私の夫は妹の元婚約者

テンテン

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 気絶したロットに、使用人たちは一人一発ずつ蹴りを入れると、応接間の外へと引きずっていった。
 マリッサは満足そうに引きずられていくロットを見ていた。

「マリッサ」

 私が声をかけると、彼女は笑顔で私に顔を向けた。

「なあに、お姉ちゃん」

「その……色々大変だったわね。気づけなくてごめんなさい、ロットがあんな最低な男だったなんて……」

「ふふっ、別にいいよ! 私だって知ったのは最近だし、良い人かもってずっと思ってたから。でもお姉ちゃんに何もなくて良かった」

 やっぱりマリッサは私の可愛い妹だ。
 こんなにも私を心配してくれているのだから。
 ミラーが私の肩に手を置いて言う。

「マリッサ、また腕を上げたようだね。僕もエレナを守れるように見習わないとな」

「あら、ミラーさんの実力でお姉ちゃんを守ることが出来るのかしら? 代わりに私が守ってあげようか?」

「ちょっとマリッサ」

「いいんだよエレナ。事実、彼女の方が強いからね。ははっ」

 ミラーは笑いながらそう言うと、「僕は先に馬車に戻っているよ」と言って応接間を出ていった。
 
「お姉ちゃん、ミラーさんは本当に大丈夫? 浮気とかしてない?」

 機を図ったようにマリッサが言う。
 私はかぶりを振る。

「してないわよ。でも可憐で柔術の達人の誰かさんに狙われたら……分からないけどね?」

 冗談っぽくそう言うと、マリッサはニヤリと笑みを浮かべる。

「でもその誰かさんはミラーさんなんて全然興味ないかもしれないわ。本当の意図はもっと別にあるのかも」

「へぇ……どんな意図があるのかしら?」

「さぁ、か弱い貴族令嬢の私には全然分からないわ」

 私たちは顔を見合わせて微笑み合った。
 そろそろ帰ろうかなと思い、マリッサに手を差し出す。

「何か困ったことがあったらいつでも来て。力になるから」

「ふふっ、ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃんもね!」

 握手を交わし、私も応接間を後にする。

 ……馬車に乗ると、ミラーが思い出したように口を開いた。

「そういえば、結局マリッサは浮気をしていたのかい?」

「あ……」

 ロットのことでうやむやになっていたが、マリッサには浮気疑惑があった。
 しかし思い出したのが遅すぎた。
 馬車は既に動きだしていて、マリッサの家を離れていた。

「はぁ……真相は闇の中ね……」

 残念そうに呟く私の手をミラーが握る。

「僕はマリッサは浮気をしていないと思うよ」

「そうかしら?」

「ああ、なんせ君の妹なんだから。性格は正反対だけど、共通点はたくさんあるものだろう。僕には分かるよ」

「まあ、マリッサの元婚約者だったしね……」

 ミラーとマリッサはどんな付き合い方をしていたのだろうか。
 ふとそんなことが気になり、言いにくい嫉妬が湧きおこってくる。
 そっぽを向いた私の隣にミラーが席を移動すると、そっと頬にキスをした。

「でも、今は君の夫さ。君だけのね」

「信じていいのね?」

「ああ。もちろんだろ?」

 ミラーの唇が近づき、私たちはキスをした。
 
 ……その後、マリッサとロットの婚約は破棄となった。
 マリッサにかけられた浮気疑惑は幸運なことに疑惑で終わり、咎められることはなかった。
 しかしロットの方は重罪だった。

 複数の使用人を騙して関係を持ち、更に調査が進んで、多くの貴族の家から金目のものを盗んでいることも判明したのだ。
 ロットは関係者にたくさんの慰謝料を請求され、家を勘当された。
 国を出たらしいがその後は知らない。

 マリッサはあれからよく家に遊びにくるようになった。
 そして毎回のように忠告をしていく。

「お姉ちゃん、くれぐれもミラーさんを取られないようにね」

 どこか嬉しそうな笑顔と共に。

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