逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします

猿喰 森繁

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朝の図書館。定位置となった窓際の席で、私は目をつむっていた。


(第六版魔導基礎理論:第一章四節……『魔素転換率は術者の精神集中度に比例し……』)

唇が自然に動く。ページをめくる必要すらない。10回目のループで蓄積した知識は血液のように全身に巡っていた。それは、通常の授業でも同じだった。

「レインハルト君! ここの解釈について、説明してみなさい」

教師から声がかかり、目を開く。示された歴史学の問題文を一瞥する。

「第五王朝末期の『聖霊戦争条約』ですね。結論だけ言うと──」

淀みのない説明に周囲の生徒たちが耳を傾ける。
次は、難解な質問を投げかける教師の授業で、生徒たちから嫌がられている授業だった。

「本日の解答者、レインハルト」

基礎魔力学の年老いた男性教師、ローワン先生が杖で私を指名する。
ローワン先生に気に入られたのか、はたまた気に食わないのか分からないが、よく私を指名する。というか連日指名してくるのだ。まるで、私が答えられない問題を出したいかのように。

「この複合魔法陣における弱点は何か? 三十秒以内に説明せよ」
「はい。第四階層の風属性補助術式が第七階層の炎属性主術式と干渉しており……」

言葉を紡ぎながら黒板に図式を描く。チョークの音だけが響く静寂の中、ローワン先生の目つきが鋭くなった。

「……そしてこれを修正すれば応用性は五割増しになります」

沈黙の後、ローワン先生がゆっくりと頷いた。

「……見事だ。諸君、彼女の解説をノートに写しなさい」

最近になって、ようやく浴びるようになった尊敬の眼差し。隣席のユリアナが小さく拍手をしているのが見えた。
食堂のテーブルに集まるクラスメイトたち。かつて避けられていた輪の中に今、私がいる。

「エウレカさん、さっきの授業すごかったわよ!」
「どうやってあんな難問解けるんだ? 特殊な勉強でもしてるのか?」

笑いながら首を振る。

「毎晩復習してただけだよ。特に歴史は流れを覚えると簡単だしね」
「へぇ~」
「俺も毎日勉強しているけど、さっぱりだ」
「私も。きっとエウレカは天才なのね」
「そんなことないよ」

さすがにループを10回も経験すれば、嫌でも覚えるわよ。
授業が終わった夕暮れの学校。その学校内にある剣術道場。私は木刀を振るっていた。

シュッ! シュッ!

(次の段階は実戦だ……基礎は完璧にした。今度こそ魔法と剣術を使いこなす!)

以前のループで失敗した防御魔法の練習も兼ねていた。額から滴る汗さえ心地よい。

「おい! 見ろよレインハルトの動き!」

クラスメイトの声に振り向くと、十人ほどが見学していた。

「あの踏み込み方……上級騎士の型だぞ」
「剣術も天才的なのか……?」
「ライアン先生のお墨付きだってよ」

その言葉に苦笑する。
ライアン先生には、このループ中どれほど泣かされたか。
翌日、教室に緊張が走った。

「本日より中級魔法の初演習を開始する」

担任の宣言にどよめきが上がる。中級魔法──それは基礎を超えた真の魔法使いへの第一歩だった。

(ついに来た……!)

「演習場の場所は分かっているな。集合時間は明朝七時。準備を怠るな」

教室を去る担任の背中を見つめながら拳を握る。胸の奥で何かが爆ぜた。

(今度こそ……絶対に成功させる!)

隣の席のユリアナが微笑んだ。

「楽しみだね。エウレカ」

その言葉にうなずく。
時は来た。
これでやっとスタートラインに立てたんだ。
陽光が教室に降り注いでいる。私は次の試練への期待に胸を膨らませていた。誰にも言えない決意が胸の奥で静かに燃えている。

――逆ハーレムエンドを迎える。
今度こそ完璧に。絶対に。
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