めた三人は、会場のあるビルに到着した。前回と同じく、記者クラブが日本国内での拠点としている東京のオフィス街一角だ。
スタッフに案内され通路を進み、控室に入る。その途中ちらりと会場が見え、木佐が零した。
「少ないな」
ぼそりと落とした声は低く、視線は鋭い。先日まで泥に塗れ、田んぼの真ん中で汗を拭っていた男と同一人物とは思えない。
彼が言ったのは、空席の目立つ記者席を示してのことだろう。
不安そうな表情を見せる静香に、柚琉は言った。
「前回と日も空いていますから、注目度が下がってしまうのは仕方ありません。ただ、その分今日も来てくれているのは、単純な視聴者数稼ぎではなく、本当にこの問題を重要視してくれている記者でしょう。話しやすい雰囲気になると思いますよ」
静香はきゅっと口を結び、頷く。
柚琉は木佐と視線を合わせた。
静香を落ち着けるためにそう言ったが、二人の本心は違う。よほどのインパクトがなければ、ここから盛り返すことは難しい。
興味を失ってしまった視聴者を取り戻す、よほどのインパクト。
連続ドラマの最終回で起こるような反撃を。
タクシーの中、柚琉は静香に向けて尋ねた。
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ここで「無理だ」と返されれば困るどころではないのに、静香の顔色があまりに悪く、そう尋ねるのを止められなかったのだ。
「大丈夫、です」
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当然だろう。彼女はこのあと、自分のプライベートを不特定多数に晒すことになる。しかも、ずっと封印していた、つい先日蓋を開け、向き合ったばかりの過去を。
返された答えに内心安堵しつつ、柚琉の頭の冷静な部分は、そんな状態でまともに受け答えができるのかと指摘する。だがそれを言葉には出さず、そっと静香の背中に手を置いた。
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スタッフに案内され通路を進み、控室に入る。その途中ちらりと会場が見え、木佐が零した。
「少ないな」
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彼が言ったのは、空席の目立つ記者席を示してのことだろう。
不安そうな表情を見せる静香に、柚琉は言った。
「前回と日も空いていますから、注目度が下がってしまうのは仕方ありません。ただ、その分今日も来てくれているのは、単純な視聴者数稼ぎではなく、本当にこの問題を重要視してくれている記者でしょう。話しやすい雰囲気になると思いますよ」
静香はきゅっと口を結び、頷く。
柚琉は木佐と視線を合わせた。
静香を落ち着けるためにそう言ったが、二人の本心は違う。よほどのインパクトがなければ、ここから盛り返すことは難しい。
興味を失ってしまった視聴者を取り戻す、よほどのインパクト。
連続ドラマの最終回で起こるような反撃を。
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