勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁

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その夜、私は眠れなかった。リリーのこと、ミアのこと、アーサーのことを考えながら、窓の外を眺めていた。月明かりに照らされた中庭で、黒い影が動いているのに気づいた。
人影?

―不審者?寮の入り口には、終始警備員がいる。だから可能性は低い。でも……。

好奇心と恐怖が入り混じった感情の中で、私は窓を開けて目をこらしてみる。その瞬間、影は素早く動き、木々の間へと消えていった。
影が見えなくなると、とたんに自分が見たのは、本当に人影だったのか自信がなくなってしまった。どんなに目をこらしても、月明かりだけで、探すのは困難だった。こんな夜中に寮を抜け出したら罰則だし……。警備員に確認してもらう?……。

「野良猫かなにかと見間違えたのかも……」

その夜は、結局あまり眠れず、目を閉じるも全く眠れなかった。結局、ぼんやりしているうちに2時間だけ眠れたが、睡眠が浅すぎて、こめかみが痛いし、頭が変にぼんやりとしている。

「はぁ……」
「昨晩遅くまで起きていたの?」
「えぇ。ちょっと、あまり眠れなくて」
「あの紅茶のカフェインが効いてしまったのかしら」
「リリーは、カフェイン大丈夫なんだっけ」
「ええ。耐性があるから、たくさん飲んでも大丈夫なの。その感覚で淹れてしまったから、アリシアには合わなかったのかも。ごめんなさい。今日は、お休みする?」
「そう何度も休めないよ……授業についていけなくなるし、今休むと、今度行くのがだるくなっちゃう」
「そうね……でも」

私の顔を見て、「あなたの顔色、ずいぶんと悪いわ。真っ白だもの」リリーは心配そうに眉を寄せながら「アーサーのお見舞いの日は、今日なのでしょう?」と言った。

――そうだった。
今日は、アーサーのお見舞いに行く日だった。途端に憂鬱が増す。アーサーが嫌いなわけではない。ただ、今は色々なことが重なって、何を話したらいいのか分からなかった。
昨夜の影のことも、誰にも言わなくていいんだろうか。……でも、私の見間違い。気のせいっていうのもある。そうなったら、また誰かに何かを言われるかもしれない。「自意識過剰」とかなんとか。そう思うと、昨夜の影のことを誰かに言うのは、ためらわれた。

「ええ……大丈夫」
「そう」

リリーの表情が一瞬曇った。

「でも……気をつけてね」
「うん」
「少しでも具合が悪くなったら、休んだ方がいいわ」
「そうする」

具合が悪い原因にあなたも少し入っているの。って言ったらリリーは、なんて言うのかな。こんなにも優しくしてくれる人を少し疑っている自分が嫌になる。頭を振って、眠気を飛ばそうとしても、無駄だった。今日は、なるべく早く帰って、早く寝た方がいいだろう。

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