逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします

猿喰 森繁

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「ま。乙女ゲームなんて楽勝でしょう」

あの時は本当にそう思った。だって主人公だし。チート能力もあるはずだし。主人公補正で私の容姿は、とっても可愛い。好感度イベントを適当にやれば、王子様だってコロッと落ちるでしょ? 逆ハーなんてすぐじゃん! ってな具合に。

――現実は甘くなかった

初日の授業で早くも絶望した。

「え? 『元素複合理論における第三律と魔導陣の相関関係』……?」

先生が黒板にスラスラ書いていく数式や専門用語が宇宙語だった。周囲の貴族子弟たちは当たり前の顔でメモを取っている。

(あー、みんな幼少期から英才教育受けてるんだもんな……。そりゃ当然か)

次の剣術の実技授業ではもっと深刻だった。

「レインハルト! 構えが崩れているぞ! 何度言わせればいいんだ!」
「すいません……」
「足運びが拙劣だ! 魔力の込め方が雑すぎる!」
「申し訳ございません……!」

貴族の少年たちは流麗に型を決めているのに、私の動きは田舎者の喧嘩レベル。先生の叱責は日に日に冷たくなった。周囲のクスクス笑いが耳に突き刺さる。
最初の頃は、地獄だった。
毎日、授業終わりに誰もいなくなった教室で教科書の内容を必死に理解しようとノートに書き写していた。

「元素……複合理論……?」

書いてある言葉は理解できても内容が全く理解できない。
昼休みは図書館の片隅で関連書籍を山積みにして、読みまくった。
夜は寮の灯りを消した薄暗い自室で燭台の灯りだけで勉強した。

(寝る時間削るしかない……。明日の錬金術の予習……あと魔物生態学の課題……)

窓の外で鳴く梟の声が孤独を掻き立てる。机の上の紅茶はとっくに冷めていた。
勉強漬けの毎日。受験生の時すら、ここまで必死に勉強なんてしてなかったのに。
数週間後の期末試験。

「レインハルト。……赤点だ」
「……はい」
「基礎魔力学のみならず歴史学、剣術試験も不合格」
「……」

教師から言い渡された判決は冷酷だった。

(なんでよ……毎日睡眠削ってやってるのに!)

悔しくて拳を握りしめたら爪が手のひらに食い込んだ。

食堂では談笑する貴族たちが目に映る。

「カエラム様は今回も総合成績一位だそうですわ!」
「アーノルド様も、剣技大会でも優勝おめでとうございます!」
「ケイル様。魔法力学の論文が王立魔導院で高く評価されたと聞きました。さすがですわ」

(あの人たちが攻略対象……。私と全然違う。全く追いつける気がしない)


夕暮れの図書館。机に突っ伏す。

(なんで……。何やってるの、私。ここ乙女ゲームの世界なんじゃないの?どうして私、毎日毎日勉強してるの?勉強なんて大嫌いなのに。現実世界でだって、大嫌いでようやく社会人になって勉強せずにすんでたのに)

涙が溢れそうになった視界の端に映ったのは、優雅に本を選んでいるケイル・アズールの姿。攻略対象の一人。宮廷魔導士の一人息子。魔法が得意で、テストはいつも満点。という設定が頭の中に流れた。確かに彼の机の上には、今度発表するのか論文らしき紙の束が山積みになっていた。
そんなケイルは、攻略対象の一人である王子様と一緒に図書室から出て行ってしまった。
一緒の空間にいたのに、イベントの一つも起きなかった。

「……遠いなぁ」

楽観主義は砕け散り、目の前に広がるのは果てしない茨の道だった。
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